トップ > ニュース
ニュース
ニュース
2000/12/13
人民大学講演 日中コモン・アジェンダの時代をめざして
〜「一徳一心」の日中関係の構築に向けて
記事を印刷する

鳩山由紀夫

 中国人民大学の学生のみなさん、そして中国のみなさん、こんにちは。日本の民主党の代表を務めます鳩山由紀夫です。そして、会場にいる民主党訪中団のメンバーを紹介させていただきます。伊藤英成衆議院議員、大石正光衆議院議員、仙谷由人衆議院議員、古川元久衆議院議員、簗瀬進参議院議員、肥田美代子衆議院議員、浅尾慶一郎参議院議員、妻の幸です。

 私は今とてもワクワクしています。中国の次代を担う若者と直接お会いし、意見交換する機会を持つことは、ある意味で私の中国訪問のハイライトと思っているからです。紀宝成(キホウセイ)校長や袁衛(エンエ)副校長をはじめ、今日の講演と討論の実現に尽力していただいた方々に、この機会を借りてお礼を申し上げたいと思います。

 こうして中国の学生のみなさんを目の前にしていると、今から24年前、私が東京工業大学で経営工学を教えていた頃のことを思い出します。その頃もアジアから留学生が来ており、大変な苦労をしながら勉強していました。しかし、中国からの留学生は、「学ばなければいけない」という使命感に燃えており、大多数の日本の学生よりも優秀だという印象を抱いたものでした。また、他国の留学生と比べると、同じ漢字文化圏ということもあって日本語の習得も早かったように思います。あの頃の学生たちが故国に帰り、もう40代の中堅となって、それぞれに国を支えています。

 今日、3万2千人を超える中国人学生が日本に留学し、その数は年々増えています。実は私自身も数名の中国人留学生を経済的・社会的に支えた経験があります。そうして知り合った学生たちの目の輝きは、教育を通したヒトの交流こそは、何よりも確実に日中間の理解と信頼を深めるという私の確信をますます揺るぎないものとしたのでした。
 
 本日、私は21世紀において日本と中国が果たすべき役割についてみなさんに話したいと思います。そして、過去1世紀の日中関係の歴史を振り返ることから講演を始めさせてもらいます。昨日お会いした江沢民主席は「歴史を鑑とし未来に目を向ける」とおっしゃいました。まさに歴史から目をそらしては、日中関係の未来もありません。

 今世紀の前半には、日本による中国の植民地支配という大変不幸な時代がありました。私たちは、日本の侵略行為に対して真摯に反省しています。この気持ちは今後も変わることはありません。

 戦争のあとは、日中が東西に分かれて対立する冷戦の時代が四半世紀にわたって続きました。そして、1972年、日中両国は国交を正常化させ、善隣友好の時代を築き上げたのでした。それから28年がたち、日中間の経済的な相互依存は歴史上最高の水準に到達しています。それでも私はあえて申します。私は現在の日中友好のレベルにまだ満足していません。 

 私は、70年代に日中友好に情熱を燃やした両国の政治家の志を引き継ぎ、日中関係を再構築し、さらに強固にするために中国を訪れました。その作業は、単に日中二国間の友好を謳うということにとどまらず、建設的なパートナーシップであるべきです。それは、日中両国が東アジア地域と広く国際社会の平和と繁栄のために共同して役割を果たす、という「開かれた積極主義」であるべきです。

 私は国内政治においても外交においても、友愛精神を基本理念とすべきだというのが持論です。そして、戦後のヨーロッパ史にまで歴史の鑑を求めたとき、そこに友愛精神を具現化した偉大な挑戦の存在を指摘することができます。第2次世界大戦直後の独仏両国は、石炭・鉄鋼の共同管理に始まり、その協力を2国間のみならず欧州に広げて、ECという経済統合からEUという政治統合という壮大な実験に挑戦してきました。

 この長い道のりのスタートが、独仏両国が2度と再び戦火を交えない「不戦共同体」をつくるべきだとうフランス人モネの思想があったことはよく知られています。歴史上、幾多の対立と抗争を続けてきた独仏関係ですが、いまや両国民は相手国から侵略を受けるという心配は全然もっていません。私は日中両国が東アジアに不戦共同体を作るための長い道のりをスタートさせるべきだと思います。もちろん、独仏と日中の関係は同じではありません。ヨーロッパとアジアの安全保障環境も違います。しかし、努力を始めないで「ノー」という結論が出せるのでしょうか?
 
