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2000/03/15
衆議院本会議  消費者契約法案に対する本会議質問
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民主党 枝野幸男


 私は、民主党を代表し、ただいま議題となりました、消費者契約法案について質問いたします。

 対等な力関係にある個人間の取引を前提とした明治民法が施行されて、既に百年がすぎ、私たちを取り巻く環境は大きく変化しています。個人とは比較しようのない大規模な企業が、商品やサービス提供の中心となりました。商品流通の過程が複雑するとともに、商品やサービスそのものの性質も、著しく複雑化しています。もはや、商品やサービスについての情報を独占し、流通過程にアクセスできる事業者と、一個人としての消費者とでは、取引の場面に立った時点で、情報力や交渉力において、実質的に大きな格差があることは否定できません。対等な個人間の取引を前提とした明治民法では、実質的な不公正不公平が生じる事態となっています。

 そこで、まず、堺屋経済企画庁長官と臼井法務大臣に、こうした認識に対するご見解をお尋ねします。私は、こうした認識が、今回消費者契約法を作ることになった最大の背景であると考えますが、いかがでしょうか。

 さて、私たち民主党は、こうした基本認識に基づき、すでに昨年12月10日、衆参両院に独自の消費者契約法案を提出しています。以下、この民主党案をご紹介しながら、政府案との違いを中心に質問をいたします。

 まず、法律の目的についてお尋ねします。政府案は、「消費者と事業者との間」に「情報の質及び量並びに交渉力の格差」があることを認めながら、本法律案の目的として、格差の解消そのものを、明確には掲げていません。民主党案は、端的に消費者と事業者が「対等な立場において契約を締結することができるよう」にすることを、目的に掲げています。
 政府においても、格差を認めておられる以上、その格差を是正、解消し、実質的な対等性を確保することに、本法案の目的があることは、否定しないものと推測いたしますが、所管大臣の見解をお尋ねします。

 次に、消費者契約の定義についてお尋ねします。消費者契約に該当するか否かの基準として事業性の有無を掲げていることでは、両案に差異はありません。

 しかし、民主党案が「主として」という文言を置いているのに対し、政府案にはこうした文言がありません。例えば、個人事業者が主に趣味に利用する目的でパソコンを購入した場合でも、部分的に経理処理に利用したり、チラシの作成に利用したりすることも、少なくないでしょう。こうしたケースが、消費者契約に該当しないとすることは、実質的に不合理であると考えますが、政府案ではどうなるのか。所管大臣のご見解を伺います。

 また、従来から、利殖・投資などの資産形成取引が消費者契約となりうるのかどうか、論点の一つとされてきました。政府案では、この点が明確ではありません。個人が住宅資金の形成や老後の生活資金のためなどに、利殖や投資を行うケースも、消費者契約法が適用されるべきと考えますが、本法案ではどうなるのか、所管大臣の見解をお尋ねします。

 次に、政府案第3条第2項に規定する消費者の努力義務についてお尋ねします。
 この規定はいわゆる努力義務ですから、法的トラブルが生じた場合の裁判規範としては、意味がないものと考えます。しかし、消費者団体の皆さんなどから、この規定が濫用されることを憂慮する声があがっています。

 そこで、所管大臣及び法務大臣に、お尋ねします。この規定は、あくまでも努力規定、訓示規定であり、この規定を根拠に、消費者が新たな法的義務を負うものではないと考えますが、いかがでしょうか。特に、裁判における紛争処理の過程において、この条項によって消費者の保護が狭まることがあってはならないと考えますが、両大臣の認識をお伺いします。

 一方、第3条第1項は、事業者による情報提供についても、「努めなければならない」という規定にとどめています。

 そもそも、消費者契約法制定の背景にある情報力の格差という問題を踏まえれば、事業者の情報提供義務は、本法案に法的義務として明記するのが当然であると考えますが、所管大臣のご見解はいかがでしょうか。ちなみに民主党案は、「情報提供義務」という規定の仕方こそしていませんが、情報提供義務違反の行為があった場合に、契約を取り消せることとして、事業者に義務を課しています。

 少なくとも、本条項が規定されたことによって、これまで証券被害判例などで積み上げられてきた、事業者の説明義務に関する法理が否定されるものであったり、後退するものであったりしてはならない、と考えます。所管大臣と法務大臣の見解をお尋ねします。

 次に、政府案第4条の重要事項についてお尋ねします。
 まず、法務大臣と所管大臣の双方にお尋ねします。民法95条に規定する錯誤の要件である「法律行為の要素」と、本法律案第4条第4項の重要事項とでは、どこがどう異なるのでしようか。明確にお答え下さい。

 また、経済企画庁長官にお尋ねします。第4条第3項は、「当該重要事項に関連する事項」という規定を置いていますが、これは何を意味するのでしょうか、具体的にお答え下さい。この規定では、余りにも抽象的過ぎて、いかようにも解釈が可能にならないでしょうか。

 政府案では、非常に限定された「重要事項」に該当しない場合、「重要事項に関連する事項」として第4条第3項の問題となり、事実と異なることを告げても、故意でなければ容認されることになります。しかし、消費者が事業者の故意を立証することは、著しく困難です。そこで、同項の故意の立証責任は、消費者と事業者のいずれにあるのか。もし、消費者にあるとのお答えならば、その立証は本当に可能なのか。所管大臣の具体的な答弁を求めます。

