民主党税制調査会
会長 峰崎直樹
1.04年度税制改正にあたっての基本的な考え方
(1)総論
「構造改革」を掲げた小泉政権が成立してから、既に2年半余を経過しているが、かけ声ばかりが繰り返されるばかりで、実際には改革は全く進展しない。
昨年の税制改革では、小泉総理自ら「税制の抜本改革」を叫び、シャウプ勧告以来の大改正と大見得を切ったものの、現実には将来への展望、具体的な改革の進展もなく、理念の整理さえできずに、景気低迷の中での大衆増税のオンパレードとなった。
今回の税制改正では、「年金改革」「三位一体改革」と、わが国の将来の方向性に大きな影響を及ぼす具体的な課題があるにもかかわらず、これらに対する明確な政治決断、将来像の明示がないままに、既得権益に汲々とした数合わせだけが、繰り返されている。その結果が税制にしわ寄せされ、従来にも増していびつな税制になる懸念が高まっている。財政状況が極めて厳しい中、今後税制における政策対応が重視されようとしているにもかかわらず、政治決断の先送りによって将来の税制まで束縛してしまうことは、今後の政策推進に極めて重大な弊害をもたらすものと考える。このままでは税制の大原則である「公平・中立・簡素」から乖離し、その結果税制にとって最も重要な国民からの信頼が失われかねない。今必要なのは、わが国の将来像を国民に示し、それに即した税制を構築するための改革のステップを国民に示すことである。
(2)主要課題
1. 年金改革
民主党は先の総選挙において、年金制度の抜本改革を訴え、その中で将来的に消費税によって最低限の年金額を保証する案を提示した。さらなる高齢化が進展する中で、税制と年金は表裏一体であり、年金の制度論抜きの税制論議は意味が無いと考えるからである。
一方、政府の年金制度改革案及び関連する税制改正案は、現行制度維持を前提とした給付と負担の数合わせに終わっている。国庫負担率の引き上げにおいても、単なる財政の穴埋めで公的年金控除の縮小や老年者控除の廃止を提案しているが、これは全体から見れば引き上げ所要財源には全く過少であり、年金受給者から見れば安易なしわ寄せでしかない。
民主党は年金の出口課税は必要であると考える。しかし、将来にわたって安定した年金制度へ改革する、その際には基礎的な生活を支える最低限の年金額は税で保証し高齢者の生活はきちんと守る、という理念に基づいた制度改革を行うことが不可欠であると考える。
なお確定拠出年金の拠出限度額ついては、自助努力を促進するとの観点から、引き上げるべきと考える。
2. 地方分権
地方分権、とりわけ国から地方への税源移譲等についても、民主党は先の総選挙において「現行の補助金の原則廃止」「一括交付金制度の創設」「5.5兆円の税源移譲」を明確に主張した。地方分権は今後のわが国のあり方に大きな影響を与えるものであり、また「脱官僚・脱集権・脱腐敗」を実現するために不可欠な手段である。
しかし地方分権においても、数合わせ・先送りの対応しかできていない。
まず「3年間で4兆円の補助金縮減・廃止」「来年度に1兆円の補助金縮減・廃止」という数字の根拠が全く示されていない上に、規模が地方分権を実現するためには極めて過少である。また来年度については、「1兆円の補助金廃止・約4000億円の税源移譲」となったが、これは当初想定された補助金廃止・税源移譲の割合に比べて、税源移譲額がかなり小さいものとなっている。さらに所得譲与税という形で「基幹税の移譲」に着手するとしているが、本来の税源移譲のあり方とはかけ離れており、同時に小規模自治体へのしわ寄せが懸念される。補助金廃止・税源移譲の規模自体が小さいことが問題の本質なのである。
地方分権は、構造改革の柱であり、わが国の将来のあり方に大きな影響を及ぼすものである。これを、わずか1ヶ月で決着させようとしたことが、所得譲与税などの弥縫策を生むことに繋がっている。理念、将来の姿、そしてそこに至るステップを国民に明確に示し、開かれた議論を行うことが不可欠である。
3. 消費税
消費税は将来的にわが国を支える極めて重要な税源であるが、この重要な消費税について、平成15年度改正において何ら議論がないままに「総額表示」が義務づけられた。民主党は、国民生活に多大な影響を与えるにもかかわらず、余りにも唐突な制度改正に反対し、通常国会においては修正案を提出した。
