民主党
■医療制度改革の視点
≪患者の視点からの改革を。「情報の開示・提供と、患者の選択」が改革の鍵を握る≫
・この間の「抜本改革」「構造改革」が、主として医療保険財政の視点に偏って論じられてきた反省を踏まえて、財政面と医療サービス内容の二つの側面から整合性をはかる視点に立って改革案をまとめるものである。
特に、医療が生活に密着した身近な問題であることを考えれば、国民・患者が参加して議論できるように、「分権」の視点が重要である。
・我が国は、国民皆保険を達成するとともに、総医療費の対GDP比も7.2%(97年)と、1位のアメリカの13.9%の約半分、OECD29か国中でも20位と、国際的には少ない水準にある。このことは大いに評価されなければならない。しかしながら、少子高齢化や経済成長の動向を考えれば、総医療費の伸びの抑制は引き続き重要な課題である。
・しかしながら、自らが受けている治療の内容が十分に説明されていない、医療事故が続発する、薬や医療材料が米国の3〜5倍もする、薬が多量に処方されるなど、無駄な経費が浪費されているとの判断から、国民の医療への満足度は必ずしも高くはない。
・医療事故のない安心の医療、良好な療養環境などを求めれば、それなりのコストを負担しなければならないが、国民の医療に対する不信を解消しなければ、必要な負担への理解も得ることはできない。
・少子高齢化社会の進展や、生殖医療や再生医療などの技術革新が医療制度を含む社会保障制度に与える影響も考慮する必要がある。
・21世紀のキーワードは、「情報の公開」と、「市民の主体的な参加」である。これらの機能が欠如すれば、市民の利益が損なわれる。このことは、医療制度においても当てはまる。患者を医療の受け手として捉えるだけではなく、「消費者」という観点から捉え、医療に関する情報の開示・評価と、患者の選択を促すことで医療の質を向上させるような医療制度改革案を策定する。
・今後は「対症療法」ではなく、事前の「予防措置」が重視されなければならない。医療においても、予防医学や健康教育に重点を置くべきである。
・以上が、民主党の医療制度改革に臨む基本姿勢である。今回の「民主党医療制度改革案」の策定にあたっては、2001年12月に試案をまとめ、パブリックコメントを求めた。多数の貴重な意見が海外からも寄せられた。感謝にたえない。本改革案は、党内の熱心な協議と、党外から寄せられた意見が集約されたものである。
一、 医療提供体制
T.健康に暮らせる環境対策の推進と、自らが取り組む“健康づくり”支援対策の拡充
(1)健康に暮らせる環境対策の総合的な推進
子どもから高齢者に至るまで、健康かつ安心に暮らせるバリアフリーのまちづくり、消費者主体の食品安全対策の強化、シックハウス対策を含むより快適な住環境の整備、通勤ラッシュの緩和対策と職場労働環境の改善。とりわけ大都市部における大気汚染、騒音対策の強化等々、健康に暮らせる環境対策の総合的な推進を図る。
(2)健康増進のための人材の養成確保
地域・自治体を基盤にヘルス・プロモーション(健康づくり)支援のための多様なプログラムと相談窓口の設置を進めるとともに、職場におけるメンタル・ヘルス対策を含めた総合的な健康相談体制の確立と安全衛生活動の推進。とりわけ、生活習慣病の予防対策として、生活習慣そのものの改善に向けた情報提供・PR活動の強化、これらに連動した健診事業の推進に努める。
(3)タバコ・アルコールによる健康被害防止
タバコやアルコールによる健康被害防止のためのキャンペーン等を推進するとともに、健保財政への財源確保対策も視野に入れて、タバコ税および酒税の税率アップを検討する。
U.良質で効率的な医療の提供
(1)医療機関情報の患者への提供
医療機関を選ぶ際、医師や診療内容などに関する情報が公開されていないため、的確な選択ができ難い状況にある。そこで次の措置を講ずる。
広報、インターネット等により、正しい医療情報や医療機関選択に資する情報に誰でもアクセスできるようにする。
医療機関に関わる広告の規制を緩和するとともに、現在の「広告しても良い」項目を示すポジティブ方式から、「広告してはいけない」事項を示すネガティブ方式に変更する。
医療機関の設備や診療内容に関して第三者による評価を行い、公表する。
(2)治療内容の患者への説明
