第2次森内閣で初めてとなる党首討論(国家基本政策委員会合同審査会)が25日午後、衆院第1委員室で開かれた。5ヶ月ぶりとなる舞台で民主党の鳩山由紀夫代表は、北朝鮮の拉致疑惑をめぐる森首相の「第三国発見方式」発言に的を絞って、首相の責任や資質を追及した。
鳩山代表は冒頭、いきなり「結論から申し上げる。あなたに国、国民を思う心が少しでもあれば、中川秀直官房長官と共に即刻辞任すべきだ。『神の国』発言や『寝ていてくれ』発言などの失言と、今回ブレア首相に話した内容は質が違う。首相失格発言だ」と切り込み、拉致されたとされている横田めぐみさんの父親と電話で話したことを紹介しながら、「交渉ごとが表に出てしまったら解決策には使えない。ご家族に対してどんな釈明をするのか」と非難した。
ところが、森首相は「鳩山さんは何か勘違いされている。この話は初めてではない。平成9年の与党訪朝団の交渉の中で話が出た。過去の話だ。秘密のことでもなければ外交機密でもない。中山正暉氏もテレビや新聞などで発言しており、何も新しいことではない。当然周知の事実だ。なぜ叱責されるのかわからない」などと、問題の重要さを全く認識していないかのようだった。
●裏話をぺらぺらしゃべる森首相
鳩山代表がさらに、「首相の発言の重さを考えてほしい。それなら、政府の答弁、見解がくるくる変わるのか。はじめは党の見解といい、数日たったら中山氏の個人的見解と官房長官が発言、中山氏が抗議したら、また変わった。極めてあいまいな話だ」と説明を求めると、森首相は「私の話は首尾一貫している」と開き直り、「私は当時の(与党訪朝団の)責任団長だった。拉致問題が話題になったとき、(北朝鮮側から)この問題はここで話すのは適当ではないと言われ、席を立たれかけたので、これを押しとどめて中山氏がこういう話でどうだろうかと持ちかけた。副団長の発言を私も同席して承知していた」と弁解。野党委員席から「そういう裏話をぺらぺらしゃべるな」とのヤジが飛ぶと、森首相は一瞬気色ばみ、「裏話とは何だ」と凄んでみせた。
鳩山代表は「答えになっていない。中山氏の個人的見解でないのなら、中川官房長官はうそをついたことになる」「プライベートの問題や交友問題でも国会でうそをついている中川長官の罷免を求める」と迫ったが、森首相は「官房長官は発言を取り消しおわびしている。私も帰国した早々で正式に話し合いができなかった」とした一方で、「私自身は全くぶれていない。この問題の当事者だったから一番承知している」と胸をはった。
●事の重要性を理解できない首相では不安
「今回森首相が発言したことで、拉致事件としても行方不明者の問題としても解決できない状況になってしまった」と鳩山代表が追及したが、「解決できなくなったと結論を言うが、交渉事だし、拉致問題はテーブルに上っている」と楽観的な見方を森首相は示し、さらに「鳩山さんは拉致されたと言われる人を助けるのと、正常化とどちらが大事なのか」と反論した。しかし、鳩山代表は全く動じず、「北朝鮮の問題は拉致事件、食糧支援、領海侵犯、ミサイル、戦前の日本が犯した問題をパッケージにして戦略性を持って答えを出さねばならない。森首相の発言には、全くの戦略性が見られない」と逆に切り返し、「首相の発言は3つの罪で国益を損じた。北朝鮮との交渉のカードを失った。欧米からテロ、脅迫に無原則に妥協してしまう国だと冷笑される。外務省からも、こんな首相に他の国のリーダーとさしで首脳会談をされたらかなわないとの声も聞こえてくる」と、自分の責任を全く感じていない首相の認識をただした。
しかし森首相は「どうしてあなたがそんなことを明確にいえるのか。首脳同士でいろいろな過去のことやさまざまな苦労話をすることは極めて大事」とあくまでも脳天気、あとは抽象的な決意表明をまくしたてた。
最後に鳩山代表が「イギリスやドイツが北朝鮮との国交樹立に意欲を示し、オルブライト米国務長官が訪朝する状況の中で、日本だけが取り残されるとの焦りがこのような行動に出ているのではないか。首相の親書問題も同じ。ことの重要性を理解できない首相がこのまま続けることは、日本中に心配を与える」と指摘したのに対し、森首相は「私は極めて冷静沈着だ。よく資質にかけるといわれるが、こんなことに過敏な反応をして騒ぎ立てる方が、党首として資質に欠けているのではないか」と開き直って、討論を終えた。
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