今回の消費者保護基本法の見直しの意義は、消費者を「権利の主体」として位置づけ、消費者政策を、国際的に認められた消費者の権利を実効的に確保する見地から策定・実施する旨を規定することにある。
このような、真に「消費者の権利」を実現する消費者行政を推進するためには、1968年の消費者保護基本法の制定から35年を経過した現代社会に対する基本的認識として、消費者と事業者との構造的格差が一層拡大している経済社会の実情や、消費者被害が大幅に増大し複雑化している現状を正しく踏まえることが必要不可欠である。
しかしながら、自民党案は、こうした点について、民主党とは基本的な考え方が異なっていると言わざるを得ない。消費者保護基本法の見直しは、次のような基本的考え方に従って行われるべきであり、自民党案については、その発想の根本的な転換を図る必要があると考える。
第一 目的に係る改正(第1条関係)
消費者の権利は、国民が本来持っている自然権的な権利と認識されるべきものである。また、消費者の権利は、「権利なくして自立なし」という考え方の下で規定されるべきものであって、消費者の自立が規定されたことの反射的効果として規定されるようなものではない。このような考え方に基づき、目的規定の中に「消費者の権利」を次のように位置づける。
・ この法律は、消費者の利益の擁護及び増進に関し、消費者の権利及び基本理念について定め、国、地方公共団体、事業者及び消費者の責務を明らかにするとともに、その施策の基本となる事項を定めることにより、消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策(以下「消費者政策」という。)の推進を図り、もつて国民の消費生活の安定及び向上を確保することを目的とする。
第二 基本理念に係る改正(第2条関係)
第一と同様の趣旨から、「消費者の権利」について、目的規定の次に、他の基本理念とは独立した形で規定を置くこととする。 また、新しい基本法を、将来を見据えたものとするとともに、消費者の権利に関する国際的動向をも踏まえたものとするため、CI(国際消費者機構)の8つの消費者の権利のうち、自民党案に規定されていない「生活の基本的ニーズが保証される権利」及び「健全な環境の中で働き生活する権利」についても規定することとする。
一 消費者の権利
・ 消費者は、(1)その安全が確保され、(2)商品及び役務について自主的かつ合理的な選択の機会が確保され、(3)必要な情報及び(4)教育の機会が提供され、(5)その意見が消費者政策に反映され、並びに(6)被害が生じた場合には適切かつ迅速に救済されるとともに、(7)その消費生活における基本的な需要が満たされ、及び(8)健全な環境の中でその消費生活を営む権利を有するものとする。
二 消費者政策の基本理念
1 消費者政策の推進は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ、消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるよう消費者の自立を支援することにより、前条の消費者の権利(以下「消費者の権利」という。)が確保されることを基本として行われなければならない。
2 消費者政策の推進に当たつては、消費者の安全の確保等に関して事業者による適正な事業活動の確保が図られるとともに、消費者の年齢その他の特性に配慮されなければならない。
3 国際的協調 (略)
4 環境保全への配慮(略)
第三 国及び地方公共団体の責務に係る改正(第2条及び第3条関係)
国の責務の中に、「消費者の権利の確保」を位置づける。これに伴って、地方公共団体の責務についても、同様の改正を行う。
1 国は、経済社会の発展に即応して、消費者の権利を確保することを旨とし、かつ、前条の消費者政策の基本理念(以下「基本理念」という。)にのつとり、消費者政策を推進する責務を有する。
2 地方公共団体は、消費者の権利を確保することを旨とし、かつ、基本理念にのつとり、国の施策に準じて施策を講ずるとともに、当該地域の社会的、経済的状況に応じた消費者政策を推進する責務を有する。
第四 事業者の責務に係る改正(第4条関係)
事業者の責務の中に、「消費者の権利の確保」を位置づける
1 事業者は、消費者の権利の確保に資することとなるよう、その供給する商品及び役務について、次に掲げる責務を有する。
・ 消費者の安全及び消費者との取引における公正を確保すること。
・ 消費者に対し必要な情報を明確かつ平易に提供すること。
・ 消費者との取引に際して、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮すること。
・ 消費者との間に生じた苦情を適切かつ迅速に処理するために必要な体制の整備等に努め、当該苦情を適切に処理すること。
・ 国又は地方公共団体が実施する消費者政策に協力すること。
