民主党ネクストキャビネット
NC財務大臣 峰崎 直樹
NC金融担当大臣 五十嵐文彦
NC経済産業大臣 北橋 健治
NC厚生労働大臣 金田 誠一
1. 日本経済の現状認識とマクロ経済政策
米国での同時多発テロをきっかけとして、世界同時不況に陥ることのないよう、対応していく必要があるが、それには、政府・与党が従来とってきたような、公共事業の積み増しはふさわしくない。公共事業の積み増しに効果がないのは、ここ10年を見れば明らかであり、また、巨額の財政赤字を抱えている現状においては、国民の将来不安をさらに煽って、消費の低迷に拍車をかけるおそれがある。やはり、マーケットの信用を取り戻すことと、国民の将来不安を取り除くことが現在の日本経済への唯一の処方箋である。つまり、財政構造改革と経済構造改革、そして不良債権の抜本処理を断行することこそが景気低迷とデフレから脱却する唯一の手段である。
1.日本経済の現状をどう捉えるか
* デフレ、消費低迷、輸出・生産・設備投資減少、高失業率、企業倒産、財政赤字、経常黒字縮小、不良債権問題、貸し渋り・貸しはがし
2.補正予算で打つべき対策は何か
* 従来型公共事業でなく、職業能力開発、リカレント教育など構造改革に繋がる人的投資を重視する。
* 雇用のセーフティネットを整備する。
* ローン利子控除などの負債デフレ対策も検討する。
3.補正予算の規模
* 国債発行30兆円以内という目標ですら、財政構造改革の観点からは不十分であるが、総理自身が言い出したことなので、これを最低限のノルマと民主党は考える。この最低限のノルマすら守れないようでは、構造改革という公約の達成も危ぶまれる。
* 現下の経済情勢を勘案し、未執行の公共事業費や公共事業予備費等を雇用のセーフティネットのための予算に組替える形で、補正予算を組むべきである。
* 金融危機管理に関わる財源が必要となる場合には別枠で考える。
2. 金融政策
政府・与党の経済・金融政策は、政府が市場をコントロールできるという発想に基づいているという点で、明らかに時代にそぐわないものになっている。民主党は、政府が市場をコントロールするのではなく、政府が市場の動きを知り、それにふさわしいマーケット・フレンドリーな経済・金融政策を基本とすべきだと考える。
1.金利政策
ゼロ金利政策は異常な政策であるとの基本認識。当面、ゼロ金利政策を維持するのはやむをえないが、できるだけ早く適正な金利水準に戻すべき。
2.量的緩和及びインフレ・ターゲティング
すでに十分な量的緩和が実施されており、これ以上の量的緩和には慎重な姿勢で臨む。また、インフレに転じた場合コントロール不能になるおそれがあるほか、現実問題としてインフレにすることはできない(その前に国債バブルが崩壊=長期金利が急騰)ことから、インフレ・ターゲティングには反対する。なお、インフレ・ターゲティングに名を借りた調整インフレは容認できない。
3.為替政策
米国での同時多発テロをきっかけとして国際金融危機を招くことのないよう、国際的な協調体制の下、ドル防衛姿勢を示す。
4.金融危機管理のシナリオ
金融のシステミック・リスクが顕在化しているとの認識の下、かつて民主党が提案した金融再生法及び早期健全化法に基づく金融危機管理シナリオを復活させる。具体的には、金融機関に厳格な資産査定と十分な引き当てを課し、債務超過の金融機関については特別公的管理等の破綻処理に移行、存続可能な金融機関については株主・経営者等の責任を明確にした上で公的資本増強を検討する。
5.整理回収機構(RCC)の機能強化
不良債権をRCCに簿価で買い取らせ、将来損失が発生した場合は公的資金で補填するという構想が政府・自民党内で検討中。国家的な不良債権の飛ばしであり、絶対に容認できない。RCCによる不良債権の買い取りについては、買い取り価格の適正さを担保する措置が重要。
6.銀行等保有株式取得機構
2兆円の政府保証枠を付与することについて、株価下落による損失は国民負担となることから、容認できない。
7.中小企業等に対する金融の円滑化
中小企業等に対する金融を情報開示を通じて円滑化するため、金融円滑化法案の成立を図るほか、個人保証の制限について立法措置を検討する。