診療の際に、十分な説明がなされていないことや、カルテなどの診療情報の開示が義務づけられていないため、さまざまなトラブルが発生している。
医師による適切な説明と患者の理解に基づく医療(インフォームドコンセント)を推進する。
患者が他の医師に意見(セカンドオピニオン)を求めることができるシステムを構築する。
カルテ・レセプト等の全ての医療情報を、患者本人や本人が了解した者に開示する。カルテ開示義務を法制化する。
支払い時に発行する領収書に、診療内容の明細の添付を徹底する。
民主党は、上記の事項を盛り込んだ「患者の権利法」を第151国会に提出した。早期成立をめざす。
(3)医療情報の電子化
カルテの電子化を進める。同時に、医師の診療時間が制限されることへの対処策を検討する。
診療報酬請求事務の電子化を進め、診療報酬明細書(レセプト)審査の効率化を図る。
保険証を個人カード化し、受診情報や検査情報を記録させることによって、無駄な検査を省き、外来の重複受診等を是正する。
医療情報の電子化にあたっては、データ・セキュリティとプライバシー保護の法整備を検討する。
(4)医療機関の体系化
医療提供体制改革の骨格は、病院と診療所の役割分担の明確化と、「家庭医」制度の定着である。「病診連携体制」「地域医療支援病院」の整備により、病床数は適正規模となり、CTスキャナーやMRIなどの高額検査機器(英米の3〜7倍。OECD全体の半分弱を保有)の共有使用が進み、医療費の適正化が図られる。あわせて、病室の個室化や食堂の配置、看護職員などの増員配置など、療養環境の改善も可能となる。
家庭医は、普段から健康管理や健康づくりについて相談でき、簡単な病気の治療を行い、必要な時には適切な専門医や病院を紹介してくれる身近な医師(ゲートキーパー医)である。
<病院>
・病院を、急性期病院とリハビリ病院と慢性期病院に分ける。
・急性期病院は、入院しなければ検査や治療ができない患者を収容する施設とし、外来は、紹介・救急・特殊専門外来に限定するとともに、「地域医療支援病院」となるよう誘導する。診療機能を高めるため、人員配置基準および設備基準を現状より高くする(人員は現状の2倍以上)。そのような病院の経営が無理なく行われるような診療報酬支払制度とする。
・慢性期病院は、在宅医療支援機能を整備し、退院を促進するよう誘導する。それらの人員配置基準および施設基準は別に定める。
・上記の病院のほか、国立センター病院などの政策医療を行う病院や、僻地あるいは過疎地における多機能病院等を整備する。
・高機能病院へのフリーアクセスについては、高率の自己負担により制限を加える。
<診療所>
・家庭医制度を創設する。
*健康相談、健康管理、生活指導、軽い病気の治療、必要時には適切な専門医や病院への紹介を行い、アフターケアなどを総合的にできる家庭医(「かかりつけ医」)を地域住民が選ぶ制度を創設する。
*家庭医については、家庭医同士、地域医療支援病院あるいは専門医と組んでグループ診療を行えるようにし、患者のセカンドオピニオンの機会を保証する。
・専門医診療所
*家庭医以外の診療所は、専門的医療を行う診療所とする。(歯科、産婦人科、眼科、耳鼻科、外科、整形外科、循環器科など)
*専門医は入院施設をもつことができる。その場合は、病床数のいかんに関わらずこれを病院とし、人員配置基準および設備基準を別途定める。
(5)医療機関の運営主体について
・医療法人、とりわけ「持分の定めのある医療法人」については、経営の透明性とその公営性を高める観点から、「特定医療法人」「特別医療法人」への移管を含め、制度そのものの改革に取り組む。
・国公立病院はその病床規模や診療内容(範囲)および経営形態のあり方等を見直し、より透明かつ効率的な運営に努める。
そのため国立病院・療養所は政策医療を行うナショナルセンター的機能を有する病院を除き、独立行政法人からさらに自治体等への運営移管や、医療法人への運営委託等を推進する。
また自治体病院をはじめとする公的医療機関についても、その政策的役割の明確化を図る一方、地方公営企業としての経営の効率化や公設民営方式の採用等を推進する。
・医療機関における設備投資費用については、従来すべて診療報酬の中で措置されてきた。しかしながら、建築費用や土地代、大型機器の設備費等を診療報酬から充当するのは無理と考えられることから、低利融資制度の創設や公的資金による補助制度の拡充などにより、公設民営を進める。その他、税制を含めてイコールフッティングの考え方に基づき病院間の公私格差をなくす。
