●あまりに粗野で浮薄な法案提出は
政府・自民党の歴史的責任感欠如の証明
日の丸を国旗、君が代を国歌と定める「国旗及び国歌に関する法律案」の審議が29日、衆議院本会議で始まった。民主党から伊藤英成副代表が代表質問に立ち、「国会での論議を通じ、多様な歴史観・価値観のある中で、国民的合意形成に最大限努力すべき」と呼びかけた。
伊藤議員は、質問の冒頭で、日の丸と君が代の長い歴史に触れ、「古来より親しまれ、幾多の歴史を経て今日まで脈々と引き継がれてきたもの」と評価しつつ、「国旗とは、国の単なる識別標識を超えた、国の主権を象徴する崇高な性質を付与されているもの」「国歌とは、国家的祭典や国際的行事その他で、国民及び国家を代表するものとして歌われる歌」と、その重要さを指摘。その上で、二転三転した政府の法案の提出経過を「非常に重要な問題をあたかも政争の具としている印象さえ国民に与えた」「政府・自民党はわが国の伝統・慣習に基づいた価値観の共有の意味を、あまりにも安易に受け止めているのではないか」と厳しく批判した。
この批判に対し、小渕首相からは「今年2月には法制化しないと答弁したが、よくよく考えてみて、21世紀を迎えることを契機としてこれまで慣習として定着してきた国旗と国歌を成文法で明確に規定することが必要と考えた」との理由のよく分からない答弁しか聞かれず、野党席から失笑がもれた。
伊藤議員はさらに、「伝統や慣習の意味の重さや、日の丸・君が代の歴史を鑑みれば、イギリスのように慣習によることも極めて有効な選択肢」と述べ、国旗・国歌規定を慣習・憲法・法律で行ったときの効果の違いを野中官房長官にただしたが、明確な答えはなかった。
君が代の解釈について、伊藤議員は、政府が示した「『君』は、日本国憲法下の象徴天皇」との解釈に理解を示した上で、この歌が歴史的に貴人などの長寿を祝う「賀歌」から祝い歌として普及、定着してきたことを示して、「君が代の君はもっと歴史的な広がりを持ち、世代間の理解を得ることができるように解釈してもよいのでは」と提案した。
これに対し、小渕首相は「君が代とは日本の国民の総意に基づき天皇を日本国及び日本国民の統合の象徴とするわが国のことであり、君が代の歌詞もそうしたわが国の末長い繁栄と平和を祈念したものと解することが適当である」との従来の政府見解からさらに踏み込んだ見解を示した。
国旗・国歌を法律で定める立法効果について、伊藤議員が「教育現場での混乱を避けるためにどのように考えているのか。法制化の前後で何が違うのか」とただしたのに対し、小渕首相や有馬文相は「法律による国旗国歌の明文化で、学校現場での正しい理解が進むと考えている。法制化に伴い、指導に関する取り扱いを変えるものではなく、今後とも各学校における適切な指導を期待する」と答えた。
最後に、伊藤議員は「十分な論議を通じ、日本と他の国々の文化や歴史・伝統を敬愛する態度が日本国民の共有する普遍的価値観として定着することを心から期待する」と質問を締めくくった。
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