6日午後の衆議院本会議で、仙谷由人『次の内閣』ネクスト厚生労働大臣(幹事長代理)が、「健康保険法の一部を改正する法律案」、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案」について質問を行ったほか、民主党提出の法案についてもその考え方を質した。民主党案の答弁には、山井和則衆院議員(ネクスト厚生労働副大臣)が立ち、小児医療の現場の声を痛切に訴えかけた。
仙谷議員はまず、急性期病棟において、勤務医の方々による労働基準法違反の献身的な努力でかろうじて支えられている現状を指摘し、「産科、小児科、僻地医療崩壊元年」と言われていることを知っているのか、現に崩壊しつつあることを知っているのか、小泉首相の認識を質した。また、「健康格差」、「医療格差」という言葉まで語られている現状も指摘しつつ、「今までの医療行政を全く反省せず、進行する医療システムの崩壊を放置し、今また保険財政のひっ迫を口実に、国民負担を強要するのみの本法案(政府案)はきわめて不当だ」と厳しい批判を加え、「ただただ医療費抑制を自己目的化し、約束すら反故にし、国民への医療サービス提供体制を崩壊に導きつつある」と断じた。
同時に仙谷議員は、医療費適正化の根拠とされている医療給付費の推計について、「全く根拠なき推計と言わざるを得ない」と具体的に数字を挙げ、「バナナの叩き売りだ」と切って捨てた。そして、こうした推計を行った根拠を問い、「間違いについて、国民に謝罪すべきだ」とした。そして、イギリスでは、医療に必要な財源は投入すると方針を大転換している事実を指摘し、政府の見解を質した。
仙谷議員は、民主党が考える医療保険制度のあり方として、「保険制度の一元化をめざす」ことを強調するとともに、政府・与党の医療制度改革大綱にある医療保険制度の一元化が、何を意味しているのか、期限と手法を明示するよう求めたほか、高齢者医療において、自己負担分の増加には反対だと言明。社会的入院を減少させるとともに、真に医療を必要とする患者の食費・居住費の負担は、現状通りにすべきだと主張した。また、政府案で創設される新たな高齢者医療制度では、現役世代の保険料の一部を支援金として充てているとし、保険制度なのか福祉制度なのか、制度創設の意義も含めて厳しく質した。
仙谷議員は更に、異状死の届出義務違反で産科医を逮捕・起訴した、福島県立大野病院事件を、「暴挙とも言うべき事件」と厳しく指摘。「全国の勤務医からは、怒りや絶望が巻き起こっている」として、事故が起きた時に、個人に対して刑事責任を問うというきわめて短絡的な対応がなされている」ことに強い疑問を呈し、「他方、公正な立場からの原因究明制度・手段はなく、多くの事故被害者は怒りを抱えたまま」とも指摘。「医療事故への原因別への対処方法が必要だ」として、医療従事者に対する処分しか記されていない政府案の内容を厳しく批判した。
民主党が提出した「がん対策法案」、「小児医療緊急推進法案」、「医療の安心・納得・安全法案」の3つの法案についても仙谷議員は言及し、過去に提出された「患者の権利法案」との違いや、小児科救急における勤務医の過酷な労働実態をどう認識し、小児科医療システムをどう再構築しようとしているのか、などについて質問した。
最後に仙谷議員は、がん治療においてもわが国で世界標準の治療を受けられない現状にあることを指摘し、「患者自身が今、大きく声を上げて運動を拡大している」と訴えた。そして、政府・与党はこうした声に謙虚に耳を傾け、真の医療の改善のための方策を出し直すよう強く要求して、質問を締めくくった。
政府案への質問については、小泉首相と川崎厚労相が答弁を行い、民主党案への質問には、山井和則衆院議員が答弁に立った。この中で山井議員は、患者の権利法案との相違点について、チーム医療を前面に打ち出したこと、都道府県が医療相談支援センターを設置すること、医療機関に医療安全委員会を設置すること、医療機関の客観的評価の仕組みを整備することなどを、時代の要請に合わせて新たに明確に打ち出したと答弁。小児医療の過酷な労働実態についても、小児救急医療の現場で、2日間で32時間連続勤務など、明らかな労働基準法違反の過酷な労働条件にあることを、自らの実体験も元に語った。
山井議員はここで、遺族の許可も得て、自ら死を選んだ1人の小児科医の遺書を紹介。今回の政府案で、本当にこうした悲劇がなくなり、危機的な小児救急医療は改善できるのか、小児科・産科を志望する医師の数を増やせるのか、そもそもこうしたわが国の危機的な医療の現状を認識しているのか、切々と訴えかけた。そして、「政治の最大の使命は、国民の命を守ること」だとして、与野党を超えての真摯な議論を呼びかけた。
|