(6)病床の規制・使用制限について
・介護基盤の整備と在宅医療の充実により病床数の半減をはかるとともに、医療機能を集中させる。人員配置基準を満たしていない病院は、病床の使用制限を行う。
・病床規制のもと新規参入・新陳代謝が妨げられている。参入を自由化する方向での新たな手段を検討する。
(7)医療従事者の資質の向上 (「研修医問題検討チーム」で作業中)
・医師の入試制度、学部教育を抜本的に改革する。メディカルスクールの導入も検討する。
・卒後研修、医局制、医師免許制度のあり方について、検討を加える。
・家庭医の養成を重視し、基本的疾患経験のため地域病院での研修を義務付けることや、定期的に卒後研修を行い技能の向上を図る。
・薬剤師の養成は6年課程とする。
・看護師教育は4年制とする。准看制度は廃止する。
・その他の有資格医療従事者についても、4年制大学教育とする。
(8)コメディカルの役割
・看護師等のコメディカルについて、在宅医療を含めた医療体制における役割や位置づけとともに、医師の権限の委譲を検討する。
(9)根拠に基づく医療(EBM)と標準化の推進
受診した医療機関によって治療内容等が異なり、医療水準や安全性、効率性も担保されていない。そこで、根拠に基づく医療(EBM)、医療の標準化を進め、標準化のできる治療分野から定額制を導入する。定額制は、一定額の中でいかに効率的に治療するかという意味で、裁量性が増し、技術が評価される方式でもある。
・根拠に基づく医療(EBM)を医療の基本的な考え方とする。もちろん、コスト抑制を目的とするものではない。
・医療の標準化をさらに進め、主要疾患について順次、治療マニュアルを整備する。
(10)入院診療計画の普及促進など
・適切な入院診療計画を導入する。入院診療計画はクリニカル・パスとも呼ばれ、入院患者に対し、おおよその患者がたどるであろう臨床経過とそこで提供される医療について、医師・看護師など関係者で図面化し、実行・評価する手法である。
・患者、家族に対しての相談窓口となる医療ソーシャルワーカーを必ず配置する。
(11)医療事故防止対策、薬害対策の確立
・第三者機関が医療事故報告を求めることができること等を盛り込んだ、「医療事故防止のための医療法改正案」を第151国会に提出した。早期成立をめざすとともに、対策充実のために「医療事故対策検討チーム」での検討を続ける。
・医学部への薬理病理学講座の設置、薬害情報の収集と迅速な対応策の実施、薬に関する知識の普及など、薬害防止策を強力に進める。
(12)高齢者医療
・老人医療の特性についての研究を進め、老人の特性に合った治療法、薬容量などについてのマニュアルを早急に整備し、個々の患者の特性を考慮して適切な医療を行うとともに、特に生活の質を重視する。
・福祉施策の不十分さのために医療がかかえてきた分野を、介護保険制度との間で適切に分担し、介護基盤の整備、在宅医療の推進により、社会的入院を解消する(ただし、過度に医療を介護に持ち込んではならないし、老人にも急性期疾患治療の機会を保証する)。
(13)小児医療の充実 (「小児医療検討チーム」で作業中)
・危機的な状況にある小児医療を立て直すため、小児医療を大人の医療と切り離して、独立したものとして位置づける。
・救急機能を持つセンター病院を中心とする地域の小児医療ネットワークを構築し、少子化時代の子どもたちの心身の問題に総合的に対応できる体制を作る。
(14)女性医療の充実
・性差を考慮した医療(ジェンダースペシフィクメディスン)を充実させる。
(15)生殖医療に関するカウンセリングの重視
・不妊カウンセリング、出生前診断に関連しての遺伝カウンセリングなどを充実させる。
(16)歯科医療 (詳細は「民主党 歯科医療改革案」のパンフレットを参照されたい)
・歯科の領域においても「治療から予防」へと転換するとともに、歯科重視の医療体制を確立する。
(17)難病対策の確立 (「難病対策検討チーム」で作業中)
・「難病対策基本法」の制定を目指す。
(18)救急医療体制の整備 (「救急医療検討チーム」で作業中)
・救急救命センターの機能強化、救急救命士の業務拡大、搬送後の検証体制の確立など、救急医療体制の高度化を図る