 最近の消費者被害の具体例として、現在使用中の商品に関連して虚偽の事実を告げ、買い替えに追い込むいわゆる点検商法や、代金を福祉目的に役立てると虚偽の事実を告げる福祉商法、あるいは、法令などについて虚偽の事実を告げ、契約を獲得するケースなどが報告されています。民主党案では、こうしたケースを含めて、保護することとしています。これら三つのケースも保護すべき場合が多いのではないか。また、本法案で保護可能であるのか。所管大臣にお尋ねします。

 次に、政府案第4条第3項に関連してお尋ねします。
 まず、同項に規定する不退去等は、刑法の不退去罪や監禁罪に、それぞれ該当する行為に他ならないと考えますが、要件においてどこに違いがあるのでしょうか。所管大臣と法務大臣の見解をお尋ねします。

 また、民法第96条第1項に規定する強迫の要件は、畏怖することと言われています。そして、完全に意思氏の自由を失った場合は、そもそも民法第96条第1項の強迫ではなく、当然無効とされますので、ここでの畏怖は、意思の自由を完全に失うほど強いものではないというのが、最高裁の確定判例です。とすると、ここでいう畏怖と本法案の困惑との違いは、どこにあるのでしょうか。ほとんどの場合、畏怖しているからこそ、強く退去を求めることができずに困惑するというのが、実態ではないでしょうか。所管大臣と法務大臣の見解をお尋ねします。

 結局、本条項に該当するケースのほとんどは、これまでの法令でも対応可能なケースであり、新たに救済可能になる消費者被害は、少ないのではないでしょうか。電話で威圧的に契約を求めるケースや、運勢が悪いなどと不安を募って契約させるケースなど、最近の消費者被害の実例を、経済企画庁長官はご存知でしようか。ご存知だとすると、どのように保護すべきとお考えでしょうか。本条項の適用がどのようなケースまで及ぶのかという問題と合わせてお答え下さい。

 さらに政府案では、「退去すべき旨の意思を示」したか否かという形式的な基準が重視され、消費者のみならず、事業者にとっても使い勝手が悪いものとなっています。これについての所管大臣の見解も、お尋ねします。

 次に、取消権の行使期間についてお尋ねします。民主党案が時効期間を3年としているのに対し、政府案に規定する取消権の行使期間は、わずか6月です。

 トラブルが発生しても、6月くらいの期間は、あっと言う間に経過してしまいます。もし、法的知識に乏しく、経験もない消費者を相手に、6ヶ月間交渉を引き延ばしていれば良いということなれば、より悪質な事業者ほど救われることになり、公平公正とは言えません。
 政府案で言う6月という期間は、どのような意味の期間であるのか。6月以内に、何をしなければならないのか。所管大臣の見解をお伺いします。

 次に、いわゆる不当条項についてお尋ねします。
 政府案第10条が、いわゆる包括的規定を置いたことは、率直に高く評価したいと思います。しかし、第8条と第9条が非常に具体的であるのに対して、第10条はたいへん抽象的で、その中間的な基準が示されていません。民主党案は、いわゆる不当条項一般を抽象的に無効とした上で、その具体的基準を第2項に規定しています。
 民主党案の第9条第2項の各号に規定するケースが、政府案第10条に含まれるのか否か。所管大臣にお尋ねします。

 今回の法制定過程では、真面目な大部分の事業者には、特に新たな義務を課すものではないにもかかわらず、事業者からの過剰反応が存在し、残念ながら、十分な内容となっいません。したがって、今回の法制定をゴールとするのではなく、その運用を見ながら、時代の要請に応じた見直しが必要であると考えます。民主党案では、施行後3年を目途とした見直し規定を設けましたが、政府案にはありません。政府においても、見直し規定を設けるべきと思いますが、所管大臣の見解を伺います。
 また、見直しを要する項目の中で、特に、団体訴権や差止訴訟について伺います。消費者契約の適正化に実効性を持たせるためには、消費者団体などに差止訴訟の団体訴権を認める必要があります。民主党も、消費者_約法にこうした規定を設けるべく検討しましたが、民事訴訟法体系全体に係わる大論点であるため、今回は断念しました。
 私たちとしても、すみやかに検討作業を始める所存ですが、政府においても、消費者契約法制定後直ちに、検討を開始すべきと考えます。法務大臣及び所管大臣の見解をお伺いします。

 最後に、実効性確保の措置についてお尋ねします。
 本法案に、実効性確保のための行政的措置についての規定がないことは、本法案の本質が裁判規範であることを考慮すれば、理由のないことではありません。しかし、消費者契約法が十分に効果を発揮するためには、裁判に至らない段階で、多くの消費者被害が救済される必要がありますし、そもそも、いわゆる悪徳商法を事前に阻止することが必要です。
 こうした観点から、自治体の消費者センターが、財政難などを理由として、縮小傾向にあることは、残念なことです。政府として拡充に向けた手当てが必要だと考えますが、いがでしょうか。
 また、相談や仲裁の役割を担う公益的機関としての弁護士会の役割も重要です。弁護士自治の見地から、政府として介入することは避けるべきと思いますが、要望、希望を表明することは、問題ありません。消費者契約法の実効性を高める上で、弁護士会に期待することがあれば、所管大臣のご意見を承ります。

 民主党としては、自らの案をベストであるとの硬直的な姿勢を採ることなく、的確な指摘には率直に従って修正する意思があります。政府与党においても、数の力を頼んだ硬直的な対応ではなく、民主党案に劣るところがあるならば、きちんと論戦を通じて、より良いものを求める努力を怠るべきではありません。この点に関する政府としての姿勢を所管大臣にお尋ねして、質問を終わります。

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