1.地方分権こそ構造改革の本流
民主党のめざす地方分権
民主党は結党以来、「分権連邦型国家」をめざして、地方分権政策に積極的に取り組んできました。先の総選挙及び参議院選挙では「道州制」を掲げ、その後は道州制の実現に向けて、国と地方の役割分担のあり方とそれに基づく税源配分のあり方等を具体的に議論をしてきました。
こうした取り組みは、単に国の権限や財源を、都道府県や市町村に移譲することを最終的な目的として行っているのではありません。地域のことは地域で決める、住民に身近なことは住民自身が参画し、その責任において決めるという「地域主権社会」を創造することが、本来の目的なのです。
自民党にはできない『地方分権』
地方分権は時代の要請であり、安心で活力ある社会を構築するために、不可避な構造改革の一つであると考えています。
しかし自民党では、この地方分権は決して実現できません。なぜなら自民党こそが中央集権型社会をつくり、それによって支えられている政党だからです。自民党は、政策づくりを霞が関に依存し、その代わりに高度成長の果実を地方や既得権益集団に配分することによって、政権基盤を維持してきました。霞が関は利益配分を自民党に任せる代わりに、政策づくりを通じて、自らの権限や財源を肥大化させてきました。既得権益集団は、自民党に票やカネを出す代わりに、補助金や仕事を手にしてきました。この「政官業」のトライアングルにとって、中央集権は非常に都合の良いシステムなのです。高度成長が終わってからも、「政官業」のトライアングルは維持されてきました。その結果、財源が無いにもかかわらず「経済対策」と称して、必要性に疑問のある公共事業を行い、補助金をバラマキました。しかし経済構造が変わった現在ではこのような対策の効果は乏しく、一方で巨額な借金ばかりを抱える羽目になったのです。
中央政府の権限や財源を削る地方分権は、まさに「政官業」のトライアングルを崩壊させることであり、自民党の政権基盤を根底から覆すことですから、自民党政権では決して地方分権が実現することはありません。
2.権限移譲・財源移譲で地域の自立を
権限移譲・財源移譲プラン
民主党はすでに国の権限を縮小し、権限・財源を自治体に移譲していく全体像、具体的な手順を提案しています。
第1段階では、国によって使いみちの決められている補助金などを、地方自治体が自由に使える財源に衣替えします(補助金・負担金の一括交付化)。民主党は、政権獲得後、直ちに国と地方自治体の役割分担を大幅に見直します。例えば、道路なら、1号線から58号線までを国道として、それ以外は地方道とします。そして、これまで3ケタ国道の整備に使っていた補助金は、地方自治体に基本的には使いみちの自由な財源として交付します。
補助金・負担金は、2002年度予算で約17兆円にものぼりますが、その大部分を都道府県、市町村別に事務配分を精査した上で(民主党では専門家を含めて既に具体的な検討を行っています)、交付するのです。配分基準は、さまざまな方法があるでしょうが、税財源抜本改革までの経過措置であること、激変緩和という観点から、過去5年間に個別の自治体に交付された補助金・負担金の平均額とします。財政健全化の観点から、この一括交付金の漸減が必要ですが、一方で各自治体の裁量は大幅に拡大しますから、知恵と工夫次第で、住民サービスは低下するどころか高まっていくことになります。
第2段階では国の税源の一部を地方に移譲します。現在、国と地方の税源配分は3:2となっていますが、この税源移譲によって1:1の配分を実現します。同時に地方交付税を抜本的に見直します。地方交付税の改革には3つの意味があります。1つは地方交付税を根拠に国は様々な仕事を地方に押し付けてきましたが、この機能を廃止する(財源保障機能の廃止)ことによって国は地方に仕事を押し付けることができなくなります。2つは税源移譲によって地方間の財政格差が拡大しますが、この格差をできるだけ調整する制度(財政調整機能の強化)へと改めます。3つは現在の地方交付税が余りにも複雑であり、このことが結果的に地方の地方交付税依存を招いていますので、制度を思いっきり簡素化し、地方の自立を促進します。
税源移譲によって国と地方の税源配分が同等となり、地方交付税改革によって国と地方のお金の関係が透明になります。自治体は自らの責任と財源によって、地域に必要な事業を自主的に選択することが可能となります。
なぜ民主党ならできるのか
通常、この段階で地方分権論議は行く手を阻まれます。なぜなら、国から地方への税源移譲は(どのような税源を移譲するかにより程度の差はありますが)、許容範囲を超える自治体間の財政格差を生み出す可能性が高いからです。
国の財政事情に鑑みて、国から地方への税源移譲は、財政(税収)中立で行われます。つまり、税源移譲により生じる国の減収分は、自治体に対する地方交付税の減少によって補われることになります。このため、移譲によって生まれてくる各自治体間の財政格差を許容範囲内に調整するだけの資金が不足するわけです。
民主党は、自民党と違い、補助金や負担金に関わる権限を自治体や住民に移譲することができますので、第1段階で衣替えした一括交付金をこの際、不足する財政調整資金に加えることで"格差"を許容範囲内にとどめることができるわけです。
このように、分権改革をすすめるポイントは、結局のところ補助金や負担金問題となり、それらの権限を手放すことのできる民主党こそが分権改革の担い手たり得ることになります。
最終的には道州制の導入も検討
第3段階は、道州制の導入です。民主党は、地域のことは地域で決め、国はスリム化することによって、本来の機能を十分に果たすべきだと考えています。この「国のスリム化」を大胆に進めるためには、現在の都道府県より一層しっかりした受け皿が必要だと考え、そのために道州制をめざしています。第1段階の開始から10年程度で道州制に移行することを考えていますが、その道州制のあり方、税財政制度のあり方、役割分担のあり方については、民主党から改めて提案し、国民全体の議論の中で方向性を見極めたいと考えています。
