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1999/11/05
「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案」に対する代表質問/北村哲男議員
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民主党 北村 哲男

 私は民主党を代表して、ただいま提案されました「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案」に対し、質問いたします。

 昨日、すなわち一一月四日は、坂本提弁護士一家がオウム真理教幹部に殺害されて、ちょうど一〇年目にあたります。

 当時、国会内においても、超党派による坂本弁護士一家捜索に関する議員団会議が結成され、私共も、警察庁など関係機関に捜索の強化を強く申し入れました。

 しかし、当時の関係機関の対応は、いかにも緩慢で、打つべき手が無いという状態で、オウム真理教に対する危機意識が感じられなかったとの印象でした。

 その五年後の一九九四年六月、長野県松本市でのサリン散布による七人の犠牲者、そして一九九五年三月二〇日、まさにこの国会議事堂のお膝元、営団地下鉄・霞ヶ関駅などでのサリン散布による事件は、世間を震撼せしめました。これらは、我が国だけでなく、世界にも例を見ない前代未聞の無差別大量殺傷事件で、思い出すだけでもおぞましいものであります。

 しかし、これは過去の事件ではなく、現在も継続しておるのです。

 すなわち、多くの犠牲者の方々やその家族の方々が、今なお心身共に深刻な後遺症に悩まされており、一方、その主謀者、松本智津夫らの裁判は、遅々として進んでおりません。

 また、被害者の方々への損害賠償は極めて不十分であるのです。私共は昨年四月、「オウム真理教に係る破産手続きにおける国の債権に関する特例に関する法律」を超党派で成立させました。

 これは、オウム真理教の破産債権として国が届け出た、労働者災害補償保険法などに基づいて国が有する債権を、犠牲者の債権に劣後させるというものであり、これによって約一億二千万円の破産債権が確保され、一定の評価は得たものの、被害者の債権額約三八億円を満たすには如何にも不十分であり、その後の対策は未だとられておりません。

 さらに問題なのは、宗教法人オウム真理教は解散命令を受け、法人としては破産宣告を受けるに至っておりますが、その教団の主たる構成員らが過去を反省することもなく、依然として、同一の教義に基づく宗教活動を行っていることです。しかも、その実態は、事件前と同じように修業と称して信者を監禁し、いわゆるマインドコントロールをするなどを繰り返しながら、露骨に勢力の拡大をはかっております。そればかりか、かの上祐、すなわち「ああいえば上祐、こういえば上祐」といわれたオウム真理教の大幹部、上祐史浩が、この一二月には出獄し、再び活動を始めようとしています。

 このように一〇年前から始まったオウム教団関連の事件が、今なお、いっこうに解決していないばかりか、新たな進展すら予想させる姿を見て、世間は一層の不安と恐れをつのらせているのです。また、一般的な不安や恐れだけでなく、全国各地ではオウム教団の活動拠点での住民登録と子弟の就学拒否、転入の実力阻止、あるいは信徒の監禁などをめぐり、現実のトラブルも絶えず起こっており、地域住民の不安を一層高めているのも現実であります。

 しかしながら、これらの諸問題に対し、政府の対応は如何にも鈍い。私は、一日も早い対応策が必要であるとの立場に立ちます。

 問題は、いつまた同じことを起こすかもしれないという、一触即発の雰囲気の中でのオウム教団に対する対応であります。

 しかしながら、今回の政府提出のこの法案には、いくつかの問題があります。すなわち、この法案が、その第二条第三条で自ら規定しているように、「この法律は国民の基本的人権に重大な関係を有するもので必要最小限度において適用すべきで、いやしくも拡張して解釈してはならない。」

あるいは「規制及び規制のための調査は必要最小限度において行うべきで、いやしくも権限を逸脱して、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由、ならびに勤労者の団結し及び団体行動をする権利、その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限することがあってはならない。」などと規定しております。

この条文は、この法案の性格をそのまま表しているものであります。

 この法案が直接関係する、国民の基本的権利に関わる憲法条文を検討してみると、すでに法案にあらわれている五つの基本的人権に加えて、第二九条、第一四条、第二二条、第二六条、第三一条、第三二条、第三五条など、憲法に定めるほとんどの基本的人権が直接問題になり、現実に制約されることにもなる極めて重大な法案であります。

