財務金融部門会議
1. 強い経済の再生
日本経済は、明らかにデフレが進行し、景気は後退色を強めている。経済のグローバル化が進み、21世紀にふさわしい経済構造に転換しなければならなかった1990年代を、既得権構造に縛られた自民党政権が、理念も戦略もないバラマキ財政と構造改革の先送りにより、「失われた10年」にしてしまったからである。
強い経済を再生し、日本経済がよみがえる道は、自民党を頂点とする政官業癒着構造を打破し、経済構造改革と財政構造改革を断行することしかない。
経済構造改革とは、わが国産業全体の生産性を向上させ、競争力を強化していくことである。わが国は、敗戦をバネとして高度工業化社会への変革を成し遂げ、世界第二の経済大国となった。しかし、IT革命が急速に進展し、先進国は高度情報化社会へと転換しつつある。もはやほとんど余力のない財政を、非効率な部門の延命のためだけに投入し、経済構造改革を先送りする自民党政権の経済政策には終止符を打たねばならない。
財政構造改革とは、官と民とのベスト・ミックスを追求することにより、国による資源配分を最適化することである。わが国財政は、自民党を頂点とする政官業癒着構造が特定のグループの既得権を温存することによって、多くの歪みや非効率な部分を抱えねばならなくなった。特殊法人や認可法人、公益法人による民業圧迫はその象徴ともいえる。加えて、バブル崩壊後のバラマキ財政により国と地方の長期債務は666兆円に達し、国民は大きな将来不安を抱いている。強い経済を再生し、国民の将来不安を取り除くためにも、いまこそ財政構造改革に着手し、財政健全化への道筋を示すべきである。
1. 新規事業・ベンチャー企業への支援
新規事業・ベンチャー企業の創業を支援するため、創業5年以内の中小ベンチャー企業について法人課税を免除するほか、中小ベンチャー企業に投資する個人投資家を優遇するエンジェル税制の拡充、女性起業家支援策などの措置を講ずる。
2. 重点分野の規制緩和、先端研究分野への支援
雇用創出力の高い重点分野における規制緩和を戦略的に進めるほか、ヒトゲノム、イネゲノム、IT、ナノ・テクノロジー、新エネルギーなど先端研究分野への研究開発投資を積極的に支援し、国際競争力を強化する。
3. 産業基盤技術の強化
国内のすべての大学にインキュベーション(起業家予備軍育成装置)施設を整備して、広く大学の施設と知識を民間に開放して産学官の連携強化を図るとともに、SBIR(ハイテク技術をもつ中小企業への補助金制度)を質量両面で拡充する。
4. 特許など知的財産権戦略の強化
有用な知的創造活動を支援するための税制支援や補助金制度を拡充するなど、特許開発・流通の活性化を促すための支援策を強化する。
5. 中小企業に対する金融を円滑化するための金融システムの再構築
企業会計をより透明化するとともに、担保・保証など金融機関・金融業者に有利な取引慣行の見直しを図ることにより、借り主のリスクに応じてさまざまな業態の金融機関・金融業者が棲み分けをする構造に変え、中小企業などに対する資金供給を円滑化させる。特に、不良債権の抜本処理を進める中で、健全な借り手中小企業が連鎖倒産などに巻き込まれる事態を阻止する。
また、間接金融に偏重した金融構造を、中小企業向けの資本市場や債券市場を創設するほか、「6.証券市場の活性化」に述べるような措置を講ずることにより、直接金融をより重視した構造に変える。
2. セーフティ・ネットの整備
構造改革と不良債権の抜本処理を断行する過程では、現在4%台後半で高止まりを続ける失業率が、一時的にせよ、上昇するおそれがある。この状況を乗り切るには、まず国民一人ひとりの不安、不信を解消し、安心してその能力を十分に発揮し、働くことのできる環境をつくることが不可欠である。安心こそ日本の元気の源である。われわれは、雇用における「安心」の確保をめざし、次のようなセーフティ・ネットの早急な整備を提言する。
1. 雇用保険制度の充実
全国延長給付(90日)の発動要件の引き下げ、広域延長給付適用要件の改定を検討する。また、制度的安定を図るため、雇用保険財政安定化のための基金(2兆円規模)を一般財源から創設する。雇用情勢が大幅に悪化した場合、その基金から通常の求職者給付に拠出する。
2. 職業能力開発支援制度(仮称)の創設
雇用保険の給付が終了した非自発的失業者と自営業廃業者について、3年間の時限措置として職業能力開発支援制度(仮称)を創設し、生活支援および教育支援を行う(2兆円規模)。
ア 再チャレンジ生活支援制度(仮称)の創設
ハローワーク等公共職業安定所に登録し、国が認定する職業訓練制度(民間委託を含む)を受講することを要件として、最長2年間、雇用保険の失業給付基本手当の日額最低額(3,430円)と同額を給付する。
イ 再チャレンジ教育支援制度(仮称)の創設など
雇用保険給付期間、再チャレンジ生活支援制度による給付期間のいずれの期間においても、国が提供する職業訓練にかかる費用を、原則として国庫負担とする。また、専門学校、大学、大学院などの教育機関を含め、民間職業教育訓練機関が提供する職業教育訓練についても、国からの委託機関を大幅に増やし、その費用のうち、一人につき年間60万円程度までを国庫から負担、残りの費用についても融資制度を設けるなど、受講者の希望を最大限尊重しながら、労働市場のニーズにあった幅広い職業訓練の拡充を図る。
