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1999/03/30
「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律案」に対する代表質問
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民主党 佐藤謙一郎

 私は、民主党を代表して、ただ今議題となりました「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律案」に対して、総理ならびに環境庁長官に質問をさせていただきます。

 私がPRTR制度を知ったのは、今から数年前、インターネットを習い立ての頃でした。インターネットの画面をクリックしていたずらしていた私の目の前に、アメリカ全土の地図が映し出されました。そしてアリゾナ州。アトランダムに選び出した人口わずか2千人の町、その町にある化学工場や事業所でどれだけの化学物質が製造され保管され廃棄されているか一目で見る事ができたのです。そして環境を汚染する物質が大気や水質土壌にどれだけ影響を及ぼしているか何の障害もなく遠く離れた日本の画面に映し出されていたのです。全世界どこからでも情報がだれかれの隔てなく手にできる。どの工場からどんな化学物質がどれだけ排出されているか、ただちに知る事ができる。その情報をもとに住民、自治体、国、事業者、NGOのリスクコミュニケーションが可能になる。私はその時、さわやかな興奮を覚えたものでした。

 元々PRTR制度は、今から25年前、オランダで企業が有害化学物質について、自主報告を始めたのがスタートでした。その後、1986年にアメリカで発展し、EPCRAによって規定された住民の知る権利を確保するTRI制度として、導入されました。英国、カナダ、オランダ、フランス、韓国があとにつづいたのです。さらに1992年のリオサミット、アジェンダ21を経て、翌1993年国連からの要請を受けたOECDが取り組みを開始しました。このOECDで、PRTR制度は次のように定義されました。「様々な排出源から環境中に排出または移動される潜在的に有害な汚染物質を登録する制度」と。その後 1996年OECDは、国民各層が情報を共有してリスク削減を行なうとした公開原則を柱に、各国にもっとも適した形で、導入が図られるべきとの理事会勧告を発表し、1999 年す なわち今年の2月までに、加盟各国に導入状況を報告すべきとの認識を示しました。

 このようにPRTR制度はまぎれもなく、環境における情報公開法といった趣の法律制度なのです。私はこのたびの法案を一瞥して唖然としました。行政の欺まんと思い上がりに満ち満ちていたからです。まさに通産省主導のこの法案は、我々国民の健康と安全を犠牲にしても企業秘密を守ろうとするおよそ世界の流れに逆行する古典的なものだったからです。PRTR後発国にかかわらず、最も世界で遅れた内容になりさがっていたのです。

 私が最初の疑念を感じたのは昨年末、通産省がこの問題を既存の法律「化学物質の審査及び製造などの規制に関する法律」いわゆる化審法の一部改正でお茶を濁そうとしたときでした。国と企業が情報を管理し、国民や自治体への情報は二の次にする。行政が常に企業の側に立って、不都合なものは官僚の裁量によって非開示にする、隠そうとするのは、行政の今までの体質をして分かりますが、それを拒絶否定するのが、政治の役割ではないでしょうか。総理にまず問います。情報は誰のものかということです。

 昨年9月、東京で行なわれたOECD国際会議でも、住民の知る権利の構築が強調されました。果たしてこのPRTR制度が、企業の側の管理対策として作られるのか、国民と生態系の安全、健康、環境対策として作られるのか。どちらなのかを問いたい。

 次にこの法案が、OECDの勧告や原則をいかに無視しているかを中心に論を進めたいと思います。まず法案制定過程の不透明さです。
 OECDの勧告によれば、PRTRシステムを構築する際、その実施や運営のみならず、構築の段階、それも全過程で、透明かつ客観的であるべきであるとされております。ところが本法案は、極めて不透明な省庁間交渉を通じて、策定されていきました。

 政府は審議会で国民の意見を聞き、透明性を確保したと答えるでしょうが、昨年11月に中央環境審議会が中間答申をとりまとめた以降は、閣議決定されるまで、まったく非公開の状態でした。総理はこの法案策定過程がOECDの勧告通り、全過程において透明かつ客観的であると考えておられますか。

 私は不透明極まりないと思うのですが、少しでも透明性を確保するために、昨年11月から法案が閣議決定に至るまでの過程を、今からでもすべて公開するべきであると考えますがいかがでしょうか、明確にお答えください。さらに、この法案について、各省庁間で覚書が交わされているのでしょうか。もし覚書のようなものがあるのであれば、速やかに公開するべきであると考えますがいかがでしょうか、総理の明確な答弁を求めます。

