1.基本的な考え方
米国に端を発した金融危機は、世界同時不況という異例の事態を招き、また米国一極主義、バブルを誘発する金融偏重主義が持続的なものではないことを明らかにした。国内にも金融危機の影響は及び、何より外需に支えられてきたわが国の経済構造の転換を迫られている。
わが国の20年来の課題である、過度な外需依存型から内需主導型への経済構造の転換が今こそ必要である。そのためには、「家計が自由に使えるお金」すなわち可処分所得の増大を実現するため、大胆な政策を実施しなければならない。税負担や社会保障負担の面で家計を圧迫している税金や社会保険料のムダづかいを一掃することを基本としつつ、時代に合わなくなった税制を改め、生活コストや企業活動のコストを増嵩させている様々な規制や制度を見直すことが必要である。
また、医療、介護、年金などの社会的なセーフティネットを強化し、国民の安心感を高めることによって、貯蓄から消費に回す余力とインセンティブを向上させ、可処分所得の実質的な増大を図ることも急務である。
わが国経済の基盤である中小企業が、金融不安や需要縮小の中で苦況に追い込まれている。中小企業こそがわが国経済の競争力を支え、同時に多くの雇用を支えている。中小企業の活力無くして、わが国経済の活性化はあり得ず、重点的な資源の投入が必要である。
その意味では民主党の「生活第一」の工程表を実行することこそが最高の景気対策でもある。民主党は第1段階の8.4兆円に始まり、4年後には20.5兆円に至る継続的かつ相乗効果の高い内需拡大策を実行し、わが国の経済構造を内需主導型に転換していく。その財源は、現在の特別会計を含む国の総予算を全面的に組み替えることで確保する。バラマキでも、その場しのぎでもない資源配分の大胆な転換で国民生活の安定、経済の活性化を実現して、将来への展望を切り開いていく。
2.民主党の経済対策
(1)家計が自由に使えるお金を増やす
a)子ども1人当たり月額2万6000円の「子ども手当」給付
義務教育終了までの子ども1人当たり2万6000円(年額31.2万円)の子ども手当を給付する。これによって、家計の可処分所得は、現在の「児童手当」との支出差額4.6兆円増加する。
民主党試算では、これによって0.94%の経済効果(政策実施後3年目)が見込まれる。
また、公立高校授業料の無料化及び私立高校通学者に対する助成を実施し、教育に係わる家計の負担を軽減する。
b)農業の戸別所得補償制度の創設
販売農家を対象に、1兆円規模の所得補償制度を創設する。これによって、農家手取り収入が大幅に増加する。
c)中小企業を支援しつつ、最低賃金を引き上げる。
中小企業に適切な財政・金融上の支援をしつつ、3年程度で最低賃金の全国平均1000円を目指す。
d)パート・契約社員を正規社員と均等待遇にする。
「2ヵ月以下の派遣労働」を禁止すると共に、正規・非正規にかかわりなく就労の実態に応じた均等待遇を実現する。
e)フリーターなどの就労を支援する。
安定的な雇用環境にないフリーターなどの就労を促進するため、民間企業等での職業訓練の機会を提供し、必要に応じて訓練期間中に手当(月額3万円程度)を支給する。就労が安定するまでの間は、住宅手当の支給などの支援を行う。
f)地域が自由に使えるお金を増やす。
個別補助金に代え、地方が自由に使える自主財源として一括交付金を交付する。国直轄事業に対する地方の負担金制度を廃止し、地方が自由に使えるお金を増やす。
(2)生活コスト、企業活動コストを引き下げる
a)道路特定財源の暫定税率廃止・減税
道路特定財源の暫定税率(ガソリン税、軽油引取税、自動車重量税、自動車取得税等)を廃止することによって、2.6兆円の国民負担が軽減できる。
民主党試算では、これによって0.53%の経済効果(同上)が見込まれる。
特に移動を車に依存することの多い地方では、生活コスト削減の効果が大きく、地域間格差是正の効果が見込まれる。
b)高速道路の無料化
首都高速、阪神高速などの都市部を除き、高速道路を無料化することによって、2兆円の国民負担が軽減できる。民主党試算では、この負担軽減によって0.41%の経済効果(同上)が見込まれると共に、さらに観光産業や地場産業への効果も期待できる。
c)燃油対策
ガソリン税等の暫定税率の廃止が負担軽減に繋がらない農業用燃油、漁業用燃油のA重油及び軽油について、平成17年9月に緊急対策が講じられたことを踏まえ、現時点の燃油価格を平成17年9月段階の水準まで引き下げるための補てんを実施する。
(3)セーフティネットを強化する
a)年金制度の抜本改革
