2008年12月24日
民主党『次の内閣』閣議
民主党農林水産政策大綱「農山漁村6次産業化ビジョン」〜農林漁業・農山漁村の再生に向けて〜
(目 次)
T 農山漁村6次産業化ビジョン(概要)
U 農山漁村6次産業化ビジョン
〜農林漁業・農山漁村の再生に向けて〜
V 法案の策定と財源の裏付け
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T 民主党農林水産政策大綱「農山漁村6次産業化ビジョン」(概要)〜農林漁業・農山漁村の再生に向けて〜
(1)農林漁業・農山漁村の位置付け
農林漁業は、米、肉、乳製品、野菜、果物や魚介類などの食料や、生糸、麻等の天然繊維、また、建築資材となる木材を国民に供給するなど、国民が生きていく上で必須の衣食住をまかなっている唯一の産業(食料の安全保障等)であるとともに、エネルギー及びプラスチック等の原材料も供給しています。
農林漁業はその展開を通じて、空気・水・土壌の維持保全等、国土や自然環境の保全、水源のかん養、災害の防止といった多面的な機能を発揮し、都市生活者の生命、身体、財産の保全に貢献している唯一の産業でもあります。
また、その農林漁業が営まれている農山漁村においては、日本各地の気候・風土を反映し、集落という地域社会の結びつきを基礎に、家族経営を中心に、集落営農、大規模経営、法人経営等の様々な主体によって、多様な農林漁業を展開しながら、日本の文化・伝統等を育んでいます。
(2) 農林漁業・農山漁村を取り巻く事情と3つの課題
このように、重要な役割を果たし、多様な農林漁業・農山漁村を取り巻く事情をみると、近年大きな変化がみられます。
第一に、地球温暖化や地球規模での資源問題の関係です。
二酸化炭素等の温室効果ガス濃度がこのまま増加し気温の上昇が続いた場合、中長期的には地球環境に著しい悪影響を与え、生物多様性の喪失や食料生産性の低下を招くとともに、今後、飢餓問題が深刻化するのは必至です。
現に起きている現象としては、中国、インド等の力強い経済成長や、石油埋蔵量が充分であっても経済的に利用できなくなる結果生産量がピークを迎える(「オイルピーク」)のではないかとの予測により、石油価格が急激に上昇しています。また、石油代替燃料の原料である穀物の価格高騰も起き、一部の途上国では食料暴動がみられるほか、食料輸出国の中には自国民への供給優先のため輸出規制の強化や輸出禁止を行う国も出てきています。しかも、このような事態は一過性ではなく、相当の期間継続するのではないかと懸念されています。
このような資源価格の高騰は、海外からの石油や飼料穀物に依存し、大規模効率化を優先させてきたこれまでの日本の農林漁業の在り方について、安定的な食料生産、気候の安定化、生物多様性を確保する観点から、抜本的な見直しの必要性を突きつけています。
さらに、海外からの食料調達面で、諸外国に「買い負ける」状況も出てきており、国際分業論の前提条件が成り立たなくなっています。
第二に、食料自給率の低下が続き、食の安全・安心が大きく損なわれていることです。
2007年のミートホープ事件等食品企業による一連の偽装問題に加え、2008年に入ってからの中国産餃子の中毒問題等を契機として、輸入食品をはじめとする食に対する消費者の不安・不信が高まっています。
地球温暖化や資源問題を背景に国民の安全・安心を確保する観点からは、食料自給率向上を含め、「食料安全保障」の確保が国家戦略上の重要課題と位置付けられますが、特に、食の安全・安心を担保していくためには、効率性の観点から構築された大量生産・大量消費の体制、多段階流通を経ることや長距離輸送体制等による「顔」の見えない関係等に大きく依存する体制から、「地産地消」の推進とともに、国産・輸入を問わず、生産から加工・流通、そして、消費に至る一連の「フードチェーン」における食の安全と消費者の信頼を構築していくことが求められています。
第三に、農山漁村が崩壊の危機に瀕していることです。
石油価格や飼料穀物価格等資源価格の高騰は、農林漁業にとってコスト上昇要因となります。欧米諸国等では農林水産物への価格転嫁が一定程度実現していますが、日本では同様に資源価格の高騰がみられるものの農産物・水産物等の食料価格が下落傾向にあります。その結果、農林漁業や関連産業の収益性は著しく悪化し、また、食料自給率の低下傾向に示されるように、農林漁業は衰退の道を歩んでいるといえます。このような農林漁業とその関連産業の危機的状況が続けば、後継者難、離農、離村等が進み、農山漁村の崩壊が懸念され、その期待される役割を発揮することがきわめて厳しい状態にあるといえます。
(3)農山漁村の6次産業化への兆し
こうした厳しい状態にはありますが、@ 例えば米の生産について、従来の主食用一本ヤリの生産から飼料用やバイオ燃料用の超多収品種の導入、有機栽培等の環境保全型農業への取組といった消費者・実需者のニーズに対応した生産への質的転換を図る取組がみられます。
これに加え、A 米の生産出荷だけの狭い意味の農業(「米の生産(1次産業)」)から、米粉や米菓といった「米の加工(2次産業)」や、米をファーマーズマーケット(直売所)で販売したり、消費者に直接宅配便で販売するなど、「米の販売(3次産業)」に主体的に取り組むことを通じて、1次産業・2次産業・3次産業を総合化し、新たに「起業」する取組もみられます。
また、B 農林漁業者と農山漁村地域における他産業の事業者等とがともに手を携え、協同した取組を行い、農林漁業者と2次産業者・3次産業者との融合・連携による「新たな業態」(=ニュービジネス)が創出され、さらには、C 農山漁村という地域が全体として、Bのニュービジネスに取り組んでいく、いわば「農山漁村の6次産業化」への「内発的発展」の兆しがみられます。
このような「農山漁村の6次産業化」への内発的発展は、「東京」と「それ以外」とからなる大規模フレームワーク型関係から、地域の「中心市街地」とそれを取り囲む「農村部」とが有機的に協働する経済圏により形成されるネットワーク型関係に日本社会を転換することを促進します。すなわち、D この一定の広がりのある地域の経済圏において、農山漁村の6次産業化を実現し、地域での「新たな業態」への取組や近隣の地域との「分業」や「連携」等を通じて、付加価値のより多くの部分を東京ではなくその地域に帰属させることが可能となり、いわば「地域自立経済圏(仮称)」が確立されることになるからです。
(4)6次産業化ビジョンの策定と着実な実行−3つの主要対策
民主党は、現下の緊急課題として農林漁業・農山漁村の再生に取り組むこととし、その取り巻く事情の変化等を十分に踏まえ、農山漁村の6次産業化を推進する観点から、「農林漁業・農山漁村再生に向けて〜6次産業化ビジョン〜」を策定し、これを強力に実施していきます。
すなわち、安全で安心な国内産のシェアを拡大する食料自給率向上の目標を設定し、その実現を図るために3つの対策を一体として講じていきます。
第一は、民主党が提案している「戸別所得補償制度」です。これは、意欲のある販売農業者を対象に「所得補償交付金」を交付することによって、自給率の向上を図るものです。農業が無償で国民に提供している多面的機能を根拠にするものですから、やはり多面的機能を果たしている林業、漁業にも同様の制度を導入します。環境保全型農林漁業の推進や加工・販売への取組等の6次産業化を促進する等、農山漁村の活性化の基本条件を確保するものです。
