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2004/06/11
警察不正経理疑惑に関する中間総括
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民主党警察不正経理疑惑調査・警察改革推進本部
本部長  中井  洽
事務局長 大畠 章宏

1.問題の所在


全国の都道府県警察にて不正経理疑惑が噴出している。1996年には、警視庁赤坂署が事件参考人の日当を不正支出したとして返還を求める訴訟が起こされたほか、警視庁銃器対策課による捜査費領収書の名前無断使用に関する訴訟(99年)や、宮城県警総務課員によるカラ出張旅費の返還請求訴訟(00年)など、全国各地で警察不正経理疑惑に係る訴訟がこれまで相次いで起こされた。

そのような中で本年2月には、北海道警察元釧路方面本部長・原田宏二氏が実名会見を行い、北海道警察における裏金づくりの実態を生々しく証言した。これをきっかけに各地の警察に関し内部告発や情報提供などが相次ぐようになり、とりわけ福岡県・宮城県・熊本県・長崎県などの各警察に関して多くの報道がなされるに至った。

これらの疑惑は、もっぱら捜査用報償費(県費)、捜査費(国費)、旅費などについて、領収書偽造等の手段を通じて裏金化するものであり、捻出された現金は、支出が認められていない捜査経費にあてられたほか、個人的な飲食費や遊興費、幹部異動の際の餞別などに用いられているのではないかと指摘されているところである。


2.民主党「警察不正経理・警察改革推進本部」の取り組み


これら警察の不正経理疑惑について、民主党は、本年3月に「警察不正経理疑惑調査・警察改革推進本部」を設置し、疑惑の真相解明と、国民から信頼される警察組織への改革をはかるための取り組みを開始した。具体的には、新聞広告及び党ホームページ上において広く国民から情報提供を呼びかけるとともに、警察問題に詳しい有識者を招いて、問題の検討を行った。

また3月9日には、北海道札幌市において原田氏(前述)と面会し聞き取り調査を行うとともに、道知事部局や道公安委員会部局との意見交換を行い、さらに葦刈勝治・道警本部長に対し、疑惑の徹底解明のための申し入れを行った。その後も同様の疑惑の解明のため、3月15日には福岡県警察に対して実地調査を行ったほか、3月26日には静岡県警察に対する実地調査、4月30日には浅野史郎・宮城県知事との意見交換ならびに東川一・宮城県警察本部長への申し入れ、さらに5月17日には長崎県警察に対する実地調査および県知事部局・公安委員会への申し入れを行った。

なお警察庁に対しては、この問題にかかる事実の経過につき説明を求めるとともに、問題となっている食糧費・国費旅費・国費捜査費・警視庁機動隊旅費・警視庁警察学校入校生旅費、等に関する具体的な記録の提出を求め、その一部を受領した。

これら民主党の取り組みが効を奏し、北海道、静岡、福岡の各県警が不正経理の事実を認めて陳謝を行うなど、徐々にではあるが、実態の解明が進みつつある。


3.不正経理の実態について


当本部で入手したデータを検討した結果、問題が指摘されている捜査費(国費)及び報償費(県費)については、そのほとんどが裏金化されていたとの疑いが捨てきれない。全国の県警に配分される捜査費(国費)については、平成11年度まで予算のほぼ100%を使い切っていたのに対し、13年度から予算を余らせるようになった。またそれと同じくして、予算額自体が縮小されるようになり、15年度に至っては11年度の約56%の水準にまで落ち込んでいる。治安情勢が悪化する今日において、捜査費は、本来は増加こそすれ減少することは考えにくく、昨今の不正経理疑惑に対する批判の高まりを背景に、警察が裏金を「自主規制」してきたことの証左であるとの疑いが濃い。

また旅費等についても問題が多い。警視庁機動隊が訓練などの際に支払う日額旅費については、平成13年度を最後にしてその執行が取りやめられたところであるが、その理由つき警察庁は、「テロ懸念の高まりにより実地勤務が増大し、訓練の機会が減少したため」としている。しかしながらこの説明は合理性を欠くばかりか、訓練に対して適切な手当てを支給するという本来の趣旨からすれば、極めて不適切であることは否めない。同経費はその全額が不正経理の対象となっていたとの見方もあり、これについても、裏金の「自主規制」の結果である可能性が高い。

さらに食糧費についても、極めて不自然な実態を窺うことができる。平成11年度における食糧費予算は全国で約31.6億円にも及ぶ巨額なものであるが、この使途については、他省庁との会議費や留置所収容者に対する食事代であると警察庁は説明している。しかしそもそも会議費と、留置所食費を同一の区分で集計していること自体が不自然であり、警察庁の説明は到底納得できるものではない。また予算額総額も年を追うごとに増え続け、15年度には約45億円もの巨額に達した。捜査費が縮小されているなか、食糧費予算の突出した伸び率は極めて異常であると言わざるを得ない。


