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1999/12/16
2000年度税制改正について
―自民党税制改正大綱への見解を中心に―
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民主党税制調査会

1. はじめに

 景気は緩やかな回復を続けているが、累次の経済対策における財政支出の追加と経済の長期停滞を反映した深刻な税収悪化の中で、先進国中最悪の財政赤字を抱えるに至っている。また、今年度の所得税・法人税の負担軽減措置は、課税ベースなどを見直すことなく所得税最高税率等の大幅な引き下げを行ったために、税制のあり方を大きく歪めるものとなっている。こうした現状を踏まえると、来年度税制改正については、景気対策のための大盤振る舞いという発想を切替え、できるだけ将来のわが国税制の望ましいあり方を展望した改革の方向を明確にしていくことが求められる。

 民主党は、(1)納税者主権の確立と自発的な申告の重視、(2)自立とチャレンジ、社会的連帯を支援する税制、(3)地方税財源を抜本拡充し、地方分権を支える税制、(4)持続可能な経済社会をめざす税制、(5)財政規律に留意した責任ある税制――などの視点を十分踏まえながら、わが国の経済・社会の構造改革を進める方向に沿って当面の税制改正にも取り組むべきであると考える。

 一方、自自公連立政権下での来年度税制改正の内容は、「平成十二年度の予算編成、税制改正を通じ需要面からの下支えを継続する」とする自自公政策合意にも当初から示されていたように、今年度までの大盤振る舞いの発想を転換できず、景気対策を口実にしたこまごまとした減税の積み重ねに終始するものとなっている。このような税制では、わが国経済の本格的な構造改革を通じた民需主導の自律的経済再生を図ることはできない。

 以下では、与党の税制改正論議で焦点となった項目を中心に、民主党の見解を示す。


2. 個人所得課税関係

(1) 児童手当拡充と関連する所得税人的控除の見直しについて

 民主党は、児童手当の拡充とセットで扶養控除を段階的に縮小・廃止するなど、各種控除を全面的に見直し社会保障給付等との適切な役割分担を図ることが必要と考えており、このような立場からすでに本年2月、独自に所得税法・児童手当法の改正案も提出したところである。

 これに対して、自民党案は、児童手当支給対象の6歳未満児童への延長等とセットで、その財源として所得税の年少扶養控除を10万円引き下げることとしている。扶養控除の見直しについてきわめて不十分で中途半端なものとなっているだけでなく、改正後の児童手当の対象とならない6歳以上16歳未満児童について、扶養控除の引き下げによる負担増のみがもたらされることとなり、きわめて問題である。


(2) エンジェル税制の拡充について

 ベンチャー企業の株式の譲渡損について、他の株式譲渡益からの3年間の繰越控除を認める現行のエンジェル税制は、ベンチャー10社、エンジェル70人と利用状況が著しく低調である。ベンチャー企業等の起業家を支援し、新規開業を資金面で支援する観点から、今後2年間程度の時限措置として、(1)株式譲渡損失の繰越控除期間を5年程度に延長するとともに、(2)株式譲渡損の一定部分を事業所得など他の所得と通算できる損益通算制度の導入を検討する。ただし、ベンチャー株で儲かった場合は低率の分離課税で、損をした場合のみ高い税率のかかる所得と相殺できるという損益通算制度は、税制上の不公平を拡大するものであることから、中期的には個人所得課税の総合課税化の方向の中で、申告総合課税の選択制の導入などを検討すべきである。


(3) パソコン取得控除の創設

 現在、個人事業者や法人が100万円未満のパソコン等を取得した場合に全額の損金算入を認める、いわゆるパソコン等即時償却制度が1年間の時限で実施されているが、IT革命の推進を個人の需要面から支えるため、給与所得者についてもキャリアアップや自己訓練のためのパソコン等取得を所得から控除する制度を時限的に創設することを検討する。


(4) 個人所得課税の課税ベース全般の見直し

 上述の人的控除の見直しのほか、高額所得層のフリンジベネフィットに対する適切な課税のあり方を検討するなど、個人所得課税の課税ベース全般について見直すべきである。


(5) 年末調整制度の見直し

 納税者としての権利と自覚を高めるため、サラリーマンの年末調整と確定申告の選択制度等を導入すべきである。


3. 法人課税関係

(1) IT分野関連設備投資減税の実施等

 IT革命推進による民需主導型の自律的経済再生を強力に推進する観点から、従来型公共事業を削減して各産業におけるIT分野投資などについての大型の設備投資減税を企業規模の限定等を設けずに実施すべきである。

 また、現在、コンピュータ・ソフトウェアについての税法の適用については、コンピュータ本体に組み込み済のものは本体と一体として、自社開発ソフトの開発費は経費として、パッケージソフト購入費やソフト開発委託費は繰延資産(5年均等償却)として、データベース購入費は無形固定資産として、それぞれ異なるという実態と乖離した取り扱いがなされているが、これらについては現在のコンピュータ等をとりまく現状を踏まえ、企業会計制度の見直しなどにあわせて、ソフト購入費等の一括経費処理など、わが国におけるIT革命を促進する形に見直すべきである。