第二に、「品質」、「安全・安心」、「環境適合性」という消費者ニーズに適った生産体制に転換することが重要です。これは、国産農林水産物やこれらを原料とする加工品等の「商品としての差別化」と農林漁業の「事業としての異質化」を確保することになるからです。特に、食の安全・安心の観点から導入する「トレーサビリティ・システム」や「HACCP」、「GAP」といった措置は、こうした「差別化」、「異質化」の実現にも役立ちます。いずれにしても「品質」、「安全・安心」、「環境適合性」という消費者ニーズに適う生産体制への転換は、食の安全・安心の確保や地球温暖化への対応に加え、食料自給率向上の確保にもつながります。
第三に、意欲のある農林漁家をはじめ、地域の多様な事業者等が、バイオマス事業を含めた新たな起業やニュービジネスに取り組めるよう支援措置を講じ、農山漁村の6次産業化を実現することです。このような農山漁村の6次産業化は、付加価値のより多くの部分を農山漁村地域に帰属させ、農林漁業の再活性化と農山漁村の再生を実現することにつながり、安全・安心な食の供給と食料自給率向上を確実にするだけでなく、化石燃料の消費削減、温室効果ガスの吸収源としての役割の発揮、再生可能エネルギーの供給といった側面で、地球温暖化問題に大きく貢献することが期待できます。
以上の対策を推進する際留意すべきことは、まず、農林漁業は地域毎の気象条件、土壌条件等自然条件に大きく左右されるものであることから、適地適作を基本として、地域条件に配慮した政策を構築することが重要であることです。
また、農林漁業と農山漁村とは前述のように相互に密接な関係にあること、家族経営、集落営農、法人経営等多様な主体の中には、与えられた条件の下で、大規模効率化を目指すものもいれば、規模が小さくても加工や販売にも取り組むこと等により特色のある経営を展開しようとするものもいるということを十分に理解することです。民主党は、規模拡大や効率化、あるいは集落営農化を否定するものではなく、むしろ推進します。しかし、それらに限定することは間違いです。一定規模以上の「大規模効率経営」や、経理を一元化し法人化を前提とする「集落営農」が唯一の正しい道であるかのように、政府が一つの経営タイプを押しつけることがあってはならず、現場の主体的判断を尊重して多様な努力・取組を支援することが重要なのです。
民主党は、以上の基本的な考えのもと、日本の農林漁業・農山漁村の再生に取り組んでまいります。
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U 民主党農林水産政策大綱「農山漁村6次産業化ビジョン」〜農林漁業・農山漁村の再生に向けて〜
1.食の安全保障の確保のための改革に関する方針
(1)食料自給率の向上
ア 食料自給率目標〜国家戦略目標としての自給率向上〜
@ 「食料自給率目標」は、現下の世界の食料需給及び価格の動向や、食料輸出国の輸出規制の動き等を踏まえ、食料安全保障の観点から、国家の戦略目標としてこれを設定する。
A 「食料自給率」は、「生産数量目標」(C参照)が設定された年度から起算して10年度を経過した年度において50%に、さらに10年度を経過した年度において60%に達することを目標とする。なお、「国民が健康に生活していくのに必要な最低限のカロリーは、国内で全て生産することが可能な食料自給体制を確立することを目指していく」ことは当然であり、その意味において「完全自給」を目指していく。
B このような食料自給率目標を達成するためには、農業生産にとって最も基礎的な資源である農地の総量(農地面積及び利用率)を確保することが不可欠の前提である。国民一人当たりの農地がフランス49アール、ドイツ20アールであるのに対し、我が国の場合は4アール弱と著しく少ない現状においては、農地の確保は特に重要な課題である。また、有事においても必要最低限の食料を国民に供給できる基盤(=食料自給力)として、担い手や農業技術に加え、優良農地を確保・整備することは重要な課題である。以上の観点を踏まえ、食料自給率目標の達成と食料自給力の確保のために必要な農地総量を、「生産数量目標」の設定と併せて、明示する(農地制度の改革については、20〜23頁参照)。
C 米、麦、大豆等の農産物に加え、牛肉、乳製品等の「主要農畜産物」を対象とする「生産数量目標」について、国が地方公共団体、関係者の意見を踏まえて、設定する。
イ 食料自給率目標の達成のための政策の基本方向
食料自給率目標を達成するため、食料消費面、農業生産流通面、輸出面で、以下の政策を講ずる。
@ 食料消費面
食育、食生活の改善、食品廃棄物の減少、食品リサイクルの推進等に取り組む。
A 農業生産流通面
生産流通面からの取組については、次の3つの対策を講ずる。
そのうち、最大の柱に位置付けられるものは、所得補償制度の導入(18〜20頁参照)である。
また、輸入食品等への対抗力を確保する観点から規模拡大・効率化を実現するための技術開発(例えば、稲の水田直播技術、飼料用等の超多収品種の開発)等に加え、「食味など品質がよい」、「安全で安心である」、「環境にやさしい」(有機農業・環境保全型農業の積極的展開、地球温暖化の防止)といった「消費者ニーズ」への対応に必要となる農業技術の開発・普及等の施策を推進するほか、人材の養成等を推進する。
このように「安価」なだけでなく、「良品質」、「安全・安心」で「環境適合性」を求める「消費者ニーズ」に適う方向に日本の農林漁業の生産体制を転換することは、効率性とは別の切り口で「競争力」を確保(いわゆる「商品の差別化」、「事業の異質化」)することにほかならない。
したがって、自給率向上のためにこのような生産体制に転換することとし、こうした転換にも役立つ「トレーサビリティ(追跡可能性)・システム」や「HACCP」、「GAP」といった措置(12〜15頁参照)の導入を図る。これが第二の柱である。
第三に位置付けられるのが、意欲のある農林漁家をはじめとする多様な主体が、加工や、直売・産直に取り組むことにより、付加価値を囲い込んでいく、6次産業化への取組(29〜34頁参照)である。
B 輸出面
中長期的な食料自給率向上のための手段として、輸出先国の消費者ニーズを市場調査し、それに適う農産物等を安定的に供給するための体制を整備する等、「輸出への取組」を積極的に推進する。
ウ 国内生産を基本とする食料の安定供給の確保
〜特に、水田の持つ機能のフル活用へ〜
@ 食料の安定供給の確保を図るため、国内生産を基本として、輸入及び備蓄を適切に組み合わせていくこととし、米、小麦、大豆、野菜、果樹、畜産物等について適地適作の視点から取り組む。
特に、米については、主食用需要の減少等を理由に、40年近くにわたって生産調整が進められてきたが、アジア・モンスーン地帯に属する我が国の気候に最も適した、唯一完全自給が可能な作物である。また、最近の世界的な穀物需給をめぐる状況の変化にかんがみれば、米の生産装置である水田が持つ機能をフル活用し、食料自給力を確保しておく必要がある。
そのため、現行の米を作らない形での「生産調整」は廃止し、主食用に加え、米粉用、飼料用、バイオ燃料用等主食用以外の多用途に利用される米について計画的な生産・流通を推進する方向へと転換を図る。
A 今回の国際的な穀物価格の高騰により、不測の事態においては、輸出国は自国の食料確保を優先することが明確になったことから、日本の食料安全保障の手段として「備蓄」を明確に位置付ける。