(19)精神医療
・日本の精神病院の平均在院日数は欧米の数倍の長さであることから、このような極度に入院に偏った精神医療のあり方を抜本的に改め、精神障害者向けのサービス基盤を緊急に地域に整備する。
精神病院については、人員配置基準を一般病床と同等の水準とするとともに、精神療法を重視するなど入院患者の減少に対応できる診療報酬体系とする。
(20)ターミナルケアについて
・末期がん患者等の終末期医療のあり方について、意味のないと思われる延命治療を拒否するリビング・ウイル(生前の意志表示)、最後の死の瞬間まで充実した生を送ることをめざしたホスピスの取り組みなど、年齢にかかわらず、人間の尊厳との関係において死をどのように迎えるかという観点から議論する。
・ターミナルケアのためのシステム整備や人材養成を進める。
二、 診療報酬・薬価制度
T.診療報酬制度の見直し
医療機関が患者に提供した検査、投薬、手術などの報酬は、原則、個々の診療行為を公定化した単価表(=診療報酬点数表)に基づき、積み上げた点数(=出来高)を保険者に対し請求し、医療保険から支払われる仕組みとなっている。点数表は、中医協の審議を経て厚生労働大臣が2年に1回、診療所および病院に全国一律のものとして告示される。
主流である出来高払い制は、主治医が必要と考える診療行為を行い、その総費用を保険者に請求できるため、基本的に診療行為への制限がない一方、報酬を高めるため必要以上の濃厚・過剰診療を誘発することもあり、効率的な医療提供のインセンティブが働きにくい仕組みである。
一方、包括払い制(定額払い制)は、一定の疾病(要件)に対し一定の支払額(診療報酬)を予め決めておく仕組みで、要件により疾病別、日数・件数別などで定額払い制の分類もされるが、個々の診療行為の多寡により医療機関の報酬が左右されないので、出来高払いにみられる過剰診療を抑制する効果はある。また、一定の支払額の中で最も効率的な診療行為が選択できるので技術評価ができる一方で、過少診療や重症患者の拒否など患者選別の欠点も指摘される。
(1)病診別診療報酬の設定
・病院への支払い方式
*診療報酬制度を病院向けと診療所向けの二つに区分し、病院向けは、入院向けと外来向けに区分し、包括化を進める。
*中長期的には、医療の標準化を進め、日本型DRG−PPS方式(Diagnosis Related Groups Prospective Payment System 疾患群別定額払い制)を導入する。DRGは、国際疾病分類で1万以上ある病名をヒューマンパワー、医薬品、医療材料などの医療資源の必要度から、統計上意味のある500程度の病名グループに整理・分類する方法で、さらにPPS(Prospective Payment System・予定定額払い)が加わって初めて疾患群別定額支払制になる。アメリカで1986年から導入された仕組みで、入院患者の疾患を、約500の疾病診断分類の1つに分類し、実際の入院日数や使われた医療資源の多寡に関わらず、予め定められた額を支払う仕組み。
*出来高払い方式を付加する余地を残す。
・診療所への支払い方式
*「かかりつけ医」方式を進めるとともに、地域医療支援病院等との連携医療を評価する。
*中長期的には、定額制を基本とする。慢性疾患は包括払いとし、軽微な急性疾患、あるいは予防医療についての出来高払いを付加する。
(2)新技術・新薬への保険適用
・医療分野における技術革新は、必ずしも価格の低下につながらない。そのため、新技術や新薬をすべて公的医療保険でカバーできるとは限らない。そこで、次のような方策を検討する。
*EBMの考え方に基づき、新技術、新薬への保険適用を行うとともに、保険適用が実現するまでの間は特定療養費制度(保険給付と自費負担を併用できる)を活用する。
*また、既に保険適用となっているものについても、EBMの考え方に基づいて不断の見直しを行い、不適切なものはもとより、役割を終えたものも適応からはずす。
*不妊治療、臓器移植、遺伝子治療の一部などへの保険適用を望む意見があるが、個々人の生命観によるところが大きいことから、慎重に検討する。
(3)代替医療の評価
・EBMの考えに基づいて、各種の代替医療を科学的に評価し、適切な行為と認められる場合には保険適用も検討する。
(4)診療報酬決定機構の見直し
