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2002/06/27
Win-Winの日中関係構築をめざして
鳩山 由紀夫

【冒頭】
 民主党代表の鳩山由紀夫です。先ほどは虞雲耀(ぐ うんよう)常務副校長から、丁重なご紹介をいただき、ありがとうございます。
 今回、私は日中国交回復30周年を祝うため、中国共産党のお招きにより、佐藤観樹団長代理をはじめとする国会議員14名と、一般支持者110名からなる民主党代表団を率いて、中国に参りました。民主党の側から行う日中国交30周年記念事業としては、今秋、中国共産党の中堅幹部の方を日本にお招きするほか、奨学金制度を作って中連部の若手の方に日本の大学で研究生として勉強してもらうことを予定しています。
 本日、中国共産党中央党学校で皆さんにお話しできる機会を頂戴したことは大変名誉なことです。聞けば、皆さんは期末テストと卒業論文で大変忙しい時期にもかかわらず、お越しいただいたそうで、心から感謝申し上げます。
 昨日からカナダでG8サミットが開かれています。私は、サミットへの参加をはじめ、中国が国際的関与の姿勢を強めることを期待し、支持します。私たち民主党は、現在、日本の野党第一党ですが、明日の政権与党です。そして、皆さんはこれからの中国を背負う指導者です。将来の日中サミットのリハーサルを、今日、この場で行っているつもりでお話をしたいと思います。 
 私は、日中関係の未来を拓くためには、日中関係をとりまく状況について率直な話をする必要があると思います。そして、日中友好の30年間に築かれた信頼を土台にすれば、私たちはお互いに言うべきことを言うことのできる関係に入ったと確信します。本日はせっかくの機会ですから、私の考え方をなるべく飾らずにお話ししたいと思います。

【歴史認識】
 現在の民主党が1998年に結成されて以来、党の代表が訪中するのは今回で3回目です。このような国は中国のほかにありません。民主党が中国をいかに重視ししているか、おわかりいただけると思います。
 漢書地理誌に日本の記述が見られるのが紀元前後のことですから、記録に残るだけでも2千年を超える長い時間、日中は隣人であり続けてきました。中国は韓国と並んで、日本にとって最も古くからの友人でした。
 しかし、今世紀の前半、日中両国間には大変不幸な一時期がありました。このことは率直に認めなければなりません。そして今から30年前の1972年、日中友好に情熱を燃やした先人たちの長年の努力が結実し、日中両国は国交を正常化させ、善隣友好の新しい時代を迎えることになりました。本日、日中友好30周年を皆さんと共に心から祝いたいと思います。
 江沢民主席は「過去を鑑として未来を拓く」とおっしゃいました。私も、民主党もまったく同感です。日中関係の健全な発展は、日本が侵略行為を行ったことに対する真摯な反省の上に立ったものでなければならないと、私は心から信じています。
 先の大戦で亡くなった方々の霊をなぐさめる気持ちは、日本人なら誰にもあります。しかし、それは憲法の政教分離に触れない形で、侵略の被害を受けた諸国民に軍国主義復活の疑念を持たれないように行うべきです。私たち民主党は、総理の靖国神社公式参拝ではなく、無宗教の新しい国立墓苑を作り、広く内外の人々に戦没者の霊を弔い、平和への気持ちを新たにしてもらうことを提案しています。その暁には、是非皆さんにも新墓苑に来て頂けることを願っています。

<国際情勢認識>
 ベルリンの壁崩壊から13年たった今日、国際情勢は激動の時代を迎えています。米国の軍事面での圧倒的優越とそれを背景とした単独主義の傾向、米ロ間のモスクワ条約締結、NATOの東方拡大、EUの独自性強化、上海協力機構の設立、南アジアの緊張等々… 経済的にはグローバリゼーションとそのゆり戻しの狭間の中、ITやバイオ、ナノテクなど新技術の革命が進んでいますが、国家間関係の上では多極化が進んでいると言ってよいでしょう。その一方で、アフガン復興に見られるように、NGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)という国家以外の主体が国境を越えて重要な影響力を持ちつつあります。
 このような激しい変化の中、日中関係が停滞するようなことがあれば、両国の国益に大きなマイナスです。日中関係を新しい発展の段階に導くことが、政治家として私に課せられた大きな使命であると、私は信じています。
 
