衆議院憲法調査会は12日、石川県金沢市内で地方公聴会を開催した。5人の意見陳述人が参加し、基本的人権の保障のあり方をめぐって意見を述べた。また意見陳述を予定していた北朝鮮による拉致被害者・蓮池薫さんの母であるハツイさんは事情により出席を取りやめたが、意見は代読された。民主党からは仙谷由人会長代理、桑原豊委員、奥田建議員が出席した。
意見陳述で、無職の山本利男氏は日本国憲法について現在とはかけ離れた社会情勢のなかで制定され、占領下にあって押し付けられたものとの見方を示し、権利のみが際立ち義務があまりにも少ない点や、道徳教育、宗教を選ぶ尺度、愛国心・郷土愛・家族や師弟愛、利他の愛等が欠落している点を指摘。日本国憲法にはよい面もたくさんあるとしながらも、時代が大きく変化するなか、日本国憲法の出番は終わった、と述べた。
代読された蓮池ハツイさんの意見は、基本的人権の保障のあり方に、疑問を呈するものだった。「この国において基本的人権の保障など存在するのか。誰がそれを保障してくれるのか。息子の帰りを待ち続けて、ずっと考えてきたのがそのことだ」と主張。北朝鮮による日本人拉致は基本的人権の侵害の極み。そして国家主権の侵害、凶悪犯罪であり、国家テロだと断言。「基本的人権を保障するのが国家の役割ではないのか。日本国憲法など、この国では遵守されていないといっても過言ではない」と訴えた。
福井県立大学教授の島田洋一氏は、拉致被害者家族会・救う会メンバーとして協力要請に訪れた米国での政府高官らの対応を踏まえて、憲法改正を唱えた。「拉致被害者やその家族は、海兵隊を送って救出すべき」とする米国の常識に対し、日本政府が及び腰なのは憲法の制約に起因すると陳述。日本政府は北朝鮮に対し、経済制裁を行うなどきびしく対応すべきだと指摘。また、北朝鮮の脅威に対して「敵基地先制攻撃」できる能力の早期保有や同盟国に値する日米軍事行動が取れるよう、憲法を含む法体系整備が重要だとした。
弁護士の岩淵正明氏は日本と世界の状況を踏まえると、求められているのは、日本国憲法を活かすことであり、決して憲法改正ではないとする立場で意見陳述を行った。イラク攻撃に際し、世界中で武力を回避し、国際協調による解決を望む声が高まったことに象徴されるように、「武力・戦争による紛争解決ではなく、平和的な他国との関係において紛争を解決するという日本国憲法の出番はこれからだ」と主張した。
同じく弁護士の松田智美氏は、時代の変化に伴い自己の生存に欠かせない権利=いわゆる新しい人権を、憲法改正によって創設しようとする意見について、「憲法13条での保障が可能であり、同条で保障された人権を具体的に立法化して権利の保護が守られれば足りる」として、憲法改正は不要だとする意見を表明。また、松田氏は個人情報保護法案に対し、立法自体がマスコミの表現の自由を制限する意味合いが強く、一方で個人の情報保護の観点が極めて不十分だと指弾した。
大学教授の鴨野幸雄氏は「地方自治」についての見解を示した。自治体の自己決定権は、個々の住民の自己決定権(幸福追求権)に支えられており、地方自治権を人権保障原理と国民主権原理に基づくと理解すると、これによって成り立つ地方自治体は、同じ原理で成り立つ国と対等・並行・協力し合う関係だと断じた。中央から画一的な制度を地方へ広めるのではなく、地方自治の連合体となり、地方から界へ行動する重要性を主張。住民の自己決定権に裏打ちされた地方自治が人権保障であり、民主主義そのものだと表明した。
質疑では各会派の7名の委員が順次陳述人に質問。民主党の桑原委員は、それぞれの陳述人から意見を聞いた。鴨野氏に対して桑原委員は「日本の構造改革の最も重要なものは地方分権改革だ」とする自らの考えを示した上で、自治体の自立には何がポイントとなるかを質問。鴨野氏は住民・自治体職員の意識改革の重要性を指摘した。
松田氏には立法化を急ぐべき法案の内容について質問。松田氏は「住基ネットの問題だけではなく、情報化社会に伴って自己の情報が一般に流出する可能性があるなか、それらの規制が大切」とする見方を示した。同時に環境権の立法化の必要性を提示した。
北朝鮮問題への対応に関して桑原委員は岩淵氏と島田氏に質した。岩淵氏は韓国の姿勢は一貫しているとの見方を示し、イラクへの韓国の派兵は北朝鮮問題の解決要請を米国にアピールしたものと分析。中国・ロシア・米国と連携して北東アジアの集団保障体制を模索すべきだとした。一方、島田氏は韓国の太陽政策について、北朝鮮の秘密警察の体力維持などに潤沢な資金が流れることになりかねない」として否定的な見方を示した。行いを改めない限り攻めるとする米国ブッシュ大統領の姿勢が基本的に正しいなどとした。
なお、仙谷会長代理は、後半の議事で座長を務めた。
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