民主党「介護保険をより良くするワーキングチーム」
座 長 山井和則
事務局長 中村哲治
<趣旨>
介護保険がスタートして1年あまりが経った。「介護を社会全体で担う」という趣旨のもと、全体的なサービス利用量の増加、サービス利用者の権利性の拡大、サービス選択の自由の拡大など、介護保険の導入により、良くなった点も多々ある。
しかし一方では、サービス量の絶対的な不足、利用のための情報不足、施設と在宅の自己負担の不均衡、低所得者層における過重な負担、事務の煩雑さなど、各種の問題点も明らかになってきている。
その問題点の一部は、早急に解決に着手すべきであるし、適切な施策により解消が可能な問題もある。また、ハード面の整備でも、国民の生活や意識の変化に対応して、将来を見越したものにしてゆく必要がある。しかし、2001年になってから、全くと言ってよいほど国会では介護保険については議論されていない。
厚生労働省も、「おおむね順調、見直しは2003年度」という態度で、介護保険の改善のために、十分な取り組みをしているとは言い難い現状である。
介護保険の導入を最も推進した民主党としては、介護保険の更なる改善に取り組むことは当然の責務である。民主党では、昨年の総選挙後7月18日に、「介護保険をより良くするプロジェクトチーム」(座長:石毛B子衆議院議員、衆参87名参加)を立ち上げ、厚生省や各種団体からヒアリングを進める一方、大津市、仙台市において、現地調査と現場の意見を聞く公聴会を実施し、介護保険スタートから半年経った昨年9月26日に「7つの提言」を発表した。
9月の提言発表後もヒアリングや議論を重ね、今年に入り、山井和則座長、中村哲治事務局長に交代して、引き続きワーキングチームとして、介護保険見直しの議論を続けてきた中で、制度開始時の混乱が治まっても、広範な課題が見えてきた。
提言としてまとめた事項以外にも多くの改善すべき点があることは、ワーキングチームの活動などを通しても承知しているが、
今回、介護保険導入後1年の状況から課題を整理し、次の3点をベースに、新たな提言をまとめた。
1. 昨年9月の「7つの提言」について、その後8ヵ月が経過して、提言がいかに実現されたかという進捗状況の確認
2. 昨年9月以降、2000年末まで6回、今年に入って7回、合計13回開催した介護保険ワーキングチームでのヒアリングや議論などの総括
3. 介護保険導入後1年に関する世論調査や新聞報道などの総括
なお、2005年の介護保険の見直しに向けては、更に次のような根本的な課題について、引き続き議論を重ねてゆかなければならない。
* 介護保険と障害者福祉の統合
* 20代以上の所得ある人々への加入年齢の引き下げ
* 5段階保険料や利用上限額の見直し
* 医療・看護・介護の連携と役割分担の明確化
* 要介護状態を防止する保健活動の重視 など
<介護保険導入後1年で改善した点>
* 「介護を社会全体で担う」という意識の広がり
* 全体的なサービス利用量の増加
* 中高所得層での利用料負担の軽減
* 「税による福祉措置」から「保険による介護サービス」への変化による、利用への気兼ねの減少と正当な権利意識の芽生え
* サービス選択の自由の拡大
* 措置では見えにくかった、高齢者の最低所得保障などの問題点が表に出やすくなっている。 など
<介護保険導入後1年の主な課題>
1. 低所得者がサービスを利用しずらい(生活保護に準じる層、資産はあるが収入が無い世帯の問題、保険外負担など)
2. サービス量の絶対的な不足(特別養護老人ホームの待機者の急増、グループホーム整備の遅れなど、必要なサービスが選べない)
3. サービスの質(個室が選べない特別養護老人ホーム、利用したいサービスが無い、悪質な事業者の摘発、ケアマネージャーによる殺人事件などの事件)
4. ケアマネージャーが十分に機能していない(人による能力のばらつき、事務作業に追われて利用者、家族との面談(モニタリング)や関係事業者とのケアカンファレンスができていない、「御用聞き」になっている、所属事業所のサービス営業マンになっている、調整ができない、など)
5. 情報流通が不十分(事業者についての情報を利用者が入手できない、施設の空き状況をケアマネージャーが把握できない、など)
6. 介護保険施設やホームヘルパーの労働条件や待遇が悪い(非常勤の急増、不安定な雇用、長時間労働など)
7. 在宅サービスに利用率が低い(全国平均40%、1割の自己負担が重いのも一因)
8. 在宅よりも施設希望者の急増(介護保険の当初の目的とのずれ)
9. 痴呆対策の立ち遅れ(要介護認定が軽く判定されがち、介護施設やグループホームの不足、専門的な痴呆ケアスタッフの不足など)
以上の問題点については、早急な対応が必要であり、2年後の介護報酬見直しまで放置すべきではない。
<10の提言>
1. 保険料と利用者負担の低所得者対策
〜低所得者も安心して各サービスを利用できる制度の整備・運用を〜
2. 質の伴った介護サービス基盤の整備