(2) パソコン減税の拡充

 パソコン等即時償却制度(上記)については、IT革命推進による民需主導型の自律的経済再生を強力に推進する観点から、1年間の期限を1年間延長するだけでなく、1セットあたりの適用価額上限を2倍程度に引き上げるべきである。


(3) 同族会社の留保金課税見直し

 法人税と個人所得税の税率の差が相当ある時代に設けられた留保金課税については、特に中小企業については内部留保を通じた企業規模拡大等に不当に足かせをはめるものとの批判が強い。民主党は、先の臨時国会で、中小企業については留保金課税を適用しない特例措置を議員提出法案で提案しており、今回の自民党案でそれが採り入れられたことは当然といえる。


(4) 連結納税制度等について

 昨年の大綱で2001年に連結納税制度の導入をめざすとされたが、法人税収の落ち込み等の事情に加え、企業分割法制に対応した税制の整備も課題となっていることから、2001年度以降に見送られた。連結納税制度や企業分割法制に対応した税制上の措置が必要であることは言を待たないが、租税回避の防止策など、十分な検討が必要である。


4. 年金関係

確定拠出型年金への優遇税制について

 日本版401kの早期導入を求める声は目立つが、拠出、運用、給付のすべての段階で税制上の優遇措置を設けることには、他の金融商品との関係等で異論も強かったが、自民党案では、主婦等の個人拠出を優遇税制の対象から外すこととなった。

 そもそも企業年金を401Kのような確定拠出型年金に改めていくことについて、雇用流動化への対応という面でのメリットの半面、企業負担を軽減して一方的にサラリーマンに自己責任を押しつけるものとの批判も根強い。労使合意が前提だといっても、労組がない企業では、この合意は形式的なものになってしまうとの懸念があるためである。こうしたことから、確定拠出型年金制度の導入の是非そのものについて、さらに十分に議論することが必要である。

 仮に確定拠出型年金制度を選択的に導入する場合でも、個人事業者や主婦の加入については単なる個人の貯蓄との区別が不明瞭であり、優遇税制を適用することは不適当である。

 また、拠出時非課税に加えて、給付時にも実質的に非課税に近い扱いになっている現在の年金税制について、年金受給世代と現役世代との負担の公平という観点から見て適当かどうか、今後本格的に検討すべきである。


5. 土地・住宅関係

(1) 住宅ローン減税の延長について

 自民党案では、昨年大幅に拡充された住宅ローン減税について、その適用要件である入居期限を半年延長するとしている。しかし、このような対策の延長は景気刺激策としての効果を縮減するおそれを否定できない。むしろ、マイホーム譲渡損失繰戻還付制度の創設、住宅ローン利子控除の創設の検討等を進めるべきである。


(2) 不動産証券化を促進する税制の整備

 特定目的会社(SPC)による不動産・住宅ローン債権等の証券化を通じた不動産流動化を促進する観点から、これら証券の国債・社債等とのイコールフッティングを図るため、各種税制について見直しを行うべきである。


6. 相続税関係

 景気対策の一環として、中小企業の事業承継円滑化の観点から相続税の見直しが検討されたが、自民党案では、総理が表明した70%の最高税率の大幅引き下げについては見送られた。未上場企業株式の評価方法については類似業種比準方式の斟酌率の見直し等を行うとしている。

 中小企業の事業承継円滑化が唐突な相続税見直しの理由とされてきたが、最高税率の引き下げが中小企業にどのような恩恵をもたらすのかは不明である。 所得税の税率構造の簡素化や最高税率引き下げを行う一方で、相続税まで引き下げることは、機会の平等を損なうおそれが多く、所得税制のあり方と併せて慎重に議論すべきであって、景気対策に便乗した拙速な議論には反対である。

 ただし、企業規模が小さくなるほど現物資産(土地)の評価のウェートが高まるために相対的に自社株の評価額が高くなっている現在の評価方法については、適正な評価となるよう見直すことは当然である。


7. NPO税制関係

 公益寄付金税制のあり方については、納税額の一部について、その使途を納税者が選択できる「選択納税制度」等を含め、幅広く抜本的に検討することがわが国においても今後の課題となっている。

 同時に、特定非営利活動促進法(NPO法)施行から1年経過し、附則や附帯決議で盛り込まれた特定非営利活動法人(NPO)支援税制の導入が焦眉の課題となっている。

 民主党は、別紙の通り(1)法人格取得後1年を経過し一定の活動要件をみたした団体について認定を行い、認定された団体に対する寄付についての優遇措置を創設すること、(2)認定された団体は、収益事業の収入の一定割合をみなし寄付金として損金算入を認めること――などの措置を講ずることを提案する。

 今後、別紙案を広く公開し、市民からの意見を反映させた上で成案とする。


8. 消費税関係

(1) 現行消費税の不公平是正

 消費税については、まずインボイス方式による仕入れ税額控除、簡易課税制度見直し、免税点引き下げなど、すでに明らかとなっている問題点の見直しをすみやかに行うべきである。

