第151回通常国会 参議院本会議
施政方針演説に対する代表質問
民主党・新緑風会 久保 亘
私は、民主党・新緑風会を代表して、総理の施政方針を初め政府演説について質問いたします。
質問に先立ち、去る一月二十六日に起きた二つの出来事について謹んで哀悼の意をあらわしたいと思います。
インド西部大地震は、多数の犠牲者と被災者を出し、医療を初め生活支援と国際的な災害復旧援助が求められています。阪神・淡路大震災を経験した我が国にとって人ごとではありません。国民の間に善意の支援活動が広がっていますが、政府の一層の支援活動を要請するものであります。
もう一つは、新大久保駅におけるホーム転落事故であります。転落した人を助けようとしてともに犠牲となられた李さん、関根さんの正義感と勇気ある行動に深い感動を覚え、心から哀悼の誠をささげるものであります。李さんに寄せられた、李さんが命がけで助けようとしてくださったのは、たった一人の人間ではなく日本人全部のような気がしますという言葉は私たちの共感を呼び、李さん、関根さんの勇気ある行動は感動を持って長く語り継がれると思います。御冥福をお祈り申し上げます。
去る一月三十一日に発生した日航機ニアミス事故は、管制ミスと結論づけられたようですが、その責任はどこにあるのか、空路の安全確保と再発防止策はどのように講ぜられたのですか、総理に伺います。
日本の危機についての質問の第一は、経済の危機についてであります。
ダボスでの世界経済フォーラム全体会議において、総理は、日本経済の構造変化は予想以上に進行しており、間もなく本格的再生を終え、再び世界経済の最先端に立って貢献できる状況になると演説し、日本経済は潜在的成長率にあと一歩のところまで本年度に到達すると自信に満ちて述べられておりますが、参加者の中には日本の首相はグラフを逆さまに見ているのでないかとの評価もあったようですが、日本国民の実感とはほど遠く、市場にも反応せず株価は低迷を続けています。昨年の八月を景気の山と見るエコノミストもいる中で、このような強気で楽観的経済見通しを演説された根拠について、総理のダボス演説の自己評価を含めてお伺いしたいのであります。
FRBのグリーンスパン議長は、アメリカ上院において証言し、アメリカの景気は劇的に急減速しており、現時点では恐らくゼロ成長に近づいていると述べており、FRBは一カ月で一%の利下げを行ったのであります。政府、日銀の月例報告も輸出の減少を主因に下方修正され、日銀総裁は景気の下振れに注意を促しているのであります。
国民生活に視点を移せば、失業率の昨年平均は史上最悪の四・七%、三百二十万人に達し、リストラ、倒産の続く中で雇用不安は増大し、年金繰り延べによって継続雇用を求める国民の声は高くなっており、社会保障改革の先送りは将来不安を解消できず、消費の伸び悩みを続けており、日本経済は決して楽観を許さない状況と思われます。戦後政治の生き証人であり、財政経済のオーソリティーをもって任ずる宮澤財務大臣にも日本経済の現状認識と先行き観をお伺いいたします。
次は、政治の危機となっているKSD疑惑についてお尋ねいたします。
まずはっきりと申し上げておきたいことは、KSD疑惑は、疑惑の中心人物である村上正邦議員や、既に受託収賄で逮捕され議員辞職した小山孝雄前参議院議員、経済財政政策担当大臣を辞任した額賀福志郎衆議院議員らの個人的なスキャンダルにとどまるものではありません。まさに自民党全体の政官業癒着体質、金権腐敗体質を象徴するものにほかなりません。このような自民党の構造的政官業癒着体質、金権腐敗体質が政策をゆがめてきたことこそが、この国から社会正義を喪失させた最大の理由であります。森総理には中小企業経営者や個人事業主の憤りの声が聞こえているのでしょうか。
以下、総理にお伺いいたします。
総理は、額賀議員がKSDから千五百万円の資金提供を受けていたことを事前に知りながら額賀議員を経済財政政策担当大臣に任命したと報道されています。これは事実ですか。事実でないとすれば、いつの時点でそれを知ったのですか。任命権者としての責任についてお答えください。