8.公正な証券市場の確立
間接金融に偏重したわが国金融市場の構造を、直接金融をより重視した構造に変えていくため、証券取引委員会(日本版SEC)を設置し、公正な証券市場を確立する。
9.特殊法人改革と当面の政府系金融機関の役割、郵貯を含めた公的金融のあり方
政府系金融機関の整理・統合は必要だが、民間金融機関の貸し渋り・貸しはがしに対する緊急避難的役割も考慮すべき。
3. 税制改正等
1.証券税制
目先の株価対策のために証券税制の朝令暮改を繰り返すことには反対であるが、中長期的視点に立った証券市場への個人投資家の参入促進、間接金融から直接金融へのシフトという方向に沿った改革は思い切って進めるべきである。何よりも、証券業界や市場自体への国民の不信感の払拭、インサイダー取引など不公正な取引への監視の強化、企業の株主重視の経営姿勢の確立などがまず不可欠であり、その上で、以下のような証券税制の改革を進めるべきである。
* 株式譲渡益課税における源泉分離課税の廃止と申告分離課税への一本化を前倒しですみやかに行う。現行の選択制のもとでのさらなる優遇税制の導入には反対する。
* 申告分離課税一本化とあわせて、100万円の特別控除制度は廃止し、譲渡損失の繰越控除制度を創設するとともに、税率を現行の26%から20%以下に引き下げる。
* 納税者番号制度の導入を急ぎ、将来的には総合課税を基本としつつも、利子・配当・株式譲渡益など金融関連の所得については、総合課税と申告分離課税の選択制とする。
* 配当二重課税の調整について完全調整方式の導入について、米国やEUなど諸外国の動向もふまえつつ是非を検討する。
* 以上の証券税制の整備とあわせて、生損保控除については個人年金に限定し、老人マル優については段階的に廃止するなど、これまでの貯蓄優遇策を思い切って見直す。
2.住宅ローン対策等(資産・負債デフレ対策)
(1) ローン利子控除
個人消費の拡大策として、住宅・耐久消費財取得、教育費等のローンに係る利子を所得控除する制度を創設する(既存の住宅取得促進税制は廃止する)。
(2) 住宅譲渡損失繰越控除制度の拡充
買い替え時に限定している適用要件を緩和し、賃貸住宅への住み替え時にも適用すべきである。
(3) 住宅譲渡損失繰り戻し還付制度の創設
住宅譲渡損失額を前年の所得からも控除する制度を創設すべきである。
(4) 既往住宅ローン利子の引き下げ
政府系金融機関に対する住宅ローン債務のうち、5%超の固定金利となっているものについて、一律5%程度に引き下げる措置を検討する。
(5) 土地流通課税の見直し
土地の売買にかかる登録免許税を定額の手数料に改める。
3.NPO税制の抜本的拡充による雇用創出
通常国会で提出した民主党案に沿ってNPO税制を抜本的に拡充することを通じ、雇用創出効果も期待される。
4. 中小企業・ベンチャー支援対策等
1.雇用創出に資する規制改革の戦略的推進
従来型公共事業に代わって、これからの成長と雇用増が望めるIT(情報通信)、環境・リサイクル、バイオ、福祉、教育文化などの分野で、民間投資を誘発するための戦略的規制改革を優先的に実施する。さらに、ヒトゲノム、イネゲノム、IT、ナノ・テクノロジー、新エネルギーなど先端研究分野への研究開発投資を積極的に支援し、国際競争力を強化する。
2.新規事業・ベンチャー企業への支援
創造的中小企業の円滑な資金調達を促進するため、無担保・無保証融資制度の拡充とともに、間接金融に偏重した金融構造を改め、私募債による資金調達など透明なリスクキャピタルの市場育成に努める。また、新しい雇用の受け皿になるNPOについては、税のみならず、立ち上げに必要な資金の円滑な供給を図る。
新規事業・ベンチャー企業の創業を支援するため、創業5年以内の中小ベンチャー企業について法人課税を免除する。さらに、中小ベンチャー企業に投資する個人投資家を優遇するエンジェル税制、大胆な成功報酬を可能にするストックオプション税制等を拡充する。
政府調達において女性起業家へ一定比率が割り当てられる制度の創設、公的金融機関の融資における「女性起業家優先枠」の創設など、女性起業家育成策を強化する。
3.企業再編・再建への支援