具体的には、米を備蓄の対象とし、その運営は現在の「回転備蓄方式」から「棚上方式」へ転換する。すなわち備蓄としての役割を果たしたものはバイオマス用、飼料用、援助用等に活用する。また、備蓄水準を増やすべきとの消費者の意向やスイス等の諸外国の備蓄運営の実例を踏まえ、その数量は約4ヶ月分(300万トン。国産米に限らない。)を目途とする(具体的な数量とともに、その管理の方法については、モミ米の形態とするか否か、農家等への委託とするか否か等を含め、「生産数量目標」の策定と併せて検討する)。これにより、現在の回転備蓄方式と比べ、実質的な財政負担を大きく変えることなく、食料供給に対する国民の不安を取り除くことができるとともに、途上国に対する援助等を通じ、世界的な食料不足の解消にも積極的に貢献をしていく。
(2)食の安全及び消費者の安心の確保
ア 食の安全・安心に関する行政組織の抜本的改革
〜食品安全委員会の組織強化とリスク管理機関の一元化〜
@ BSE患畜の発生を契機に日本の統治機構に導入されたリスク分析システムは、米国産牛肉の輸入再開をめぐる食品安全委員会プリオン専門調査会メンバーの辞任など、その在り方について様々な問題が指摘され、また、中国産餃子による中毒問題やミートホープによる偽装問題の発生に対してリスク管理機能が十全には発揮できなかったこと等から、その在り方を抜本的に改革する。
A まずリスク評価機能を担う「食品安全委員会」については、リスク管理機関からの独立性が十分に担保されず、その体制がぜい弱であることから、その独立性を担保し、機能強化する。こうした観点から、食品安全委員会の委員構成は消費者代表、食品産業経験者等ステークホールダーを含むものへと変更し、委員会の下に科学的なリスク評価等を行わせるための科学委員会(原則として科学者によって構成)を置き、体制の強化を図る。また、食品安全委員会は、必要がある場合には、食品の安全性の確保のため講ずべき施策について、関係する大臣に対し、機動的かつ迅速に勧告を行う。
B 次に、リスク管理機能について、農林水産省と厚生労働省がそれぞれ担当していることにより責任の所在が不明確となり、また、機動的な対応が図られていないことから、「農場から食卓まで」のフードチェーンにおけるリスク管理の一貫性を確保する。すなわち、農林水産省消費安全局と厚生労働省食品安全部とを統合し、リスク管理機能を一元化した「食品安全庁」(仮称)を農林水産省の外局として設置する 。
イ 食品のトレーサビリティ・システムの導入
@ トレーサビリティ は、生産者と消費者との距離が拡大し、お互いの顔が見えない経済社会の下では、食品の安全性に関わる事故や不適合が生じたときには、迅速な原因究明や製品回収に、また、表示など情報の信頼性が揺らいだときには、その正しさの検証に有効な仕組みである。
食品トレーサビリティの先進地であるEUでは、製品回収の担保として、全ての食品と飼料、食用家畜等について、最低限必要なトレーサビリティを確保するため、仕入先、仕入日、販売先、販売日の記録の保管と緊急時における管轄当局への情報開示を全ての食品関連事業者等に義務付けている 。また、牛肉、卵等の特定品目については、表示の信頼性の担保として、内部トレーサビリティ を確保し、ロット単位の追跡・遡及が可能となるようにし、固有の識別番号の印字等の措置を義務付けるなど、一段階レベルの高いトレーサビリティを義務付けており、二段階のトレーサビリティ確保への取組が行われている。
このようにEUにおいては、万全を期した食品の安全管理システムを導入していても、製品に不都合や事故が生じることがあるため、その場合に正確で迅速な撤去・回収が行えるよう、危機管理の一環として、食品関連事業者等に対して、全ての食品等について、最低限の記録の保管と緊急時における管轄当局への情報開示を義務付けているものと考えられる。また、特定の食品については、トレーサビリティによって表示の信頼性を担保するため、事業者内の内部トレーサビリティを確保し、ロット単位の追跡・遡及が可能となるようなレベルの高いトレーサビリティを義務付けているものといえる。
A こうした状況を踏まえ、日本においても、将来の一定時期(5年後)に、@製品回収の担保として、全ての食品についてベーシックなトレーサビリティを義務付け、A内部トレーサビリティを確保し、ロット単位の追跡・遡及が可能となる一段階レベルの高いトレーサビリティについて、当分の間、その導入を奨励していく。
なお、ベーシックなトレーサビリティを義務付けるまでの間を、その導入を促進する期間と位置付け、消費者のトレーサビリティに対する理解を深め、トレーサビリティ全般に対する信頼性を確保していく。
B 以上の基本的考え方の下、第169回国会に提出した「食品情報管理伝達システムの導入の促進に関する法律案」では、次のような、より高いレベルのトレーサビリティ導入の促進を図ることとしている 。
・ この法案では、「チェーントレーサビリティ」 を促進するものとし、そのシステムを「生産から販売までのフードチェーンの各段階で食品とその情報を追跡、遡及できるシステム」と定義する。
・ 対象とする食品の範囲は、農水産物、加工食品、輸入食品等全ての食品とし、対象とする業種等は、フードチェーンを構成する、食品の生産、処理・加工、流通(運送事業者を除く。)、販売を担う企業、団体、個人とする。
・ トレーサビリティ・システムにおいて記録される情報は、a)供給を受けた食品と供給者名・所在地、b)引き渡した製品と顧客名・所在地、c)取引日/配送日、d)分量・数量、e)ロット番号、f)受け入れた単位(又は原料の単位)と、販売した単位(又は製品の単位)との間の対応付けの情報、g)生産工程管理の情報とする。
・ 事業者は内部監査の仕組みを設け、登録認定機関による審査と監査を受ける。
・ 生産から販売までの関係者(生産者、製造・加工業者、小売業者等)間で締結された協定(チェーントレーサビリティ構築に関する計画)を一つのフードチェーンとして認める。その関係者に認定されたフードチェーンの構成員であることを対外的にアピールすることが許され、小売業者が食品を消費者に販売する場合には、当該フードチェーンを経た食品であることを示す特別な表示(チェーントレーサビリティが構築されている旨の表示)を付することができる。
・ トレーサビリティ・システムを構築する上で必要な助成(補助金、融資、税制の特例)を導入企業に対して付与する。
・ 輸入食品に対しても、国内のトレーサビリティと同等のシステムのもとで流通しているものに限り、国産の食品と同等の格付け・表示を許容する。
C トレーサビリティは、あくまで食品の移動を把握するものであり、製造工程での食品の安全管理や品質管理を直接的に行うものではなく、そうした目的を達成する措置として農業生産工程管理手法(GAP)や危害分析重要管理点(HACCP)手法がある。こうした措置については、EUにおいてすでに義務付けがなされている ことや義務付けについて消費者が強く望んでいること等を勘案しつつ、トレーサビリティの義務付けの時期との整合性を踏まえ、別途、義務付けを図る。
D このようなトレーサビリティやHACCP等の導入を義務付けるに当たっては、消費者をはじめ、生産者、流通業者、製造・加工業者等利害関係者の意見を十分に聴取した上で、事業者の業態、規模等を勘案して、経過措置や除外措置など必要な措置を講ずる。なお、トレーサビリティやHACCP等の義務付けを行う場合には、食品安全基本法、JAS法、食品衛生法等の関連する法律制度との関係を整理する。
ウ 食品表示の拡大等
@ 加工食品等の原料原産地表示については義務付けを拡大する。その場合、商品の表示スペースとの関係で全ての内容を表示可能かどうか、また、企業負担の問題をどう考えるか、といったことにも留意して、全ての加工食品について、現在義務付けられているものに加え、「主要な原料又は材料の原産地」の表示を義務付ける。ただし、一定規模に満たない製造業者等が、食品を製造・加工し、消費者に直接販売する場合(中食)又は設備を設けて飲食させる場合(外食)には、当分の間、主要な原料又は材料の原産地を表示しなくてもよいこととする 。