さらに、森内閣のもとでの不祥事による閣僚辞任が、一年も経過しない内閣で、久世元金融再生委員長、中川前内閣官房長官に続く三人目となることについて、森総理は御自身の責任をどうお考えになっているのでしょうか。
額賀議員のケースに限らず、こうした不祥事が発生するたびに閣僚辞任で一件落着とばかりに強引に疑惑にふたをするのがこれまでのやり口であります。久世議員の党費肩がわり疑惑についても、証人喚問を求める野党の声は無視されました。しかし、額賀元内閣官房副長官にかけられた疑惑は、事もあろうに、政権の中枢である総理官邸が、KSDから資金提供を受ける見返りにものつくり大学の設置を推進したのではないかという疑惑であります。額賀議員の証人喚問を実現すべきだと考えるかどうか、総理御自身のお考えをお聞かせください。それは国会のことと言わないで、総理・総裁としての決意を語ってください。
また、公明党を代表して入閣されている坂口厚生労働大臣にもお答えいただきたいのであります。
KSD疑惑の核心は、KSDが村上議員や小山孝雄前議員を中心とする自民党の選挙マシンとして働いていたという問題です。我々の調査では、KSDは、会員名簿を利用して多数の自民党幽霊党員を集め、十七億円以上に上る党費を肩がわりしています。また、自民党支部に対し二億五千万円の献金を行っているほか、自民党機関紙への広告掲載料として別途二億円を支払っているとも言われています。つまり、会費の二十億円を超える巨額の資金が中小企業経営者や個人事業主の上前をはねた中から自民党に流れているのです。新たに秘書給与を負担させていた疑惑も報ぜられています。久世議員がマンション業者から党費肩がわりの資金提供を受けていたように、金で議席を手に入れる自民党参議院比例区の、これが実態であります。
自民党総裁である森総理にお尋ねいたしますが、この夏の参議院選挙でこのような政官業癒着型選挙と決別する覚悟はあるのですか。架空党員、立てかえ党費に対する自民党の責任もあわせてお伺いいたします。
KSD疑惑について、このほか、ものつくり大学の設置認可をめぐる不透明な経緯や、亀井政調会長が関与した異例とも言えるKSDの肩がわり負担ともいうべき二十億の補助金予算増額、複数の自民党政治家に渡ったとされる二千五百万円の使途不明金、総理サイドも受け取ったという歌謡ショー無料招待券などの疑惑があり、まさに疑惑のオンパレードと言うほかありません。
村上議員、小山孝雄前議員はもちろんのこと、野党の求める証人喚問を実現し、疑惑の全容解明をしないことには、政治に対する国民の信頼は永遠に取り戻すことはできません。総理にそのようなお考えがあるのか、お答え願います。公明党の坂口厚生労働大臣にも同じ質問をさせていただきます。
施政方針で述べられた、残念のきわみ、全力で信頼を回復したいという言葉に責任を持てば、証人喚問は不可欠と考えます。自民党に喚問に応ずる覚悟があれば、喚問を衆議院における予算通過後とする理由は全くありません。速やかに証人喚問を行うべきではありませんか。総理はいかがお考えですか。
第三は、外交の危機についてであります。
アメリカのブッシュ新大統領との新たなる日米関係の構築という喫緊の課題や停滞している日ロ、日朝交渉の行方等の外交課題を真っ先に挙げるべきところ、その直接の担当である外交官のありように触れざるを得ないことは、日本外交の汚点であることを指摘したいと思います。
そこでまず、外交機密費の流用問題についてお尋ねいたします。
去る一月二十五日、外務省は、元外務省要人外国訪問支援室長が外交機密費を競走馬やゴルフ会員権等の購入に流用した疑惑に対する報告書を発表しました。しかしながら、報告書には、官邸の内閣官房報償費との関係や官邸及び外務省上層部の組織的、人的関与に関する検証が欠落しており、今回の事件が一個人の犯罪なのか、外務省上層部を含めた組織的な問題なのか、全くわかりません。これでは、与党すら了承せず調査継続となったことからしても、国民が到底納得できるものではありません。継続調査の結果はいつ報告されるのでしょうか。
