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1999/05/07
「食料・農業・農村基本法案」趣旨説明に対する質疑(堀込議員)
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民主党  堀込 征雄

 私は民主党を代表いたしまして、ただいま議題となりました「食料・農業・農村基本法案」について質問いたします。

 本法案を読んでみますと、多面的機能の発揮や食料自給率目標の設定などが盛り込まれ、確かに現行の基本法とは異なる新機軸を打ち出しているように見えます。しかし、全般的に抽象的表現が多く、目標実現に向けた力強さが伝わってきません。また、宣言法であるにもかかわらず基本理念をうたった前文もないため、非常に迫力に欠ける印象も否めません。以下、個別事項について疑問点を伺います。

 まず、本法案の内容について伺う前に、現行の農業基本法を政府がどのように総括しているのか、伺っておきたいと思います。
 ご存知のように昭和36年に制定された現行基本法は、農業生産性の向上と他産業並みの生活水準を目指すべく、いわゆる「選択的拡大」路線を打ち出しました。
 しかし、そこではわが国伝統の食文化の維持や農村社会の発展・継承といった面は全く考慮されず、一方で麦や大豆といった伝統的作物生産からの撤退や、畜産への転換に伴う飼料作物の大量輸入による食料自給率の著しい低下を招き、他方で農村の過疎・高齢化、相次ぐ集落の消滅といったわが国の地域社会の崩壊につながりかねない事態を生み出すにいたっているのです。
 これが現行基本法農政が招いた今日のわが国農業の現状なのです。

 昨年9月の「食料・農業・農村基本問題調査会」の最終報告を見ても、同じく12月の政府「農政大綱」を見ても、現行農基法の総括についてはほとんど全くといってもよいほど言及されておりません。
 これではなし崩し的な方向転換と言われても仕方ありません。新しい法律を制定するに当って、まず今までの法律のどこに欠陥があり、何故、変えなければならないのかを明確にすべきであります。
 今までの法律が、ただ単に現状に合わなくなったために変えるのか、そうではなくて今までの農政が、農業・農村の疲弊をもたらした結果を受けて、つまり現行法の否定的総括の上に立ってこの法案を提出しているのか、総理の見解を伺います。

 次に、これからの農政の改革をどのように考えているのか伺います。この法律案に書かれている食料の安定供給、多面的機能の発揮、農業の持続的発展、農村の振興は、いずれも今日まで取組んできた課題であり、ことさら新しい発想のものではありません。
 むしろ何故こうした課題が解決され、実現されてこなかったのか、そしてそれはどこに原因があったのかを明確にしなければなりません。
 今日、また新しい基本法を作り、大綱やプログラムを決めても決してうまく行くとは思えないのであります。農水省は過去にも平成4年の「新政策」をはじめ、さまざまな政策を打ち出して来た経過があります。しかしそれらはすべて画に描いた餅に終わってきました。
 私はこの原因は、中央集権型・全国画一型農政にあったと思うのであります。戦時の強制的な食糧管理法、戦後の画一的な農地法、あるいは農業会から引き継ぐ団体組織、これらを改革し、思い切った地方主権の生き生きとした農政の転換を行うべき時だと思うのであります。
 言うまでもなく、わが国農業の歴史は、食料の増産そのための農地の開墾や開田の歴史でありました。
 それは稲作文明が伝えられて以来、戦後まで続けられました。昭和40年代になり、わが国で始めて有史以来のコメ余りという事態が発生し今日に至っています。
 開墾や開田による農地面積の拡大や、農業技術の進展などがコメ過剰の事態をもたらしました。
 その間、わが国の為政者は、食糧の増産、農地の開墾に心血を注いでまいりました。とりわけ、江戸時代中期から後期に至る全国規模の開田の歴史は、今日の稲作の原型を作り上げたものと言われています。
 そうした食料増産の体制を、コメ過剰の今日まで何の疑いもなく引き継いでいるのが構造改善事業であります。最近では大規模な道路を作ったり、下水道事業まで行っていますが、これは明らかに時代の変化に対応した行政の姿とは言えないと思うのであります。
 しかも、当初予算だけで農水省予算の実に50%以上 1.7兆円余の予算を消化し、これにウルグアイラウンド対策などの補正を含めると実に膨大な国費がつぎ込まれています。
 この予算を新農政の中で有効に活用するとともに、農業基盤整備や生活基盤整備などの公共事業については、権限と財源を地方に移し、国の行政と関連組織、団体の改革を大胆に進めることが必要だと思うのであります。

 私は、この農業基本法の抜本改正に当っては、戦時から続いてきた中央統制型の画一型農政を総括し、それを転換するという抜本的発想がどうしても必要だと思うのであります。そのために、農水省組識、農業諸団体の思い切った改革と従来の事業の抜本的再検討・見直しが必要だと考えますが、総理の考え方を伺っておきたいと思います。

 次に法案の内容について伺います。
 まず、食料自給率の問題についてであります。昭和35年度当時79%に達していたわが国の自給率も、平成9年段階では41%にまで落ち込んでおります。ここにも現行基本法路線の破綻が数字となって現れているわけです。先進各国の自給率が軒並み70〜80%から100%を超える中で、わが国の数値はあまりにも低いと言わざるをえません。

