基本的質疑が行われた8日の衆議院予算委員会で、民主党・無所属クラブの高山智司議員が質問に立ち、在上海日本総領事館員自殺事件に関して、事件後の外務省の対応、官邸への伝達のあり方等について、小泉首相、安倍官房長官、麻生外務相らに見解を質した。
高山議員は、「中国側との熾烈な情報戦によって自殺にまで追い込まれた痛ましい事件」との認識を示したうえで、自殺した館員が機密情報を扱う立場にあったことから、この事件による国家機密の漏洩を疑問視する見方があるのと同時に、外務省の官邸への報告体制の不備を指摘する声がある点を踏まえ、事実解明に向けて質問を行った。
事件をいつ知ったかについて、小泉首相は「日日は忘れたが新聞報道後」、安倍官房長官は「週刊誌報道があった12月27日」と答弁。そうした答弁を受けて高山議員は、内閣情報室では情報を把握していたはずとの認識に立ち、安倍官房長官に自殺の情報が内閣情報室に上がっていたかを質したが、安倍官房長官は「情報収集に関わることなので答弁は控える」「質問に答えることは情報収集そのものに関わること」「安全保障にもかかわる。議題そのものにも一切お答えはしない」などとする答弁を繰り返し、質疑は再三中断した。
質疑再開後、委員長からも答弁を促されたが、安倍官房長長官は「(内閣情報室からの)報告事実の有無を明らかにすることは、調査をしていたことを明らかにすること。調査手法が明らかになる。われわれの関心事項が推認されるので、答弁を差し控える」などと繰り返すだけで、内閣情報室での情報把握の実態に関する答弁はあくまで回避した。
高山議員は自殺した館員が国家機密を知りうる立場にあったことを「国家機密を漏らしうる立場にあることは確か。漏れうる可能性があることは否定できない」とする麻生外務相の答弁も得て確認したうえで、国家機密漏洩の恐れもあるこの事件を「総理が知らなかったのは問題」ときびしい口調で批判。外務省が事実関係を掌握していながら、官邸への報告がなされなかったことを深刻に受け止めるべきとして、情報がどこで遮断されたかについて十分な検証を行う必要があると問題提起した。そうした指摘に対しては小泉首相も「検証しなければならない」と述べ、検証の必要性を認めた。
高山議員は重ねて「情報は本来であれば(官邸へ)到達されるべき案件だったと思う」と語り、機密情報漏洩の恐れはないかを質した。麻生外務相は「国家として一番に関心を払ったところ」と述べ、安倍官房長官は事件発覚後の調査で暗号システムなど機密情報の漏洩はなかったとの見解を示した。
官邸に情報が上がらなかったことに関しては「上げる必要がないと判断した結果かと、高山議員が重ねて質したのに対して、麻生外務相は「私ならと申し上げるものではなく、当時はそう判断したもの。責任追及はいかがなもの」などと発言したが、最終的には「最初に報告しておくべきだったと私個人としては思う」と述べ、情報を上げるのが妥当とする認識を示した。高山議員はまた、麻生外務相の大臣就任時にこの問題に関する十分な引継ぎが行われていなかったことも質疑を通じて明らかにし、問題軽視の政府の姿勢を改めるよう強く求めた。
こうした指摘に対し安倍官房長官は、外務省に情報伝達のあり方について再検討を指示したと説明。同時に暗号システムを変更するなどの対策を講じるとともに、諜報活動に対する注意喚起や各種研修を含めた体制の強化を図るとの考えを示した。
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