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1998/08/25
不動産権利関係調整法案等5法案についての質問
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民主党  仙谷 由人

 私は、民主党を代表し、金融安定化関連6法案のうち、不動産権利関係調整法案(以下単に「権利調整法」と言います)等5法案について、総理並びに関係大臣に質問いたします。
 小渕総理、柳沢国土庁長官、中村法務大臣、宮沢大蔵大臣、あなた方は、何をしようとしているのですか。
私は、この権利調整法の法案を一見したときに、その提案の真意を図りかねました。
明治憲法により成立させた近代国家の仕組みのなかで、大津事件以降まがりなりにも維持し来った「司法の独立」をないがしろにしかねない一大事を、なぜにしでかそうとしているのか。極めて一般的な社会的病理現象である担保付消費貸借契約にもとづく債権の回収にかかわる紛争の解決機能を裁判所からもぎとって、行政の権限内にとりこもうとしているのか。このような司法の独立、つまり司法権の及ぶ範囲を犯すことによって喪うものはあまりも大きく、国家の背骨というべきものを、打ち砕いてしまうことになるとの危惧を禁じ得なかったのであります。
 しかし、さる8月21日に発表された、日本長期信用銀行(以下単に「長銀」と言います)の住友信託銀行との合併に向けた経営改善策と、これを受けた総理及び大蔵大臣、金融監督庁長官の各談話を拝見して、ようやくその恥知らずな企図を感得したのであります。
 すなわち、長銀救済のスキームは、長銀は株主の責任(負担)を殆ど問うことなく、日本リース、日本ランディック、NEDに有する債権計5200億円を放棄し、あるいは、他の債務者に対する分を含め、合計7500億円を引当償却するなどと、国民にとっても、あたかもいいことであるかにうたい、これを受けて政府は、相当部分担保権で担保されたこの債権の放棄を税の世界でも不良債権償却として認めたうえ、加えて5000億円を超え、1兆円にも達する国民の税金を資本注入名目で与える支援をするなどと言明したことで、この法案の本質を理解したからであります。
 総理、そもそも長銀の日本リース、日本ランディック、NEDへの貸付金債権は、98年3月期決算では、何分類の債権であったのですか。
 約定利息は長銀に対し支払われていたのでしょうか。
 長銀はこれらの債権回収につき、従来いかなる努力をしていたのでしょうか。
 大蔵大臣、この7500億円の債権償却を当然のことのように税務会計上も損金算入を認めるのでしょうか、またその受け手である日本リース等については、債務免除益の発生を認定するつもりはありますか。
 結局、長銀の改善策は、政府との結託によって、国民の税金を資本注入という口実のもとに貰い受けるという裏付けを得て、バブルの陶酔(ユーフォリア)のなかで、自らの代役として踊らせた系列ノンバンクに溜まった不良債務の支払いを免除するものであります。
 長銀改善策の発表によって、国民の税金投入という裏打ちのもと、権利調整委員会の「調停(仲裁)」というお墨付きを得れば、銀行・債務者・株主も何の咎めも受けず、銀行は税を減免され、債務者は銀行からの借金を支払わなくてもいいという制度、換言すれば借金棒引きと税の減免にお墨付きを与える機関が創設されることが明らかとなったのです。
 そこで、質問いたします。
 総理、このような特典を受け得る債務者は何らかの資格が必要でしょうか。
 つまり、自然人であろうと、法人であろうと制限はないのでしょうか。
 その借り手が、サラリーマンであろうと、個人営業者であろうと、株式会社であろうと有限会社であろうと差別はされないのでしょうか。資本金額の別、ゼネコンであろうと、ノンバンクであろうと、不動産業であろうとその業種にも関係なく適用されるのでしょうか。
 残債務の額の大小、借金をした原因や、調停までに完済をしなかった理由にも無関係に、この法律は適用されるのでしょうか。
 もし仮に、右の質問のすべてにイエスとお答えになるのであれば、債務者にとってはこんないい制度はありません。
 まずは、阪神淡路大震災という天災によって、住宅ローンの残った家屋やマンションが壊れた方々の残債務の免除を一斉に行うべきであります。
 次にはバブルの渦中に住宅ローンを借りて、このデフレの中で、弁済に苦しむ多くのサラリーマンの残債務をすべて免除する調停に、銀行等が応ずるべき旨の施策を直ちに行うべきだと考えますが、いかがでしょうか。明確な答弁をいただきたい。