新たな事業の創出を支援するため、連結納税制度の導入により、事業組織の選択に対する税制の中立性を確保し、事業組織の再構築の円滑化を推進する。
企業の過剰債務問題の解決を促進するため、企業の再建計画策定中の融資(DIPファイナンス)の円滑化に向けた方策について検討する。
4.産業基盤技術の強化
先端研究分野への研究開発投資を積極的に支援するなど、産業基盤技術力の強化を図り、国際競争力を回復する。国内のすべての大学にインキュベーション(起業家予備軍育成装置)施設を整備して、広く大学の施設と知識を民間に開放して産学官の連携強化を図る。SBIR(ハイテク技術をもつ中小企業への補助金制度)を質量両面で拡充し、技術で勝負する地域のものづくり製造業を支援する。
5.特許など知的財産権戦略の強化
有用な知的創造活動を支援するための税制支援や補助金制度の拡充、特許審査体制の強化、裁判所の知的財産権処理能力と処理体制の強化、特許開発・流通の活性化を促すための支援策を強化する。
6.中小企業に対する金融を円滑化するための金融システムの再構築
地域に根ざした金融機関が経営者の人物評価、事業内容、企業の計画性や将来性をしっかり評価し、地元の中小企業に積極的な融資を行う、有益な金融機関になるよう環境を整備する。借り手の責任ばかりでなく、貸し手の責任を明確にし、事業者がむやみに貸し渋りに合わないためのセーフティーネットを確立する。中小事業者向けに担保(土地)至上主義を廃止し、個人保証の要らない事業者ローンを実現する。まず政府系金融機関から個人保証を廃止する。
7.下請代金支払遅延等防止法の改正など下請対策の強化
サービス産業への適用拡大、罰則の強化など下請代金支払遅延等防止法の改正に取り組み、下請中小企業が親企業の優越的な地位の濫用による不利益を被らないよう法整備を進める。あわせて下請振興に資する金融対策、構造調整対策などを拡充する。
8.中小企業のIT革命推進への支援
中小企業支援に関するインターネット上の統一画面(ポータルサイト)を構築し、中小企業者が商工会議所や商工会などのインターネットの画面を検索して、国・地方の補助金や政府系金融機関の貸付制度等の申請等が行えるように、環境を整備する。Eコマース(インターネットを通じた商取引)を促進するため、中小企業のシステムづくりなどに関する税制・金融等の支援措置を講じる。
インターネットを通じた職業紹介事業を促進し、人材流動化をさらに促進する。その上で、就職する場としての中小企業の魅力を紹介するホームページやデータベースの構築につとめ、ITを活用して企業と若者・専門家などが連絡を取り合うことを促進し、中小企業に人材が集まるような環境整備を進める。
5. セーフティネットの確立と雇用創出
(注:★=短期的課題、☆=中期的課題)
1.雇用におけるセーフティネットの整備
歴代内閣が次々と打ち出してきた緊急雇用対策は、いずれも雇用状況の根本的な改善に結びついておらず、今後不良債権処理の特別対策が進めば、史上最悪の5.0%の失業率がさらに悪化することが見込まれる。セーフティネットについても、「万が一転職を余儀なくされても再チャレンジできる」という安心感、構造転換につながるキャリア形成のための職業訓練制度の整備が不可欠であり、次のような施策を緊急実施することが必要である(4月に発表済)。
(1) 雇用保険財政安定化のための基金創設★
雇用保険の制度的安定を図るため、2兆円規模の基金を一般財源から創設し、雇用情勢が大幅に悪化した場合、その基金から通常の求職者給付に拠出する。
(2) 職業能力開発支援制度(仮称)の創設★
3年間の時限立法で、雇用保険給付中の非自発的失業者、雇用保険の給付が終了した非自発的失業者および自営業廃業者について、最長2年間まで職業訓練制度の受講を可能とする。
その費用については、民間委託を大幅に増やし、国が認定するものであれば、年間60万円まで国庫から負担、残りの分についても融資制度を整備する。
委託先については、従来の専門学校だけでなく、大学や大学院、研究機関、NPOなどに広げ、労働市場のニーズにあわせた最新かつ実践的な職業訓練コースを充実させる。
雇用保険の給付が終了した非自発的失業者および自営業廃業者がこの教育訓練を受ける場合には、1か月10万円程度の生活支援を行う。
