衆議院予算委員会で5日、平成16年度総予算について討論・採決が行われ、政府案が与党の賛成多数で可決された。採決に先立つ締めくくり総括質疑では、民主党から長妻昭、玄葉光一郎、筒井信隆の各議員が質問に立ち、政府案の問題点を鋭く追及した。
長妻議員は4日の同委員会質疑に続き、年金特別会計の年金掛金の流用問題を中心に追及。年金掛金が社会保険庁の公用車購入費や同庁職員宿舎の維持費等に当てられている実態を示した上で、「年金掛金は年金の支払い以外には一切使わないようにすべきだ」と指摘。小泉首相は「考え方はわかる」としながらも、検討する意向を示すに留まった。長妻議員は「本日の本会議において国債の発行の特例等に関する法律案が通ってしまえば、平成16年度にも年金掛金から2867億円もが年金の給付以外に使われてしまう。昭和50年から平成14年までに年金給付以外に使われた年金掛金総額は5兆6000億円にものぼる」と指弾し、改善を強く求めた。
長妻議員はまた、繰り返される天下りや談合の実態を厳しく指摘し、小泉首相に「禁止すると明言を」と詰め寄った。首相も、「検討する」と前向きな答弁をせざるを得なかった。
玄葉議員は冒頭、年金資金のムダ遣いについて、その責任の所在を小泉首相に質問。「責任は政治」とする首相の答弁を受けて第3者機関による実態調査の必要性を指摘、坂口厚労相から「(調査の)スタートは早く、この国会中に行う」との答弁を引き出した上で「年金の負担増を国民に求めるからにはこの問題のけじめが先」と釘を刺した。
三位一体改革をめぐっては、平成16年度予算において補助金が1兆300億円削減されながら税源移譲は4500億円に留まっている点を、「義務的経費は10割、その他は8割移譲する」とした竹中金融担当相の発言と矛盾する、と追及。「国から地方へ」というスローガンとは逆の実態を指摘し、「自治体の首長さんたちが腕を振える余地はない」と断じた。
筒井議員ははじめに「民主党から多数の参考人招致を請求しているのに、わずか2人しか実現していない。事実関係を国民の前に明らかにする姿勢に欠けている」と強く抗議したあと、北朝鮮拉致問題と年金問題を中心に質問した。
拉致問題について筒井議員は「政府が認定した10件のうち最初の久米裕さん拉致事件の時(1977年)から政府は北朝鮮によるものであることが分かっていながら、北朝鮮を刺激したくないとの配慮で蓋をしてしまった。不作為による拉致加担だ。責任を自覚すべきだ」と迫り、久米事件、田口八重子さん拉致事件(78年)、4件のアベック拉致事件および未遂事件(78年)、原勅晃さん拉致事件(80年)について警察の事件への対応や政府の北朝鮮への対応を追及したが、小野国家公安委員長、川口外相は不明瞭な答弁を繰り返した。このため笹川予算委員長は何度も「閣僚はきちんとした答弁を」と注意したが、結局、審議は中断され休憩となった。
審議は「午前中はご迷惑をかけた」との川口外相の陳謝をもって再開され、筒井議員は「答弁は大臣が直接するべき。事前通告し、しかも極めて重要な問題だと外相も認めている質問にきちんと答えないような姿勢が問題だ」と小泉首相に質したが、首相は「何でも大臣が答弁すべきとは思っていない。役人の方がいいときは役人がすべきだ」などと開き直り答弁に終始したため、笹川委員長にたしなめられる場面もあった。
年金問題について筒井議員は「政府は給付は現役収入の50%を堅持すると宣伝しているが、政府案では出生率や経済見通しの変化によっては給付と負担を再検討することになっているではないか。虚偽広告だ」「50%堅持は専業主婦世帯モデルだけであり、増加する共働き世帯を標準モデルとすべきだ」と坂口厚労相を追及した。
続く討論では、民主党の達増拓也議員が政府案に反対の立場から発言。「既得権益と数合わせの芸術的とも言える組み合わせであり、その矛盾を国民に負担増として押しつけるスリカエ・ゴマカシ予算。到底賛成できない」と断じた。
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