A 遺伝子組換え作物・食品の表示については、その義務付けを拡大する。食品衛生法は遺伝子組換え作物・食品の表示を義務付けているものの、食品の安全性確保の観点からは、遺伝子組換え作物・食品であっても安全性が確認されれば、その旨の表示を義務付ける必要性はない。しかし、遺伝子組換え作物・食品に対する消費者の評価が従来のものとは著しく異なっている状況にあることにかんがみ、遺伝子組換え作物・食品であることの表示又は遺伝子組換えでないことの表示は、消費者が品質を選択する重要な判断基準となることから、JAS法において、その旨の表示を義務付ける。
分別生産流通管理 が行われた非遺伝子組換え作物・食品については、現在、遺伝子組換えに関する表示義務の対象とされておらず、任意で「遺伝子組換えでない」旨の表示をすることが可能とされている。
そもそも、大豆、とうもろこし等バルキーな作物に関しては、遺伝子組換えでない作物について分別生産流通管理が適切に行われた場合でも、遺伝子組換え作物の一定の混入は避けられない実態にある。
一方、消費者にとって、作物・食品等の購入に際して、遺伝子組換えであるか否かは商品を選択する重要な判断基準となることから、そのような表示が行われることを強く望んでいる状況にある。
したがって、現在、任意表示とされている分別生産流通管理が適切に行われた非遺伝子組換え作物等について「遺伝子組換えでない」旨の表示を義務付ける。その場合、たとえ一定の「意図せざる混入」 があることが事後的に判明しても、表示義務者は損害賠償等の責任を免れることとする。
組み換えられたDNA及びこれらによって生じたタンパク質が加工後に残存しない加工食品については、現在、遺伝子組換え食品か否かが技術的に検証困難であること等から、当面、表示義務の対象とされておらず、任意表示とされている。
しかし、EUにおいては、トレーサビリティが構築されていることから、組み換えられたDNA及びこれらによって生じたタンパク質が加工後に残存していない食品についても遺伝子組換えである旨の表示が義務付けられている。
したがって、我が国においても、EUの事例を参考に、トレーサビリティが構築される段階で、組み換えられたDNA及びこれらによって生じたタンパク質が加工後に残存していない食品についても、遺伝子組換えである旨の表示を義務付ける。
B 受精卵クローン動物由来食品については、その安全性に問題がなく、例えば、一般の牛由来の肉やミルクなどの生産物との科学的識別が不可能であるとされていることから、現在、その旨の表示は任意とされている。このため、現在、リスク評価が行われている体細胞クローン動物由来食品について安全性が確認されれば、その表示も任意とされる可能性が高い。
しかし、その安全性が確認されたとしても、クローン動物由来食品に対する消費者の評価が一般の動物由来の食品とは著しく異なっている状況においては、クローン動物由来食品であることの表示は、消費者が品質を選択する重要な判断基準となる。
したがって、JAS法において、その旨の表示を義務付ける。その場合、トレーサビリティが構築される段階において、受精卵クローンであれ体細胞クローンであれ、全てのクローン動物由来食品の表示の義務付けを開始する。
C 消費期限・賞味期限の期限表示については、合理的・科学的な客観的指標(「大腸菌数」、「酸価」等)に基づき、期限を設定し、その根拠に関する資料等を整備・保管し、提示を求められた場合に公表する 。
エ トレーサビリティ等とリンクした輸入検疫体制の強化等
@ 外国から輸入される食品について、国内で生産される食品と同等の安全性を確保するため、トレーサビリティやHACCP等を義務付けた場合には、事前に日本の検疫担当者が輸入品の生産地における施設を検査(検査を行う検査官を「国際食品調査官」(仮称)とする。)し、その施設からの輸入品である場合以外には、原則として輸入を認めない。また、義務付け以前では、「輸入品の生産地における安全性確保措置の実施状況」にかんがみ、輸入検疫の軽減措置を講ずる 。
A トレーサビリティやHACCP等の導入をはじめとする食品の安全性の確保を担保するため、輸入検疫をはじめとする関係職員の増員等必要な体制を強化する。
B BSEや鳥インフルエンザ等家畜の伝染病のまん延又は有害な病害虫の付着の防止を目的とした、水際での輸入動植物に係る防疫体制や国内の衛生管理の強化、患畜等の適切な処理と経営再建への支援等必要な施策を充実する。なお、鳥インフルエンザワクチンの使用については、緊急ワクチン接種が機動的かつ効果的に実施できるよう、具体的なワクチン使用の条件及び使用する際の疫学的条件等を早急に明確化する。
オ 企業のコンプライアンス体制の確立の推進
@ 食品製造や外食産業に携わる企業において、その社会的責任を十分に踏まえた消費者重視の経営が遂行されるよう、食品産業界全体におけるコンプライアンス体制の確立・徹底を推進する。
A このため、通報者の範囲を労働者に、保護の対象を事業者内部や行政機関に対する通報に限定している現在の「公益通報者保護制度」について、通報者の範囲の拡大等を通じて、その強化を図る。
2.農業の活性化のための改革に関する方針
(1)消費者ニーズに適った商品生産と事業展開の必要条件の確保
消費者は、前述のように、「安価」なだけでなく、「良品質」、「安全・安心」で「環境適合性」のあるものを求めている。こうした消費者ニーズに対応するため、少品目・大量生産型の産地形成を目指し、規模拡大・効率化を通じて価格競争力を確保する方向もあれば、リスク分散の観点から多品目・少量生産型の産地形成を目指し有機農業や環境保全型農業への取組を通じて、「商品の差別化」を図り、「事業の異質化」を実現する方向もある。
本ビジョンに掲げる施策の実施を通じて、いずれの方向の実現を図るにせよ、食の安全・安心の確保が何よりも重要であることにかんがみ、「農場段階における衛生管理」の基礎となる「農業生産工程管理手法(GAP)」の導入等を促進する。なお、現行の農薬取締制度については、多品目・少量生産を目指す産地にとっては、品目毎に農薬の使用時期が異なることに伴い誤った施用を招きやすい等の問題があると指摘されていることにかんがみ、例えばGAPの導入と農薬が残留基準以下であること等食の安全・安心の確保が担保されることを前提に、これまでの産地廃棄のような対応とは別に、市場流通が可能となる途を検討する。
(2)所得補償制度の導入等農業経営の安定化
ア 農業者戸別所得補償制度の導入
@ 米、麦、大豆等販売価格が生産費を下回る農産物を対象に、食料自給率目標を前提に策定された「生産数量目標」(9頁参照)に即した生産を行った販売農業者(集落営農を含む。)に対して、生産に要する費用と販売価格との差額を基本とする交付金を交付する。
A 交付金の交付に当たっては、品質、流通(直売所等での販売)・加工(米粉等の形態での販売)への取組、経営規模の拡大、環境の保全に資する度合い、主食用の米に代わる農産物(米粉用、飼料用、バイオ燃料用の米を含む。)の生産の要素を加味して算定する。
イ 畜産・酪農を対象とする所得補償制度の導入
@ 海外からの安価な輸入飼料を前提に、効率性を優先させた現行の畜産・酪農政策を抜本的に見直し、国内資源(粗飼料(稲わらを含む。)、飼料用米等)を有効活用し、食料自給率の向上と環境への負荷の軽減を図るとともに、長期展望に立脚した持続可能な畜産・酪農を構築する。
