(目的)
第一条 この法律は、最近における高病原性鳥インフルエンザの発生に起因して生じた事態に対処するため、高病原性鳥インフルエンザの予防及びまん延の防止、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴い家きんの生産者等の受けた損失を補てんするための特別手当金の交付等の緊急措置を定めることにより、国民の健康の保護並びに家きんの肉及び卵の生産、家きんの肉及び卵に係る製造、加工、流通及び販売の事業、飲食店営業等の健全な発展を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「家きん」とは、鶏、あひる、うずら及び政令で定める家きんをいう。
2 この法律において「感染家きん」とは、家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号。以下「法」という。)第二条第二項の患畜のうち高病原性鳥インフルエンザにかかっている家きんをいい、「疑似感染家きん」とは、同項の疑似患畜のうち感染家きんである疑いがある家きんをいう。
3 この法律において「特定家きん」とは、高病原性鳥インフルエンザのまん延を防止するため法第三十二条の規定により移動等の禁止又は制限を受けた家きん(法第十四条第三項の規定により一定の区域外へ移動させてはならない旨の指示を受けた家きんを含む。)をいう。
(国及び地方公共団体の責務)
第三条 国及び地方公共団体は、高病原性鳥インフルエンザの発生が確認された場合又はその疑いがあると認められた場合には、速やかに、高病原性鳥インフルエンザのまん延の防止等のために必要な措置を講ずる責務を有する。
(高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部の設置及び所掌事務)
第四条 高病原性鳥インフルエンザの発生に起因して生じた事態に緊急に対処するための施策等を総合的かつ一体的に実施するため、内閣府に高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部(以下「本部」という。)を置く。
2 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 高病原性鳥インフルエンザ対策として緊急に講ずべき施策を重点的かつ効果的に推進するため、当該施策に関し審議し、その実施を推進すること。
二 高病原性鳥インフルエンザ対策として講ずべき抜本的な対策に関する重要事項を調査審議すること。
(組織)
第五条 本部の長は、高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。
2 本部長は、本部の事務を統括し、所部の職員を指揮監督する。
3 本部に、高病原性鳥インフルエンザ緊急対策副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。
4 副本部長は、本部長の職務を助ける。
5 本部に高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部員(以下「本部員」という。)を置く。
6 本部員は、本部長及び副本部長以外の国務大臣のうちから、内閣総理大臣が指定する者をもって充てる。
7 本部長は、その所掌事務を遂行するために必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長その他の関係者に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
8 本部に、所要の職員を置く。
9 第一項から前項までに定めるもののほか、本部の組織に関し必要な事項は、政令で定める。
(感染家きん等の早期発見のための措置)
第六条 国及び地方公共団体は、高病原性鳥インフルエンザの早期発見に資するよう、獣医師及び家きん又は家きんの肉若しくは卵の生産を業として行う者(以下「家きん生産業者」という。)その他の家きんの所有者等に対し、高病原性鳥インフルエンザに関する知識の普及及び啓発を図るために必要な措置を講ずるものとする。
2 家きんが感染家きん又は疑似感染家きんであるおそれがある場合として農林水産省令で定める場合に該当するときは、当該家きんを診断し若しくはその死体を検案した獣医師(獣医師による診断又は検案を受けていない家きん又はその死体については当該家きんに係る家きん生産業者その他の当該家きんの所有者)は、農林水産省令で定める手続に従い、直ちに、当該家きん又はその死体の所在地を管轄する都道府県知事にその旨を届け出なければならない。ただし、鉄道、軌道、自動車、船舶又は航空機により運送業者が運送中の家きんについては、当該家きんの所有者がなすべき届出は、その者が直ちにその届出をすることができる場合を除き、運送業者がしなければならない。
