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2005/12/08
「民主党のめざす国家像と外交ビジョン」 (米戦略国際問題研究所(CSIS)での講演原稿)
民主党代表 前原 誠司

(はじめに)

 皆さん、こんにちは。民主党代表の前原誠司です。皆さんがご承知のとおり、日本で行われた去る9月11日の総選挙は、私の党−民主党−にとってよい結果ではありませんでした。2003年の総選挙では躍進しましたが、今回は64議席も失いました。自民党は、連立相手の公明党を加えると3分の2以上の議席を占めることになりました。自民党は、これまで、ほとんど途絶えることなく、日本の政治を55年間も支配し続けています。

 岡田前代表は敗北の責任をとって辞任し、私が新しい代表にこの9月17日に就任しました。私は今、43歳ですが、これほど年齢の若い野党第一党の党首が誕生したのは日本では初めてのことです。

 日本の衆議院は、300議席が小選挙区制、残る180議席が比例代表制の小選挙区中心の選挙制度を採用しています。小選挙区制の割合の大きさゆえに、同じ程度の得票数を獲得しても、議席をどれだけ確保できるかに、大きな差が生じる可能性があります。この選挙制度が採用されて4度目の総選挙になりますが、これほどドラスティックに小選挙区制の特性が如実に現れたのは初めてです。得票数で言えば民主党の1に対して自民党は1.3でしたが、議席数は民主党の1に対し自民党は2.6となりました。連立相手である公明党の支持母体である宗教団体の組織票を除くと、これだけ自民党のブームだといわれた選挙においても、民主党と自民党の票数はほぼ同じでした。これを見ても、日本でも二大政党制は定着し、政権交代の可能性は常にあると申し上げたいと思います。

 民主党がこの選挙制度のもとで選挙戦を重ねて、政権交代可能な政党になっていくにしたがい、自民党の55年体制は終わり、民主党による真の改革が政府において実施されるということが現実のものになるでしょう。変革は一朝一夕では起こりません。次の選挙までの間、民主党は「闘う民主党」(野党)として、日本の国益、そして国民にとり、最善の政策を追求していきます。

 いくつか例を挙げましょう。


(民主党の内政課題)

 まず、民主党が取り組む内政課題についてお話します。

 日本経済を強く信頼していますが、今、企業であれば日本はとっくに倒産している状況にあります。GDPが約500兆円の日本にあって、国全体の債務は、長期・短期を合わせて1000兆円を超えています。今、日本が抱える最大の課題の一つは、巨大な財政赤字なのです。しかし、これは氷山の一角に過ぎません。急速に少子・高齢化が進展をしており、今後、税金を納める人口は少なくなり、それに対して年金・医療・介護などの社会保障費は自然に増えていきます。

 今日、改革の言葉が先行していますが、民主党ほど改革に真剣な党はありません。我々民主党は「行革なくして増税なし」と主張し、今、使われている税金の無駄遣いを徹底して無くすため取り組んでいます。政府・与党内では増税の議論を行っていますが、これだけの借金大国にしてしまった自民党政治の責任は重大です。給料が高く、数が増えすぎた公務員制度、談合体質で高コスト体質が定着し、何よりも不要な事業が見直されない公共事業、国が補助金という仕組みを使って過度に地方政府に関与し続ける中央集権体制、そして官僚の無駄遣いや天下りの温床となっている特別会計――これらによるコストを自民党は増税でまかなおうというのです。民主党は、これらの問題のツケを国民が払わされるのは間違っていると主張しています。「行革なくして増税なし」です。これは具体的にどういう意味でしょうか?

1. 無駄使いをなくし、税金を有効な道に使う
2. 規模の縮小――肥大化した行政と公務員のコスト削減
3. 無駄で不必要な公共事業の廃止
4. 権限を財源の地方への移譲

 郵政改革も重要です。民主党は一貫してそのように主張してきました。しかし、それだけでは十分ではありません。我々は、政府による無駄を駆逐する闘いに自民党も加わるよう呼びかけていきます。

 最後に、私は日本の高齢化問題を、わが国の財産であり責任であると見なすべきだと考えています。中央政府との協力のもと、地方自治体は、60歳以上が働く機会を与えられ、受け取るべき年金などの権利を行使できるようにしなければなりません。2007年には、日本では団塊の世代が定年を迎えますが、今どきの60歳はまだまだ元気です。大幅に権限・財源を移譲された基礎自治体が、元気な高齢者を教育や介護、農業や間伐、環境美化、観光案内などのボランティアに参加してもらう受け皿をしっかりと整え、生きがいを持って老後を元気に過ごしてもらう社会を実現したいと考えています。民主党は、人間中心の政治を行いたいと考えます。


(民主党の外交政策)

 次に、民主党が考える外交安全保障政策について、少し詳しく述べたいと思います。

 まず民主党が、1996年に当時の橋本首相とクリントン大統領の間で再確認された日米安保条約にコミットしていることを申し上げます。ソ連が崩壊し、日本が共産主義化される脅威が去った後も、アジア・太平洋地域の平和と安定のための公共財として、日米安保条約に基づく同盟関係は引き続き必要かつ重要であるとの確認がなされました。この確認は極めて重要であったと考えます。日本が位置する北東アジアには、未だに朝鮮半島問題、中台問題という冷戦の残滓が存在していることも忘れてはなりません。実際、アジア・太平洋の長期的な平和と安定のために、民主党は日米同盟の進化を推進します。

