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2001/10/03
小泉総理の所信表明演説に対する代表質問(岡崎議員)
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参議院本会議
小泉総理の所信表明演説に対する代表質問
民主党・新緑風会 岡崎トミ子

 私は、民主党・新緑風会を代表し、小泉総理の所信表明演説に対して、総理に質問を行います。

 まず冒頭に、私は、昨日のテレビをみて驚きました。タキシード姿の小泉総理がインタビューに答えて、「今日も棒読みだったろう」と、官僚の書いた答弁書を棒読みしたことを認めたあと、「棒読みしないですむ質問をもっと考えてもらいたいね」「役人に答弁してもらったほうがよい質問のほうが多い」と言われました。
 昨日の議論は、憲法の議論、集団的自衛権の問題、武力行使との関わり方など、まさに政治家がやるべき議論です。
 昨日の参議院本会議での総理の答弁の態度は、まず声が小さい、いかにも誠意のないものでした。
 総理!。昨日の発言は国会軽視であり、国会審議を冒涜するものです。もっと責任ある態度で応えるべきではないでしょうか!。この発言を直ちに撤回し、謝罪することを求めます。

(米国同時多発テロ事件)
 質問に先立ちまして、いわゆる「米国同時多発テロ事件」で命を落とされた方々に対して、心から、哀悼の意を表します。米国内外のご遺族と関係者の方々、眠れない夜を過ごしていると言う、たくさんの子どもたちを初めとしたすべての米国市民に対して、心から、お見舞いを申し上げます。

 このような残虐な行為が二度と繰り返されることのないよう、この事件の真相を究明し、容疑者を特定して法による裁きを下し、人道に敵対するテロリズムを絶対に容認しないという決意を明確に示すことをもって、無辜の死の無念に応えなくてはなりません。

 当然、日本もこの事件の解決とテロ撲滅に向けて主体的な取組みを進めなくてはなりません。民主党としても積極的にこの問題にとりくむ決意であることを表明いたします。

 さて、この間の小泉総理の動きは、非常に奇妙でかつ危険なものであると、断定せざるを得ません。事件直後の対応が他国の指導者たちに比べて立ち遅れた一方、日本の対応方針の決定について拙速主義を重ねていることは、多くの同僚議員が既に触れたとおりです。小泉総理。ここは冷静に、自らの振る舞いを顧みるべきです。それが国のトップとしての使命です。

 総理は、昨日の我が党の角田議員の「米国支援のための自衛隊派遣の法的根拠は何か」という質問に明確に答えず、「憲法の範囲内でできる限りの支援協力は何かという観点から、その内容を早急に検討し、法律案の作成に取り組む」などと答弁をしました。
法律案の前提となる自衛隊派遣の法的根拠について、改めて伺います。

 まず、今回の米国の行動を、ブッシュ大統領は米国の自衛のための戦争であると明言しています。米国を支援する自衛隊の海外派遣が、日本が、米国に対する攻撃を自らに対する攻撃とみなしたものであるとすれば集団的自衛権の行使ということになり、これはただちに従来の政府の憲法解釈を変更することに他ならないと考えますが、いかがでしょうか。

 一方、今回の米国の行動が、「自衛」を超えた国際的取組みであるとして自衛隊の海外派遣を正当化するのであれば、国際協調主義や国連中心主義にのっとって、米国の軍事行動を根拠付ける安全保障理事会の決議を前提とすべきと考えます。総理の見解を伺います。

 小泉総理、まず必要なことは、何のための対応方針であるのかを明確にすることです。その目的は、あくまでもテロリズムの撲滅であり、「対米協力」が自己目的化してはなりません。

 テロ撲滅が目的であるならば、どのような手段が最も効果的であるかを考えることが筋であり、有効なアプローチです。国際法廷における公正な裁判に向けた努力、テロ対策のための多国間協議へのリーダーシップの発揮、中東における和平外交の推進などが考えられます。対米協力も、多様な取組みの一手段として位置づけるべきであり、武力攻撃によって報復が報復を呼ぶ「暴力の連鎖」を生まないよう、米国をはじめとした各方面に働きかけることも、米国のよき同盟国としての日本の役割と考えますが、いかがでしょうか。