 これら国民の基本的人権が制約されうる法理として、一般に、公共の福祉による制約があることは判例・学説共に認めるところでありますが、この法案による制約は、一般法としては公共の福祉という法理ではとうてい認めることの出来ない、その限界を超えていると云わざるを得ないのであります。もし一般国民が公共の福祉の名の下に、これほどの基本的人権の制約を受けるのであれば、憲法は無いに等しいと云わざるを得ません。

 したがって、法律の運用に慎重であることは言うまでもありませんけれども、罪刑法定主義や、法の正当手続きなどの観点から、慎重に吟味しなければならないのであります。

 そこで、以下について法務大臣に質問します。

 第一に、この法案はオウム教団のみが対象とされており、そうであれば、一般法ではなく、オウム教団に限定した特別立法とする措置が必要なのではないでしょうか。そうすることによって、多くの国民が、いつこの一般法によって自分たちの社会的活動が対象とされ制約が加わってくるかわからない不安から解消されるということができます。

そのためにも、オウム教団を把握できる範囲で、過去及び未来についての限定立法にすべきであります。すなわち、オウム教団の犯罪行為が開始された、現在よりもさかのぼること一〇年前からの団体のみを規制の対象とすることにより、過去無制限にさかのぼらせることを制限し、いたずらな不安感も解消できます。さらに施行後五年程度で終結する時限立法とすることにより、オウム教団問題解消後も法律だけが生き残り、一人歩きする危険性を排除することができるのです。それだけでなく、オウム問題を五年以内に解決するという決意を内外に表明するという意味もあります。大臣いかがでしょうか。

 第二に、この法案が国民の基本的人権に直接影響を持つ法律であるが故に、濫用に対し厳格な目を有する司法機関に、要所要所の判断を任せる必要があります。

この法案は、観察処分を受けた団体に対する立入検査を規定し、また、再発防止処分として、対象団体の不動産の使用を禁止するなどの処分を規定しているのですが、このような、権利を制限する処分には、公安審査委員会ではなく裁判所の判断を介在させ、法の厳格適用、人権の保障に配慮した措置をとるべきだと思いますが如何でしょうか。

 第三に、公安調査庁と公安審査委員会による団体規制の仕組みは、平成九年のオウム真理教に対する破防法による規制請求において、十分に機能しませんでした。にもかかわらず、この法案においても、これら二つの組織に、規制の中心的役割を与える理由はいったい何なのでしょうか。また、これらの組織によって、実際にオウム教団に対する実効性のある規制ができるのでしょうか。法務大臣の見解を問うものであります。

 第四に、この法案の第五条第一項第五号は、観察処分の要件の一つとして、「前各号に掲げるもののほか、当該団体に無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認めるに足りる事実があること」と規定し、さらに、第八条第一項第八号は、再発防止処分の要件の一つとして、「前各号に掲げるもののほか、当該団体の無差別大量殺人行為に及ぶ危険性の増大を防止する必要があるとき」と規定しておりますけれども、これらの要件はいずれも曖昧であり、関係当局の恣意による拡大解釈のおそれがあるのではないか。この点について法務大臣の見解を伺います。

 第五に、再発防止処分を試みても、なお団体としての活動を行っている場合、団体に対する解散権を行使することも考えなければ法の目的は貫徹されないと考えますが、この点についてはどのよう考えるのでしょうか。

 最後に、法案第三三条に不服申立の制限の規定があります。すなわち、行政不服審査法に基づく申立ができないようになっており、一方、団体に関しては、その第三四条によって取消訴訟を求めることができることになっております。

 そうなりますと、観察処分や再発防止処分によってプライバシーを侵害された善意の信者や、或いは土地取引を禁止されるなどして取引の安全を具体的に侵害された個人が、その行政処分に対し不服申立する途は、閉ざされていることになります。

 この点について個人の不服申立については、どのようにすればよいのか、その点について法務大臣のお考えをお聞きしたいと思います。

 以上六点、この法案に対していくつかの疑問を呈し、迅速性、実効性、そして限定性を明確にした法律として成立させることを願い、民主党を代表しての私の質問を終わります。

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