また、職業教育、職業紹介とが結びついたカウンセラー制度を充実させるとともに、こうした職業訓練のなかに、「起業支援コース」(仮称)を設け、訓練終了後、起業しようとする人を支援する。
また、高金利時代に住宅ローンを借りた債務者については、低金利ローンへの借り換えが困難なケースが多いため、金利減免などの支援策を検討する。
3. 不良債権の抜本処理
不良債権問題は、経済活動の動脈ともいえる金融仲介機能を機能不全に陥れている。その結果、中小企業など必要なところに必要な資金が供給されず、日本経済は長期にわたって低迷を続けている。不良債権の抜本処理を断行して金融仲介機能を回復させなければ、わが国経済の再生はありえず、2000年代もまた「失われた10年」となろう。日本銀行が量的緩和や事実上のゼロ金利政策を実施して金融政策が手詰まりとなったいまが、不良債権の抜本処理を断行し、金融システムを健全化させる最後のチャンスである。
* 金融再生をどこで間違ったのか〜政府・与党による問題先送り
自民党政権の金融行政は、隠蔽と先送りに終始してきた。そのツケが一気に回ってきたのが、97年秋から98年に至る金融危機であった。しかし、98年の金融国会を経ても、その本質は何ら変わっていない。
われわれが提案した金融再生法は、厳格な資産査定と引き当て、すなわち不良債権の抜本処理という最も重要な原則を、政府・与党によって骨抜きにされた。政府・与党が一時は税金で救済しようとしたそごうが、すぐに倒産したことからもそれは明らかである。「そごう予備軍」はまだほかにも控えており、それらが倒産したとき、国民は、「瑕疵担保特約」によってさらなる負担を強いられる。
99年3月に実施された大手銀行に対する公的資金の投入も、不良債権の抜本処理を先送りしたものでしかない。なぜなら、自民党がつくった早期健全化法は、銀行経営者の責任を不問に付すため、厳格な資産査定と引き当てを課すこともなく、不良債権処理はまったく不十分にしか行われなかったからだ。その結果が、依然として解消されない金融不安であり、ペイオフ解除再延期という問題先送りなのである。
このような状況では、不良債権の最終処理といわれる直接償却も進捗するはずがない。なぜなら、損失が確定する直接償却は、資産査定と引き当てがいかに甘く行われているかを、白日の下にさらすからである。われわれは、いまだに不良債権の実態を完全には把握できないでいるのだ。
* システミック・リスクの再発
しかし、政府・与党による問題先送り路線は、すでに限界に達しつつある。不良債権処理を先送りしている間に、バラマキ財政出動で景気回復を図ろうという安易な経済政策が、完全に失敗に終わったからだ。そして、99年春にいったんは解消されたようにみえたシステミック・リスク(多数の金融機関が債務超過または過少資本に陥るなどわが国の金融機能に著しい障害が生ずるおそれ)が、またしても再発しようとしている。
もはや、不良債権処理にこれ以上の時間をかけるわけにはいかない。われわれは、問題先送りの金融行政に終止符を打ち、半年間でシステミック・リスクを解消、できるだけ早く、遅くとも2年以内に、不良債権の抜本処理を完了させる。
1. システミック・リスクへの対応
大手銀行等の緊急一斉検査を直ちに行い、経営の健全性が確保できない金融機関については、破綻処理に移行する。緊急一斉検査に際しては、厳格な資産査定と引き当てを行わせるほか、有価証券の評価方法は、実施時期が2001年9月期となっているその他有価証券(売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券)も含めて、時価評価とする。
破綻処理に移行した金融機関の不良債権は、整理回収機構(RCC)に分離する。RCCは破綻した金融機関の従業員などを中心として人員を増強し、債権回収を強力に推進する。破綻した金融機関の経営者などについては、刑事・民事上の責任を厳格に追及する。経営者は直ちに総退陣させるものとするが、その際、退職金は支払わず、それぞれの責任に応じて私財を提供させる。従業員については、直ちに給与を一部カットする。
システミック・リスクがあると認められる場合は、株主・経営者の責任の明確化や徹底した経営合理化を前提として、公的資金による資本注入も検討する。
2. 不良債権の直接償却の促進
不良債権の直接償却は、ルールが明確な法的整理による債権放棄と、不良債権の売却を基本とする。
公的資金による資本注入を受けた金融機関については、民事再生法など法的整理を中心とする、企業の再建が確実でかつモラル・ハザードを招くことのないものを除き、安易な債権放棄は認めない。なお、再建型倒産手続きの過程にある企業に対する支援策として、DIPファイナンスの仕組みを整備する。
