民主党・新緑風会 小宮山 洋子
私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました「児童手当法の一部 を改正する法律案」について、厚生大臣ならびに大蔵大臣に伺います。
(少子化のとらえ方)
法律案の内容に入る前に、「少子化」のとらえ方と国の役割について伺いたいと思い ます。平成元年の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)が 1.57と、それまでの最低であった、ひのえ午の年の1.58を下回った頃から 、「少子化」ということがいわれるようになりました。現在は、合計特殊出生率は 1.38と史上最低になり、このままですと、高齢社会のピークには、4人に1人では なく、3人に1人が65才以上の高齢者になると予想されています。政府としては「少子 化」は困ったことだから何とかしなくてはということで対策を打ち出してこられている のではないかと思いますが、「少子化」をどうとらえ、国の役割については、どのよう にお考えなのか、厚生大臣に伺います。
(人口政策ではなく、もちたい人がもてるように)
この法律案の趣旨として、「総合的な少子化対策を推進する一環として〜」とあります。また、「少子化に歯止めをかける」ということも、よくいわれます。こうした考え方から、国のために女は子どもを産むべきだといった、人口政策の対象として女性をみていると受け取る人も少なからずいます。1994年にカイロで行われた国際人口開発会議で、日本も合意している、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、(生涯を通した女性の健康/権利)を守ることが、人口問題への望ましい対応であるということ。すなわち、もちたい人がもちたい数の子どもを安心して産み育てられるようにすること、あくま で女性は人口政策の対象ではなく、自己決定する主体であるという基本的な理解に欠け た政策が、バラマキ的に打ち出されていることが、少子化にますます拍車をかけること につながっているのではないかと思いますが、
厚生大臣は、どのようにお考えでしょう か。
(政府の改正案の内容について)
さて、児童手当法改正案の内容ですが、高齢者への対応に偏りすぎている政策を、子どもにも対応したものにしていこうということであれば、その点は評価できるという見方もあります。しかし、この改正案の内容は、多くの問題点を含んでいると言わざるを得ません。
まず、今回の見直しは「当分の間」の措置とされています。(当時の)与党3党の合意では、「児童手当制度を少子化対策の柱として位置づけ、平成13年を目途として、支 給対象と年令及び支給額の充実を含めた制度全体の抜本的な見直しを合意する。」とさ れているため、「当分の間」となったのでしょうが、なぜ、来年度抜本的な見直しをす るのに、このような中途半端な改正を行おうとしているのか。また、来年度の抜本的見 直しとの関係の明確な答弁もあわせて、厚生大臣に求めます。
そもそも、「児童手当」のあり方をしっかり議論せずに、その場かぎりの増額を行うことが、おかしいのです。児童手当法の第一条には、「児童を養育している者に手当を 支給することにより、家庭における生活の安定や、次代を担う児童の健全育成及び資質 向上に資すること」が目的とされています。実際には、月5000円で、「家庭における生 活の安定」や「児童の健全育成、資質の向上に資する」とは考えられません。なぜ、ど のような目的で「児童手当」を支給するのか、どのような効果が期待できるのか、広く 国民の声を聞きながら、根本の議論が必要なのに、そうしたことが行われていません 。与党の間でもつっこんだ議論はされていないように聞いていますが、厚生大臣の見解をお聞かせください。
(支給対象年齢について)
次に、支給の範囲を、小学校入学前に拡大する点について伺います。当初、公明党が出された案では16歳未満となっていました。児童手当が子育てに伴う経済的負担を軽減するためであるならば、教育費などの負担のある学校に通っている子どもをもつ家庭にも支給する必要があるのではないかと考えます。ヨーロッパの各国でも16歳未満、18歳未満が多くなっています。なぜ支給対象が6歳までなのか、厚生大臣に答弁を 求めます。
(手当額の水準)
この改正案では、児童手当の支給額は、現在と同じ、第1子・第2子については月 5千円、第3子以降は月1万円となっています。この額は、例えば第1子を比較しても 、イギリスの1万2千円余り、ドイツの1万6千円余り、スウェーデンの1万900円 などに比べて低い額です。先程の、児童手当の目的、そして各国との比較などから、厚 生大臣は、日本のこの額でよいとお考えなのか伺います。
(所得制限)
次に、所得制限について伺います。ヨーロッパの国々では、子どもを平等に扱うという観点から所得制限はありません。また、後程伺いますが、今回の財源を年少扶・BR> {控除を引き下げることで賄うことなどを考え合わせると、所得制限を設けるのはおかしいとも考えられます。所得制限について、設ける理由、またその水準について厚生大臣の考え方をお聞かせください。
この政府案では、新たに支給が拡大される部分の給付財源は、すべて公費負担になっ ています。公費で賄うとすれば、公平に給付されるべきです。サラリーマン世帯と自営 業者世帯とで所得制限額が、なぜ異なるのでしょうか。サラリーマン世帯が年収 670万円であるのに、自営業者世帯は432万5千円で、所得制限に237万5千円 もの差があります。なぜこのような差が生まれるのか、厚生大臣、理由を説明してくだ さい。