診療報酬は厚生労働大臣の諮問機関である、社会保険医療協議会で決定される。メンバーは医療費支払側委員8人、診療側委員8人、公益側委員4人の20人で構成され、診療報酬点数表の改定なども含め関係団体の利害調整機関ともなっている。
・中央社会保険医療協議会(中医協)の委員構成を診療側、支払側、公益側それぞれ同数とし、診療側委員に病院代表、看護師代表等を加える。
・議事録は逐語記録とし、発言者名を含め公開する。
・その後、中医協に替わる新たな機構(委員構成、独立した事務局)を検討する
V.薬価制度の見直し
薬価基準とは、保険が適用できる医薬品の範囲(品目表)と、保険での支払価格(価格表)を規定したものである(1点単価は10円)。厚生労働省は、毎年医療機関の医薬品購入価格の調査を行い、市場の実勢価格を元に2年に1回薬価の改定を行っている。
医療機関が保険者に請求する薬価基準価格(公定価格)と、実際に卸業者等から購入する価格には、その取引条件に応じた大きな価格差(薬価差益)が存在しており、益分は大部分の医療機関において経営に充当されてきた。
現行の薬価基準制度は、薬価差益の大きな高価格医薬品にシフトしがちな制度であり、医薬品の使用面からも問題となっている。
(1)薬価や保険医療材料価格の適正化
・薬などは現物給付を維持しつつ、薬価を含めた定額払い制度を拡大する。
・薬価の公定価格制をやめ、市場原理に委ねることを目標とするが、当面は、公定薬価制度を維持し、透明化等の改善をはかる。
*製薬メーカー・流通業者・保険者・学識経験者による薬価決定委員会を中医協のもとに置き、薬価の決定方法を透明化する。
*既に薬価収載されている薬剤で同一成分のものが複数銘柄ある場合は、同一グループとして、加重平均値を薬価とする。
*新薬については、既存の類似薬があるときはそれと比較して新薬価を定める類似薬効比較方式を基本とし、類似薬がないときは原価計算を行う。画期的な新薬にはより高い評価を与え画期性加算を行い、新規性に乏しい新薬(ゾロ新)の価格は抑制的に扱うなど、薬剤の特性に応じて加算、減額を行う。
・205円ルール(205円までなら処方薬を明らかにしなくても請求できるとするルール)は廃止する。
(2) 薬効の再検討と画期的新薬の早期承認
・既承認薬について、基本的な薬剤を中心に適応疾患、用量について抜本的に見直す。
・また、世界的に効果が認められている新薬は早期に承認する。
・国立病院が積極的に臨床試験を引き受けるなど、新薬開発の体制を整備する。
・小児用薬、感染症ワクチン等は国が責任をもって確保する。
(3)完全医薬分業の実現
医師の処方箋に基づき薬局の薬剤師が調剤して投薬することを「医薬分業」と称している。ヨーロッパでは長い伝統があるが、日本での実施率は未だ40%に留まる。薬剤師に、調剤・服薬指導を任せることにより重複投与・投薬過誤の防止や患者の薬剤服用歴を管理できることや、医薬品の適正な保管管理ができるなどのメリットがある。
・医薬品の薬価基準への収載方式には、商品名(メーカーによる販売銘柄)と、日本薬局方などの同一組成・同一規格としての一般名(統一名称)があるが、収載品目1万3千のうち一般名収載は10%に満たない。該当する商品名を一般名のもとに列挙する方式では、その商品の価格は同一であり、列記されない医薬品の保険適用は認められない。有効性・安全性が同等で、安い医薬品の使用を促進するため、長期収載医薬品の一般名処方を進める。また、代替調剤を認めることにより、患者が低薬価の医薬品を選択できるようにする。
・薬剤師の養成制度を見直し、副作用・効能についての患者への情報提供や、患者の薬剤服用歴管理などを通じての、薬剤の適正使用を図る。
(4)生命科学産業の振興、製薬産業の育成
・生命科学の発展に対して国家戦略を立て、研究開発に公的投資を行う。
・製薬産業政策は経済産業省に移管するが、希少疾患用薬品等の開発および安定供給は厚生労働省所管により公的支援を行う。
三、 医療保険制度
T.医療保険制度の見直し
上記の医療制度改革の実施や方針の確定の後に、1.分立している保険者の原則として都道府県単位での再編、2.高齢者医療は従前の保険者への継続加入(突き抜け方式)と拠出金方式の老人保健制度の廃止などにより、地域間の医療費格差ならびに保険料格差の是正に努め、全国民に対して、医療費の公平公正な負担を求める。