【中国脅威論について】
 今、日本の一部には中国脅威論というものがあります。こうした議論は、いくつかの要素が絡み合って生まれたものだと思います。
 第1は、中国経済の発展に伴う摩擦です。日中の貿易収支は約272億ドル(日本円にして3.4兆円)の日本側の輸入超過です。昨年は日本がネギ、シイタケ、イグサでセーフガードを発動し、今年に入ってからは、先月中国が鉄鋼でセーフガードを発動するなど、貿易摩擦が国民の目に見える形で表面化してきました。
 しかし、冷静にデータで比較すれば、日中の貿易関係は競合関係よりも圧倒的に補完関係にあります。WTOのルールに基づき、日中間で冷静に話し合うことが何よりも必要です。
第2に、中国の軍備拡張に対する懸念を指摘しなければなりません。中国の2002年度国防予算は前年比19.4%増で、内訳も不透明です。また、日本は中国のミサイルの射程に入っているという現実がある一方、中国はMTCR(ミサイル技術管理レジーム)に加盟していません。国際社会が心配するのも無理からぬところがあります。中国は自らの安全保障政策について透明性を高め、軍備管理の体制に積極的に参加すべきです。そのことが、中国にとっても、国際社会にとっても、望ましい結果を生み出すことは間違いありません。
 外交関係は鏡のようなものであり、お互いのイメージが大切です。人間関係でもそうですが、お互いが不満を口にしないことが信頼関係を生むわけではありません。日中双方が自分の姿を相手に見せた上で、日本は中国に対して率直に注文をつけ、中国も日本に対して思っていることをぶつける、という関係を作る必要があります。そのことによってのみ、矮小な中国脅威論や日本脅威論を退け、日中関係に建設的な未来をもたらすことができるのだと思います。

【日本の将来と民主党の役割】
 日本の将来について一言申し上げます。日本の国内総生産は過去5年間、わずか1.7%しか増えていません。国内では不良債権問題の深刻さが指摘されながら、抜本的な解決は先送りにされています。人口推計の予測も明るいものではありません。日本の人口は2006年に約1億3千万人でピークアウトし、 2025年には65歳以上の人口が28.7%を占め、生まれる子供の数は今のほぼ半分の67万人になると言われています。
 しかし、私自身は日本のことをまったく悲観していません。その理由は、単に日本のGDPが依然として東アジアの65%を占めているという事実に求められるのみではありません。今私が紹介した悲観は、すべて、「日本がこのまま足踏みを続けたら」という前提に立つものです。しかし、日本は変わります。私たち民主党が変えます。

<小泉政権の評価>
 小泉総理の14ヶ月は、自民党政権の下では日本は変わらない、改革は実行されないことを、これ以上ないほど明確に証明した14ヶ月でした。既得権益を支持基盤とし、現状維持志向の強い官僚群に政策立案を頼る自民党にとって、そもそも改革とは自らの首を締めることを意味しています。小泉総理が何と言おうと、できるわけがなかったのです。
 私たち民主党が政権を担当すれば、経済の再建を最優先課題に取り組みます。まず、公的資金を投入してでも不良債権問題を一気に片付け、規制改革・税制改革によって日本経済の生産性を上げます。これに成功すれば、将来にわたって一人あたりGDPはアジアのトップを維持することができるでしょう。
 人口問題の否定的側面も、女性や高齢者の社会進出を促すことで、最小限に抑えることができます。日本人がより明るい将来像を持つことができるようになれば、出生率そのものが今より上昇することも十分期待できます。

<政権交代の可能性>
 ここで皆さんに強調したいことは、日本で政権交代の可能性がかつてないほど高まっていることです。8割を超えていた小泉総理の支持率は過去5ヶ月で半分以下に低下しました。にもかかわらず、自民党政権には、経済改革にも政治腐敗にも本気で取組む気配すら見えません。
 そして、私たち民主党は、1998年の金融危機回避策の実績や現実的安全保障政策に見られるように、戦後最も政権担当能力のある野党第一党です。これから1年以内に行われるであろう選挙を通じて、私たち民主党が次の日本政府になります。そして、日本を変えます。
私は『三国志』の大ファンで、曹操、劉備、孫権たちが中国統一のために知略と武勇を繰り広げる姿に子供のころから胸を躍らせてきました。数ある英雄たちの中でも、私は、劉備玄徳に魅力を感じます。劉備の「徳」を大事にする姿勢が今、最も目標とすべき理想の姿だと思うからです。民主党政権を樹立して、日本の政治に徳を回復することが私の夢です。
 以下、民主党政権ができた際に日中関係や東アジアの政治経済の明日をどのように展望しているか、申し述べたいと思います。