私は、外務大臣が、かつてロッキード事件のさなかに自民党を離党し、新自由クラブを結成された、あの若き日の河野洋平の愚直な正義感を思い起こしていただきたいと思うのであります。
不正が長期に及んだことは、同職員の倫理観の欠如とともに、外務省の体質や管理体制の欠陥を示すものであり、さらに組織的な関与の疑念さえ抱かせるものです。一片の報告書の提出をもって事足れりとすべき問題ではなく、外務大臣を初めとした外務省幹部の責任はもとより、場合によっては内閣の責任も厳しく問われなければなりません。
問題は、官房機密費の流用問題や外務省職員の日常の金銭感覚にまで及んで疑惑がささやかれていることであります。これでは、秘密を要するとする説明自体に疑念が生じてまいります。外交機密費や官房機密費の使途や目的等について明らかにするつもりはあるのか、また、会計検査院の会計検査体制の改善等についてどのような見解をお持ちか、総理、外務大臣の職員を監督する立場を含めて御所見を伺いたいのであります。
最後に、要人外国訪問支援室の要人とは首相に限定されているのか、支援室の本来の任務は何だったのか、外務大臣にお尋ねいたします。
総理、官房長官及び外務大臣の足元がこのようにずさんでは、日本外交の将来に暗い影を落とすものであり、外交交渉の相手国に軽くあしらわれることになると言わざるを得ません。このような事態は、ひとり政権与党の失態では済まされず、国益に反し、日本国民全体の安全を脅かすことになりかねない重大な問題であります。
先日、外務大臣はワシントンでアメリカのパウエル国務長官、ライス安全保障担当補佐官らと会談を行って帰国されましたが、新政権では多数の知日派の政権への復活で対日関係の改善が期待される中、事情を知っているからこそ厳しい要求が突きつけられ、予断を許さないとの分析もあります。事実、PKOに対する協力や日米同盟のあり方などで再検討を迫ることが予想されています。
また、去る一月十六日に公表されたアメリカ国防報告では、米軍の十万人体制という言葉が抜け落ちたと言われながら、現状維持という言葉も聞こえてまいります。我が国は多くの米軍基地を抱え、日米安保体制の維持に多大の貢献をしているわけですが、一方、基地を抱える沖縄では、これまでの綱紀粛正の声もむなしくさまざまな不祥事が続発し、一月十九日には沖縄県議会が米兵の不祥事に対して抗議決議を全会一致で可決しているほどであります。
懸案の普天間基地移転の問題も、いまだにはっきりした方針が示されているとは言えないのが現状であります。沖縄の普天間にかわる新基地使用期限十五年の要請も、沖縄県の声として伝えられるだけで、日本政府の提案として交渉していないのではありませんか。このような状況を受け、日本の総理として在日米軍基地の問題を今後どのように取り組んでいかれるのか、総理、外務大臣及び沖縄担当大臣から具体的な方針を伺います。
また、アメリカ側は、さきの国防報告でも、昨年の南北対話やこの一月の金総書記の中国訪問、各国との外交関係の樹立等を受けてもなお朝鮮民主主義人民共和国に対してミサイルの脅威を指摘するなど、厳しい見方をしています。中国に対しては、クリントン大統領がなした戦略的パートナーという位置づけから戦略的競争相手と言いかえるなど、前政権と異なったアプローチをとろうとしているとの指摘もあります。外務大臣、パウエル長官、ライス補佐官との会談でいかなる変化を感じておられますか。