来春からの実施を目前にして、民主党の指摘した問題点が明らかになりつつあり、製造業から小売業まで広範な分野で大きな異論が唱えられている。政府は、この政策意図も不明であり、手続きに大きな瑕疵がある問題について、謙虚に見直すべきである。民主党としては、改めてこの問題を国会に提起することも検討する。
また同時に15年度税制改正において決定された免税点制度、簡易課税制度の適用上限のひき下げによって、多くの中小事業者が多大な事務負担を負うこととなった。この事業者の事務負担増大に対する適切な対応が必要である。
4. 住宅ローン減税制度
99年度改正で最大500万円の減税となった住宅ローン減税制度について、政府は減税規模を維持したまま継続し、その後縮小した上で恒久制度とすることを決定した。この間、住宅政策などの基本的な考え方については全く検討されず、来夏の参議院選挙対策の色彩が色濃い決着となった。
民主党は、住宅ばかりでなく自動車や教育ローンなど、原則としてキャッシュローン以外の債務に係わる利子は所得控除する「ローン利子控除制度」の創設を従来より提唱している。これは企業同様、家計においても利子は経費として認めるべきと言う明確な理念に基づいている。同時に住宅に限ることなく、耐久消費財等広範な消費を活性化し、また今後予想される金利上昇局面にも消費の下支えとしての効果が期待できるものである。
住宅については、より質の高い住宅・快適な居住空間の確保に明確に焦点をあてた政策を税制を含めて推進することが、結果的に経済回復にも好影響をもたらすものと考える。
2.政府与党が検討している2004年度税制改正の個別検討項目について
(1)個人住民税
住民に対する安定的な行政サービスの提供の必要性及び地方財政の危機的な状況等を勘案すれば、個人住民税均等割の引き上げはやむを得ない措置とも考えられるが、一定以上の引き上げを行う場合は適切な低所得者対策が必要であり、また雇用情勢等を勘案し、引き上げにあたっては適切な激変緩和措置が必要と考える。
(2)法人税
○ 不良債権処理関係税制
りそな銀行、足利銀行と続けて繰延税金資産の扱いによって経営が根幹から揺らぎ、ひいては地域経済等に悪影響を及ぼしている。問題の背景には有税償却による繰延税金資産の計上という不透明・不安定な資本があり、この影響を極力小さくするためには不良債権の範囲を拡大し、無税償却を容易化する必要がある。
欠損金繰越控除期間の延長については、不良債権処理の加速に配慮した適用開始年度の設定が必要である。
また不良債権処理促進のみならず、低迷する地域経済、中小企業の状況を考慮し、平成4年度以降凍結されている繰戻還付制度の復活が必要である。
○ 外形標準課税関係
民主党は、いまだ地域経済の回復の兆しが見えない現段階における外形標準課税の実施については、反対する。また地方財政安定化の観点から、地方法人課税のあり方を見直す必要があると考えるが、その際には雇用への影響及び地方消費税との関係を整理する必要がある。
政府案にある関空会社、中部空港会社、JR三島会社等への減免は、民間企業の不公平感を募らせるものであり、仮に支援が必要であるならば他の手法で行うことが適当であると考える。
(3)資産課税
○ 土地税制(流通面)
土地・建物等の譲渡所得の税率引き下げについては、土地取引の動向やキャピタルゲインに係わる税率の一元化の観点から理解し得るが、未だ低落の止まらない地価の動向を勘案すれば、その効果は余り期待できない。
民主党としては、不動産取引等に係る登録免許税の定額手数料化、印紙税の廃止も含めた見直しを行うことが必要と考える。
○ 固定資産税
現在、国民の中にある固定資産税に対する不満は、評価の仕組みが不適切なため、結果的に評価額が国民の感覚と乖離することによる部分が大きいと考える。
固定資産税に対する信頼感を高めるために、固定資産税の評価替えを毎年行うと共に、これに伴う行政事務の繁雑化を軽減するために、地価評価制度の一本化を図る必要がある。また、建物評価についても実勢価格よりも高く評価されがちで国民感覚との乖離が指摘されており、適正化に向けた措置が必要である。
2.民主党の求める2004年度税制改正の課題
(1)所得税関係
○ 財政状況が厳しい中で、真に支援の必要な人に対して適切な支援を行うために、プライバシー保護に配慮しつつ、納税者番号制度の導入を早急に検討する。これは民主党の主張する年金制度の抜本改革にとっても必要不可欠なものであり、税と社会保険料の徴収一元化と併せて早期に実現を図る必要がある。