【日中経済関係の明日】

<FTA>
 まず、自由貿易協定(FTA)について私の考え方を一言申し上げます。FTAは好きか嫌いかという問題ではないと思っています。つまり、乗らない国は世界の趨勢から取り残されるだけということです。世界には既に150ものFTAがあります。日本は今年シンガポールとの間のFTAを締結・批准しましたが、まだこの一つであり、世界の150分の1にすぎません。今後、メキシコや韓国をはじめ、いかに早く締結できるかが課題です。
 その点、昨年11月、中国がASEANとのFTAを10年以内に締結すると発表したことは、良い意味で驚きでした。その後、小泉総理がASEANに対して FTA締結の意欲を示していますが、まだ曖昧です。私は、ASEANとのFTA締結に日中両国が競争する姿が望ましいと思っています。日本と中国が競うことによって、単独なら10年かかるものが7年、8年で実現するかもしれません。さらに、日本―ASEAN、中国―ASEANの間にFTAが実現するときは、日中FTAも実現間近であることを意味します。
 ある研究によれば、日本と中国、韓国、ASEANが参加する東アジアFTAが成立すれば、それが農業分野を含まない場合であっても、日本の国民所得は 4.6%上昇し、ASEAN諸国で10〜20%程度、中国の国民所得に至っては、何と25.5%押し上げられると予測されています。まさに、Win- Win の世界です。FTAの締結といった分野であれば、日中両国が競争することはむしろ奨励したいくらいです。

<日中経済の相互依存化>
 昨年末現在、日本に進出して活動中の企業は約240社、昨年度の対日投資額は5億円です。これは日本から中国への投資額の220分の1にすぎません。私は、これからの日中経済関係のキー・ワードは「双方向性」だと思っています。日本企業や日本人観光客が中国に行くだけでは、日中の相互理解の深まりには限界があります。日本が中国を含めた外資に門戸をもっと開放してこそ、日中の経済関係の絆は強まり、日中両国民の相互理解も深まるのです。
 みなさんは、そのようなことは夢物語だと思われますか? 今年の1月8日、大変勇気付けられるニュースが入ってきました。中国最大の家電メーカー、ハイアール(海爾)集団が日本の家電メーカーと合弁で、日本に販売会社を設立したのです。今や、日本の消費者は秋葉原でハイアール・ブランドの冷蔵庫を買うことができるようになりました。中国を安価な労働力の供給地や消費市場とみなして、日本企業が中国に進出するという一方通行は、今後変わっていくでしょうし、政治家としてそのための環境整備を行いたいと私は思っています。
 ハイアールは日本メーカーの技術力を得ながら日本市場で販路を拓く一方、日本メーカーはハイアールに部品を供給、そして日本の消費者は安くて良い商品を買うという、Win-Win Gameをここにも見ることができます。
 ところで、せっかくの機会ですから、経済の分野でひとつだけ、皆さんにお願いしたいことがあります。それは、知的財産権の保護に関する問題です。日本や欧米の企業は、一部中国企業の違法コピーや特許侵害で多額の被害を蒙っています。このようなことを放置しておけばゼロサム・ゲームになりかねません。WTO 加盟を実現した中国が、特許法や著作権法の整備を急ぐことを強く期待します。

【東アジア安全保障の明日】

<有事法制>
 今、日本の国会では所謂有事法制――私たちは緊急事態法制と呼びます――が議論されています。「有事法制」というと皆さんを含め、近隣諸国の中には、戦前の軍国日本を想起し、日本に対する警戒感が生まれているかもしれません。一時期の不幸な歴史を思えば、それも無理からぬことです。しかし、だからこそ、私は今日この場でこの話題に少し触れたほうがよいと考えました。
 私たち民主党は、日本に緊急事態法制が必要であるという認識を持っています。日本にとって、いや、いかなる国にとっても、紛争を軍事的手段以外の方法で未然に回避する予防外交が最も重要であることは当然です。日本が特定の国からの侵攻を想定しているわけでもありません。しかし、それでも最悪の事態に備えることを怠る国は、その国民に対して無責任だと言わざるをえないことには、皆さんもご同意いただけると思います。
 昨年9月11日に米国で起きた事件は、大規模テロという脅威が現実のものであることを如実に示しました。緊急事態法制の目的は、日本が何らか形で攻撃を受けた際に、自衛隊が自分勝手に動くことを禁じ、文民たる国会の統制のもとで有効な活動を行うことを法律で担保することや、市民の権利がどこまで制限されうるかの限度を明確にしておくことなどです。緊急事態法制を整備することは民主主義国家として当然のことであり、これを持たない国のほうが珍しいくらいです。ですから、緊急事態法制を日本が対外侵略の準備を行うものだと受け取る人がいるとすれば、それはまったくの誤解です。
 緊急事態法制の必要性については、日本国民の間に広くコンセンサスがあります。本日は立ち入りませんが、私たち民主党が日本の国会で緊急事態法制をめぐって自民党と対立しているのは、その内容についてです。
 いずれにせよ、緊急事態法制の議論は、国内外に透明性の高い議論を行っていくことが不可欠であると申し添えておきます。このことは、私たちが中国に対して軍事情報の透明性を求める以上、当然果たすべき責任だと思います。