〜特にグループホーム、宅老所、ユニット型で個室の老人ホームを重点的に整備〜
3. 介護報酬見直しの前倒し
〜ケアマネージャー、グループホーム、ホームヘルパーなど〜
4. ケアマネージャーの充実
5. 痴呆施策の強化 〜痴呆専門スタッフの育成と要介護認定の適正化〜
6. 「身体拘束ゼロ作戦」の徹底 〜「身体拘束ゼロ3ヵ年計画」の策定〜
7. サービスの質を確保・担保するために施策の充実
8. 介護労働者の実態調査と労働条件の改善
9. 介護保険制度見直しの場に現場と利用者の生の声を
10. NPO法人が提供する介護サービスを非課税に 〜NPO法人が活躍できる仕組みの整備〜
<提 言>
1. 保険料と利用者負担の低所得者対策
〜低所得者も安心してサービスを利用できる制度の整備・運用を〜
社会で支えあうという理念からすれば、基本的には保険料も利用料もその所得等に応じたものとすることが妥当だが、所得や資産が把握できない現状では、困難である。
保険料徴収の基準で市町村民税が世帯非課税である第二段階や、第一段階で生活保護を受けていない層などでは、保険料が過重な負担となって生活を圧迫している。このため、10月の保険料全額徴収前に早急に適切な対応を取る必要がある。又、利用料等の負担の重さから、必要なサービスを受けない人も多い。
根本的には、年金など高齢者の所得保障などとの関わりで総合的に対処すべき部分ではあるが、これには時間がかかり、現に困っている高齢者はその議論を待てない。当面、申請に基づく個別の減免など、次のような対策を、制度見直しの2005年までの時限措置として行うべきである。その際、財政的な裏づけは、その趣旨から、生活保護などの施策に準じて国の責任で行う。
1)保険料の減免
(1) 減免の条件を明確に決め、U申請に基づいて個別に審査を行い、Vその資産状況や実際の支払い能力等に応じて減免を行う、いわゆる「神戸方式」のように、介護保険制度の中で可能なことを、どこの保険者(市町村等)でも当然実施するように徹底する。減免の額や対象者の選定については、各保険者が地域の実情に合わせて定める。
2)利用料の減免等
(1)貸付制度の創設
収入が無くても資産がある高齢者や、介護保険料の減免では対応できない保険外負担を考慮し、介護保険料、利用料の自己負担分等を低利又は無利子で貸し付け、本人の死亡時に相続人が返済する制度を創設する。
資産がある人にとってはリバースモゲージに近い効果が期待できる。
(2)生計困難な人に対する利用者負担の減免(事業者による減免)
現在の制度では、社会福祉法人である事業者にしか認められておらず、手続きが複雑なこともあってあまり利用されていない。この制度を、NPOや民間事業者でもできるようにし、合わせて手続きも簡素化して使いやすいものにする。
2. 質の伴った介護サービス基盤整備
〜特にグループホーム、宅老所、ユニット型で個室の老人ホームを重点的に整備〜
グループホーム、ユニット型の「個室」特別養護老人ホーム、ケアが受けられる高齢者住宅等、国民のニーズに合った施設は、まだまだ需要に足りない。そのため、利用者が施設を選ぶのではなく、施設が処遇のしやすい利用者を選ぶ「逆選択」という介護保険の理念と本末転倒した事態さえ起きている。これを解消するために、今まで以上に基盤整備を強力に進める。その際、今までの「質より量」という考え方を転換し、良質なものを大量にというように「質も量も」両方を重視する。
1)質の高い痴呆性高齢者向けグループホームの大幅増設
痴呆ケアの切り札と言われるグループホームは、現在8割近くの市町村に存在しない。ゴールドプラン21が完全に実施されても、まだ設置されない予定の市町村も多い。身近なところで利用できるよう、小学校区に1つに整備目標を高め、整備を強力に推進する。
2)個室・ユニット型特別養護老人ホームの増設
特別養護老人ホームが足りないからと言って、これまでのような、プライバシーも守れない4人部屋の施設を大量に建てるのでは意味がない。21世紀においては「たとえ障害があっても、『施設』ではなく、『住宅』に住む権利がある」という理念を実現できる、完全個室・ユニット型の特別養護老人ホームの整備が必要である。併せて、既存の特別養護老人ホームについても、計画的に改築し、個室化・ユニット化を図るとともに、個室にあった処遇技術などについて研究と普及を進め、必要な処遇体制を整える。
住宅としての位置付けに伴い、いわゆるホテルコスト(家賃、光熱水費等)の自己負担が必要となるが、ホテルコストの自己負担については、貧富にかかわらず個室が当然であるから、低所得者への利用制限にならないような対応策と併せてこれを検討する。
3)宅老所への介護保険の給付
小規模な宅老所で、質の高い生活を送ることができているケースも多いが、グループホーム等の基準に合わないために介護保険の給付が受けられていない。保険者の判断で、宅老所にも介護給付が可能なように宅老所に合った基準の設定を検討する。
