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1998/05/21
感染症予防・医療法案などに対する代表質問
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衆議院議員 家西 悟

 ただ今、上程されました法律案につきまして、民主党を代表し、総理ならびに厚生大臣に質問いたします。

 伝染病予防法が制定されて以来、101年の歳月が経過を致しました。伝染病予防法は、抗生物質など積極的な治療手段がない時代に、患者を隔離することによって感染防止と社会防衛をはかろうとしたものであります。医学の進歩や衛生水準の向上など感染症を取り巻く状況が大きく変化した今日においては、すでに応えることが出来ないものとなりました。
 また一方、エイズ予防法は、多くの血友病患者や市民団体がその制定に反対していたにも関わらず、いわゆるエイズパニックの中で強行に策定されました。私達の思いとは全く逆の法律として施行されました。当時の厚生省の担当者は、「この法律は患者さんの為になる法律です。」と説明していました。しかし、私たちは、この法律は差別や偏見を生む法律だという懸念をもっていました。現実にはHIV・AIDSの差別を引き起こした大きな要因にな  り、患者団体からはこの間、法律の廃止もしくは医療・福祉を保障する法体系への転換が強く求められてきました。
 また性病予防法においても、多くの差別的条項が含まれており、患者のケアーという視点を欠いているなどの問題をかかえております。そこで、これら三法が、今日においては機能しえなくなった現状をどのようにとらえ、法案を制定されようとしているのか、まず、総理に質問いたします。

 私自身、血友病患者であり、輸入血液製剤によりHIV、B型、C型肝炎に感染しており、身をもってこの国の貧困な医療実態と今日まで闘ってきた一人として、すこし話をさせていただきます。
 歯科診療を受けたくて大学病院から紹介された歯科医院において診療拒否に会った経験もあります。また仲間の中には通院は許されるが、入院は断られたり、外来で点滴をしていると枕元で「エイズの人間が来たら困る」と医療就事者にいわれるなど、いわれなき差別と偏見の中で、満足な医療もほどこされることなく、亡くなっていき、その上、死亡診断書には別の病名が記載され、ひっそりと葬儀を済ませ、人目を避け、暮らしてきた家族たちの気持ちを知っていただきたい。
 こうした医療忌避は、実際に行われてきた事実です。いかに医療法において「良質かつ適切な医療」を提供する医師の責務が明記されていようとも、現場においては、その内実が伴っていないと言っても決して言い過ぎではありません。
 社会防衛と称して患者を強制隔離し、患者・家族の尊厳を踏みにじってきた「らい予防法」が二年前廃止されました。その際、ハンセン病患者やその家族に多くの苦しみを与えてきたことについて、当時の政府が陳謝の念と深い反省の意を表したことは、記憶に新しいところです。
 今まで重篤な感染症の患者に対しては、人権尊重のウエートが多少軽くなっても危険性回避を優先的に考えなければならないという発想が先行してきましたが、結果として偏見や差別を助長してきたことも事実であります。そして、本法案によってエイズ予防法は、廃止されようとしていますが、これからの感染症予防・医療法においてはライ予防法、エイズ予防法のようなことがあってはならないと思います。
 過去に対する反省があってこそ、新たなものが生まれるものだと考えます。

 HIVに関して具体的に言うと、1983年の段階でウイルスは同定され1985年には検査もできるようになり、感染源は血液、体液、母乳によって感染すると知られていたにも関わらず、まるで空気感染や、接触感染するかのように言われ、1988年エイズ予防法は制定されました。
 こういった事実を踏まえ、エイズ予防法の制定は、現在でも適切であったと考えているのか、端的にご答弁いただきたいと思います。そして、私たちHIV感染者の気持ちを知っていただきたい。感染の拡大を一番おそれているのは、当事者である私たちです。自分たちのような思いを二度と繰り返していけないのです。ただ単に、エイズ予防法が廃止になるというだけでは、私たちは納得がいきません。
 先に申し上げたように、差別・偏見の中、無念の死をとげた多くのAIDS患者、現在苦難の闘病生活を続けている患者に対し、総理から反省と謝罪の言葉を述べていただきたいと思います。その上で、その旨を法文に明記することを強く求めるものであります。
 以上の点にについて、総理の明確な答弁を求めます。