(3) カウンセラー制度等の充実★
現行法の運用により、職業教育、職業紹介とが結びついたカウンセラー制度、起業支援制度の充実を図る。特にキャリアアドバイザーの養成に力を入れ、後述の長期失業者就職実現プログラムとの連携を図る。
(4) 現行の未払賃金立替制度における立替払額の拡充★
(5) 雇用保険をはじめとする社会保険制度の抜本改革☆
契約社員、アルバイト、パート、派遣などの雇用形態が増加しているものの、こうした短時間労働者が雇用保険など各種社会保険に加入できないケースや、加入要件が就業意欲を阻害しかねない要因となっていることなどから、社会保険制度がカバーする労働者の範囲を拡大する。
2.雇用におけるミスマッチの解消に向けた環境整備
(1) 「長期失業者就職実現プログラム」など民間活力を生かした職業紹介機能の充実★
* 特に長期失業者に対するきめ細かいカウンセリング、職業訓練、職業指導、再就職一貫して行うシステム「長期失業者就職実現プログラム」を創設、民間職業紹介所に業務を委託し、再就職に結びつける(職業能力開発支援制度との連携)。
* 特に多数の失業者が見込まれる業種からの転職については、転職可能な職業訓練コースを充実させる。
* キャリアアドバイザーを資格認定し、ミスマッチ解消に向けて専門職を養成する。
* 就職を仲介する民間の職業紹介事業が求職者から手数料を徴収することができる「個人契約型職業紹介サービス」を導入する。
(2) 「雇い入れ助成」の見直し★
緊急雇用創出特別奨励金、新規・成長分野雇用創出特別奨励金など、その活用実績については疑問の声があがっており、民間職業紹介事業を通じた再就職についても助成の対象にすることや、常用雇用だけでなく、非正規雇用に対する助成についても検討するなど、その要件を抜本的に見直す。
(3) 派遣期間の上限規制の緩和について☆
派遣元、派遣先企業、労働者の利便性向上につながる面があることは否定しないが、中高年に対するリストラをはじめ厳しい雇用状況、再就職難の状況等を踏まえると、常用労働者の派遣労働者への置き換えなど、雇用全体の拡大につながらず、かえって雇用の不安定化を招くという懸念を現時点では払拭できないため、拙速な見直しの前倒しは認められない。
(4) 若年者に対する就職支援★
学校での職業訓練の支援およびインターン制度の拡充などをすすめ、若年層の成長産業への流入を積極的に支援する。
(5) 募集・採用における年齢差別の禁止に向けた法整備☆
(6) 雇用創出をした企業に対する「雇い入れ減税」について検討☆
(7) 日本版NVQ(イギリスの職業資格制度)の構築☆
3.雇用創出策
(1) 公的セクターにおける雇用創出★
少子高齢化、地域の安全確保、環境保全など公的サービスに対するニーズが高まっている先導的な分野に限定して、地域の実態に応じ、次のような分野を中心に積極的に進める。
* 学校や繁華街での安全確保のためのパトロール要員の強化
* 小人数教育の実施などのための教員配置の充実改善
* 水源林の保水力等を目的とした間伐、植林事業(民主党提唱の緑のダム構想)
* 環境リサイクルなど環境分野
* 病児保育、延長保育、低年齢児保育、育児アドバイザーなど多様な保育サービスの充実、学童保育への支援拡充
* 技術支援を目的とした海外支援プログラムの充実――など
(2) 緊急地域雇用特別交付金制度の拡充見直し★
最長6か月、更新不可、常用雇用につながらないなどの批判があり、雇用創出効果を十分吟味して有効活用されるよう、雇用期間の延長、2回更新の是非などについて拡充見直しを行う。
(3) 均等待遇確保のための各種施策の充実☆
特に女性労働者の非正規化が急速に進んでおり、正社員との均等待遇確保の視点から、パートや派遣、契約労働者の労働条件整備、職業能力開発支援をする
(4) ワークシェアリングに対する助成☆
「短時間勤務の正社員」など雇用形態の拡充や、サービス残業等時間外労働のあり方を見直し、雇用安定の確保のためのワークシェアリングに対する助成策を検討する。
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