○ 国民の納税者としての意識を高め、税金の無駄遣いを強力に是正していくために、給与所得者の納税についても確定申告を原則として、年末調整を選択できる制度へと改める。
○ 公平感のある社会へと転換するため、個人所得課税において世帯単位で、高所得者に相対的に有利な「控除主義」から、支援が必要な人への「給付主義」へ転換する。そのため所得課税の各種控除を見直し、それによって生み出される財源を子育て支援策などの社会保障給付への財源とする。
○ 住宅譲渡損失の繰越控除制度の拡充(賃貸住宅住み替え時への適用)、譲渡損失を前年度所得から控除できる繰戻還付制度の創設を図る。
(2)法人税関係
○ 償却期間の短縮、残存価値の見直し等減価償却制度の抜本的見直しを行う。
○ 中小企業の競争力強化と自己資本蓄積による体質強化をはかるため、中小企業に対する同族会社の留保金課税を廃止する。
(3)相続税関係
○ 今後の相続税の制度設計にあたっては、共同で富を形成していた配偶者間の並行移動に係わる控除の拡大や被相続人の介護者に対する配慮や介護保険とのリンクを重視すべきである。
また市民が直接に公益に寄与する社会が形成されつつある中、相続遺産を自治体やNPOなど公益を実現する団体に寄付する際の、大胆かつ使いやすい税の減免制度や寄付者を讃える制度を創設することが必要である。
さらに循環型社会の形成促進、地域の良好な生活環境維持の観点から、里山、雑木林等の身近な緑の相続に対し、利用制限・保全義務を課した上で、相続税・固定資産税の軽減措置を図るべきである。
(4)NPO支援税制
NPO支援税制は、昨年度の改正が行われたが、その効果は不透明である。民主党はパブリックサポートテストの改善、公平・中立な機関による認定などを通じ、全NPOの5割以上が税制優遇適用となるような支援税制を実現し、これを通じて市民が自主的に公益を担う社会を構築していく。
(5)戦略的な教育減税
わが国の最大の財産は「人材」であり、その育成に対する投資こそが最も有効かつ必要な投資である。このような観点に立ち、税制においても基礎的な教育を受ける時期から、社会経験を踏まえてさらに自己研鑽を図る時期までの生涯を通じて、広範にその投資を促進する措置をとる必要がある。
具体的には、子弟の教育ローンの利子を所得控除する恒久制度(再掲)や、国の保証による「二世代教育ローン」の創設及び税制優遇措置を創設する。就職後のリカレント教育を促進するため、現行の勤労学生控除の要件を緩和すると共に、高度な人材育成をさらに進めるために、大学院等(法科大学院を含む)の高度専門教育の学費を本人が負担する場合の税制上の優遇制度を創設する。
(6)環境保全税制・自動車関係諸税減税・道路特定財源廃止
環境保全は既に国際的な政治課題となっており、またわが国の優れた環境を後世代に引き継いでいくことは、現在の世代の責務である。同時に環境技術は、21世紀のわが国産業の国際競争力向上のために不可欠な技術であり、これによってわが国経済の活性化や国際貢献を促進できる戦略分野である。多面的な効用の期待できる環境保全対策、技術開発促進策に対して、税制面において大胆な施策を推進する。
温暖化ガス発生抑止など企業の行う環境保全に対する設備投資や技術開発に対して恒久的減税制度を創設する。
京都議定書の目標達成のため、炭素1トンあたり3000円程度の環境税を導入するとともに、電源開発促進税の現行税率の3分の1程度を環境・エネルギー税に組替える。
これに併せて、揮発油等の道路特定財源を暫定税率部分も含め一般財源化し、また複雑かつ過重な負担となっている自動車関連諸税について、自動車重量税の税率を本則に戻した上で自動車税と統合し、自動車取得税を廃止して消費税との二重課税を解消し、その抜本的な整理統合を図る。
なお今後の道路整備においては、国はその骨格となる道路の維持・補修を中心とし、その他の道路については地方が主体となって整備することとする。地方の道路整備財源については、民主党の地方分権政策に則り、自動車関連諸税の整理統合による減収分も含め、上記一般財源化された税収より確保する。
以上
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