A このため、自給粗飼料、飼料用米等の増産、集約放牧の定着を図る観点から、「農業者戸別所得補償制度」において、「飼料作物」を対象農産物と位置付け、その積極的な推進を図る。
B また、畜種毎に講じている現行の経営安定対策等は制度疲労を起こしていることにかんがみ、現行制度を検証の上抜本的に見直し、飼料価格の高騰、畜産物価格の下落等の経営外の要因に対応し得る新たな制度を構築する。すなわち、「生産数量目標」に即した生産を行った販売農業者(集落営農を含む)に対して経営の安定に資するよう、生産に要する費用と販売価格との差額を基本とする交付金を交付する。交付金の交付に当たっては、流通・加工への取組をはじめ、アのAに準じて、必要な要素を加味して算定する。
C A及びBの制度が構築されるまでの間、畜産・酪農経営における飼料代が生産コストの4割から6割を占めている実態にかんがみ、配合飼料価格の高騰に対する緊急対策を実施する。
D 資金制度については、米価の低迷等により農地の担保価値が低下している状況等にかんがみ、貸し渋り等で生産者の資金調達に支障を来すことのないよう、融資条件等の必要な見直しを実施する。また、自給飼料へ転換するためには、これまでの輸入飼料穀物の給餌を前提に推進してきた大規模化に伴い生じた農家の負債を償還することが必要であり、その負担を軽減する観点から、借換等による負債償還期限の延長等について検討する。
E 自給飼料への転換を推進するため、畜産物の品質への影響等畜種毎の特性を考慮しつつ、稲わらの効率的な飼料利用体制の構築、米の飼料化の推進、家畜用穀物の品種開発等、現行の自給飼料・耕畜連携対策の見直しを行う。
なお、米の飼料化については、生産技術面での対応状況等を踏まえつつ、稲わら等非食用部分を含めた米トータルの飼料利用に係る技術開発の更なる推進や、転作田等における飼料用米の生産拡大等を図る。併せて、持続可能な畜産・酪農の構築の観点から、配合飼料等飼料穀物中心の給与方法等、これまでの技術・経営管理の在り方も見直す。食品残さの飼料利用(エコフィード)の促進を図るため、食品残さ等を「産業廃棄物」ではなく「資源」として位置付け、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の適用除外等の扱いとすることについて検討する。
F 消費者の安全・安心に対するニーズに対応し、経営の安定を図るため、牛以外の家畜・畜産物についても、コスト面等での農家負担に配慮しつつ、エコフィードを含め国産飼料の給餌により生産された安全・安心な畜産物であることを確認し得るトレーサビリティ・システムの導入を促進する。
ウ 「所得補償制度」と「収入保険(又は所得保険)」との比較検討
@ 農業者戸別所得補償制度の導入に当たっては、収入変動の影響を緩和する観点から、「収入保険制度」(又は「所得保険制度」)(農業災害補償制度の抜本的改革)の導入の必要性を検討する。
A 畜産・酪農に係る所得補償制度の導入に当たっては、財源論の観点に加え、畜産・酪農の実態の観点から、「収入保険制度」(又は「所得保険制度」)との比較検討を行った上で、具体的な制度の在り方を決定する。
エ 野菜・果樹等に対する新たな支援措置の確立
野菜、果樹等の当面所得補償制度の対象とならない農畜産物については、経営安定の確保、競争力の強化、消費者ニーズに適う商品の安定的かつ機動的な供給の観点から、現行制度を検証し、「収入保険制度」(又は「所得保険制度」)の導入を含め、新たな支援措置を確立する。
(3)農地制度の改革と農業への参入促進
ア 農地制度の改革
(ア)農地制度の抜本改革
@ 農地制度のあるべき姿(目指すべき方向)
意欲ある者が幅広く農業に参入できるようにし、農業の一層の活性化を図るため、次の手当を前提に、農地制度については、できる限り参入規制(入り口規制)を緩和する。
すなわち、狭い国土の有効利用を確保し、土地そのものの持つ「公共性(例えば「相隣関係」(民法第209条〜第238条))」に着目して、土地の所有権等の権原については、「公共の福祉」が優先することを前提とすることを法律上明らかにする(参考:土地基本法第2条)。
それを前提に、農地は、「食料の安定供給(=食料安保)」にとって不可欠な資源であり、また、そこで展開される農業を通じて「多面的機能」が発揮されるものであることから、農地の所有権をはじめ権原により利用する者に対して農業経営の観点から、「耕作等農地の有効利用を行う義務」を賦課するとともに、農地以外の用途に転用することを厳格に規制する(出口規制)。
A 現行農地制度(=耕作者主義)の取扱い
@の制度改革が可能となれば、現在の「耕作者主義」を前提に農地の利用等を規制する「農地法」とそれを前提に農地の利用集積等のために農地の規制を緩和するための「農業経営基盤強化促進法」等の二本立ての制度を維持する必要はない。
また、農地をきちんと耕作する者に対して農地の権利を取得させるという現在の「耕作者主義」の考え方を抜本的に改め、「農地の権利を有する者は、耕作等農地の有効利用を行う義務を有すること」を「新たな耕作者主義」として位置付ける。
B 制度改正の基本的な方向
@の制度改正が可能な場合、その一つの方向として、農地について、一筆毎に規制する方式に代えて、農業経営の観点から有効利用を図るため、ゾーニング規制の方式を基本とする制度に転換する。
現行の都市計画法や農業振興地域整備法という縦割りの土地利用計画と農地転用規制の運用の甘さが無秩序な農地転用や転用期待を増幅させた面があることにかんがみ、地域住民参加型による農業的土地利用(農業振興地域整備法)と非農業的土地利用(都市計画法)とを一体化した総合的な「都市・農村地域土地利用計画制度」(仮称)を創設する。その場合、農地制度における農業委員会の果たしてきた機能・役割を検証・評価し、新たな計画制度を運営する行政機関として、どのような主体が適当か、検討する。
「都市・農村地域土地利用計画」の策定・変更に当たっては、地域住民が参加し、議論を積み重ね、合意形成が図られた上で行うこととする。
「都市・農村地域土地利用計画」において「農用地区域」とされた農地については、食料自給率目標の達成に資する農地面積を確保する観点から、国の一定の関与を認めるとともに、転用規制を厳格に行う。
(イ)農地制度の当面の改革方向
@ 耕作者主義の取扱い等
(ア)の制度改革が可能となるまでの間は、現行農地制度の基本的構造はこれを維持し、農地政策の基本として、農地をきちんと耕作する者に対して農地の権利を取得させるという「耕作者主義」を堅持する。
また、耕作放棄地の解消・防止のため、農地の権利を有する者は、自ら耕作するか又は耕作目的での利用権を設定することによって、「農地の農業上の利用を確保する責務」を有することを明確化する。
なお、都市計画制度、農業振興地域整備制度も運用面での改善はあり得るものの、現行制度は継続する。
A 耕作放棄地の取扱い
耕作放棄地については、@で示した農地の有効利用の責務に反することとなるため、一定の猶予期間内にこれが解消されなければ、当該耕作放棄地について、直ちに特定利用権を設定する。当該耕作放棄地の所有者が不分明の場合、民法第697条の「事務管理の法理」を応用し、集落営農、JA、援農ボランティア等による「耕作放棄地管理」の仕組みを導入する。
B 農業への参入の基本的考え方
自然人、法人を問わず、農業に精進する意欲と能力のある者が農業へ新規に参入することを促進する。この場合、「認定農業者制度」や「品目横断的経営安定対策(水田・畑作経営所得安定対策)」の対象農家のように、「所得目標」や「経営規模」を設定することや就業時の年齢制限等を条件とする「入り口規制」はこれをとらない。