 今回の許されざるテロ事件がどうして起こったのか。その背景に深い眼差しを向けて日本の対応方針を決定し、中長期的な問題解決に向けて力を尽くすべきです。その際、私たち、国際社会に強い影響を与える立場にある国々の行動が、そうでない国々に住む人々を疎外や焦燥に追い詰めることはなかったか、そのような反省に立つことが、信頼されることを目指す国家として持つべき態度だと思います。

 幸い日本は、中東などの多くの国々に友人として受け止められています。アフガン和平国際会議の召集を呼びかけた実績もあります。そういう立場を生かして、外交面での努力を一層強化して具体的なイニシアティブを発揮することこそが、今求められているのではないでしょうか。

 緊急の課題として、すでに500万人近く発生していると言われる難民・避難民への支援があります。国連からも、物資を早く、多く、という要請がなされています。実効性を第一に、積極的な役割を果たすべきです。

 難民支援については、自衛隊の派遣と、武器使用の緩和も取りざたされています。武装した要員が緊張状況にある地域に入ることは、かえって危険を招くことがないか、懸念されます。万が一にも、日本の行動が戦闘状況を誘発した場合、その責任はとりようがありません。誰の、どのような状況判断が基礎となっての検討であるのかということとあわせ、総理のお考えを伺います。

 さて、今回の事件は、アメリカばかりでなく、世界中どこでも、いつでも、凶悪なテロが起こりうることを示しました。日本政府としてまず取り組むべきは、在外邦人や在外公館を含め、国内でのテロの未然防止と、対策の確立だったと思います。ところが総理の口から真っ先に出たのは「米軍基地を自衛隊で守る」という言葉でした。日本国民の生命・財産を守る、安全を確保するために、全力を挙げる姿勢を鮮やかに示すことが総理の使命ではありませんか。

 さらにもう一点、重要な問題があります。それは、今回の事件による謂れのない差別の助長を許してはならないということであります。米国やヨーロッパでアラブ系住民に対する嫌がらせが多発しています。日本でも5月21日には、富山県でイスラム教の礼拝堂から盗まれたとみられるコーランが破り捨てらるという許されない事件も起こってしまいました。様々な宗教、国籍など異なった背景を持つ方々が安心して日本に住み、働くことができるよう、私たちも言動や政策決定に意を尽くさなくてはならなりません。総理の具体的な対処について伺います。

(新しい社会への転換を促す構造改革を)
 総理が「聖域なき構造改革」を国民の前で宣言し、訴えたにもかかわらず、小泉内閣や与党が打ち出す政策は、後ろ向きの対症療法、あるいは弱肉強食を是認するような政策が目立ち、一般市民を大事にするというメッセージに欠けており、失業や廃業など、痛みを受けた人々にさらに不安をもたらすものばかりであります。
 私は、ここに改めて、従来型の経済構造が行き詰まった今こそ、新しい生き方を可能にする、新しい社会に向け真の構造改革が必要であることを訴えたいと思います。例えば、男性の働き過ぎと、女性への直接、間接の差別を改めて男女共同参画社会の実現を目指すなかに、新しい生き方、社会が見えてくると思います。また、従来とかく「保護の対象」、「お荷物」と誤った認識をもたれてきた高齢者が無理なく、それぞれの状況や立場に応じて生き生きと活躍でき、いわば現役としてまちづくりの中心になるようなかたちの、ともに支えあう経済社会、地域社会につくり変えていくべきだと考えます。
 以下、そうした観点から日本が直面している重要課題についてお尋ねします。

