野党党首が小渕首相と向き合って国の基本政策などを議論する初のクエスチョンタイム(党首討論)が10日午後、衆議院第1委員室で開かれた。記念すべきトップバッターをつとめた民主党の鳩山由紀夫代表は、企業団体献金禁止や介護保険見直しなどで迷走する自民党を「議論がくるくる変わる。政治不信の原点だ」「選挙目当て、自己保身だ」と厳しく批判し、防戦一方の小渕首相を圧倒した。
党首討論はイギリス議会のクエスチョンタイムをモデルに、政治家同士の議論で国会の活性化をめざすのが狙い。次期通常国会から設置される「国会基本政策委員会」の試行版として、今国会では衆参両院の予算委員会合同審査会の形式で実施された。委員会室の座席配置も与党・政府側と野党が向かい合う形に。傍聴の国会議員が通路近くまであふれ、委員会室は開始前から熱気に包まれた。
鳩山代表は、まず「国民は党首討論に期待している。首相の生の声を聞いてもらいたい」と述べるとともに、「総理が40分では短いと言ったのは本当か」と水を向けた。小渕首相は「各委員会でも討議する時間を増やしていきたい。衆参両院で審議して十分な時間をいただければ望ましい」と応じた。
●大きすぎて味がよくわからない「ピザ」
続けて鳩山代表は、「今日のこれからの予定は」と最初に聞くイギリスのクエスチョンタイムの慣習を意識してか、「首相は今朝何を召し上がってきたか。私は熱いピザを食べてきた。こんな質問なら官僚の助けを借りずに答弁できるでしょう」と、「冷たいピザ」と皮肉られた小渕首相にユーモラスな先制パンチ。首相は「いつも通りの日本食」と答えつつ、「オルブライト米国務長官からは『冷たいピザもおいしい』と言われたことがある」と切り返したものの、鳩山代表は「そのピザは一時おいしくなったと国民に評価されたが、大きくなりすぎて、味が混ざってよく分からなくなった」と自自公連立をやゆした。そして、この日の討論を欠席した小沢自由党党首や神崎公明党代表の出席を、小渕首相から要請するよう求めた。
これに対し、首相は「党首対党首をというのなら、議会で決めてほしい」と述べたが、鳩山代表に「それなら小渕首相の答弁を、3党を代表したものと理解する」と、意見がまとまらない自自公3党の弱みを突いた。
●くるくる変わる与党議員の軽い発言
鳩山代表は次に、「国会は国民によって選ばれた国会議員によって構成され、国民に最も近い場所にある。国権の最高機関だ」と小渕首相が示した「国会観」を受け、「最高機関だとうたわれる国会議員の言葉がどこまで重いか。介護保険や衆議院定数削減問題、企業団体献金問題でもくるくる言葉が変わるじゃないか。本来国会の中で最も責任を痛感しなければならない与党の議員の方々の発言がどうしてこんなに軽いのか。これが政治不信の原点だ」と攻撃した。首相は「国会議員として選ばれた者の言葉は極めて重い。国民の信頼を失うようなことがあってはならないと、私自身はそう戒めながら努力している」と白々しく答えた。
ここから鳩山代表の議論は各論に移り、「国会議員は法を作る存在として、法に対して最も厳しい存在でなくてはならない」として、リクルート事件で受託収賄罪が確定した藤波衆議院議員は議員辞職すべきだとして、自民党など与党の対応を批判した。小渕首相は「藤波議員は国会議員として選挙で選ばれた。選挙区の皆さんと相談して、自らの判断で考えるべき」とこれまでの答弁を繰り返した。
●2週間前の結論はどこへ?=政治献金問題
さらに、鳩山代表が「リクルート事件などを契機に政治家と金、企業の関係が批判され、5年たったら政治家個人に対する企業団体献金を禁止しようと約束した。ようやく自民党も守ると聞いたが」とただすと、小渕首相は「来年1月から受け取らないと、自民党も決めた」と正式に認めた。
しかし、鳩山代表は「つい2週間ほど前に自民党政治改革本部はそれとは全く逆の結論を出したはずだ。1年2か月かけて熱心に議論して『企業・団体献金の存続こそベストだ』と決め、党の総務会でも了承したと聞いている。それがあっと言う間にひっくり返った。結論は不見識だったのか」と、その迷走ぶりを突き、さらに「結論は評価したいが、『抜け穴があるから大丈夫だ』という声も自民党内からは聞こえてくる」と指摘し、先に民主党が国会に提出している禁止法案に賛成するよう迫った。
小渕首相は「与党三党で法案を提出することになるのではないか」と逃げたが、鳩山代表は「私たちの法案に賛成できないのはメンツにこだわっているだけ。商工ローンの法案(出資法改正案)も同じ。やっぱり国民は、与党で議論して抜け穴や裏マニュアルをつくるのかと見てしまう。自民党の発想は『選挙で負けるから』『国民は厳しいから』というもの。あなたたちの発想は自分たちの保身のためだけじゃないか」とたたみかけた。小渕首相は「けっして抜け道など考えていない。国民の理解を求めたい」と答えるのが精一杯だった。
●どちらが与党かわからない=介護保険
最後に鳩山代表は、介護保険を取り上げ、「自民党の迷走ぶりは何だ。どちらが与党でどちらが野党かわからない。民主党はスタートから保険料を徴収し、欠陥があれば修正していこうと政府を叱咤激励してきた。自民党の突然の豹変は選挙目当てだ。女性や自治体のみなさん、そして小泉(純一郎元厚相)さんは大変怒っている」と声を荒げて攻撃した。小渕首相は「与党3党の連立が成立し、それぞれ保険料や家族介護手当で主張があったので、政府としては十分勘案してよりよいものをスタートさせたい」と、およそリーダシップの感じられない返答ぶり。
この日、小渕首相が逆質問で切り返す場面は全くなく、ほとんど防戦一方。この後の共産党の不破委員長や社民党の土井党首もそれぞれのスタイルで一方的に攻撃し、党首対決の第1ラウンドは野党側の圧勝に終わった印象が強かった。
◆自己採点は80点=鳩山代表が会見で
初のクエスチョンタイム終了後、国会内で記者会見した鳩山代表は「気楽に答えてもらうために、朝食は?とたずねた。ここは悩んだ部分」と冒頭の質問について説明。「介護保険についてもっと質問をしたかった」「憲法の論議を最初にして、クエスチョンタイムで憲法を大いにやろうというサインを出した」など述べるとともに、介護保険や企業・団体献金禁止などで「朝令暮改というより朝令昼改」の小渕総理を「政治家の発言の重みをもっと自覚して欲しかったが、不十分だった」と批判。自分の質問は8割(80点)位、総理の答弁は5割(50点)位と採点した。
また鳩山代表は、今後の討論にむけて「回数を重ねるごとに厳しく追及する形にして、自自公の体質、政策の不一致、朝令暮改の内閣であることを証明していきたい」と闘志をかき立てているようだった。
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