 壮大な挑戦の第一歩を、私は「日中コモン・アジェンダの時代」と呼びたいと思います。つまり、日本と中国が双方に共通の課題に取り組む時代ということです。それは日本と中国にとって共通の課題というのみではありません。東アジア地域と世界に対する貢献となる可能性もあるのです。今日は、3つのコモン・アジェンダについて簡単に述べたいと思います。

 最初の課題は日中の環境対策における協力です。みなさんも酸性雨という言葉をご存知だと思います。酸性雨という言葉自体は、1852年、最初に産業革命を行ったイギリスの科学者、スミス氏がはじめて使っています。まさに社会の産業化と密接な関係を持つ現象と言えましょう。酸性雨は人体、動植物、川や湖、建物に悪影響を及ぼし、日本や世界各地で被害が報告されています。酸性汚染物質は雨によってもたらされ、雨は雲によって運ばれます。そして、雲は国境を超えて動きます。つまり、酸性雨は日本、中国、韓国などに共通の課題であることが理解してもらえると思います。

 すでに日中間では瀋陽や重慶などをモデル都市として脱硫装置を取り付ける協力が始まっており、日本と中国の地方自治体同士による協力も着実に増えてきています。これをもっと増やしていくことは大変重要な課題です。日本のある自動車メーカーは、燃料電池とガソリンなどを組み合わせたハイブリッド・カーを開発し、従来の自動車の2倍の燃費効率を実現しています。このような日本企業の環境技術を中国に積極的に移転していくこと、さらには中国側の知恵から日本が学ぶという姿勢を強めていこうではありませんか。

 日本にも黄河の土砂がはるばると空中を運ばれてくる黄砂という現象が見られます。黄河の乾燥化やその反動としての氾濫は中国にとっても大きな問題ですが、我々日本人や周辺の国々も他人事だと知らぬ顔のできない共通の課題です。黄河をはじめとした計画的で集中的な植林事業に日中間の共同の取り組みを倍加すべきだと思います。21世紀の日中間の信頼関係は、こうした共同作業を通じて徐々に、しかし、着実に強まっていくと信じています。

 次は、IT革命をめぐる日中間の協力です。みなさんはドッグ・イヤーという言葉を聞いたことがあると思います。犬の1年は人間で言えば6‐7年に相当することから、情報化時代の変化の速さを示すために使われている表現です。私は4年ぶりに中国を訪れ、貴国のIT産業の発展ぶりにまさにドッグ・イヤーを実感しました。ある日本メーカーの方は「早晩日本のハイテク産業の研究開発は中国で行われる時代が来る。」とまで言っていました。これは、中国のほうにチャレンジ精神を持つ優秀な理工系の学生がより多くいること、大胆な人材登用を行い、経営の意思決定スピードに優れた中国企業が百出しているためだと聞きました。その点、日系企業の多くは官僚体質がスピード経営を妨げています。かつては日本的経営を世界が学びました。今は日本企業のほうが、中国を含め世界の優れた制度から学ばなければなりません。人民大学のみなさんには釈迦に説法ですが、「学ばないものは成長しない」のです。

 それなら、中国のIT技術者に日本で働いてもらえばよいではないかとみなさんは考えるかもしれません。現実には中国のIT技術者が日本で就労ビザを獲得するための条件が厳しすぎ、彼らは日本に来ることすらままならないのです。私たち民主党は、外国人IT技術者に対するビザ取得要件を緩和し、中国やインドも含めたアジアの技術者が一定期間日本で働けるように努力していきます。また、国内において規制改革を行い、中国人を含む外国人が日本で起業や資金調達をすすめられるよう、環境整備を行います。
実は明日、北京郊外にある中関村に行き、四通集団など中国のIT企業トップを訪問し、起業家の方と直接お話しする機会を持つことになっています。今から楽しみでなりません。