3 前項ただし書に規定する家きんについての同項の規定による届出は、運輸上支障があるときは、当該貨物の終着地を管轄する都道府県知事にすることができる。
4 第二項本文の規定は、当該家きんを管理する所有者以外の者(鉄道、軌道、自動車、船舶又は航空機による運送業者で当該家きんの運送の委託を受けた者を除く。)があるときは、その者に対して適用する。
5 第二項の届出の結果、当該家きんが感染家きん又は疑似感染家きんであることが明らかになった場合には、同項の届出は、法第十三条第一項の規定により行った届出とみなす。
6 家きん生産業者は、死亡した家きんの羽数その他の農林水産省令で定める事項につき、農林水産大臣の定める期間ごとに、農林水産省令で定める手続に従い、当該家きんの所在地を管轄する都道府県知事にその旨を報告しなければならない。
(家きんの所有者等の損失の補てん)
第七条 国は、次に掲げる家きん又は物品の所有者(法第十七条の規定により殺すべき旨を命ぜられた家きんについてはその命令のあった時における当該家きんの所有者、特定家きん又は特定家きんの肉若しくは卵については法第三十二条の規定による移動等の禁止又は制限(法第十四条第三項の規定による一定の区域外へ移動させてはならない旨の指示を含む。以下「移動の制限等」という。)を受けた時における当該特定家きん又は特定家きんの肉若しくは卵の所有者)に対し、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴う損失を補てんするため、それぞれ当該各号に定める額(第一号の家きん等の売買が成立した場合以外の場合であって当該家きん又は物品が利用価値を有するときは、その評価額を当該各号に定める額から差し引いて得た額)を特別手当金として交付する。ただし、その者が第六条第二項の規定による届出等の高病原性鳥インフルエンザの予防又はまん延の防止のために必要な措置を講じなかった場合その他の農林水産省令で定める場合には、特別手当金の全部又は一部を交付しないことができる。
一 特定家きん又は特定家きんの肉若しくは卵(移動の制限等を受けている期間中に生じたもの及び当該期間中に農林水産省令で定める事由により廃棄したものを含む。)にあっては、当該家きん等の評価額(当該家きん等の売買が成立した場合にあっては、当該売買価額を当該評価額から差し引いて得た額)
二 法第十七条の規定により殺された感染家きん及び同条又は法第二十条第一項の規定により殺された疑似感染家きんにあっては、感染家きん又は疑似感染家きんとなる前における当該家きんの評価額
三 法第二十三条の規定により焼却し又は埋却した家きんの卵その他の物品にあっては、焼却又は埋却前における当該家きんの卵その他の物品の評価額
四 第六条第二項の届出が行われた感染家きん又は疑似感染家きんであるおそれのある家きんであって高病原性鳥インフルエンザのまん延の防止のために所有者が自主的に当該家きんを殺すことが適当と認められる場合として農林水産省令で定める場合において当該家きんの所有者により殺されたものにあっては、当該家きんの評価額
五 前各号に掲げるもののほか、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴う損失を補てんすることが必要なものとして政令で定めるものにあっては、当該政令で定める額
2 前項の家きん又は家きんの肉若しくは卵その他の物品の評価額の算定に当たっては、過去三年間における当該家きん等のそれぞれの取引価額の実績を基礎とするものとする。
3 前二項に規定するもののほか、第一項の特別手当金の交付に関し必要な事項は、農林水産省令で定める。
4 第一項第二号に掲げる家きんの所有者の当該家きんについては法第五十八条(同条第一項第一号又は第三号に係る部分に限る。)の規定は適用せず、第一項第三号に掲げる物品の所有者の当該物品については同条(同条第一項第五号に係る部分に限る。)の規定は適用しない。
(費用の負担)
第八条 国は、次に掲げる家きん又は物品の所有者に対し、それぞれ当該各号に定める家きんの処理等に要した費用の全額を交付する。ただし、その者が第六条第二項の規定による届出等の高病原性鳥インフルエンザの予防又はまん延の防止のために必要な措置を講じなかった場合その他の農林水産省令で定める場合には、当該費用の額の全部又は一部を交付しないことができる。
一 法第二十一条第一項又は法第二十三条第一項の規定により焼却し又は埋却した家きんの死体又は物品の所有者に対しては、焼却又は埋却に要した費用
二 特定家きん又は特定家きんの肉若しくは卵の所有者に対しては、移動の制限等により増加した当該家きんの飼養又は当該家きんの肉若しくは卵の移動若しくは保管に要する費用
