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1999/03/23
「司法制度改革審議会設置法案」に対する質問(枝野議員)
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第145回通常国会 衆議院本会議
民 主 党 枝野幸男

 私は、ただいま議題となりました、司法制度改革審議会設置法案について、民主党を代表して質問をいたします。

 現在の司法制度は、残念ながら、国民の期待に十分に応えているとは言えません。薬害エイズの裁判に象徴されるように、裁判があまりにも長くかかりすぎることや、費用がどのくらい必要なのかが分からないために弁護士の敷居が高いことなどに加えて、「裁判所は行政に甘い」という認識から泣き寝入りをするケースも少なくなく、紛争解決という司法の役割のうち、実際に機能しているのは、ごく一部にすぎません。結果的に、「法の支配」という近代国家の大原則は、有名無実になりつつあります。

 司法が、その役割を十分に果たしていくためには、そのシステムを、抜本的に改革する必要があると考えます。


 しかしながら、今回の法律案は、目的において賛同できるものの、その内容には、強い疑問を感じざるを得ません。


 その最大の疑問は、内閣に、司法制度改革について、いかなる権限が与えられているのか、という点です。本審議会は、内閣に設置され、内閣に対して、司法改革に関する調査審議の結果に基づいた意見陳述をすることになっています。これは、内閣が、司法改革に関する権限を有していることを、当然の前提としています。

 もちろん、本法案第二条が、司法制度改革と並べて調査審議事項としている「基盤の整備に関する必要な基本的施策」の多くは、行政の権限に含まれると思われます。しかし、司法制度そのものについて、内閣にいかなる権限があるのか、私には、はなはだ疑問です。

 そもそも司法制度は、憲法及び法律によって規定され、その範囲内で最高裁判所規則の制定権が認められています。もちろん、内閣には、国会に法律案を提出する権限があるとされていますが、その権限が司法制度に及ぶと考えて良いのか、私には、大いなる疑問があるのです。

 ご存じのとおり、憲法には、内閣の法律案提出権に関する規定はありません。憲法72条には、「議案」の提出についての規定がありますが、ここでいう「議案」については、予算や条約という、他に規定のあるものに限定して解釈することも可能です。

 それにも関わらず、解釈上、法律案提出権が認められているのは、内閣が憲法及び法律を執行する過程において、何らかの法制上の不都合を感じた場合に、その不都合を解消するべく、みずから法律案を提出することを認めなければならない、という実質的な根拠があるからに他なりません。すなわち、憲法73条に規定する内閣の職務に関連した内容であるからこそ、みずから法律案の提出をすることが認められる、と解釈すべきであります。

 みずから司法制度を担当している裁判所は、その制度に不都合を感じたとしても、法律案提出権は認められません。それなのに、直接には担当をしていない内閣に、法律案提出権を認めるというのは、はなはだアンバランスです。

 しかも、内閣は、みずからの行政権の行使について、裁判所の司法審査に服する立場にあります。司法によって裁かれる立場にありながら、公権力の一つとして、その制度を変えるように提案する権限を持つというのは、原則としてアンフェアーではないでしょうか。いわば、まな板の上の鯉が、まな板や包丁を変えろという権限を持つようなものです。

 権力分立原則の中で、内閣が司法に対して及ぼしうる権限は、憲法に明確に規定のある部分、つまり、判事等の任命権に限定されると解釈すべきであり、司法制度については、国権の最高機関であり、唯一の立法機関である国会こそが、立法という作業を通じて、行政とは無関係に責任を持つと考えるべきであります。本法案の善し悪し以前に、司法制度に関する法令案の作成という所掌事務を規定した法務省設置法等も、違憲の疑いがあるのではないでしょうか。

 そこで、総理に対し、内閣が国会に対する法律案提出権を有していることの、「実質的」な根拠は何か、具体的にお答えいただきたいと思います。また、内閣が、憲法上の規定もない中で、司法制度に関する法令案作成に関する事項を所掌事務に含めているのは、権力分立原則に違反し、憲法65条の逸脱であり、憲法41条の侵害ではないかと考えますが、総理のご見解を伺います。


 そもそも、司法改革が求められている最大の理由の一つは、裁判所が行政に隷属しているかのごとき、疑いが持たれていることにあります。

 行政を被告とする案件において、その違法又は違憲を認めるケースは、たいへん少ないのが実状です。しかも、いわゆる裁判官と検察官や法務官僚との人事交流によって、行政機関の側で行政訴訟に関わった訟務検事や、行政そのものを担ってきた法務官僚が、裁判官に姿を変えて、国勝訴の判決を下すことも、少なくありません。

 法曹一元が実現せず、在野の弁護士を経験した裁判官の数が圧倒的に少ない中で、行政側を経験した裁判官だけが増えているという現状では、裁判所としての公平らしさが疑われても仕方ありません。

また、裁判所が、内閣、より端的に言えば、大蔵当局の顔色をうかがうことなく対応してきたならば、少なくとも、予算・人員の点では、改革を要する部分の多くが解決されているはずです。