3.3本柱でコミュニティの再生・強化をめざす
「官官分権」で終わらせないために
以上のように、民主党が政権を獲得した際には、大胆に、かつ迅速に国から地方へ権限と財源の移譲を進めていきます。しかしこの移譲が霞が関から地域の役場への「官官分権」で終わってしまっては、地方分権は何ら意味をなしません。この住民に身近な場所に移った権限や財源の使いみちについて、いかに住民の意思を反映させていくか、その決定過程にいかに住民が参画していくかが、最も重要なことです。官の中に閉じこもっていた権限や財源を広く民に開放し、住民が真に必要とする公的サービスを創造すると共に、その内容や提供方法に民の知恵やノウハウを活用することこそが、真に必要な構造改革だと考えます。この反映・参画を実現するために、民主党は以下に掲げる政策の実現に取り組んで行きます。
「住民自治基本法(仮称)」の制定
国民は政治的な権利を国に信託しています。憲法は、国がこの権利を行使するにあたって準ずるべき基本的な原則を定めています。自治体も同様に住民から直接的に政治的権利の信託を受けています。ならば自治体にも憲法に相当する基本的原則が必要だと考えます。
特に自治体は住民に身近な行政サービスの提供を役割としていますので、そのサービスの内容や提供のあり方について住民の意見を反映させていかなければなりません。またこれからの時代では、サービスを住民自身が提供することも多くなると思われます。その意味で自治体は常に住民と共にあることが必要であり、そのためには「知る権利」とこれを確保するための情報公開のあり方、「参加する権利」とこれを確保するための手続きなどの基本原則を定めておくことが必要です。
民主党はこのような考え方に沿って、住民・自治体の権利や義務、住民と自治体の関係、自治体運営の基本原則を明らかにする「住民自治基本条例」の制定義務等を内容とする「住民自治基本法(仮称)」の制定をめざします。
「住民投票法(仮称)」の制定
地方自治においても原則は代議制民主主義ですが、社会の複雑化や住民の多様なニーズの中で包括的な信託を行っているため、時に信託したものとされたものの意思が異なることがあり得ます。意思決定過程における情報公開・住民参加によってこのようなかい離を無くすことが本来の道ですが、様々な理由によってこのかい離を埋められない場合に、住民投票は住民の意思を確認するために非常に重要な政治的手段だと考えられます。また地域住民にとって重大な意思決定を行う場合には、住民投票を行うことで、かえって間接民主主義に対する信頼性が高まることも考えられます。
住民投票については様々な議論がありますが、民主党はこれを間接民主主義を補完する有力な手段であり、代議制と調和するものと積極的に評価します。何より、住民投票によって一人一人がその決定に参画することにより、住民が自らの課題として捉え、議論を行い、そして決定の責任の一端を担うことの意味を重視したいと考えます。
このような考え方から、民主党は住民投票を地域の意思決定に積極的に取り入れるために「住民投票法(仮称)」の制定をめざします。ただし地域の自主的な決定権を侵さないために、法律は基本的な枠組みのみを規定し、実際の課題選択、実施方法等については地方に委ねることとします。
コミュニティの再生・強化
コミュニティの再生・強化の意味は、主として2つあります。
1つは住民自治の一層の推進です。民主党の考える地方分権は、行政間の権限移譲に止まらず、最終的には住民に決定権を移譲し、住民自らが公益を担い、共生していくことをめざしています。そしてこの共生の場となるのがコミュニティです。私たちがめざす新たな社会は、住民は単なる行政サービスの受け手ではなく、自立した市民として行政サービスを自ら企画し、提供する側になる社会です。これを可能とするためには、従来の町内会のイメージを払拭し、自治・自立型の地域コミュニティを構築していくことが不可欠だと考えます。
2つ目の意味は、1つ目の裏返しです。即ち合併などで市町村の規模が拡大する中にあって、きめ細かい行政サービスを自分たちで企画・提供し、また地域的密着性が高く独自の文化・風土を守る単位としてのコミュニティを再生・強化するのです。
具体的には、地域団体として現に活動している地方自治法に基づく町内会、NPO、中間法人等の法的関係を整理し、コミュニティの強化・再生に適合した制度をつくっていきます。
1つには地域が必要とするサービスを、行政に代わって、或いは住民から直接信託を受けて提供できる主体の創設が必要です。現在でもNPOが同様の役割を担っているケースがありますが、その法的な裏付けを強化し、提供できるサービスの範囲の拡大や対価の徴収権、それに応じた情報公開制度の拡充や住民による監視権の創設等が課題になると思われます。
また自治体の中で、限定された地域のみ影響がある政治決定がなされる場合、この決定に対する関与権、拒否権等を有する主体の創設も必要だと考えます。例えば現在の都市計画法では、都市計画を決定する場合でもその地域の住民に拒否権はありません。もちろん意見を述べる権利等はありますが、実際には自ら住む将来の町づくりの姿を、住民が全く知らないままに決定されていることはよくあることです。地域主権型社会を実現するためには、そのようなことをできる限り排除し、可能な限り住民に周知徹底すること、また「地域のことは地域で決める」という基本的な考え方からまずは地域の総体としての意見を集約し、これを政治決定に反映させることが必要です。そのために法的根拠を持った地域主体の創設を検討していきます。
以上に述べた制度は、あくまでも地域の主体的な決定によって活用されるものであり、仮に法整備を行うとしても、これを地域に押し付けるものではありません。地域主権、住民自治を実現する立場から、常に住民と情報のキャッチボールをし、また協動するために提案するものです。また副次的な効果ではありますが、結果的に行政のスリム化を進めることにも寄与するものと思います。
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