不良債権の直接償却を促進するため、破綻した金融機関以外の金融機関についても、引き続きRCCへの不良債権の売却を可能とするほか、不良債権の売買市場を整備する。また、登録免許税を定額手数料化するなど、土地流動化促進に資する税制改正を行う。
3. その他
将来、システミック・リスクを二度と再発させることがないように、次のような措置を講ずる。
ア 決済業務を行う金融機関の株式保有の禁止
金融システムを株価変動リスクから守るため、一定の経過期間を経て、決済業務を行う金融機関の株式保有を原則として禁止する措置を講ずる。
なお、公的資金(政府保証も含めて)による銀行保有株買い上げ機構の設立は多くの問題をはらんでおり、特に公的資金による損失補填については明確に反対する。
イ 金融問題監視院(日本版ペコラ委員会)の設置
バブル崩壊後の金融行政を総括するため、国会に金融問題監視院(日本版ペコラ委員会)を設置し、富士銀行不正融資事件などすべての金融犯罪・不祥事の真相究明と責任追及を行う。
4. 金融政策の適切な運営
政府・与党は、景気低迷と金融不安再燃の原因が構造改革と不良債権の抜本処理を先送りしたことであるにもかかわらず、自らの責任を他に転嫁することに汲々としている。とりわけ、独立性を保証されているはずの日本銀行に責任を転嫁し、露骨に政治的圧力をかける政府・与党の姿勢は容認できない。
ゼロ金利政策は、金融政策における自由度を奪う異常な政策であり、預金者に与える悪影響が大きい。また、インフレ・ターゲティングは、インフレをコントロールできず、ハイパー・インフレを招くおそれがあるなど、副作用が懸念される。さらに、量的緩和は、不良債権によって金融仲介機能が機能不全の状態に陥っている中ではその効果に疑問があり、また、日本銀行による国債の直接引き受けにつながりかねない危険をはらんでいる。
よって、日銀が早期に正常な金融政策に戻すよう、構造改革と不良債権の抜本処理を通じた経済再生を図る。すでに限界近くに達した金融政策に依存するのではなく、構造改革と不良債権の抜本処理を進めることこそが、経済再生の王道である。
なお、構造改革と不良債権処理を断行する中で、デフレ対策としての一定水準までの円安を容認する。
5. 生命保険会社の破綻に備えたセーフティ・ネットの見直し
生命保険業界は、年間1兆5000億円もの逆ざやの発生により、経営基盤が弱体化している。生命保険会社の破綻は国民生活に大きな影響を及ぼすものであり、破綻に備えたセーフティ・ネットの見直しを検討する。
6. 証券市場の信頼回復と活性化
間接金融に偏重したわが国金融市場の構造を、直接金融をより重視した構造に変えていくことは重要な課題である。特に、間接金融部門が不良債権問題により機能不全の状態に陥っている現下の情勢においては、直接金融部門の拡大は急務である。そのためには、個人投資家を証券市場に呼び込むためのインフラ整備をはじめとして、証券市場の活性化を図る必要がある。
1. 日本版SECの設置による公正な証券市場の整備
バブル期に発生した大手顧客に対する損失補填や相場操縦、インサイダー取引などの不公正取引は、証券市場に対する個人投資家の信頼を失わせる大きな原因となっている。個人投資家を証券市場に呼び込むためには、こうした不公正取引を排除し、公正な証券市場を整備することが何よりも重要である。
そのため、不公正取引に対する罰則を厳格化するとともに、証券取引等監視委員会を金融庁から独立させて日本版SEC(証券取引委員会)に改組し、監視体制を強化する。
また、投資家保護が不十分な金融商品販売法を改正して金融サービス法とし、個人投資家が安心して株式投資を行うことができるような環境整備を行う。
さらに、個人投資家が投資しやすくなるように、売買単位が原則千株とされている単位株制度を廃止する。
2. コーポレート・ガバナンスの充実
証券市場を魅力あるものにするためには、企業がより株主を重視する経営に転換するなど、コーポレート・ガバナンスの充実を図ることが必要である。そのため、証券取引所の上場基準にROE(株主資本利益率)基準を設けるなど、必要な環境整備を行うほか、企業会計の透明性を向上させるため、国際会計基準への対応や適切な会計監査の実施、ディスクロージャーの充実などの措置を講ずる。
また、企業業績の向上につながるストック・オプションについて、制度の拡充を行う。
3. 証券税制の見直し
証券税制の見直しは、真に本質的な問題ではないが、即効性が期待できるものもある。したがって、税制を歪めない範囲において、いくつかの改正を行う。
具体的には、株式譲渡益課税について、当面の間申告分離課税に一本化し税率を20%に引き下げることや、5年間損失の繰越控除などを認める。また、勤労者財産形成促進制度(財形貯蓄)、老人等のマル優(非課税貯蓄)の適用対象に株式の購入も加え(現在はいずれも預貯金、合同運用信託、公社債投資信託、株式投資信託、公社債を適用対象とし、株式そのものは適用外)、個人の少額・長期保有の株式投資についての配当・譲渡益を非課税とすることにより、金融商品間のイコールフッティングと選択肢の拡大を図る。
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