 また、OECDの原則では、目標・目的の必要性を最もよく満足するメカニズムについて、関係・関連団体と合意するべきであるとされています。利害関係者とは、産業界、地方自治体、市民団体、政府が保有する設備などの関係者等を指すわけですが、今回の法案作成の際に、利害関係者と合意がなされたという認識をお持ちでしょうか。この点についても審議会でとりまとめが行われたことをもって合意がなされたと言い逃れるつもりなのでしょうが、その後の市民団体等のコメントを見る限り、それは通用しません。

 たとえば、広範かつ各方面で活動中の市民や市民団体から構成されているPRTR市民会議は「国会はこのような案は廃案」とすべきだとまでコメントしております。また、地方自治体職員の労働組合である自治労も、「いくつかの問題点を指摘し、意見反映に努めてきました。しかしながら、内容的にはそれらがほとんど盛り込まれていない」とのコメントを発表しています。それでももし合意したというのであれば、いつ、どの利害関係者と、どのような合意を得たのか具体的にお答えください。また、私が指摘をさせていただいた市民や労働組合の声についてどのように 考えておられるのか、併せてお答えください。

 次に情報公開のシステムについての疑問であります。この法案では、有料による請求開示方式となっているのですが、OECDの原則によれば、PRTRの結果を、すべての関係・関連団体が適切な時期に、かつ定期的に入手できるようにすべきであるとされています。情報を公開し、社会的モニタリングに任せる、すなわち、より多くの市民がそれぞれ情報をチェックしあうことが、PRTR制度の意義であり、それをしなければ、単に報告義務というコストだけを企業に負わせ、実益を生まない制度になりかねません。

 OECDのガイダンスマニュアルによれば、「PRTRの結果を全ての閲覧者に入手・利用可能にし、かつ、入手にかかる費用を全ての人が払える額にすること」とされており、この点に配慮しない制度ではPRTR制度の目的を達成できません。請求の煩雑さやコストをどのように考えているのか、特に全対象事業者のデータを請求した場合に、そのコストはどの程度になると予想されるのか、明確にお答えください。

 ちなみに、請求ベースで有料化をはからずインターネットでも入手可能なアメリカでは連邦政府で800万ドル等、データベースでひとりあたり、0.03ドルから0.07ドルと極めて安価な数字がでているのです。

 次にOECDの原則によれば、「すべてのPRTRシステムは、実施途中の評価を可能にし、必要性の変化に応じて関係・関連団体による変更が可能な柔軟性を持つべきである。」とされているにもかかわらず、本法案の検討条項は、ほとんどすべての法案に便宜的に置かれている検討条項と全く同じであり、実施途中の評価や変更への柔軟性が感じられないという疑問であります。OECDがわざわざ原則として指摘している以上、法案の中で評価や柔軟な対応についての規定を設けるべきであると考えますが、なぜ特別な規定をおいていないのか、明確に答弁いただきたいと思います。

 総理に対する最後の質問は、あいもかわらぬ縦割り行政への弊害、すな わち業所管官省庁が規制官庁となることのおかしさについてであります。化学物質の排出量等の届け出先も業所管大臣、企業秘密に該当するかどうかの判定も業所管大臣が行うこととなっています。
 業所管省庁がいかに都合の悪いことを隠蔽するか、その実例をひとつだけ指摘します。現在、ダイオキシン類による環境汚染が問題となっており、特に廃棄物焼却施設からの排出が全国各地で深刻さを増しています。民主党も、ダイオキシン類汚染対策緊急措置法を提案し、住民参加と情報公開によって一日も早く住民の健康と安全が確保されるよう努力しているところですが、日本におけるダイオキシン類環境放出量の大部分がPCPやCNPといった水田除草剤であることも近年明らかになりました。

 横浜国立大学環境科学研究センターの益永氏の研究によれば、1955年から95年までのPCPとCNPによるダイオキシン類環境放出量は、全体の実に75パーセント程度を占めると推測されております。実に、都市ゴミ焼却や産業廃棄物焼却の5倍です。しかも94年までは、CNPに毒性のあるダイオキシンは含まれていないといういうことで製造され、水田に散布され続けていました。これも業所管庁と規制官庁が同じであることから起こった悲劇です。このような過去の過ちを反省することなくお手盛り行政を続ける理由は何なのでしょうか。