(1)保険集団の再編成と財政調整制度について
・地域保険への保険者の再編等について
*政管健保については、都道府県分割へ向けての準備をただちに開始する。この場合、保険者は都道府県か、あらたに設置する非営利の第三者機関とし、被保険者証の交付などの適用事務、保険料徴収事務等については、市町村に委託する。
*組合健保は現在の十分の一程度まで統合化を進める。都道府県単位化できるものは、都道府県単位に統合再編する。
*国保は広域化をはかる。
・保険者間のリスク構造調整について
*今後、統合された保険者間のリスク構造調整を段階的に進める。
*リスク構造調整の仕方は、効率・公正・透明な方法で行われなければならない。ドイツの場合、年齢・所得・性別・家族被保険者数に着目して調整を実施しているが、「保険者の責任」に帰しえない部分は財政調整の対象とし、それ以外は財政調整せず保険者に帰責させる、という発想に基づくものである。この結果、各疾病金庫は所要保険料と財政力の差を得る(または拠出する)こととなっている。わが国においては国保の所得捕捉システムが不十分との指摘もあることから、年齢リスクから始めて段階的に実施することが現実的である。この方式は、「事前的調整」なので、保険者の合理化努力(医療費の効率化)を当該保険者の財政状況に反映できるメリットがある。
(2)老人保健制度を廃止する
〇高齢者も従前に加入していた保険にとどまることとし(いわゆる「突き抜け方式」を採用)、老人保健制度は廃止する。
〇廃止までの移行形態については、
・年齢区分を75歳に引き上げ、財源は、公費5割、本人負担1割とし、その他の部分は、健康保険各制度からの拠出とする。
・70歳から74歳までの高齢者については、段階的に従前加入の各保険者に加入するものとする。自己負担は段階的に70歳未満被保険者と同一にするが、当面1割を維持する。
(3)社会保険の適用拡大など
・パート労働者や派遣労働者等についても、社会保険を適用する。
・一人一保険証、社会保険と国税の徴収一元化に必要な措置を講ずる。
・現下の厳しい雇用情勢に対応して、リストラ・倒産による失業者の健康保険料の軽減法案を提出し、成立をめざす。
(4)保険者機能の強化
保険者機能を強化することは、医療保険制度を効率的に運営するための鍵である。その際重要なことは、単なる支払機能の強化や効率化といった視点にとどまらず、被保険者の利益を守るという保険者本来の機能の強化をはかることである。つまり、健康づくりや疾病予防対策の推進についても力を注ぐことが不可欠である。
・レセプト情報の分析結果を活用しつつ、被保険者の健康を維持するための支援策(病気への注意、健康教育など)を、保険者自らが行う体制を強化する。
・保険者は医療機関の評価を行い、患者や被保険者の適切な選択に資する情報やアドバイスを提供する。
・保険者自らが一次審査を行えるようにする。それらの業務を、患者情報を厳守しつつ民間委託を可能とする。
*包括払い方式についての審査は、医療機関の評価と連動するシステムとする。
*医療機関への立入り検査権を設ける
・医療機関との直接契約の許可、診療報酬についての一定の裁量権付与などを行う。
・病院や保養所の経営など、保険以外の業務を整理するとともに、保険者自身に関わる情報の公開や第三者による監査体制を整備する。
(5)支払いシステムの見直し
・社会保険診療報酬支払基金等の支払いシステムを抜本的に見直す。
U.保険財政の健全化
保険財政のあり方
・保険財政は、保険料負担、受診時の自己負担、公費の3つの財源により維持する。
・保険料は総報酬制、労使折半とする。
・社会保険の趣旨に基づいて、必要な医療費は患者に大幅に負担させるのではなく、保険料によって広く国民が負担すべきである。
・自己負担割合のアップは受診抑制となる恐れがあり、現状を維持すべきである。
・公費負担は、現状を維持する。
・高齢者の負担については、依然として低所得水準の高齢者も多い一方で、所得が高い水準にある高齢者も増加しており、若年層の負担が増大している中では高齢者に対しても所得に応じた負担を求める。
・ただし、低所得者に対しては、自己負担の上限設定、保険料の軽減等の対策を強化・拡充する。
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