 政府が、サラリーマンや、阪神淡路大震災の被害者については、この法律は適用されないというのであれば、その規定及び適用において差別を定め、かつ行うものであって、憲法第14条に違反すること明らかであると思料いたしますが、総理のお考えをうかがいます。
 ごく常識的に考えますと、銀行から借金をしている人の債務(不動産担保ローンに限っても)全部を免除することによって発生する事態は、想像するだに恐ろしいことであります。
 まず、銀行業は成り立ちません。
 国民の税金を銀行に投入するとすれば、財政は完全に破綻します。
 債権放棄(債務免除)の対象となる債権と、対象外のものをどこで一線を引いて分別することができるのでしょうか。
 結局のところ、貸し手側である銀行が、申請された債務免除の調停に応ずるか否か、いかなる金額につき債務免除をするか、銀行の恣意もしくは調停委員や権利調整委員会事務局の強制や資本注入というエサをぶらさげての裁量に委ねる外ありません。
 銀行がバブル期に得意先に慫慂し、共犯者としてすすめた不動産や株式やゴルフ会員権、あるいは絵画の購入のための融資の相当部分を銀行の好みでカットするということになりましょう。
 極めてアービタリーな(恣意的裁量にみちた)制度というべきです。
 バブルに踊った者たちが、何らの社会的制裁を受けず、特別利益を得、科を受けるいわれのない国民がこの補てんを強いられるということなど許されないという常識を放擲するおつもりですか。総理に見解をおうかがいいたします。
 そして何よりも憂慮すべきことは、主としてゼネコン、ノンバンク、不動産業を対象にして債権放棄をするということが予測される訳でありますが、これらの人たちが借りたものでも返さなくてもよい、返済に窮々としなくてハッピーに生きていける、経営者としてその地位を追われることもなく、出資者(株主)の出資金も毀損されることもない、こんな世界を作っていいのでしょうか。
 借りたものは返すということはコモンセンスではないでしょうか。
 これは、近代契約法の成立を待つまでもなく、日本においても貨幣に出現とともに確立した社会生活上初歩的な規範です。
 総理、この権利調整法が行おうとするものが、日本人と日本の経済社会の倫理と精神を、そしてこんな初歩的なコモンセンスさえも投げ捨て、何でもありの社会を作ることになるとはお考えになりませんか。見解をお示しいただきたい。
 総理が裁判所の調停や債権回収機能につき、その処理のスピードに懸念を抱いているとするならば、時限を限ってでも、予算上の配慮を十二分に行ったうえで、各地方ならびに簡易裁判所に、特別部の開設や担当職員の増員等の措置をすることこそ急務だと考えますが、いかがでしょうか。
 この権利調整委員会の守備範囲は、あまりにも一般的な担保付金銭消費貸借という法律関係上の紛争を取り扱うというものにすぎず、すでに述べたところから明らかなように、このような制度を創り、運用することによって、国家の背骨をぐちゃぐちゃに砕き、加えて、日本人のモラルハザードを蔓延させ、それは日本の将来に極めて大きな禍根を残すと深刻に憂えます。
 総理、このような司法権の独立を犯し、人に対する差別的そのもので、二重の憲法違反である法案、そして施行するや日本中をモラルハザードの大波に巻き込むこと疑いのない、この法案を直ちに撤回されるよう要求します。
 次に、保岡興治君ほか3名提出の「債権管理回収業に関する特別措置法案」について質問いたします。
 国家公安委員長にお聞きいたします。
 関西地方を中心に取立屋、整理屋が多く存在することはご存知でしょうか。いわゆる「私的整理」のうち相当のパーセンテージがこの者たちに仕切られていることを知らないはずはありますまい。そして、この者たちが、暴力団構成員や準構成員であったり、「企業舎弟」と呼ばれたり、この者たちがすでに大きな資金量を有していることをご存知だろうと思います。
 債権会社、いわゆるサービサーが、暴力団等の悪質な取立を行わないようにするためには、弁護士を役員にするだけでは不十分であると考えます。サービサーが、新たな暴力団や総会屋の資金源となる可能性についてどのようにお考えでしょうか。
 以上をもちまして、金融5法案に関します私の質問を終わらせていただきます。

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