(雇用対策)
 まず、雇用政策について伺います。
 政府は5月に経済財政諮問会議が発表した「5年でおよそ530万人の雇用創出」という数字をもって、あたかも雇用不安が生じないかの如く、無責任な宣伝をしていますが、小泉総理はこの数字に、どの程度責任をもつ覚悟があるのでしょうか。これを公約と受け取っていいのでしょうか。また、9月20日に発表された総合雇用対策と、経済財政諮問会議の報告書は、どのような関係にあるのか、総合雇用対策によって530万人の雇用創出が担保されるのか、あわせてお聞かせください。
 民主党は「再チャレンジができる社会」を目指し、すでに職業訓練と生活支援とを柱とした「雇用におけるセーフティネットの整備」を提唱しています。セーフティネットには、構造転換につながり、労働者にとっても実践的で、キャリア形成につながる職業訓練制度の充実が含まれなくてはならないと考えますが、いかがでしょうか。具体的な整備状況も含め、お答え願います。

(介護による雇用増)
 雇用の創出は、労働力とサービスが不足している部分にこそ、重点をおくべきです。とりわけ、介護の分野の雇用創出を本格的に検討すべきです。これまで示された政府の方針においてはゴールドプラン21の進展や、ケアハウスの増設に伴う、いわば自然増によって雇用が増えることしか想定されていません。しかし、実際はもっと多く、少なくとも20万人以上の雇用を生み出すことができます。この際、構造改革の中で、実態を踏まえて福祉施設の設置や補助の基準などを見直すべきです。例えば特別養護老人ホームの職員配置やケアマネージャーの増員などを通じて、福祉現場の業務を生きた人間、サービスを受ける側の視点にたって適正化し、追加的雇用の創出を積極的に行なうことを提案したいと思いますが、いかがでしょうか。

(NPO政策)
 総理は、雇用創出の観点からのNPOへの期待も示されています。NPOの支援については、10月1日から支援税制がスタートしました。現在、NPOが行う介護サービス事業は収益事業として課税対象となっていますが、その必要と意義を踏まえて、社会福祉法人と同等の扱いとすべきと考えますが、いかがでしょうか。

(ワークルール)
 さて、昨今、正規雇用から非正規雇用へのシフトが急速に進んでいます。とくに女性の占める割合が高く、短時間雇用者の7割が女性となっています。
新しい働き方が可能となっている一方、正社員と同じような仕事をしながら年収は3分の1以下、ボーナスはほとんどなし、正社員への移行も認められないといった不安定で不利なケースが少なくありません。

 不安定さと不公正をそのままに、正規社員を非正規社員に置き換える傾向を放置、拡大してはなりません。多様な働き方で、安心して働けるしくみを確立するため、例えば「短時間正社員」など様々な働き方を設定し、それぞれに応じた処遇のあり方が確保されるような合理的なワークルールを明確にすることや、雇用形態による差別を無くし、均等な待遇が保障されるようなしくみづくりを、幅広い議論の下に進め、法律の遵守と適切な監督体制によって公正を担保することが、21世紀日本の雇用環境に求められています。総理のご所見をお伺いいたします。


(両立支援)
 今国会では、民主党提出の「職業生活と家庭生活との両立支援法案」と政府の「育児介護休業改正案」とが継続審議となっております。

 働く親が育児休業から復帰してまず直面するのが、子どもの病気やけがです。育児や看護のサービスの充実はもちろん重要ですが、看護休暇制度は保育所整備とともに車の両輪であると考えますが、いかがでしょうか。政府案では、子ども看護休暇制度は努力義務に止まっています。男女共同参画推進本部長でもいらっしゃる総理、ここは与野党の枠を超えて、総理のリーダーシップで請求権化するという英断を下すことはできないでしょうか。期待を込めてお考えを伺います。

(待機児童解消)
 保育所の受入れ枠の拡充は、現実には待機児童の解消につながってはいません。保育士などの充実と、子どもにとって居心地の良い施設環境の質が担保されてはじめて、親は安心して働けるのです。