三 特定家きん又は特定家きんの肉若しくは卵の所有者に対しては、移動の制限等を受けている期間内において、特定家きんの肉若しくは卵であって農林水産省令で定める事由により販売の用に供することができなくなったものの焼却その他の処理に要する費用
四 感染家きん、疑似感染家きん又は特定家きんの所有者に対しては、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴い増加した鶏ふんの処理に要する費用
五 感染家きん、疑似感染家きん又は特定家きんの所有者に対しては、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴い増加した予防のために必要な消毒に要する費用
六 家きん又は物品の所有者に対して、前各号に準ずる費用として当該政令で定めるもの
2 前項に規定するもののほか、前項の費用の交付に関し必要な事項は、農林水産省令で定める。
3 第一項第一号に掲げる家きん等の所有者の当該家きん等については、法第五十九条の規定は、適用しない。
第九条 高病原性鳥インフルエンザに係る法第六十条の規定による国の費用の負担については、同条の規定にかかわらず、政令で特別の定めをすることができる。
(家きんの生産者等の経営の安定のための措置)
第十条 国は、高病原性鳥インフルエンザの発生により経営が不安定になっている家きん生産業者、家きんの肉又は卵に係る製造、加工、流通又は販売の事業を行う者、飲食店営業者等に対し、その経営の安定を図るため、これらの者の受けるそれぞれの経営に及ぼす影響の程度を考慮して、公的貸付機関(農林漁業金融公庫その他政令で定める者をいう。)が行う無利子の貸付け等の他の金銭の貸付けの条件に比し特別に有利な条件で行う金銭の貸付け(以下「公的貸付機関の行う特別貸付け」という。)その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、前項の措置を講ずるに当たっては、感染家きん、疑似感染家きん又は特定家きんの所有者に対し、特段の配慮を行うものとする。
3 国は、高病原性鳥インフルエンザの発生による家きんの肉及び卵の価格の低落及び消費の減退を防止するため、生産された地域内における利用の促進その他消費の増進を図るために必要な措置を講ずるものとする。
(人への感染の予防等のための措置)
第十一条 国は、高病原性鳥インフルエンザの人への感染の予防その他国民の健康を保護するため、医師等に対する知識の普及及び啓発その他の人への高病原性鳥インフルエンザの感染の早期発見及び早期治療のための医療体制の整備その他必要な措置を講ずるものとする。
(協力依頼)
第十二条 農林水産大臣及び厚生労働大臣は、独立行政法人、地方公共団体、地方独立行政法人、獣医師の組織する団体、家きん等の生産者等の組織する団体又は高病原性鳥インフルエンザに係る試験研究若しくは検査を行う法人等に対し、高病原性鳥インフルエンザに関する専門家の派遣その他必要な協力を求めることができる。
2 都道府県知事及び保健所を設置する市の長は、国、独立行政法人、他の地方公共団体、地方独立行政法人、獣医師の組織する団体、家きん等の生産者等の組織する団体又は高病原性鳥インフルエンザに係る試験研究若しくは検査を行う法人等に対し、高病原性鳥インフルエンザの検査に係る協力その他必要な協力を求めることができる。
(正しい知識の普及等)
第十三条 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じた高病原性鳥インフルエンザの特性に関する知識その他高病原性鳥インフルエンザに関する正しい知識の普及により、高病原性鳥インフルエンザに関する国民の理解を深めるよう努めるとともに、この法律に基づく措置を実施するに当たっては、広く国民の意見が反映されるよう十分配慮しなければならない。
(調査研究体制の整備等)
第十四条 国及び都道府県は、高病原性鳥インフルエンザの検査体制の整備、高病原性鳥インフルエンザ及びこれの人等への感染の予防及び治療に関する調査研究体制の整備、高病原性鳥インフルエンザに関し、感染経路の究明、防疫に関する研究開発の推進及びその成果の普及並びに研究者の養成その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(予防のための自主的措置に対する支援)
第十五条 国及び地方公共団体は、家きんの所有者又はその組織する団体の行う高病原性鳥インフルエンザの予防のための自主的措置を促進するため、これらの者に対し、助成その他の必要な支援を行うものとする。
(家畜保健衛生所長への事務の委任)
第十六条 都道府県知事は、第六条第二項及び第六項の規定によりその権限に属する事務の一部を家畜保健衛生所長に委任することができる。
(事務の区分)
第十七条 第六条第二項及び第六項の規定により都道府県が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。
