参議院本会議が22日開かれ、民主党・新緑風会の那谷屋正義議員が質問に立ち、義務教育費国庫負担法等の一部改正案に関して、小坂文部科学大臣並びに竹中総務大臣に見解を質した。
那谷屋議員は、義務教育費の国庫負担割合2分の1について、「2分の1死守」は文科省の存在意義そのものであったとの見方を示したうえで、死守する決意が見られないまま、一敗地にまみれる事態に至った点について、「子どもたちが主人公になるべき義務教育の真のあり方からすれば、本丸をいとも易々と引き渡した文科省の腰砕けに対して、ごうごうたる非難がわき起こることはやむを得ない」と語った。
また、「『世紀の愚策』であっても、行政担当者はやり直しがきくが、実験台となった子どもたちには、それを取り戻す機会は永遠にやってくることはない」とも訴え、小泉政権後に、義務教育費にかかわる国庫負担割合「二分の一回復」への確固たる道筋を必ずつけることが大命題だと絶えず念頭に置き、文科大臣の職を全うすることが子どもたちに対する責任の果たし方となるとして、小坂文科相に回復への道筋に関する確たる答弁を求めた。
小坂文科相は「今回の措置は昨年の中央教育審議会答申を踏まえつつ、三位一体の改革を進めるなかにあって、広く国民の意見を聞きながら丁寧に問題に取組んだ結果。義務教育費国庫負担制度を堅持する方針のもと、国庫負担割合を3分の1としたものである」と述べ、今後とも義務教育に対する国の責任を果たせるよう、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額を補償するしくみである義務教育費国庫負担制度を堅持し、義務教育改革に取組んでいくなどと繰り返すだけで、国庫負担割合「二分の一回復」への確固たる道筋は何ら示さなかった。
続いて、市町村費負担教職員任用の全国展開化の際に求められること、および危惧する点について那谷屋議員は取り上げた。
市町村費負担教職員の任用拡大によって、都道府県が義務標準法通りの配置をしなくなる危惧はないか、あるいは、従来都道府県独自の財政負担に基づき展開されている少人数教育などが、本制度導入によって後退するおそれはないのかなどについて質した。これに対して小坂文科相は「引き続き同様の措置がなされるものと考えている」との見方を示した。
また、「ゆとりと希望の再生」と題して、教職員にかかわる就業環境等の抜本的改善こそが、時代の要請でもあるとの確信のもとで那谷屋議員は、ILOが1981年に作成した資料を引用し、「バーンアウト(燃え尽きる)という言葉は、教師が肉体的にも精神的にも大変疲れてしまい、もはや効率よく仕事をすることができなくなった状態を意味するために用いられる。それは、兵士間の戦争神経症の症状にも例えられる」として、教師には兵士並みの精神的負荷が掛かっている現実に対する実証的分析に他ならないと分析してみせた。そのうえで那谷屋議員は「教職員の『ゆとりと希望の再生』は、義務教育費国庫負担制度堅持と並ぶ、文科省の存在価値を占うに足る試金石になる」と述べ、その実現に向けた決意を示すよう、小坂文科相に求めた。
この点については同様の認識を持っているとしたうえで小坂文科相は、「各教育委員会に対して、会議などの見直しによる公務の効率化、事務処理体制の整備等について指導してきた」と述べるとともに、教職員の多忙感解消に向けて前向きに取組んでいく考えであることを強調。各学校・教育委員会の取組みを促すとともに、文科省としても勤務実態の把握に努めていくとした。
教育現場における格差問題も取り上げた那谷屋議員は、「『学びの場』において『負の連鎖』が根を張ろうとしていることは、就学援助受給者数が2004年までの10年間で約2倍もの伸びを示していることからも明白だ」と言及。格差は活力の源と放言してはばからない小泉首相が推し進める改革によって、学びの場を浸食する、いわゆる「光りとかげ」がはらむ問題は放置しえない臨界点に達しつつあると述べ、子どもたちの就学環境整備に向けた文科省の前向きな取り組みを小坂文科相に強く求め、「整備に努めていく」との答弁を引き出した。
さらに、竹中総務相に対しては、義務教育費国庫負担金削減後における総務省の責任について質問。金目については16日の総務委員会において竹中総務相が「義務標準法がある限り、所要の教育予算確保に支障はない」との趣旨の確約を示したうえ、今回、一般財源化された6分の1にかかわる部分も含めて、総務省の責任において都道府県単位の所要額を過不足なく充当するという決意が示されたことに言及した那谷屋議員は、今一度、本会議の場においても、義務教育費国庫負担金削減に伴う地方財政措置に関して、明確に答弁するよう竹中総務相に要請した。
それに対して竹中総務相は「法令で教職員配置等の基準が示されている義務教育教職員の給与費は適切に地方財政計画に計上し、必要な一般財源が確保してている」と答弁し、こうした枠組みを踏まえ、今後も地方団体の財政運営に支障がないようにしていくと明言した。
最後に那谷屋議員は、公立学校における耐震化対策の問題も取り上げ、耐震性がない学校施設にもかかわらず非常災害時の地域住民の避難所に指定されていたり、子どもや住民の人命軽視の実態があることを指摘。学校施設の耐震化については、文科省だけにまかせるのではなく、全省庁で対応すべきだとの考えのもと、消防庁を所管する立場から、総務省としての最大限のバックアップの必要性に言及した。そのうえで那谷屋議員は、民主党が先に参院に提出した、いわゆる「公立学校施設にかかわる耐震補強等促進特措法」賛成できないのであれば、百歩譲って、避難所に指定されている学校施設だけでも、東海地域と同様の交付税措置をとり、耐震補強を早期に完了すべきだと竹中総務相に注文をつけ、「適切に対応していきたい」との答弁を得た。
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