<国連平和維持活動>
 今年3月から、日本は施設部隊を中心に自衛隊680人を国連東チモール支援団に派遣し、道路や橋梁の建設などに従事させています。国連安保理決議の下に行われるPKO活動への参加を、戦前の軍事的侵略活動と結び付けて理解すべきではありません。
 東チモールでは、日本の自衛隊の隣には韓国の部隊が駐屯しています。両国は共同で作業を行っていますが、これは日韓両国にとって歴史的なことであり、信頼醸成に大いに役立っています。中国も今後、国連PKOへの参加を積極化させることが求められます。私は願っています。いつの日か自衛隊と人民解放軍の PKO部隊が、隣同士で国連平和維持活動に従事するときが来ることを。

<不戦共同体>
 私は常日頃、アジアに「不戦共同体」をつくるという構想を抱き、1年半前に北京人民大学で講演したときもそれに触れました。第2次世界大戦後の欧州では、憎しみあった独仏両国が、石炭・鉄鋼の共同管理に始まり、協力関係を西ヨーロッパに拡げてEC(欧州共同体)を作り、現在ではEU(欧州連合)という全ヨーロッパ規模の政治・経済共同体に進化させています。今日、独仏両国民は相手国から侵略を受けるという心配はまったく持っていません。その意味で欧州には、友愛精神に基づく「不戦共同体」が成立していると見ることができます。
 アジアではどうでしょうか? 私たちは二言目には「アジアは多様だ。ヨーロッパとは違う。」と言ってきたきらいがあると、自戒を込めて申し上げなければなりません。しかし、今から52年前、独仏の基礎産業を共同管理するためのシューマン・プランが発表されたとき、誰が今日のEUの姿を想像できたでしょうか? 誰かが始めなければ何も育ちません。ASEAN+3などを跳躍台にして、「アジアのアジアによるアジアのための枠組み」を考えることは、私の信じる友愛社会実現のためにも大いに意味があります。
 経済面でFTA(自由貿易協定)の網の目を東アジアに張り巡らすこと、技術者などのビザ取得制限を緩和すること、留学生を増加させることなどを通して、国民の間の交流レベルを高めることは信頼醸成のための第一ステップとなります。将来的にはアジア地域安全保障機構を作ることを提案したいと思います。
 日本は、これまでもそうでしたが、今後も非核平和主義を貫きます。現在、米国の一部にはCTBT(包括的核実験禁止条約)を見直し、小型核兵器の開発を検討するといった動きが見受けられます。インドとパキスタンという核保有国の間の緊張も続いています。だからこそ、日本はアジアの国々と共に非核を現実化するパワーを作りたいものです。

<ソフト・パワー>
 21世紀に軍事力の意味がなくなると言うつもりはありませんが、今世紀は国々がソフト・パワーを競う時代になると私は思っています。
 ソフト・パワーとは、米国ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が提唱する概念です。軍事力や国の富が、直接・間接を問わず強制につながる能力であるのに対して、自己の魅力によって他者の行動に影響を与える力のことです。
 現在、最も大きなソフト・パワーを持っている国は、米国でしょう。しかし、私は、歴史的に見れば最も強大なソフト・パワーを持った国は中国だったと思っています。歴代中国王朝がアジアに影響力を誇ったのも軍事力のみによるものではありません。漢字文化をはじめ、政治制度や哲学などのソフト・パワーに秀でていた中国が魅力を放ち、外国をして中国と平和的に交際することを自ずと求めさせたのでした。
 今日、音楽や映画、スポーツから、民主主義や人権、法律・会計制度や税制面での投資のしやすさまで、日中のみならず世界中の国々がソフト・パワーを競いあう時代が、現実に到来しています。国際法の遵守という点に関しては、最近瀋陽で起きた事件は残念な出来事でした。一方、中国政府が先週、中国のEEZ(排他的経済水域)において日本が不審船の引揚げを行うことに同意されたことは、日本国民の中国に対するイメージを改善することにつながり、高く評価します。

【結語】
 中国の進歩は日本のマイナスではありませんし、日本の進歩は中国のプラスです。日中関係は本来、プラスサム・ゲームであるはずです。それをゼロサム・ゲームに見せたいという、時代遅れの誘惑を日中両国民が断ち切るために、我々は政治を職業としています。  
 日中関係をWin-Win Gameにするため、日本の政治は、近い将来、私たち民主党が担うことをここで約束します。そして、中国側でその役割を担うのは今日ここに集われている皆さんです。平和で発展する日中関係と東アジアをつくるため、互いに努力することを誓い合おうではありませんか? 本日はご清聴ありがとうございました。
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