 本来、裁判所予算は、内閣の意向に反してでも、独自の要求額を国会に示し、その判断を仰ぐことができる制度になっています。ところがこの制度は、は事実上利用されたことがなく、常に、裁判所の予算要求は、内閣との事前折衝の中で、自粛させられてきています。また、内閣の行っている公務員の定員削減5カ年計画等に、なぜか、おつきあいをしている裁判所の姿は、まさに、司法の行政への隷属を象徴しています。最高裁判所は、行政府がどのような計画を立てようと、独立して、必要な人員増を求め、不要な人員を削減すれば良いのです。

 そこで、憲法上の問題を別としても、こうした状況の中で、内閣が司法改革を担当することは、司法の独立に対する信頼をますます低下させるとはお考えにならないか、総理の見解をお尋ねします。

 また、審議会設置の前に、内閣独自でもできること、すなわち、裁判官を訟務検事や法務官僚として登用しないこと、裁判所の予算要求について、必要以上の介入をしないこと、さらに、内閣の公務員定員削減計画につきあわせるようなことはしないこと、などを、まずは、隗より始めるべきと考えますが、総理は、いかがお考えでしょうか。


 私は、内閣が、司法の客体、一利用者という立場で発言することについて、否定するものではありません。例えば、日本弁護士会連合会や経済団体連合会などは、司法制度を利用する立場から、様々な提言をしています。内閣であれ、準公的機関であれ、民間機関であれ、裁判所を利用する立場としては対等ですから、これら機関と横並びで、一定の発言をすることは、むしろ妥当なことです。

 この場合、あくまでも、司法の一利用者としての内閣の見解を示すだけですから、法律で審議機関を設け、そのメンバーも国会同意人事にするなどして、変に権威づけるということは、まったく不必要なことです。内閣内部の任意的な機関で、独自に調査審議し、その結果を見解として公にすれば足りることです。

 本法案を撤回し、あくまでも、司法の一利用者というゆるやかな立場からの検討に止めるべきと考えますが、総理の見解を求めます。また、総理は、一方で、行政改革の一環として審議会の大幅削減を進めていますが、そうした中で、あえて、法律に基づく審議会を、時限的とはいえ設置することが、整合性を欠くことになるとはお考えにならないのか、お尋ねいたします。


 最初に提起しましたとおり、司法改革の必要性は、私もまったく同感であります。しかし、本法律案にも、また、その提案理由の説明にも、具体的に、何がどう問題だから、改革が必要であるのかは、示されていません。

 私は、現在の司法が、これまで述べてきているように、行政に隷属しているかのごとき印象を与えていることに、最大の問題があると考えます。改革を議論するのであるならば、いわゆる法曹一元や、陪審制度・参審制度の導入などによって、裁判官の官僚化を抑止し、司法への市民参加を促進することを、第一のテーマとするのが当然ではないでしょうか。

 また、第二の問題としては、裁判所及び司法研修所のキャパシティーの不足を取り上げる必要があります。裁判が長期化をしている原因は、裁判官や弁護士等の数が不足していることにありますが、この背景には、司法予算の不足という問題が横たわっています。

 最近も、司法試験合格者を大幅に増加させる際に、研修期間の大幅短縮を同時に実施しました。司法修習に予算を確保できないから、人員を増やす代わりに機関を短縮したと言われても、反論できないと考えます。数が足りないからといって、質を低下させてもかまわないということにはなりません。司法予算を十分に確保し、裁判所や司法研修所の定員を、質の低下をもたらすことなく実現する必要があります。

 そこで、総理に、具体的に、どのような観点から司法改革が必要であると考え、本法律案を提案したのかをお尋ねします。とくに、今指摘をいたしました二つの視点、二つのテーマについて、総理の見解をお示し下さい。

 なお、審議会の検討に委ねるなどという、ごまかしの答弁でお逃げにならないようお願いいたします。司法改革が必要であるとおっしゃる以上、その具体的な根拠や視点が存在するはずであり、そうした根拠を示せないならば、改革が必要であるという主張そのものが、空虚なものとなります。


 次に、審議会の運営について、お尋ねいたします。

 これまで指摘してきましたとおり、内閣に審議会を置くこと自体に、疑義がある以上、そのメンバーの選任や、議論の情報公開、事務局体制などで、いやくしも、行政による司法への干渉ととられないような配慮が必要です。

 具体的には、審議会委員の国会同意手続きに際しては、委員候補者から参考人として意見聴取した上で手続きを進めること、審議会の会議は、議事録を完全公開するとともに、傍聴を可能にすること、事務局には、官僚以外の幅広い人材を登用するとともに、いやしくも、事務局が議論を誘導したと疑われることのないよう十分配慮すること、などが必要と考えます。総理のこうした点に関する見解をお尋ねします。


 司法制度の改革は、我々立法府の責務であります。その責務を怠ってきたことを反省しつつ、今こそ、議会において、司法改革の議論を活発化させる必要がある、と考えます。関係機関や専門家、市民などの幅広い意見を、システマチックに聴取する機関を設け、内閣ではなく、議会の主導する市民の立場からの司法改革を進めるよう、提言して、質問を終わります。  

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