 「食料・農業・農村基本問題調査会」の議論では、食料自給率を政策目標にすることについては賛否両論があったと伺っております。そのため、今回の法案でもせっかく食料自給率目標の設定を「基本計画」に掲げながら、わざわざ「農業生産及び食料消費に関する指針」だとか、「関係者が取り組むべき課題」というクレジットをつけることで、政府の責任を曖昧にしてしまっているのです。
 これでは、現行の基本法でも行われている「農産物需要及び生産の長期見通し」で示される自給率の指針とどこが違うのか疑わざるをえません。
 食料自給率を政策目標として位置付けた以上、目標達成については断固、政府の責任のもとに実行するとなぜ言い切れないのでしょうか。この点について、農水大臣の見解をお聞かせください。

 次に構造政策に関連して質問いたします。法案では、「効率的かつ安定的な農業経営の育成」に向け基盤整備や規模拡大、専業農業の育成などをあげております。しかし、これらの考え方は従来の構造政策と基本的に同じであり、新鮮味に欠けるものであります。
 これまでも自立経営農家や中核農家の育成が方針化され、平成4年のいわゆる「新政策」では、10年程度のちの農業構造のイメージとして、基幹となる個別経営体を35万〜40万、組識経営体を4〜5万といった具体的な数字を示しましたが、現状ではおおよそ実現可能とは思われません。このような状況を政府はどのように認識しているのでしょうか。

 また、法案では農産物価格を需給事情や品質評価に反映させるとしております。農産物貿易の自由化と農産物の市場価格化が今後ますます進んでゆけば、もっとも大きな影響を受けるのは、これまで国策として規模拡大を進めてきた専業農家であろうと思います。
現状でも、多くの大規模農家は農産物価格の低迷や土地改良負担金などのために経営が圧迫され、離農が相次いでおります。
 このような中で、今以上の市場原理が導入されれば、経営破綻する専業農家が急増することも予想されます。
 法案では、価格の著しい変動の際の影響緩和策について書いておりますが、具体的にはどのような施策を想定しているのでしょうか。農水大臣の考えを伺います。

 次に条件不利地域政策について伺います。これまで中山間地などの条件不利地域に対するデカップリング制度の導入については多くの議論がありました。「基本問題調査会」でも賛否両論であったと伺っております。
 しかし、地域社会の維持や自然環境・景観の保全という視点からも、今後の条件不利地域政策としてデカップリング制度を取り入れるべきであると思います。
 政府も、デカップリング制度の導入に向け、現在、具体的な検討を進めていると伺っておりますが、法案を見ますと「中山間地等において、農業の生産条件に関する不利を補正する」となっております。これは、平地農業との生産費の格差を是正するといった程度のものと読み取れますが、はたしてそのような施策で条件不利地域における持続的な営農活動が可能でしょうか。
 また、中山間地などの条件不利地域の抱える課題はそれこそ地域ごと千差万別であります。それに対し、国が基準を決めて一律的に個人給付を行うというのも、その効果には疑問が残ります。むしろ地域の実情を熟知した自治体が自ら計画を作成し、国はその計画実施のための一括交付金を交付するというスタイルの方が望ましいと思います。
 そして、交付金の給付対象は個人、集落、グループを問わず自治体レベルで判断するようにすれば、より効果的ではないでしょうか。
 条件不利地域のデカップリング制度について、農水大臣は具体的にどのような構想をお持ちか伺います。

 最後にWTO次期農業交渉との関連で伺います。
 WTO交渉は、いよいよ来年から交渉が開始されますが、その前哨戦とも言うべき閣僚会議や事務レヴェルの会議が、相次いで開かれつつあります。特に、5月11、12日に東京で開かれる四極通商会議で、事前交渉が本格化し、11月末にアメリカで開催される第三回WTO閣僚会議で、交渉方式や対象品目が決定されると伺っておりますが、総理は、日米首脳会談で鉄鋼など日米通商問題とは別に、WTO交渉成功のため両国の協力強化を確認した、と報ぜられておりますが具体的に、どのような話合いが行われたか伺っておきたいと思います。
 合わせて、7月末の総理訪中の日程もあるようですが、中国のWTO加盟問題について、どのような方針で、どのように対応するのか、政府の基本的考え方も伺っておきたいと思います。
 また、中川農水大臣も連休中にEU首脳と会談して来られましたが、次期交渉に向けた交渉方式等で一致したのか、具体的な話合いの内容について伺っておきたいと存じます。
  また、WTO交渉については、今更申し上げるまでもありませんが、あくまで自由貿易を推進するルールを確立するための交渉であり、保護主義とは相容れないものであります。
 政府は、アメリカやEUと連携を図りながら次期WTO交渉を成功させ、世界の自由貿易を進めることを基本的立場としておりますが、その一方で、農業分野については、コメの関税化の実行を始め、この法律では農業の多面的機能の発揮や中山間地域などへの直接支払いを準備しております。
 つまり、一方で世界の自由貿易確立のための交渉を行い、一方で競争力のない農業分野については、いかにして緑の政策に政策転換するか、に腐心しておりますが、この法案の内容は極めて抽象的であり、国際交渉の模様眺めをしながら、国内政策をおいおい詰めて行くという、腰の座っていない姿勢に見えて仕方ありません。
 政府のWTO交渉にのぞむ基本姿勢と、各分野と関連しつつ農業交渉にはどのようにのぞむのかを伺い、私の質問を終わります。

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