 最後に、地域の平和と安定に対する日中共同の取り組みについて少しお話したいと思います。

 私は、日中両国は東アジア地域の平和と安定に共通の利害と役割を担うべき、というのが持論です。例えば昨年、インドネシアから東チモールが分離・独立するに当たり、同地域が不安定化する事態がありました。もしも、この騒乱がインドネシア全体に波及していれば、シーレーンの安定にも悪影響を及ぼしていたであろうことは想像にかたくありません。そして、日本の輸出入はその3割強がマラッカ、スンダ、ロンボクの3海峡を通過します。中国もやはり1割強を3海峡に頼っています。何が言いたいかというと、日中は韓国や米国と同様、この地域の安定に共通の利害を持っているということです。

 そのために日中が何をできるか、ということを両国は考えるべきです。これまで日本はこの地域に経済投資やODAを行い、経済発展を通じた地域の安定、という点で多大な貢献をしてきました。21世紀もこうした経済活動や人的交流を進め、貧困の解消といった「人間の安全保障」に日本は積極的に取り組み続けます。

 従来日本があまり積極的でなかった分野で、来世紀にはもっと真剣に取り組むべきことの1つが、地域的な政治対話と安全保障の枠組みを作ることです。もちろん、ARF(アセアン地域フォーラム)の発展やASEM(アジア欧州会合)の創設に日本は少なからぬ役割を果たしていますが、ともすると日本の貢献は「カネを出すだけ」という傾向があったことは否定できません。

 日本は国連平和維持活動の分野でもっと積極的な役割を果たすべきだと思います。これは中国にも言えることです。こちらを訪問する前に国連のホームページで調べてみましたところ、10月末現在で日本から国連PKOへの派遣は30人、中国からは96人でした。一方、韓国は476人、オーストラリアは1726 人、米国は872人でした。

 また、民主党は日本に国連PKOの訓練センターをつくることを提案しています。将来、そこで中国、米国、韓国、ASEAN諸国やオーストラリアなどの国々のPKO部隊が国連基準の活動ノウハウを共に訓練するようになれば、日中2国間のみならず、アジア太平洋地域の信頼醸成に計り知れないプラスの効果をもたらすことでしょう。

 アメリカ・ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が提唱している考え方に「ソフト・パワー」という概念があります。現代社会の国際関係は、軍事力や国の富という強制につながる能力が決定的な重要性を持つ時代から、民主主義や人権といった価値観、情報化や企業会計モデルを含めた経済の仕組み、伝統から映画まで広い意味での文化といった、多様な面での「国の魅力」がものを言う時代に移りつつあると指摘しています。例えば、中国と日本が共有する漢字文化も取り組みようによっては新しい力を我々に与えてくれるかもしれません。私は、ナイ教授の指摘は正鵠を射ていると思います。20世紀は世界の国々が軍事力中心のハード・パワーを競う時代でしたが、21世紀は国の魅力を競い合う時代にしたいものだと私は願っています。

 そのために日本のリーダーとして、私にできることは何でしょうか? 軍事力と威嚇に頼った外交が国の魅力を損なうことを日本人は学んでいます。国と地方を合わせた財政赤字が国内総生産の130%という恥ずべき状況は早急に変えなければなりません。IT革命と規制改革で日本経済の生産性を向上させると同時に、無駄な財政支出をカットし、財政再建を実現します。そして何よりも、次の選挙で自民党を敗北させ、民主党政権を樹立したいと願っています。9月にロシアのプーチン大統領とお会いした時にもこう申し上げたら、大統領は「まさか革命によってではないでしょうね?」とジョークを飛ばされました。選挙を通じた政権交代によって民主主義・日本をアピールできれば、日本のソフト・パワーは一気に高まると信じています。
 
 日本と中国が共に国の魅力を競いながら、コモン・アジェンダに共同して取り組むことによって信頼関係を醸成する――それは周の武王の「一徳一心」という言葉に通ずるのではないでしょうか。「一徳一心」とは同じ道義に立ち、同じ気持ちをもって事にあたることにより、私たちの社会を永く保とうという意味だと聞いています。まさに日中両国がコモン・アジェンダにこの「一徳一心」の精神をもって取り組めば、そこから生まれてくる日中の絆は、みなさんが今の私と同じ年になるころには、過去のいかなる時期よりも確かなものになっていることでしょう。私は、そのような強い絆に結ばれた日中関係を、きたるべき21世紀に向けて築いていきたいと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

記事を印刷する
▲このページのトップへ
Copyright(C)2024 The Democratic Party of Japan. All Rights reserved.