a 農外法人の参入
農業に精進する意欲と能力があると認められる農外の法人については、その形態、事業を問わず、有効利用の責務の遵守を条件として、その参入を認める。
その仕組みは、現行の特定法人貸付事業を基本として、業務執行役員の1人以上が農業に常時従事する者であることを要件とし、取得できる権利は利用権とするが、その参入区域については、現在の家族農業経営や農業法人との競合を避けるため、現行農業振興地域整備制度上の「農用地区域」以外の農地とする。
なお、農業生産法人の要件緩和については、これを進めると、現行の「特定法人」の要件との差異がなくなり、農業生産法人制度の意義を喪失することになることから、基本的に要件緩和は行わない。
b 個人の要件緩和
農業を実践したいというサラリーマンや定年退職者の動向を踏まえ、市町村が指定する一定区域において、これらの個人による農地取得の下限面積要件を撤廃する。その場合、現行の「特定農地貸付(市民農園)制度」の見直しを含め、検討する。
また、下限面積要件を撤廃する区域は、現行農業振興地域整備制度上の「農用地区域」以外の区域とする。その際、農外から参入する法人との農地利用の整序に留意する。
イ 直接支払いを通じた農村集落への支援
我が国の農村は、多様な農業の担い手が営農にいそしみ、重層的に織り成すことで、伝統文化や環境を守り、良好なコミュニティを維持し、多面的機能を発揮している。こうした多面的機能は農業の担い手以外の国民全体が享受するものであり、多面的機能発揮に係る対価として農村振興策を講じる。
具体的には、現行の「農地・水・環境保全向上対策」を抜本的に見直した@農村集落に対する「資源保全管理支払」、A環境保全型農業の取組に対する「環境直接支払」とともに、B条件不利地域に対する「中山間地域等直接支払」の3つの直接支払を、法律に基づく恒久措置として実施する。
@ 農村集落に対する「資源保全管理支払」の実施
集落が行う農地、農業用の水路等の保全、管理等の取組に対し、多面的機能の発揮に係る対価として「資源保全管理支払」を実施する。
A 「環境直接支払」の実施
現行の農地・水・環境保全向上対策で環境支払的な支援策が創設されたが、これは、農外の者も含んだ活動組織において地域資源の維持保全の取組が行われている地域でなければ、支給対象とならないという欠陥を有する。
このため、資源の維持保全に対する支援と環境支払とをリンクさせず、資源の維持保全活動が行われていない地域であっても環境保全型農業に取り組む農家に対して、「環境直接支払」を実施する。
その際、農業者戸別所得補償制度において、交付金の額の算定に当たって、「環境の保全に資する度合い」の要素を加味することとされていること(19頁参照)との整理を行う(二重支払の排除)。
B 「中山間地域等直接支払制度」の恒久措置化
現行の予算措置である「中山間地域等直接支払制度」を法律に基づく制度として実施する。その際、対象農用地の要件の見直しを検討する。
C 総合的な農村活性化策
上記の3つの直接支払に加え、これを支える施策として、就業機会の拡大(農山漁村の6次産業化(29〜34頁参照))、教育・医療サービスの向上、公共機関等へのアクセスの確保などによる定住条件の向上を進める。
3.森林・林業の活性化のための改革に関する方針
(1)改革の目標〜木材自給率の向上と雇用の拡大〜
@ 本ビジョンに関する法律(35頁参照)の施行から10年度後の木材自給率として、50%(年間成長量の約半分(5,000万立方メートル)の生産)を設定する。
A 木材の自給率向上、木材関連産業全体の活性化による新たな生産体制の構築を通じて、中山間地域を中心に、100万人の雇用拡大を実現する。
B 国産材志向の消費者ニーズを踏まえ、地域材を活用した住宅建設を促進するとともに、公共的建築物に地域材の優先使用・利用拡大を推進し、木の文化の再生と持続可能な循環型社会を構築する。
C 木材の生産・加工・流通体制を大胆に効率化するとともに、木質バイオマスの利活用を含めた新たな起業やニュービジネスを取り込んで、「山村の6次産業化」を推進する(29〜34頁)。
(2)改革の基本方向
ア 「森林管理・環境保全直接支払制度」の導入による森林吸収源対策等の確実な実行
@ 森林については、民有林・国有林等の所有形態にかかわらず、国民生活に密接に関わり、国土の保全・水源のかん養等の公益的機能を十全に発揮させていくとともに、京都議定書の削減目標達成に必要な森林吸収量を確保する必要がある。こうした観点から、国有林については、後述(エ)の改革を行うとともに、民有林については、適正な森林管理がなされるよう、森林所有者に対して「再造林」をはじめとする「森林の適切な経営」を義務付ける。その場合、適切な森林管理を行う者に対して、間伐等を実施する上で森林所有者が負担する費用相当額を交付する「森林管理・環境保全直接支払制度」(仮称)を導入する。
なお、ポスト京都議定書における削減約束を見据え、森林による吸収量の更なる確保を図るため、適正な森林管理を促進させる経済的な制度の在り方(例えば、「国内排出量取引制度」の活用等)について早期に検討を行う。
A 保安林制度については、森林所有者に対する「森林の適切な経営」の義務付けとの関係を踏まえ、現行制度の在り方を見直す。見直し後の保安林として指定された森林については、国の責任において積極的な森林整備を推進する。
B 森林の整備・保全に関する公共事業のうち治山治水事業については、これまでの内容を抜本的に見直し、環境・緑を守る持続可能な事業(=みどりのダム構想)に転換の上、積極的に推進する。
なお、国有林に係る治山事業は、国有林を経営(管理運営等)する主体たる国(以下、イにおいて「国」という。)が自らこれを行う。
C 「森林の適切な経営」に基づく木材であることを証明するシステムとして、トレーサビリティ・システムを導入し、これを通じて、国産材としてのブランド化を図るとともに、違法伐採による外材の輸入を規制する。
イ 高密度路網の整備と高性能林業機械の導入による林業経営の安定化
@ 森林所有者に代わり林業経営を担当する中心的担い手として、森林組合、民間の素材生産者・木材関連業者を位置付け、その育成を図るとともに、林業労働力の確保に係る支援を行う。民間の主体による対応が困難な場合には、国が森林整備等を行うセーフティネット機能を確保する。
また、そうした対応が可能となるよう、必要な人材を育成する。
A 施業の団地化をはじめ林業の生産性向上を図るため、高規格でコストがかさむ林道整備に代え、路網の計画的な整備を促進し、高性能林業機械を積極的に導入する。
ウ 木材産業の活性化と木質バイオマス利活用の推進
@ 集成材、合板用材の需要動向を踏まえ、零細で多段階の木材流通体制を見直し、国産材の利用拡大を通じた競争力の強化を図る必要がある。そのため、伐採された原木の製材工場への直送、工務店と林家の契約、乾燥材の生産量の拡大、プレカット加工の促進等をはじめとした原木・製材・部材の大ロットでの安定供給体制を流域単位で整備する等木材生産、加工・流通体制の大胆な効率化を実施する。
なお、建築基準法、消防法等の見直しに当たっては、安全性・効率性の観点からだけではなく、在来工法等の木造建築が森林林業の活性化を通じて、木の文化の再生や地球温暖化の防止等や多面的機能の発揮に貢献するものであることを勘案し、消費者国民の声とともに、地域の工務店等木材関係者の意見を十分に踏まえて、適正に対処する。