 日米両国は、多くの重要な安全保障、人権、経済の問題を共有しています。まず北朝鮮について話し、その次に関係改善の必要がある中国との関係について多少詳しく話したいと思います。

 米国の多くの皆さんと同様、日本国民は北朝鮮が極めて深刻な安全保障上の脅威であると見ています。北朝鮮は日本全土を射程においたミサイルを200基以上も配備していると言われています。核兵器開発計画は、脅威を一層高めています。我々は、ミサイル防衛の効果的な導入と配備を進めると同時に、六者協議を通じて、この問題に最優先で取り組んでいく決意をあらたにしています。

 米国政府と同様、北朝鮮との外交関係の正常化、国交正常化を望みますが、経済援助の実施を含めて、それには北朝鮮による核兵器開発計画の中止と、核関連兵器及びミサイル兵器の廃棄が不可欠です。同時に、北朝鮮による日本人拉致事件の全容解明と解決が必要不可欠です。拉致問題に対する同盟国・アメリカの継続的、全面的な支援に対して心から敬意を表します。拉致は決して許すことの出来ない卑劣な犯罪行為であり人権問題、或いはテロ行為といえますが、日本単独の経済制裁は意味がなく、米国はじめ関係各国と連携した対応をとっていきます。

 次に中国に移りたいと思います。
 最近、京都で行なわれた日米首脳会談で、小泉首相は、日米関係の結びつきが強ければ強いほど、中国やアジアとの関係はうまくいくと発言しました。良好な日米関係はアジアの安全を促進すると考えますが、日中関係が直接の関係をもつ代替にはなりません。また、日中関係が良好であることは、日米関係をより強固なものにし、アジアの繁栄を一層高めることになると考えます。

 否定し難い事実として、中国が経済的にも軍事的にも一層力をつけてきている状況が出現しています。中国は経済発展を背景にして、20年近くも軍事費は毎年10%以上の伸び率を確保し、軍事力の増強、近代化を進めています。実際には中国政府が公表している2倍から3倍の軍事費が使われているのではないかとの指摘もあります。これは現実的脅威です。

 この中、小泉首相の約5年間、中国や韓国との首脳交流がほとんど出来ないという異常事態が続いています。これは、小泉首相が毎年行なっている靖国神社参拝が大きく影響しています。私は、A級戦犯が祀られている靖国神社には、少なくとも総理、外相、官房長官はお参りすべきではないと主張してきました。他国に言われて参拝を止めることは、内政干渉に屈したことになり、望ましくありませんが、日本が戦前、他国を侵略し、或いは植民地支配を行なったことは歴史的事実であり、為政者の誰かが責任を取らねばなりません。政治家は結果責任を負うべきだと考えます。

 私は、中国に対しては、対話と関与、そして抑止の両面で対応すべきだと考えます。まずは、対話と関与について述べたいと思います。日本と中国との間には、お互いの利益になる協力分野が多く横たわっています。包括的なテーマを「相互互恵」「共存共栄」の観点から戦略的に議論することが重要です。それらは、エネルギー確保、エネルギー効率の向上、環境汚染防止、交通網整備、エネルギー効率を考えた都市整備、HIVや鳥インフルエンザなどの感染症対策、北朝鮮問題、軍拡競争を抑止するための軍事交流、エネルギーや物流で重なるシーレーンの安全確保など、同じような観点から、インドとの包括的対話も必要だと考えます。

 巨大な人口を抱える国の経済が急成長することによって、エネルギー確保や環境問題などで他国との摩擦を生じさせる可能性も否定できません。中国の経済発展は基本的に歓迎しながらも、各地で暴動は頻発しており、安定的に発展していくかどうかも含めて、注視し続けなければなりません。資源の確保は、日本にとって更なる重要な問題を突きつけています。

 中国による領土及び海洋権益の侵犯の動きが見られます。他国の主権・海洋権益を無視し、東シナ海におけるガス田の開発など既成事実を積み重ねて既得権益化する動きが見受けられるのです。原子力潜水艦の領海侵犯事案という事態さえ発生しています。このような行動には、手をこまねかずに毅然とした対応をとることが重要です。
 民主党は、東シナ海で日本の民間企業が資源探査・開発をする際、海上保安庁や自衛隊によって安全が確保される根拠法を先の国会に提出しました。しかし、このような毅然とした対応により中国の膨張を抑止するだけではなく、東シナ海の海洋権益については中間線の両側での日中両国の共同開発を行うべきだと考えます。中国側が既成事実の積み上げを続けるならば、日本としては、同係争地域での試掘を開始せざるを得ないと考えます。