 また、滞納問題解消のため、納税の回数を原則として月1回(現行は年税額に応じ年1〜4回)に増やすこと等を検討すべきである。


(2) 消費税の基礎年金目的税化

 与党は、自由党の提案する「福祉目的税」をめぐってなお議論が混迷しているが、消費税は基礎年金目的税に改め、基礎年金を全額税方式化するための財源に充当すべきである。


9. その他

(1) たばこ税引き上げ問題について

 自民亀井政調会長は、赤字国債発行を減らす方策として国たばこ税の2円/本引き上げ検討を提唱したが、結局この議論は先送りされることとなった。1年前に旧国鉄長期債務処理のために0.82円/本のたばこ特別税が設けられ、値上げしたばかりであることに加え、国の財政赤字を愛煙家だけが負担すべきという議論は大いに疑問であり、見送りは当然である。


(2) 登録免許税の見直し

 登録免許税は、登記等を受ける際の手数料としての性格が強いが、不動産価額や資本金額等を課税標準としているため、経済活動にとって重い負担になっている場合が少なくない。たんなる税率の引き下げではなく、定額の手数料に改め、名称も改めるべきである。


(3) 利子税の引き下げ

 所得税、法人税、相続税等に係る利子税については、すでに引き下げが決まっているが(所得税・法人税は原則年7.3%、相続税等は公定歩合に対応した一定率)、来年1月1日からの施行後の状況、金利水準なども考慮し、適正な水準になるようさらに引き下げるべきであり、自民党案でこれが盛り込まれたことは当然である。


10. 地方税関係

 本来、地方公共団体による行政サービスに対する応益的負担としての性格を持っている地方税については、景気対策の道具として時々の経済状況によって減税するような取り扱いをすべきではない。国の景気対策によって近年の地方公共団体の財政状況は著しく悪化しており、国から地方への抜本的な税源移譲を進め、地方分権を強力に推進すべきである。


(1) 固定資産税負担調整問題について

 自民党案では、97年度からの負担調整措置につき、据置き・引き下げの範囲をさらに拡大することとしているが、固定資産税の評価替えに伴う負担調整は 94年度以来の7割評価の原則をあいまいにするものであり、市町村税収の半分ほどを占める同税の役割に照らすと、きわめて問題であり、反対する。むしろ、市町村の判断による税率引き下げについての制限緩和など、地方分権の観点から議論すべきである。


(2) 外形標準課税の検討

 赤字法人への課税につながり、現在の不況下では実施は難しいとする意見が大勢を占め、自民党案でも来年度導入は見送られたが、自治体は税収安定化のために必要との立場をとっている。

 法人事業税は、都道府県税収の中で大きなウェイトを占める反面、その税収が景気の影響を強く受けるため、都道府県財政の不安定化を招いている。外形標準課税の導入は、地域における応益課税という意味での税負担の公平に資するだけでなく、都道府県財政の安定化という面でも有力な選択肢の一つであるという観点に立って、引き続きその詳細のあり方について検討すべきである。


(3) 自動車グリーン税制について

 運輸省・環境庁が提案していた、いわゆる自動車グリーン税制については、環境改善を図るという基本方向は賛成すべきものであるが、本税制は、現行の複雑・過重な自動車関係諸税の体系を前提に、さらに複雑・過重にしようというものである。またCO2排出と直接の因果関係がある走行(燃料)課税を対象とせずに保有課税を対象にしているという点でも問題がある。自民党案では、高燃費車への重課を盛り込まず低燃費車への自動車取得税の軽減のみを導入するとしているが、いずれにせよ現行の自動車関係諸税の枠組みを残す中での小手先の措置にすぎず、その効果も疑わしい。現行の自動車関係諸税を抜本的に見直す中で、排出炭素量等に応じて賦課する環境税等の仕組みの導入も含め、環境政策全体として検討すべきである。


(4) ゴルフ場利用税廃止問題について

 ゴルフが国体の競技種目となることから、文部省がゴルフ場利用税の廃止を主張したが、自民党案には盛り込まれなかった。同税は、ゴルフ場周辺の環境維持、道路整備、廃棄物処理等の行政サービスの受益の対価と位置づけられるものであり、相応の存在理由がある。また、約1,000億円の税収の7割相当額がゴルフ場所在市町村に交付されており、特に過疎化の進む地方の市町村等の貴重な財源になっている。地方団体の財政状況がきわめて悪化している中での廃止は問題が多く、当然の結論である。


11. 税務行政関係

(1) 「納税者権利憲章」の制定

 納税者の権利を確立し、自発的な申告納税を奨励するとの見地に立って、国税通則法のあり方を幅広く見直すとともに、主要先進国に見られる「納税者権利憲章」をわが国においても早急に制定すべきである。


(2) 納税者番号制度の早期導入

 かねてから問題となっている所得捕捉上の不公平などを是正するため、個人のプライバシー保護策の充実などに留意しつつ、税務行政等への利用に限定した納税者番号制度を早期に導入すべきである。

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