A エネルギー自給率の向上と地球温暖化防止に大きく貢献する観点から、太陽光(熱)、風力、地熱、小水力に加え、木質バイオマスを持続可能な自然エネルギーとして利活用することとし、エネルギー素材の供給という新たな役割の分担により山村の活性化を推進する。
エ 国有林野事業の改革
国有林については、国民共通の財産として適正に管理するとともに、森林の整備・保全管理を行うことを通じて、公益的機能の発揮を図るほか、林産物の供給や地域の活性化等への寄与といった役割を一元的かつ総合的に果たしていくことが求められている。このため、国有林野事業について、農林水産行政と環境行政を一体的に推進する観点から、国有林野事業特別会計を廃止し、その組織・事業の全てを一般会計で取り扱うこととする等、その在り方を抜本的に見直す。
なお、現在、国有林野事業特別会計に属する約1兆3千億円の債務については、一般会計に承継する。
4.漁業・水産業の活性化のため改革に関する方針
(1)改革の目標〜資源管理の強化と漁業経営の安定化〜
@ 水産資源について、特に「排他的経済水域」の水産資源は「国民共有の財産」として位置付け、そうした基本理念を前提に漁業法をはじめ関係する法律を整理する。
A 水産資源の状況と漁獲努力とのバランスを確保するため、「個別TAC」等の導入と「漁業所得補償制度」の創設、休漁、減船等の措置を実施することを通じて適正な資源管理を実施する。
B 安全・安心な水産物の確保、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の根絶等による水産資源の管理強化の観点から、生産から消費までのフードチェーンにおけるトレーサビリティ・システムを導入する(12〜15頁参照)。
C 水産資源の管理の前提となる漁業経営の安定化と漁村の活性化を確保するとともに、「獲って売るだけの漁業」から、漁村において加工、流通部門までを取り込んだ「漁村の6次産業化」を推進する(29〜34頁)。
(2)改革の基本方向
ア 個別TAC制度の導入等資源管理の強化
@ 適正な資源管理を確保するため、現行制度の抜本的改革に取り組み、一定期間(5年)経過後に完全実施する。
A すなわち、生物学的許容漁獲量(ABC) を設定し、それを限度に総漁獲可能量(TAC) を設定する。また、ABCを設定できないもの等 は、「資源管理計画」の基準を設定する。
B 総漁獲可能量を設定しているものは個別漁業者毎の漁獲可能量の割当(個別TAC) を行い、「資源管理計画」の基準を設定しているものは漁業者団体又は漁村集落毎に「資源管理計画」を策定する。併せて、個別TACについては「衛星船舶監視システム」、「電子業務日誌」(漁獲に関連する情報の入力)の義務付け等資源管理の実効性を担保するための措置を実施する。
C 水産資源の回復と多面的機能の発揮のため、森林の保全・整備を推進するほか、「海の森構想」等の事業を積極的に展開して、藻場、干潟の造成を推進する。
イ 水産に関するトレーサビリティ・システムの導入
@ 適正な資源管理を実施している経営者の水産物であり、安全・安心であることを担保する観点から、水産に関するトレーサビリティ・システムを導入する(12〜15頁参照)。
A 輸入水産物について、国産と同程度の資源管理を行っているものの輸入を許容することにより、IUU漁業の根絶を図る。
ウ 漁業所得補償制度の導入等による漁業経営の安定化
@ 個別TACの対象となる漁業者又は「資源管理計画」に即した生産を行う漁業者は、「国民の共有財産」である水産の資源管理を行い、国民への食料安定供給の責務を担っていることにかんがみ、漁業経営所得を補償することとし、そのための「漁業所得補償制度」を創設する。
A 漁業経営の特性を踏まえ、生産に要する費用と漁業収入との差額を基本とする交付金を交付する。制度の具体的在り方は、財源論に加え、漁業実態の観点から、「収入保険制度」(又は「所得保険制度」)との比較検討を行った上で、決定する。
B 適正な資源管理を行う上で必要となる「休漁」、「減船」については、漁業所得補償の水準をベースに補償を実施する。
C 漁業所得補償制度が構築されるまでの間、現下の燃油価格高騰に対する緊急対策として、燃油価格高騰に伴う負担軽減のための補てんを実施する。
エ 漁村集落の活性化
漁村集落が行う海の清掃、稚魚の放流等の取組に対して、多面的機能の発揮の観点から、「漁村集落直接支払」(仮称)を実施する。
オ 養殖業、内水面漁業に対する支援
@ 養殖業が国民への食料安定供給等に資することにかんがみ、長期的に安定した養殖生産の維持又は増大を可能とするための支援を行う。
A 内水面漁業が国民への食料供給及び農山漁村地域の振興に資することにかんがみ、水産資源の維持又は増殖を図るための支援を行う。
5.農山漁村の6次産業化のための改革に関する方針
(1)6次産業化の基本的考え方
@ 以下の取組を通じて、「農山漁村の6次産業化」を促進する。
・ 農林漁業の生産(1次産業)自体の質的転換
・ 農林漁業サイドが加工(2次産業)や販売(3次産業)を主体的に取り込むことによる新たな起業
・ 加工・販売部門の事業者等が農林漁業に参入することによる新たな起業
・ 農林漁業と2次産業・3次産業との融合による「新たな業態」(=ニュービジネス)の創出(農林漁業者主導型、他産業事業者主導型)
・ 「農山漁村」という地域の広がりの中で多様な「人」と「業」との有機的な結合
A これにより、農山漁村の新たな価値を生み出すとともに、新たな就業の場を創出するなど、農山漁村の再生・発展を期す。さらに、農山漁村と地域の中心市街地とが有機的に協働する経済圏(=「地域自立経済圏(仮称)」)の確立を目指す。
B 農協等は、6次産業化の推進母体と位置付けられることから、その役割が十全に発揮されるよう、その事業改革を推進する。
(2)改革の基本方向
ア 6次産業化の戦略的推進
@ 農山漁村特有の資源を発掘・開発し、その商品化、事業化を進め、付加価値のある地域ブランドとして確立し、地域における雇用と所得を確保する。
A このような6次産業化を実現するためには、必要な人材の確保・育成、地方自治体と各産業界とが連携したネットワーク作りが基本的に重要であることにかんがみ、財源と権限の地方への移譲、金融・税制・補助金・規制の見直し等を総合的かつ一体的に実施する。
B また、農山漁村の6次産業化による近隣地域との「分業」、「連携」等を通じ、「地域自立経済圏(仮称)」を確立することによって、付加価値のより多くの部分を当該地域に帰属させることが可能となる。
イ 新たな生産販売サイクルの確立と付加価値の向上による農林漁家の収入の増大
@ 有機農業・環境保全型農業等による農林水産物の付加価値の向上を図る。
A 国産、地域産、外国産等の原産地表示を推進するとともに、「トレーサビリティ・システム」や「HACCP」、「GAP」といった措置の導入を通じて、「商品の差別化」と「事業の異質化」を促進し、国産、地域産のブランド力を強化する。
B 機能性米等新たな価値を付加した商品を開発・普及する。
C 産直・直売所の活用や加工部門の取込等により、流通コストの削減と消費者ニーズに適った商品の販売を推進する。併せて、流通形態が多様化している実態にかんがみ、「卸売市場制度」の在り方について、抜本的に改革する。
D なお、農林漁業と農林水産加工業の連携を図る観点から、それらを含むフードチェーンにおいて、国民のニーズに適った食料等が、価格、品質、ロット等の面で、安定的に供給されるよう、関係する現行制度の在り方を検討する。
ウ バイオマスを基軸とする新たな産業の振興と農山漁村地域の活性化