(経過措置)
第十八条 この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃する場合においては、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
(罰則)
第十九条 第六条第二項本文の規定に違反した獣医師又は家きん生産業者(その者が所有する家きんを業務として管理する者を含む。)は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 第六条第二項本文の規定に違反した者(前項に定める者を除く。)は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
3 第六条第六項の規定に違反した者は、三十万円以下の罰金に処する。
第二十条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。
(法律の失効)
第二条 この法律は、平成十七年三月三十一日限り、その効力を失う。
(経過措置)
第三条 第七条第一項、第二項及び第三項並びに第八条第一項及び第二項の規定は、平成十六年一月一日以後この法律の施行前に感染家きん等の所有者であった者についても適用する。ただし、これらの者がこの法律の施行前に同一の事由により、国、地方公共団体その他の者から法第五十八条の規定による手当金の交付、法第五十九条の規定による費用の交付その他助成金等の支給を受けている場合には、農林水産省令で定めるところにより、当該交付又は支給を受けた額を第七条第一項の規定による特別手当金の額又は第八条第一項の規定による費用の額から差し引いて得た額を交付するものとする。
2 前項ただし書の場合において、地方公共団体が支出した助成金等の支給に要する費用についての国の負担については、政令で定める。
第四条 第十条の規定は、平成十六年一月一日以後この法律の施行前に発生した高病原性鳥インフルエンザにより経営が不安定になっている家きん等の生産者等についても適用する。
第五条 この法律の失効前に発生した高病原性鳥インフルエンザに起因する損失を補てんするための第七条第一項の規定による特別手当金の交付、当該高病原性鳥インフルエンザに起因する家きんの処理等に要した費用に充てるための第八条第一項の規定による費用の交付、当該高病原性鳥インフルエンザの発生に起因して経営が不安定になっている家きん生産業者等に対する公的貸付機関の行う特別貸付け及び当該高病原性鳥インフルエンザに起因する第九条の規定による国の費用の負担については、この法律の失効後も、なお従前の例による。
第六条 この法律の失効前にした行為に対する罰則の適用については、この法律は、附則第二条の規定にかかわらず、同条に規定する日後も、なおその効力を有する。
(検討)
第七条 政府は、高病原性鳥インフルエンザの予防及びまん延の防止、高病原性鳥インフルエンザからの国民の健康の保護並びに高病原性鳥インフルエンザその他の家きんの伝染性疾病が発生した場合における家きん等の生産者等の受ける損失の補てんその他の経営の安定のための方策について総合的に検討を加え、その結果に基づき平成十七年三月三十一日までに必要な措置を講ずるものとする。
(内閣府設置法の一部改正)
第八条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
附則第一条の次に次の一条を加える。
第一条の二 内閣府は、第三条第二項の任務を達成するため、第四条第一項各号に掲げる事務のほか、平成十七年三月三十一日までの間、高病原性鳥インフルエンザの発生に起因して生じた緊急の事態への総合的かつ一体的な対処に関する事項に係る事務をつかさどる。
第二条の見出しを削り、第一条の二の前に見出しとして「(所掌事務の特例)」を付する。
附則第四条の二の次に次の一条を加える。
第四条の三 平成十七年三月三十一日までの間、高病原性鳥インフルエンザ対策緊急措置法(平成十六年法律第 号)の定めるところにより内閣府に置かれる高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部は、本府に置く。
理 由
最近における高病原性鳥インフルエンザの発生に起因して生じた事態に対処するため、高病原性鳥インフルエンザの予防及びまん延の防止、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴い家きんの生産者等の受けた損失を補てんするための特別手当金の交付等の緊急措置を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
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