 日本は、他国との領土問題や海洋権益に関わる係争を抱えています。話し合いによる平和的な解決を基本としながらも、日本の主権・権益を守るための防衛力や法律の整備は毅然と行わなければなりません。さらに、日本は四方を海に囲まれる海洋国家ですが、天然資源に乏しく、そして貿易活動が日本経済を根本的に支えていることを考えると、シーレーン防衛は死活的に重要な観点として考慮されなければなりません。1000海里以遠をアメリカに頼っていますが、日本も責任を負うべきだと考えます。

 これを可能にするには、憲法の改正とこれまでの自衛隊による活動及び能力の拡大が必要になるかもしれません。日本に直接危機が及ぶ可能性のある場合、例えば第3国からミサイルが発射されたり、あるいは周辺事態に認定されるような状況に至ったとき、現在は集団的自衛権の行使と認定され、憲法上行えないとしている活動について、憲法改正を認める方向で検討すべきだと考えます。権利は留保できるのであって、集団的自衛権の行使は、あくまでも日本の主体的判断に基づいて行われるべきものだと考えます。

 さらに、戦略環境の変化と脅威の非対称化、大量破壊兵器(WMD)の開発と拡散、そしてそれを受けて促進された米軍再編(トランスフォーメーション)を日本は十分に理解し、それに伴う基地再編(グローバル・ポスチャー・レビュー)を政治がリーダーシップを持って進めることも重要です。

 日米安全保障協力の進化に関して、留意しなければならない点をいくつか挙げたいと思います。

 まず第一点は、日米間の認識ギャップに関する懸念です。日米安保条約では、米軍が日本の施設・区域を使用する際の地理的範囲が「極東」という言葉で示されていますが、実態と条約の乖離が指摘され続けてきました。特に、米陸軍第一軍団司令部の機能・目的は、もともと条約の範囲を超えています。座間に米陸軍第一軍団司令部が移ってきた際、どのようなものなのか、条約の解釈に齟齬をきたさないか、明確な説明責任が問われます。場合によっては、日米安保再定義の必要性も含めて、日米間で十分に議論することが肝要です。小泉政権は、このような説明の努力を行う必要性をあまり感じていないように見受けられます。日本政府は基地を抱える自治体との非公式な事前協議を疎かにしたために、基地再編協議は暗礁に乗り上げています。

 二点目は、日本が主権国家として、基地や空域の管理は日本が一義的に行なうことは当然ですが、未だに米軍が管理しているものも多々あります。日米両政府は、地位協定の見直しも行うべきです。それが日米同盟関係をむしろ強化することに繋がると確信します。

 三点目は、日本の国際貢献活動に関する認識です。イラクがよい例です。民主党はアメリカによるイラク攻撃には反対しましたが、イラクへの復興支援は必要だと考えます。しかしならば、戦争の大義が問われ続ける中、多くの日本人は、対イラク政策の複雑な展開に不満を感じています。責任ある国家として、国際協調の促進に取り組み、イラクの持続的な民主化を促す復興支援を積極的に支援していきます。
 他方、今後、国民の理解が得られない国際貢献については、いかに同盟国であろうともアメリカの協力要請を断る場合は十分ありえます。逆に、アメリカが参加しない国際貢献活動に、日本が独自で参加する場合も当然、考えられます。その点をお互い認めあえる関係に成熟させなければなりません。

 最後に対アジア外交、経済について、我々の考え方をいくつか述べたいと思います。今日は、時間の制約で全てについてお話できませんが、強調したいのは、民主党はアジアに対して包括的戦略をもっています。

 アセアン諸国との関係も、より強固なものにしていかねばなりません。具体的にはFTA交渉を、迅速に進めていくべきだと考えます。農産物や労働力の問題で、日本は躊躇していますが、日本の得意分野がそれによって生かされていないこと、或いは中国の後手後手に回ってイニシアティブを奪われていることに、もっと危機意識を持つべきです。

 12月の半ばにクアラルンプールで東アジアサミットが開かれます。ここでは、東アジア共同体の進展について議論されることになります。アメリカには東アジア共同体に対する懸念があると承知しています。現に、以前はマレーシアのマハティール元首相が提案したEAEC、あるいはEAEGには極めて否定的でした。私は東アジア共同体を進化させるべきだと考えていますが、アメリカが排除されるべきではないと考えます。むしろ排除できないと考えます。アメリカのマーケット抜きで、アジア経済の発展はありえません。アメリカの軍事的プレゼンスなしで、この地域の安定はありません。日本が積極的な架け橋になるべきであり、日米FTA、あるいは日米EPAも現実的なテーマとして議論すべき時が来ているのではないでしょうか。さらに、米中でも副長官級の対話が行われていますが、日中の包括対話を軌道に乗せた上で、日米中三カ国による包括対話の実現も模索をすべきだと考えます。あくまでも同盟国である日米の関係を成熟、発展させる中で、中国を平和的なパートナーとして経済発展を促し、国際社会にうまく関与させていく役割を日米両国は担うべきだと考えます。

 お互いの国益に根ざした日米パートナーシップを進展させることを、民主党は外交政策の根本におきます。日米同盟関係を梃子にアジア・太平洋地域を世界の繁栄・平和の地域にすべく、関係構築に努力していきたいと考えています。

 ご静聴ありがとうございました。
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