農山漁村地域において、地域のバイオマス資源を用いた新たな産業を振興するとともに、生産されたバイオマス製品を石油代替資源として積極的に地域で利活用することによって、ゴミゼロ社会の達成を目指し、また、地域の活性化を図っていくことを基本として、次の対策を推進する。
なお、対策の推進のために、資源作物の生産から、集荷、加工製造、流通に至るまで、財政上、税制上及び金融上の措置を実施する。
(ア)バイオマス産業の振興
農林漁業における稲わら等の未利用資源や食品残さ等の廃棄物の活用を基本とするとともに、遊休化しつつある減反田等における超多収品種の米等の食料として供給が予定されていないバイオマスを活用して、エネルギー、プラスチック等を生産するバイオマス産業を振興する。
@ 国際バイオ燃料基準の策定に当たり、日本が推進する稲わらやモミ等の未利用資源や家畜排せつ物といった非食用原料からのバイオ燃料が食用原料からのものに比べ高く評価されるよう、積極的に対応する。
A 新たな先端研究開発によるバイオマス用品種(収量の増加等)の開発・普及等を図る。
B 備蓄農産物(米)、劣化した農産品、食品残さ等を資源として活用する。
C 農山漁村の立地に適したエネルギー効率の劇的向上に資する新しい産業形態に支援する。
(イ)農山漁村におけるバイオマスの積極的な利活用
農山漁村において、地域で製造されたバイオマス由来のエタノールやディーゼル燃料、また、バイオプラスチック等について、農林漁業生産現場さらには地域全体で積極的に利活用することにより、農山漁村を「バイオマス利活用の先進地域」として、新たな価値を農山漁村に付加することにより活性化を図る。
@ 農業用マルチシート、魚網等の農林漁業の生産資材について、石油由来のプラスチックに代えて、バイオプラスチック等のバイオマスマテリアルを積極的に利活用する。
A 園芸用ガラス室・ハウスの加温装置、農業用機械、漁船等の農林漁業施設・機械等についてバイオマス燃料を積極的に利活用する。
B 一般家庭、公共施設も含めた地域全体において、バイオディーゼル燃料、バイオガス等のバイオマス燃料・マテリアルを積極的に利活用する。
C 間伐材・林地残材のパルプ化、バイオプラスチック・黒鉛化の商業化を図り、森林整備の推進と山村の活性化を推進する。
D 「国内排出量取引制度」の創設に当たっては、化石燃料由来のマテリアルや燃料に代えてバイオマス由来のものを使用する場合に「クレジット」として認証し、これを売買できるよう、制度設計を進める。
エ 教育、医療・介護の場としての農山漁村の活用
農山漁村における安らぎ、癒しの機能や、農作業等の体験を通じた教育的効果、心身障害の回復・機能向上や健康の維持・増進等農林漁業・農山漁村が有する教育、保健・休養等の多面的機能に着目し、農山漁村を教育、医療・介護の場として活用する。
一定期間、農山漁村に滞在して実践する農林漁業体験、自然体験を学校教育のカリキュラムに明確に位置付けることにより、豊かな人間性と創造性を備えた将来世代を育成する。
また、園芸療法や森林セラピー等による癒し効果のメカニズム、自然治癒力の回復による医療費等節減効果を検証した上で、これらの療法を公的医療・介護保険制度の対象とすべく、検討を進める。
オ 農山漁村集落の活性化と定住人口・交流人口の増大
@ 自然と調和して活力にあふれた農山漁村を目指し、農山漁村地域が「創意・工夫」を発揮し得る土地利用制度を確立する。すなわち、農地制度、農業振興地域制度と都市計画制度の融合による「農山漁村活性化構想計画(仮称)制度」 を創設し、行政を媒介にした「土地の流動化システム」を確立する。このシステムは、高齢化の一方跡継ぎがいない中で、安心して土地の貸し借りができるようにする観点から、公平な媒介者として「行政」の介入を予定するものであり、これにより、中心部の商店街の空洞化に対応するとともに、農村部の遊休地化にも対応できるようにする。
A 上記「農山漁村活性化構想計画」を策定した場合には、対象となる集落等に対して、例えば、直売所、観光農園、グリーンツーリズム(農山漁村滞在型余暇活動)、クラインガルテン(滞在型市民農園)、農山漁村の教育、医療・介護の場としての活用等に係る施設整備・都市部への情報発信について支援する。
B また、「6次産業化」への取組(起業・ニュービジネスの創出)に対しては、所得補償制度において「流通・加工への取組」の要素を加味した支援を行う(19頁参照)ほか、無利子資金を含めた「ノン・リコース・ローン」(6次産業化への取組として負った債務はその借入れにより導入された資産を限度に償還すればよいことにするもの)を創設する 。
C 地球温暖化対策の観点から、農林漁業の積極的貢献とそれを通じた農山漁村の活性化を図る。すなわち、
・ 輸入飼料や石油資源に過度に依存した農林漁業の生産体制から転換(健全な資源循環の回復)するとともに、自然循環機能の発揮(その一つの方向が、有機農業、有機畜産、環境保全型農業、集約放牧型畜産、資源管理と結びついた個別TAC制度等)を実現する。
・ 二酸化炭素吸収源としての森林、農地、藻場干潟の整備(技術開発、現場技術の開発等、また、こうした活動に対する直接支払の実施(23〜25頁、28頁参照))を実施する。
・ 農山漁村に賦存する資源(太陽光(熱)、風力、地熱、小水力、バイオマス(セルロース系、林地残材、食品残さ等))を地域エネルギー等として活用するとともに、エネルギー・素材の供給という新たな役割の分担により地域活性化を図る(26頁、30〜31頁参照)。
カ 農協等の改革
@ 農協等の信用・共済・経済事業の分離分割は組合員農林漁家の利便性や事業間の相乗効果を後退させることになることから、事業運営の総合的・一体的運営を確保するとともに、経営の健全性を図るため、区分経理を徹底する。
A 組合員農林漁家に対し、農協等を経由した補助金等を含む経営内容に関する情報開示を徹底し、事業運営の透明性を確保する。
B 協同組合原則に則り、農協等の政治的中立を確保する。
C 制度金融の窓口の大宗を占めるなど既存のJA系統等を行政の下請的機関とする施策体系を抜本的に改革する。
D 正組合員資格・員外利用規制のチェックを厳格に行うとともに、役員の兼職・兼業規制を強化し、業務執行体制を強化する。
E 農林漁家のニーズの多様性に応えるべく、現在のJA系統等の枠組みを離れて新たな農協組織等が活発に設立されるよう、条件整備を図る。
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V 法案の策定と財源の裏付け
(法案の策定)
民主党農林水産政策大綱「農山漁村6次産業化ビジョン」〜農林漁業・農山漁村の再生に向けて〜 を法案化する。
○ 法案の形式とその性格
法案の形式は、理念をうたう「基本法」と具体的な権利・義務を規定する「実施法」の中間的位置付けのものとする。
すなわち、この法案は、民主党が政権を担当した場合に、一定期間のうちに、その実現を約束するものであり、いわば一定期間にその実現を期す「プログラム」としての意味を持つものであることに加え、その後に提出することになる「実施法案」の大綱的内容を規定していることから、規範性のあるガイドラインの性格を有するものである。
○ 「6次産業化ビジョン」の実施期間
「6次産業化ビジョン」の実施期間は、民主党政権成立後4年の期間を基本に考えることとする。
(財源の裏付け)
○ 「6次産業化ビジョン」に掲げた各般の施策を着実に進めるため、農林水産関係予算を含めた政府全体の予算を抜本的に見直し、無駄を省くこと等によって得られる財源を活用する。
以 上
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