 民主党は先の通常国会に、無認可保育所の開設にあたって自治体への届出を義務付ける「児童福祉法改正案」を提出し、今国会において継続案件となっております。保育の質を担保し、子どもを持つ親が安心して預け、働くことができる保育施設の拡充と質の向上には、最低限必要な法改正だと自負しております。総理、民主党提案の「児童福祉法改正案」にぜひ賛同していただきたいと思いますが、いかがお考えでしょうか。

(民法改正)
 民主党が数度にわたり野党共同で法案を提出するなど力を入れてきた民法改正について伺います。8月4日発表の内閣府の世論調査で、民法改正への賛成が初めて、反対を上回りました。与党内には未だに改正に反対する意見が根強くあると聞いていますが、この問題に積極的に取り組んでいらした森山議員が法務大臣でいる今こそ、法改正を実現すべきと考えますが、総理はどうお考えでしょうか。

 野党共同で提出した民法改正案は、非嫡出子の相続差別の廃止をも、その内容としております。親が法律婚であるかどうかは子どもの責任のないことです。非嫡出子に対する差別を廃止することについて、併せてお答え下さい。

(地球温暖化問題)
 先のCOP6再開会合において日本は、国際的な議論の積み上げを無視して、唐突に京都議定書離脱という挙に出た米国の顔色を伺い、さらには科学的根拠の乏しい森林の吸収源を拡大することで議定書の科学的正当性を傷つけ、国際的な信用をさらに失墜させました。総理はこの責任をどう考えているのでしょうか。

 総理は常々環境政策に力を入れるとおっしゃっていますが、抵抗勢力に堂々と立ち向かい、地球環境保全に邁進する覚悟はおありなのでしょうか。
 地球温暖化による破滅を回避するためには、なんとしても、京都議定書の基本精神に立ち返り、発生源での温暖化物質の排出削減を断行しなくてはなりません。無理やり獲得した吸収源を使い切るのではなく、あくまでも補完措置であると位置づけるべきです。いかがでしょうか。

 また、環境問題に積極的にとりくむリーダーとしての姿勢を見せていただきたいと思います。ますます深刻化する有害化学物質による健康被害、これに取り組むための法整備、諫早湾干拓事業の、真の生態系回復につながる見直しができるかどうかという点も重要な試金石となることを指摘し、総理の覚悟を伺います。

(戦後処理)
 民主党は、先の国会で野党共同の「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」を提出するなど、戦後補償問題にとりくんで参りました。「過去と向き合えない日本」という国際的イメージを払拭するためにも、自らが行なった過去の不正義のすべてに取り組むべきだと思います。従軍慰安婦とされた女性たちの問題については、司法の場でも、判決文において「原告が受けた被害の重大さを考えると、立法措置を講じていないことに対する不満の心情は察するに余りある」と述べられるなど、立法府の重要性は明確に確認されています。総理として、歴史観を持ってこの問題を直視し、率先してこの法律案の成立に取り組むべきだと考えますが、いかがでしようか。

(まとめ)
 総理は所信表明演説において、わざわざ「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」とする憲法の前文を引用され、国際協調の精神の下、テロ対策に取り組む意欲を示されました。しかし総理、総理が引用されたくだりの前段には、「われらは、全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とあります。武力による報復が行なわれれば、罪のない人々を戦禍に巻き込み、難民を増やし、子どもたちを犠牲にします。この現実から目をそらすことはできません。

 日本は自国のことのみに専念すべきではありません。今年は、国連の定めた「文明間の対話年」であります。21世紀の初めの年でもある今年、公正なルールに基づいて正義を守り、テロや戦争の根本原因に迫り、解決に向けて積極的に努力し、世界に発信していくべきです。あわせて、創造性ある構造改革を押し進め、安心できる働く場の確立、新しい生き方をはぐくむ環境の整備、子どもを初めとしたすべての市民の人権擁護、環境問題へのとりくみなどを充実させる姿勢を世界に示すことで、やはり憲法前文にある通り、国際社会に名誉ある地位を占めることを目指したいと考えます。
 総理のお考えを伺って、質問を終えさせていただきます。

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