1 制度改正に向けた具体的提言
〜質の高い介護サービスの供給〜
(1) 要介護になりにくい、重度化しにくい社会状況づくり
(2) 不適切な給付を適正化し、無駄をなくして必要な介護を受けやすく
(3) ケアマネジャーの機能強化
(4) 小規模多機能ホーム等、居住環境に優れた介護基盤の早急な整備
(5) 在宅や居住施設等で必要な医療(関連)行為を受けやすく
(6) サービスの質の向上に向けての総合的な取り組みを
(7) 介護労働者の労働条件などの改善
(8) 成年後見などの権利擁護事業の充実化を
(9) NPO法人が提供する介護サービスを非課税に
2 制度見直しに関する当面の課題(中間まとめ)
1)現行制度上の問題
〜無理なく払える保険料・利用料〜
2)制度の抜本的見直し
〜年齢によらない社会的介護と障害者の自立・社会参加の実現〜
〜高齢者虐待防止法の制定を!〜
1 制度改正に向けた具体的提言
〜質の高い介護サービスの供給〜
(1) 要介護になりにくい、重度化しにくい社会状況づくり
(現状)介護が必要な状況になっても必要なサービスを受けて自分らしく暮らせる介護保険の仕組みづくりは重要である。個人に注目すれば、最期まで元気で自立した人生を送ることができることが好ましい。これは介護保険財政の軽減につながり、社会的な利益とも一致するが、介護保険サービスの不適切な利用や、予防的措置の不十分さにより、身体機能や痴呆のレベルが低下して、自立から要支援に、また要支援から要介護に重度化するケースが見られる。
一方、生活に必要な筋力を維持するトレーニング(パワーリハビリ)や、痴呆予防教室での活動が、介護予防に一定の効果が見られるとの報告もあるが、住民が希望しても、うけることができる自治体は限られている。
(方向性)
全市町村において、住民が希望すれば介護予防(パワーリハビリ等)・痴呆予防(早期痴呆予防教室等)が受けられるよう、事業を実施
介護・痴呆予防についての検証を続け、より効果的な手法の開発とともに、評価方法を整理
(2) 不適切な給付を適正化し、無駄をなくして必要な介護を受けやすく
(現状)介護保険の利用が全体としては順調に伸びる中、赤字市町村が発生する一方で、不要なサービスが組み込まれていたり、逆に必要なサービスが提供されないために入院を余儀なくされるなど、不適切なケアプランを元にしたサービス給付が問題になっている。
(方向性)
ケアマネジャーの機能強化(提言(3))により、適切なケアプランを確保
特に福祉用具等在宅介護サービスの適正化にあたっては、一律に基準を押しつけるのではなく、現場において、理学療法士、作業療法士等の専門職の助言を受けて、適切なサービスをケアマネジャーが選択できるよう、資質の向上と手続きの改善を図る
保険者(市町村)がサービスの質に責任を持って不当なサービスをチェックして不適正なケアプランには厳しく対処する
一方で、限度額を超えるケース等においても、必要に応じて、市町村の判断で全額保険給付を認める等柔軟な給付を可能とする
高価な輸入製品が多い福祉用具について、規制緩和等により、より低価格な国産品の開発を促す
(3) ケアマネジャーの機能強化
(現状)ケアマネジャーは、介護保険の要として位置づけられ、介護プランの作成を担当してきた。ところが、事業者からの独立性の不足や個人の能力のバラツキ、50件を大きく超える過重な負担などにより、適正なケアマネジメントが必ずしも行われていない例も少なからずみられる。
(方向性)
制度の見直しにおいて必要な書類を減らし、業務上の事務量を大幅に削減
ケアマネジャーが最新の情報を得て、マネジメント能力を維持向上するために、地域ごとに定期的な研修を実施
ケアマネジャーの中立性を確保し、困難事例等を支援するため、地域のネットワークづくりを強化
不適格なケアマネジャーを排除するための資格の更新制の検討
(4) 小規模多機能ホーム等、居住環境に優れた介護基盤の早急な整備