(事業主負担のあり方について)
現在の児童手当の費用負担は、サラリーマンの場合は、事業主が全体の7割を負担し 、残りを国と地方が2対1の割合で負担しています。自営業者の場合は、国が3分の 2、地方が3分の1を負担し、公務員の場合は、国(所属庁)と地方が全額負担しています。今回の見直しで新たに給付される3歳から6歳については、すべて公費で賄うこととされています。事業主の負担について、どのような考え方に基づいて現在行われているのか、また見直し分についてはどうなのか、考え方を伺います。
(扶養控除の見直しについて)
さて、今回の児童手当の見直しにあたって、政府は、その財源として、16歳未満の扶養親族の年少扶養控除を10万円引き下げる税制改革を予定しています。この年少扶養控除は、昨年度の税制改革で、「子育て減税」と銘打って10万円増額したばかりです。たった1年前に、政府は、児童手当の増額ではなく、年少扶養控除の増額を選択しているのです。それを1年後の今回、10万円引き下げて元に戻す、全く一貫性がないではありませんか。「子育て支援」として、税の控除でするのか、手当の給付でするのか、基本的な理念が全くないとしかいえません。今回の政策転換について、大蔵大臣から明確にお答えください。
しかも、6歳から16歳までの子どもがいる世帯や3歳未満の子どもをもつ世帯にとっては、今回の見直し案では、実質増税になります。子育てを支援するために経済的負担を軽減するということが、児童手当の目的であることからすると、このような多くの世帯で増税になる制度変更は、非常に問題だと考えます。こうした点についての大蔵大臣のご見解と、増税になる家庭に、どの様に説明されるのか伺います。
(扶養控除と手当について)
子育て支援のために、扶養控除と手当の給付のどちらが有効かという点ですが、扶養 控除は、収入が課税最低限以下の低所得者には恩恵がなく、また税額控除ではなく所得 控除であるために、収入が高いほど有利な制度になっています。複雑になりすぎている 控除を廃止して、手当を支給することは、合理的で公平な政策だと考えますが、大蔵大 臣の考え方をお聞かせください。
(あるべき子育て支援とは)
「児童手当」を拡充することは、あくまで子育て支援のひとつの柱にすぎません。今 、申し上げた税の扶養控除か児童手当のような手当でするのかを含めて、子育てをする 家庭で何を望んでいるのか、広く意見を聞き、議論する必要があると考えます。ある調 査によると若い女性の9割は子どもがほしいと考えているのに、官僚の皆さんが机上で 考えているから、出生率が下がり続けることになるのではないでしょうか。
総理府の世論調査では、子育てのために必要な施策として、労働時間の短縮、育児休業制度の充実などを挙げる人が多く、児童手当などの経済的支援を求める声は、むしろ 少ない結果がでています。子育て支援の総合的なビジョン、施策がまずあって、それでは児童手当はどうするのかと考えるのが順序だと思いますが、この点について、厚生大臣の見解を伺います。
昨年、男女共同参画社会基本法が成立しましたが、日本では家事・育児・介護の9割 は女性が担っています。また、報酬を得る有償労働と家庭内での無償労働の割合が、日 本の男性は15対1と各国に比べて、家族とのかかわりが極端に少なくなっています 。女性も男性も能力をいかして働きながら、家族と向きあえる、そういう労働環境を整えること。必要なときに男女ともに安心してとれる育児休業制度、多様なニーズに応えられる保育サービス、子どもがもてる広さの住宅、個性が大切にされる教育など、もちたい人が安心して子どもを産み育てることができるためには、総合的な制度、しくみを作り、意識を変えていくことが必要です。
当事者である若い人たちや、子どもをもちながら働いている女性、専業主婦の女性 、産まない決断をしている女性など様々な考え方の女性、そして男性の声をもしっかり きいて、総合的なビジョンを作ることが必要だと考えますが、重ねて厚生大臣に伺いま す。
今回の改正について、中央児童福祉審議会の答申には、「今後、少子化対策としての 効果、税制など他の施策との関連、財源のあり方などを含め、少子化対策全体の推進を 計っていく中で、十分な検討をすべきである。なお、一部委員より諮問に到るまでの経 緯及び財源のあり方も含めた児童手当のあり方について充分な検討がなされたとは言い がたいことから反対であるとの意見があった」と述べられています。
また、社会保障制度審議会の答申でも、「児童手当の給付及び財源に関する根本的な 検討が不十分なこと、今回の改正案における、税負担と給付の配分の変化に問題が残る こと等を考慮すれば、当面の措置であるとしても問題なしとしない。今後、少子化対策の体系的な検討の中で、児童手当の具体的なあり方について、雇用、賃金、税制等との関連にも留意しつつ、速やかに検討を行うべきである。」としています。この2つの審議会の指摘に、どのように応えていくのか、政府の見解を最後に伺います。
児童手当は子育て支援のひとつの柱にすぎません。全体のビジョンがない上に、財源などについて朝令暮改のバラマキとしかいえない、問題の多い今回の改正案は、あまりに無責任であることを申し上げて、私の質問を終わります
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