4.警察庁の関与について


なお、これら不正経理の事実について、これまで北海道、静岡、福岡の各県警がその事実を一部で認め、陳謝を行った。しかしながら警察庁はあくまでも「各県警の問題」であり、警察庁は関与していないとの姿勢を崩していない。

しかしながらこの説明には疑問を感じざるを得ない。たとえば会計検査院の都道府県警察に対する検査の実施に際しても、事前の情報をもとに警察庁会計課員が当該県警察に派遣され、検査の対応方法や、問答の予行演習など、極めて詳細な指導を行うのが常であったと指摘されている。都道府県警察の上層部は、すべからく警察庁キャリアの出向組で占められることから、これらキャリアが不正経理の実態を知らない訳はなく、むしろ警察庁による積極的関与があると考えるのが妥当である。

なお、ここにきて警察庁は都道府県警察に対し、保存期限の経過した会計書類の保全を指示したり、監査の際に捜査員の聞き取り調査を容認させるなど、一見して不正経理疑惑の解決に積極的に取り組んでいるかのようにみえる。しかしながら会計書類の保全に関しても、全国10部局17所属にて、指示が出された後にも関わらず文書がシュレッダー等で処分される事例が相次いだばかりか、指示を出した警察庁自らも、会計課において文書廃棄が行われていた事実が判明するなど、警察の隠蔽体質は、今日においてもなんら変化していないことは明らかである。


5.公安委員会の形骸化について


不正経理疑惑の進展は、市民オンブズマンの活動と内部告発者の存在によるところが大きいが、それに対して公安委員会の存在感は薄く、その役割が改めて問われるところである。各都道府県の公安委員会については、ここ数年のうちに若干名の事務局をおく動きが広がるなど、一応の強化はされているが、依然として極めて不十分な体制であると言わざるを得ない。そもそも公安委員会は、県警察の上位におかれているとされているが、会議の議事進行など運営の実際は、すべて県警察事務局が取り仕切っており、今日においても、その実態は単なる「飾り物」にすぎない状況が続いている。

また知事と警察との関係においても、公安委員は知事による任命とされているものの、その権限が実態において厳しく制約されているために、結果として警察の「治外法権化」が進行しているといえよう。少なくとも公安委員会には、警察部局から分離したプロパー職員をおいて独立性を高めるとともに、さらに委員数の増加や、犯罪・治安問題に係る専門家の登用、知事部局との連携強化など、抜本的な体制強化を図ることが必要である。


6.結論 〜 更なる真相解明と警察改革にむけて


以上の点を総合的に勘案すると、捜査用報償費・捜査費・旅費・食糧費など警察の不正経理の実態は、かなり昔より全国的に常態化していた事は間違いなく、そのほとんどが裏金化されていた可能性すらある。しかしながら、これまで不正経理の事実を認めたのは、北海道警・静岡県警・福岡県警などごく一部にすぎない。これらはあくまでも氷山の一角にすぎず、全国の警察組織に蔓延する構造的な問題は、依然として手付かずのままであるといえよう。

さらに指摘するならば、・国民の税金を裏金化し、私的流用することを当然のことと考える警察組織の体質の是正、・不正な事実をこれまで見逃してきた会計検査院の検査のあり方、・形骸化した公安委員会の抜本的な体制強化、・自治体警察たる組織のあり方と都道府県知事の監督権限の強化、・警察に対する外部監査の強化、・「警察友の会」「武道始め」「交通安全協会」等のあり方、・チェック機関たる警察が風営法や警備業法など各種「業法」を所管することの矛盾など、改善しなければならない課題は数多く存在する。

これら不正経理の利益を享受しているのは、警察上層部のごく一握りの人間である。第一線で努力する警察官には、必要な経費すら割り当てられず、ときには自腹を切って、社会治安の維持のため力を惜しまない方々が大半である。必要なところには必要な予算が回るように、警察の経理制度を改善することが必要であり、これらを通じて第一線の警察官がより職務に集中できる環境を整えることこそ、国民生活の安全確保と治安回復のために、必要不可欠な事項であるといわざるを得ない。

そのためには、まず徹底的な真相解明が必要であるが、依然として不明な点が数多く残されており、さらなる調査が求められている。当本部としては、これで取組みを終了するわけではなく、これらの疑惑の解明と警察改革の推進のため、さらなる努力を重ねていく所存である。また「次の内閣」と連携し、次期参院選マニフェストにおいて、問題の多い現行の「報償費」「捜査費」「食糧費」制度を改廃して警察の裏金を全廃するとともに、公安委員会の抜本的強化を図る旨などを訴える予定である。

国民の信頼を失った警察官僚組織に、もはや自浄能力は期待できない。この際、溜まりきった膿を出しきるとともに、真実を国民に明らかにし、組織の隠蔽体質を徹底的に是正することこそが、何よりも求められている。引き続き民主党は、国民から信頼される警察へと刷新を図るため、あらゆる手段を通じ、全力を尽くす決意である。


以 上

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