(現状)現状では、4人部屋の特別養護老人ホームでも待機者が多く、施設を利用したい時に利用できないことへの恐れから、まだ在宅で過ごせても、万一を考えて施設への申し込みをするケースが多い。
また、痴呆介護の重要性は認知されてきたが、現場での対応は未だ十分とはいえない。
(方向性)
利用したいときに好みの居住の場を最期まで利用できるよう、小規模多機能ホームやグループホーム、個室ユニットケア型施設等の地域の介護基盤を整備
小規模な介護においては、介護者一人一人のスキルとモラルについて、集団での介護とは異なる部分があることから、このための人材養成を重点的に実施
養護老人ホームについても、状態の変化により特養に移る必要がないよう、介護保険の利用を可能とする
(5) 在宅や居住施設等で必要な医療(関連)行為を受けやすく
(現状)居宅やグループホーム等で吸などの医療行為が必要な方の介護やターミナルへの対応等において、医療的な措置の必要性が増しているが、現状の医療提供体制ではその需要に十分に応えることができず、違法措置になる可能性も承知しながら、介護職員が何の研修も受けずに、吸痰等の医療行為を行っている例も多い。
(方向性)
地域医療のネットワーク化を進め、緊急時の医療アクセスを改善
一定の研修を受けた介護職員が独自に行える医療性のある生活関連行為、医療従事者の指示の下で行える医療関連行為と必要な研修内容を明確化
看護師についても、一定の研修や経験等の基準を前提として、自己判断で行える業務を拡大
グループホームにおいて、訪問看護の通常利用を認める
(6) サービスの質の向上に向けての総合的な取り組みを
(現状)介護保険導入により、民間事業者の参入などもあり、サービス量は増えてきた一方で、サービスの質の低下が懸念されている。また、都道府県による監査も事業者の増加に対応できていないところも多い。
(方向性)
第3者評価と情報公開を更に進め、事業者がサービスの質で選ばれる環境を構築する
良質のサービスを支える人材を養成し定着させるための施策を充実する((2)、(6)参照)
監査や立入指導についても、都道府県だけでなく、より身近な保険者も分担しておこなうことにより、きめ細かいチェックを行うとともに、監査結果については公開する
(7) 介護労働者の労働条件などの改善
(現状)介護労働者の離職率が高く、やる気がある職員の燃え尽きも見られる。介護をする側に余裕がなくなると、身体拘束や虐待などの問題も起こりやすくなる。
連合などの調査によると、感染症への対策がきちんと取られている職場は4割という結果も出ており、職員を媒介した感染症の流行も懸念される。
(方向性)
登録ヘルパーの移動時間への対価支払いやキャンセル時の手当て、施設やグループホームでの時間外労働賃金の支払い等、労働関係法令が厳守されるように徹底
介護労働者の資質向上とモチベーションの維持のためには、継続的に研修を受けてステップアップできる環境を整える
介護・看護職員に対する感染症についての講習と具体的な対策の徹底
人員配置も含めた抜本的な改善を行い、介護労働者が誇りを持って、安定した生活をする労働環境を整える
(8) 成年後見などの権利擁護事業の充実化を
(現状)在宅サービスを利用するのか、それとも、施設サービスを利用するのかは、本人(痴呆性高齢者など)が、自ら決すべきことである。在宅での暮らしを本人が望んでいるにもかかわらず、家族主導で施設サービスを利用することになったのでは、その施設サービスがいくら充実したものであったとしても、本人には不幸なことである。
(方向性)
家族の反対があっても、本人の自己決定権・選択権を実質的に保障していけるように、成年後見制度をはじめとした権利擁護事業の充実化を図っていく
判断能力に欠ける痴呆性高齢者の介護保険利用には、成年後見が不可欠の前提であり(成年後見によらない契約は無効)、法的見地からも対策は急務
(9) NPO法人が提供する介護サービスを非課税に