2 事業者は、その供給する商品及び役務に関し環境の保全に配慮するとともに、消費者の権利の確保に資することとなるよう、当該商品及び役務について品質その他の内容を向上させ、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成すること等により消費者の信頼の確保に努めなければならない。
第五 消費者の責務に係る改正(第5条関係)
消費者と事業者の構造的格差は依然として存在し、両者は対等になるわけではない。これを踏まえ、「消費者の責務」ではなく、「消費者の役割」とし、規範性を弱めて「努めるものとする」とする。 また、「知的財産権の適正な保護への配慮」を削ることとする。
1 消費者は、自ら進んで、その消費生活に関して、必要な知識を修得し、及び必要な情報を収集する等自主的かつ合理的に行動するよう努めるものとする。
2 消費者は、消費生活に関し、環境の保全に配慮するよう努めるものとする。
第六 苦情処理に係る改正(第15条関係)
都道府県と市町村の役割分担については、地方自治法における都道府県と市町村の役割分担をトレースするのではなく、都道府県も第一次的な相談窓口となるような規定ぶりとする。
1 地方公共団体は、商品及び役務に関し事業者と消費者との間に生じた苦情が専門的知見に基づいて適切かつ迅速に処理されるようにするため、苦情の処理のあつせん等に努めなければならない。
※ 苦情の処理のあっせん等について、都道府県と市町村の役割分担を固定化する規定を置かないこととする。
2 1の場合において、都道府県は、市町村(特別区を含む。)との連携を図りつつ、商品及び役務に関し事業者と消費者との間に生じた多様な苦情に柔軟かつ弾力的に対応するよう努めなければならない。
第七 国民生活センターの役割に係る改正
苦情処理のあっせん及び相談を、国民生活センターの機能として位置づける
・ 独立行政法人国民生活センターは、国及び地方公共団体の関係機関、消費者団体等と連携し、国民の消費生活に関する情報の収集及び提供、消費者に対する啓発及び教育、事業者と消費者との間に生じた苦情の処理のあつせん及び当該苦情に係る相談等における中核的な機関として積極的な役割を果たすものとする。
※ 上記改正と同時に、国民生活センターの所掌事務の追加(独立行政法人国民生活センター法の改正)を行うものとする。
第八 消費者政策会議に係る改正(第18条関係)
消費者政策会議を、食品安全委員会の例にならって、いわゆる「8条委員会」とする。 これに伴い、「消費者政策会議」の名称を「消費者政策委員会」に改める。 さらに、消費者政策委員会に勧告権を与えるとともに、消費者政策に係る政省令の制定改廃についても、消費者政策委員会に諮問することとする。
一 設置
内閣府に、 消費者政策委員会(以下「委員会」という。)を置く。
二 所掌事務
委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。
・ 消費者政策の大綱の案を作成すること。
・ 別表に掲げる法律の施行又は改正に関する事項について、消費者政策に関する行政各部の施策の統一を図る観点から調査審議し、必要があると認めるときは、関係行政機関の長に意見を述べること。
・ 消費者政策の推進に関する基本的な方針、基本的な施策及び重要事項について調査審議し、必要があると認めるときは、関係行政機関の長に意見を述べること。
※ 国民生活審議会の所掌事務のうち、消費者政策に関するものは、消費者政策委員会に統合することとしている。
三 委員会の意見の聴取
1 関係各大臣は、この法律又は別表(※)に掲げる法律の規定に基づく命令を制定し、又は改廃しようとするときは、委員会の意見を聴かなければならない。ただし、委員会が・に該当すると認めるとき又は関係各大臣が・に該当すると認めるときは、この限りでない。
・ 当該制定又は改廃に係る命令の内容からみて消費者政策に関する行政各部の施策の統一を図る観点から調査審議を行うことが明らかに必要でない場合
・ 国民の消費生活の安全を確保する等のため緊急を要する場合
※ 別表には、消費者政策に関係する個別法を掲げる。
2 関係各大臣は、別表に掲げる法律の施行に関する事項であって消費者の利益に及ぼす影響が大きいものとして政令で定めるものについては、委員会の意見を聴かなければならない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
四 その他所要の規定の整備
資料の提出等の要求、組織、委員の任命・任期・罷免・服務・給与、委員長、会議、専門委員、事務局、政令への委任等について、所要の規定を置くものとする。
第九 検討規定に係る改正
日進月歩の社会の中で、国民の消費生活やこれを取り巻く環境は急速に変化している。こうした変化に的確に対応し、適切な施策を講じていくため、施行後五年を目途とした検討規定を置くこととする。
・ 消費者政策の在り方については、この法律の施行後五年を目途として検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
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