国民から信頼されていない現在の公的年金制度を、公平で透明な制度へ抜本的に改めると共に、消費税収全額を年金財政に投入し、年金財政の安定化を実現する。年金保険料の流用は禁止する。また年金受給者の税制(公的年金控除、老年者控除)について、H16改正以前の状態に戻す。1年に5.8兆円もの損失を招いている現行の年金積立金の運用体制を抜本的に見直し、安全・確実な運用を行う。
b)後期高齢者医療制度の廃止、医師不足の解消
約1.9兆円の財源を投入し、高齢者医療制度廃止・医師不足解消を実施することによって、国民の医療に対する信頼を高める。国民健康保険における無保険児童をゼロにする。
c)介護労働者の賃金を引き上げ、安心できる介護提供体制を整備する。
介護労働者の賃金を月額2万円程度引き上げる。あわせて、療養型ベッドの削減計画を廃止し、安心して介護を受けられる体制を整備する。
(4)中小企業に重点的な資源投入を行う
a)中小企業の信用保証枠を拡大
「特別信用保証」制度を復活させ、信用枠20兆円を確保する。セーフティネット融資(原油高騰関係)の既往貸付の繰延返済を認めると共にセーフティネット信用保証の対象業種を900業種(創業後3年以上)に拡大する。また政府系金融機関について、中小企業事業主の個人保証を撤廃する。
b)中小企業向け法人税率の軽減
中小企業向け法人税率を、当分の間、半減する。
c)中小企業オーナー課税の廃止
「特殊支配同族会社」の役員給与に対する損金不算入措置は廃止する。
d)公正な競争環境の整備
「中小企業いじめ防止法」を制定し、大企業による不当な値引きや押しつけ販売などを禁止する。官公需法の中小企業向け契約目標比率を10%上乗せする。
その他中小企業の活性化に向けた各種の政策を実行する。
また交際費の損金算入割合の引き上げ、設備投資の即時償却上限の引き上げ・償却期限の弾力化、建物改修費の損金算入範囲の拡大など税制に係わる中小企業支援措置について早急に結論を得る。
3.民主党の金融危機対応
民主党は、リーマン・ブラザース破綻以降に加速する金融不安に対する対応をとりまとめ、その実施を政府に求めてきた。民主党としての考え方は、「民主党の金融危機対応(08.10.15NC決定)」に示しているが、その中でも中小企業に対する金融の円滑化を着実に図る観点から、特に下記の事項について、速やかな実施を政府に求めていく。
(1)金融機能強化法の復活
金融不安の拡大、貸し渋り・貸しはがしの拡大を防ぐために、金融機能強化法の復活は急ぐべきであるが、そのためにも「放漫経営に対する経営責任の明確化」等について適切な取り扱いが必要である。
(2)金融検査マニュアルの見直し
実態に合わない金融検査マニュアルが中小企業の金融の円滑化を妨げていることから、「融資・返済条件変更に伴う区分変更」のあり方など、その必要な見直しを迅速に行い、これを確実に周知する。
(3)金融アセス法の制定
地域への寄与度や中小企業に対する融資条件などの情報公開を金融機関に対して義務づける「金融アセス法(地域金融円滑化法)」を制定し、金融機関の本来の役割に沿った適切な競争を促進する。
(4)サービサーのあり方の見直し
サービサーの債権回収行為が事業再生や生活再建を阻害し、強引な取立が社会問題化している。人権を無視した取立の規制と事業再生の円滑化に向けたサービサーのあり方の見直しを進める。
4.民主党の市場安定化に向けた対応策
(1)企業活動を混乱させる急激な市場変動を抑制する
為替、株価、金利の急激な変動は企業活動に混乱をもたらすことから、これを抑制するための国際的な協調体制を構築すると共に、その枠組みの中で必要に応じて為替介入を検討する。株式の空売りについても、現在の規制の効果や今後の市場動向に注視し、必要であればさらなる空売り規制を検討する。
(2)市場の活力、透明性を向上する
上場商品の多様化、情報開示の徹底など取引所改革を進める。金融商品の透明性を高めるために、CDSなどデリバティブ取引の清算制度を創設する。
(3)企業会計を一時的に見直す
市場の急変動が実体経済や企業収益に反映されることによる混乱を防止するため、時価会計制度を一時的に見直す。特に金融機関保有株式の時価評価について、一時的な凍結を検討する。
(4)国際的な投機規制を積極的に検討する
ヘッジファンド等の投機マネーに対して国際的な規制の枠組みをつくる。金融サミット等21世紀の国際金融の枠組み(新ブレトンウッズ体制)構築に積極的に関与する。日本が諸外国、国際機関等に資金支援を行う場合には、被支援側による円建て債の発行等を推奨する。
以 上
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