4)ショートステイの個室化
3. 介護報酬見直しの前倒し 〜ケアマネージャー、グループホーム、ホームヘルパーなど〜
グループホーム、家事援助、ケアマネージャーの介護サービス計画作成に対する介護報酬は低すぎる。ケアマネージャーの受け持ち利用者数の適正化やグループホームでの夜勤態勢の確保など、適正な事業執行を行うためにも、また介護関係職の労働環境を適正化するためにも、2年後の見直しを待たずに早急に介護報酬を見直すことが必要である。
4. ケアマネージャーの充実
「介護保険の要(かなめ)」と言われるケアマネージャーだが、「ケアマネージャー殺人事件」も発生し、その信頼が低下している。能力のばらつきも大きく、また業務が集中して多忙なことなどから、現状では期待された役割を十分に果たせていない。施設入所の希望が多くなっている理由の一つとして、ケアマネージャーがきちんと機能していないことがあげられている。
介護報酬の引き上げなどによりケアマネージャーの業務量の適正化、事業所からの業務の独立化を図るとともに、現職のケアマネージャーへの研修教育制度を確立し、また、ケアマネージャーや介護スタッフの研修受講を積極的に支援する制度を設け、人材養成と全体のレベルの底上げを早急に図る。
ケアマネージャーがきちんとモニタリングや相談などの業務を行うことにより、介護不安や在宅での介護プランの不備からくる施設志向を抑えることができる。
5. 痴呆施策の強化 〜痴呆専門スタッフの育成と要介護認定の適正化〜
当初よりは改善されてきたと思われるが、依然訪問調査を行う人の痴呆に対する理解によって、要介護判定の結果が異なることがある。全国3ヵ所の高齢者痴呆介護研究・研修センターも動き始めているが、痴呆介護についての研究と、医師も含めた各職種における痴呆介護への正しい理解と対処ができる人材の養成を、より一層進めるべきである。また、グループホームを運営するための痴呆に関する専門的知識を要する職員の不足や、介護保険の要となるべきケアマネージャーの痴呆に対する理解のばらつきが問題である。
併せて、痴呆予防や痴呆の進行を遅らせる取り組みを強化する。
6. 身体拘束ゼロ作戦の徹底 〜「身体拘束ゼロ3ヵ年計画」の策定を〜
身体拘束ゼロ作戦も、身体拘束をなくすための素晴らしいマニュアル(冊子)が作成され、全国の介護保険施設に配布されている。施策の進捗状況と効果を検証するためにも、早急に精神病院や障害者施設なども含めて、実態調査を行うべきである。さらに、「身体拘束ゼロ3ヵ年戦略」を策定し、3年間という達成年次を決めて身体拘束ゼロの徹底をはかるべきである。また、介護保険施設のみならず、精神病院や障害者の施設にも拡大して、「身体拘束ゼロ作戦」を断行すべきである。
また、現場や家族の意識改革が不可欠である。そのため、すべての介護保険施設に、「身体拘束ゼロ作戦」の啓蒙のポスターを掲示し、家族や現場の意識改革を行う必要がある
7. サービスの質を確保・担保するための施策の充実
入居施設やグループホームでは、それが密室化することなどにより、不正や人権侵害が行われやすい環境になることもある。それを未然に防ぐために、第三者評価を含めた各事業者における情報公開の徹底と、監督官庁による抜き打ち監査を含めた適切な監査とその結果の積極的な公開が求められる。
また、家庭でも、介護者による虐待や、特に一人暮らしの場合など、ケアマネージャーやホームヘルパーによる犯罪も発生している。研修での倫理面の教育と併せて、担当の高齢者に複数の人間が関わり牽制するなど、犯罪を発生させにくいシステムについて検討し、普及させる必要がある。
8. 介護労働者の実態調査と労働条件の改善
介護職は、訪問介護の家事援助も含めて、本来個々の利用者の状態に合わせた、精神的なケアも含めた高度なサービスを提供するものだが、医療職に比べてその専門性が軽視されてきた面がある。職員の定着率があまり良くなく、現場の職員にヒアリングをしても、その悪い労働条件から、そのまま勤め続ける自信が持てないという人も多い。
職員が定着しないのでは、いくら研修を充実しても費用対効果が悪くなり、結局国としても損失となる。現場の実態を調査し、職員の専門性確保のための施策の推進と、労働条件の改善を図る。
9. 介護保険制度見直しの場に現場と利用者の生の声を
2年後の介護報酬見直しと4年後の制度見直しに向けて、審議会などが設置される予定になっている。その委員として現場(ケアマネージャー、ホームヘルパー、施設職員等)と利用者(65歳以上の利用者と65歳未満の特定疾病の利用者の両方)・介護家族の代表を加える。
10. NPO法人が提供する介護サービスを非課税に 〜NPO法人が活躍できる仕組みの整備〜
介護サービスの提供者として、NPO法人の普及を促すために、介護サービス事業を非課税とし、社会福祉法人と同等の扱いとする。
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