 次に、厚生大臣にお伺いいたします。

 先に報告された公衆衛生審議会の意見と法案の齟齬について質問いたします。上程された本法律案には、らい予防法やエイズ予防法の制定に対する、過去についての反省が全くみられません。また「良質かつ適切な医療を提供する」という医師の責務について、審議会の基本的方向性が全く抜け落ちております。医療法に明記されているから必要ないなどということは、私の経験からは全く言えないと思います。
 これらの答申が示した精神を意図的に削除したのか、厚生大臣にお伺い致します。

 また、政府は、「良質かつ適切な医療」とは一体何であると考えておられるのでしょうか。例えば私ども、HIV感染者は内科治療のみならず、口腔外科、眼科、皮膚科等、多岐にわたる治療を必要としています。それと、患者の精神的ケアーも必要であります。それは、他の感染症の患者も同じことが言えると思います。
 医療体制の整備について、具体的にどのようにお考えになっているのかを、明らかにしていただきたいと思います。(厚生大臣)

 次に、患者の権利とインフォームド・コンセントに関してお伺いいたします。

 条文中、入院勧告に際して、地方公共団体の職員が厚生省令で定める事項を書面で通知することとされていますが、これは医師が行うインフォームド・コンセントとは、全く別のものだと思います。
 また、新感染症の診断に際して、医師に都道府県知事に対する届出義務を課しておりますが、肝心な患者本人に対しては、個人の情報を管理する権利を明記しておりません。
  HIVのことで言えば、告知されなかった為に、配偶者に感染させてしまい、告知しなかった医師に対して「一言、本当のことを言ってくれたならば、配偶者への感染は防げたのに。」と亡くなるまで言い続けた患者がいたことを知っていただきたい。
 丁寧な説明と説得、そして同意に基づいた治療が求められる時代において、この法律は、はなはだ適切さを欠いていると言わざるを得ません。
 医師の責務と患者の知る権利について、厚生大臣はどうお考えになっているのか、ご答弁をお願いたします。

次に、新感染症と指定感染症についてお伺いいたします。

 まず新感染症について、厚生大臣の権限が明確でなく、発生した地域により知事の判断が、まちまちになる可能性が大いに考えられます。
 強制入院を伴う措置であり、一歩間違えば患者の権利侵害にもなりかねない問題ですので、国の責任を明らかにすべきと考えますが、いかがでしょうか。
 また、参議院での審議において、「感染力が弱い疾病」を新感染症にすることはないと答弁されていますが、条文においては全く明確ではありません。
 HIVの様な病気が新感染症にはあたらないと確信できるかどうか、ご答弁をお願いいたします。
 一方、指定感染症については、公衆衛生審議会の意見では、全く触れられていない概念でしたが、本法律案で唐突にこの要件を出されたことはどのような理由に基づくものか、納得のいくご答弁をお願いいたします。

 最後に「法の適正手続」という観点から見解をお伺いいたします。

 憲法は、何人にも、法定手続きを保障しており、それが感染症の患者であることを理由に例外とされたり、人権をないがしろにされることは許されません。
 入院勧告や強制入院の措置に対する不服申し立ての制度について、正当な第三者機関へ審査請求できず、手続保障が全く不充分であることに対してどうお考えになるでしょうか。
 また、感染症協議会の位置づけも不明確なところがみられます。憲法が国民に保障する権利を満たしていると厚生大臣は考えておられるでしょうか。国民のいのちと健康を守るということは、患者を隔離し、社会防衛を貫ぬくことではありません。
 WHOからも「人権とコミュニティーの利益とは対立しない。人権の保護と公衆衛生の目標は対立するものでなく、お互いに補完するものである」とのメッセージが発せられております。
 このことについて厚生大臣はどのように受けとめておられるかお伺いいたします。

 どうか、私達、感染症患者の気持を理解していただきたいし、私達の声に耳を傾けていただきたい。私達も社会の一員として社会の中で共に暮らせるような法律に制定されることを願います。
 以上、本法律案の主な問題点を当事者である私の目線から指摘をさせていただきました。明快な答弁を求めて、私の質問を終わります。

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