(現状)特定非営利活動法人(NPO法人)は、市民のニーズに合致し、新しく多様できめ細かな社会的サービスを供給する主体として、また、市民による自由な社会貢献活動として、その育成を支援する必要がある。形式的にはNPO法人に対する税制措置が取られているが、近隣地域での活動を主体とする介護サービスを提供するNPOには使えない制度である
(方向性)
客観的な基準により、多くのNPO法人が税制支援策を受けることができる制度とする
2 制度見直しに関する当面の課題(中間まとめ)
1)現行制度上の問題 〜無理なく払える保険料・利用料〜
(現状)介護保険の保険料は、1号被保険者では、5または6段階になっており、低年金の層において、過重な負担となっている。特に、第1段階で生活保護を受けていない世帯及び、第2段階のうち、収入が少ない層では、毎月の年金の約1割が保険料として徴収されることになり、負担感は大きい。
また、介護保険は個人単位の給付であるにもかかわらず、保険料徴収においては、世帯収入を基準としているため、本人に収入がなくても同一世帯の家族に給与収入があるために、保険料が高くなる場合があり、不合理である。
利用料についても、グループホームや個室ユニット型の特養において、ホテルコストが払えないために実質上低所得者が利用できない例がある。
ただし、高齢者の中には、所得は少なくても土地家屋等の資産を保有している例も多く、所得だけを理由に一律に減免するのは不適当。
(方向性)
第1号被保険者の保険料の負担について、全体を整理しなおし、より個人の所得比例に近い形に変えることを検討
資産のある低所得の高齢者については、公的なリバースモゲージを積極的に推進することにより、所得の上乗せを図る
低所得者でもグループホームや個室ユニット型の特養が利用できるよう、ホテルコスト部分についての補填を生活保護に準じて実施
2)制度の抜本的見直し
〜年齢によらない社会的介護と障害者の自立・社会参加の実現〜
(現状)40歳以下からの保険料徴収と、65歳以下への保険の給付については、介護保険制度の導入時にも議論があり、5年目の見直しに向けて積み残しとなっていた問題である。
しかし、現在の介護保険は、あくまで「介護」の保険であって、生活全体を支える障害者福祉サービス全体を置き換えることはできないことから、障害当事者の方々からは、介護保険の上限でサービスが切られてしまうのではなかという懸念の声が強い。
また、若年者の失業率が高い中、保険料の支払い義務を20歳以上に拡大した場合には、未納問題が発生するという懸念もあるが、一方で、現在の被保険者の保険料の急増が危惧される。
(方向性)
介護ニーズを社会全体で支えるという理念からは、被保険者と給付対象者の拡大は、必然の方向性である
介護保険で提供されるのは、障害者福祉施策のうち、介護保険と共通化できる部分だけであり、既存の障害者福祉サービスを減らすものではないことを明確にする
身体・知的・精神の3障害の方々、また難病等も含め、日常的に障害のある、介護が必要な人たち全てを給付の対象とする。
〜高齢者虐待防止法の制定を!〜
(現状)介護保険導入後も、家庭において介護者による殺人や、心中を図ったとの報道が後を絶たない。また、施設における身体拘束や、お金の着服なども相変わらず多い。これらの虐待の原因としては、虐待に対する自覚のなさや、介護の大変さ、社会からの孤立などが大きな原因となっている。
(方向性)
施設や家庭における悲惨な虐待事件をなくし、障害を持っても安心して生活をできる環境作りのために、虐待防止法を制定する
法律の中で、虐待が疑われる場合の立ち入りのための環境整備、緊急保護のためのショートステイの確保、虐待をしてしまう人へのサポート等の総合的な対策をとる。
同様の問題があり、対象者も重なるところがある障害者の虐待防止法や、既存の法律も含めた総合的な虐待防止法の制定も併せて検討
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