 欧米先進国におけるPRTR・化学物質の対策管理は、環境所管省庁が一元的に行うのが常識であると思われますが、それでは何が問題なのか、明確にお答えいただきたい。

 次に環境庁長官に数点に渡ってお伺いします。

 環境庁が行なったPRTRパイロット事業から得た成果がこの法案では全く活かされていない点です。パイロット事業は、新しい制度をスムーズに導入すべく全国に諡・ッて愛知県と神奈川県で1800企業を対象に行なったOECD勧告に基づく事業です。多くの事業所がこれら自治体に様々な問い合わせをしたと聞きます。それに対し、自治体がきめ細かな指導や助言などを行なった結果、ある程度の報告を得ることができたというものです。

 この事実から、化学物質についての知識や技術が乏しい非製造業や中小製造業者等については、適切なPRTRの報告の仕方や有害化学物質管理ができるよう配慮が必要であると思われます。国がデータを集めてもきめ細かな指導ができず、報告される数値の正確性が担保されない危険性があります。そうなれば、せっかくの法律が、単に業所管庁が権限を広げ、大企業だけが環境配慮をしたというPRTRならぬ、大企業PRに終わり、制度そのものの意味が失われてしまう可能性が高いと考えられます。

 環境庁のパイロット事業では、排出情報の報告先は各県市の長とされており、地方自治体の重要性が認識されたと思われますが、どうして今回の法案では、提出先は国となったのでしょうか。パイロット事業で、地方自治体を提出先にして何か不都合があったのでしょうか。不都合があったのであれば、具体的にそれを示してください。また、このような報告先の変更を行うことは、パイロット事業を実施した神奈川県や愛知県などの自治体に対して大変失礼であると思いますがいかがでしょうか。環境庁長官の明確な答弁を求めます。

 さらに、パイロット事業の評価結果においては、「生殖毒性」には「内分泌撹乱作用」も加えて検討することが適当であるとされております。科学的知見が明らかになってからでは手後れであり、この法律は登録した化学物質を規制するための法律ではないのですから、登録をしておいて、人体や生態系に影響がないと分かった時点で登録からはずすことができるわけでありますから、積極的にできるだけ多くの物質を入れ込んでいくべきだと思いますが、環境庁長官いかがでしょうか。

 またオゾン層破壊物質は対象に含めておきながら、温室効果ガスを対象から除外するなど恣意的とも思われる除外が行なわれようとしているのは何故なのか合わせてお伺いいたします。
 さらに、PRTR制度は、データの正確さが命。それが担保されなければ意味がないにも関わらず、中小事業所等への助言、指導、悪質な者への勧告、立ち入りなどを行う権限の規定がないので、報告しなかったり、誤った報告が行われても何も対処できないという指摘が、専門家からなされております。これでは、虚偽報告に対する罰則が設けられていても、虚偽かどうかを確かめることができないのではないでしょうか。報告主体が提出した数値が正確であるかどうかをどう確認しようとしているのか、お答えをいただきたいと思います。

 さらに、農薬や自動車の排ガスなど「非点源」での化学物質の排出量や移動量は、行政が推計をすることになっておりますが、推計に必要な情報を関係業界や所管官庁が提供する義務が明記されておりません。これでは信頼できる推計を行うことができず、制度そのものの意味が失われてしまう可能性があると考えられますが、どのようにして数値の正確性を担保しようとしているのかお答えください。

 このようにOECDの勧告原則を無視し、環境庁が行なったパイロット事業の貴重な成果を無駄にした今回の法案はPRTR制度と呼ぶのも恥ずかしい内容であり、今後の審議を通じてさらなる問題点を浮き彫りにしていきたいと思います。

 日本は70年代の公害国会で汚染への規制を厳しくし、環境技術を磨きました。我々は今公害国会を「環境国会」として再起させ、21世紀にふさわしい法律群を整備していく必要があります。企業と市民がリスクを共有しそのために地域から一緒に立ち上がる時代。そんな時代にふさわしい市民の側に立ったPRTR 制度を党内論議を経てPRTR制度実現に向けて、党内・各党との議論を深めていく事をここにお約束して私の質問を終わります。

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