このような中、日米同盟を外交・安全保障の基軸としている我が国は、一方で、今挙げた両国の隣国に当たり、リーダーシップをとるべき地理的関係にあります。ブッシュ新政権の発足及びその基本姿勢を受けて、我が国は対アメリカ外交及び対中国、北朝鮮を含めた東アジア諸国との外交をどのように展開されようとしておられるのですか。総理、施政方針では総理御自身のお考えが全く伝わってきません。総理は、朝鮮半島を含む東アジアの平和と安定に向けての日本の役割をどのようにお考えなのか、具体的にお示しいただきたい。
ロシアとの関係についてお伺いいたします。
昨年四月、サンクトペテルスブルクでの総理とプーチン大統領との会談以来、七月の九州・沖縄サミット、九月のプーチン大統領の来日、十一月のAPECなどで総理はプーチン大統領と会談をたび重ねてこられました。総理は、御自身のロシア訪問も視野に入れて、引き続き平和条約締結に全力を尽くすと表明されました。
これだけ一年間で直接会談を重ねながら、最近の日ロ交渉の状況を見ると、先行きが全く不透明になっています。九七年十一月のクラスノヤルスク合意はなし崩しの空証文に終わり、今後の交渉の道筋についても、二島先行返還論や四島一括論などさまざまな方針が出され、動揺を来しています。
外務大臣も、昨年十一月に続き、わずか二カ月後モスクワを訪れ、総理の訪ロ日程について合意されたと一たん発表されました。それがロシア側からの一方的な通告で破棄され、延期後の日程も不確定と聞きます。外相のプーチン大統領との会談もできなかったと伺っております。
こういったロシア側の外交慣例を破るような冷ややかな対応は一体どういうことでしょう。プーチン大統領との信頼関係に自信を示す総理が会えば会うほど状況が後戻りしているのではありませんか。
また、交渉に当たって自民党議員が総理の意向を受けて訪ロしたとのことですが、外相及び外務省の交渉とはどういう関連になるのでしょうか。
橋本・エリツィン・プランの発展という経済分野の協力プログラムの実行ばかり迫られるなど、ロシア側に一方的に扱われているという印象がぬぐえません。このようなことでは、先ほど述べた以上にますます日本外交の足元を見られていると言えるのではないでしょうか。
領土問題という国益が、単なる政治家の先陣争いに用いられることほど国益を危うくするものはありません。総理の訪ロや日ロ交渉も今の内閣に任せていいのか疑念を持たざるを得ません。今後の日ロ交渉についてどのような展望、方針をお持ちなのか、総理、外務大臣、この問題に関しては強い関心をお持ちの沖縄北方担当大臣にも、それぞれのお考えを伺います。
第四は、教育の危機についての質問であります。
昨年末に出された教育改革国民会議最終報告に基づいて、一月二十五日に文部科学省は二十一世紀教育新生プランを発表しました。このうち、幾つかの関連法案が今国会に提出される予定と伺っております。法案については提出を待って論議することになりますが、ここではまず教育改革国民会議の位置づけについて伺います。
教育改革国民会議は首相の私的諮問機関であり、何ら法的な根拠がありません。臨時教育審議会は臨教審設置法という法律に基づいた審議会であり、その設置の目的、位置づけについて国会での審議を経て発足したものです。これと比べて、教育改革国民会議は国会の審議を経ない何ら法的裏づけのない会議です。このような会議がいかなる権限を持って教育改革を提言し、これに基づき文部科学省が教育改革を行うのか、総理に御説明を願います。
教育改革国民会議は、最終答申を行った後どうなったのですか、解散したのですか。
次に、教育基本法の改正についてお伺いいたします。
総理は、基本法の抜本的改正を教育改革の柱に据えてこられました。初めて教育改革国民会議であいさつされたときから、新しい時代の基本法制定を訴えておられました。教育改革国民会議で改正反対の意見が出たと聞くと、反対の人は反対の理由を明らかにすべきとまで発言しておられます。どう考えても、改正すべきと考える側が理由を説明すべきで、改正不要との立場にその理由を聞くのはおかしな話です。
この教育改革国民会議には与党三会派から各一名ずつ国会議員がオブザーバーとして出席しており、会議の冒頭には教育基本法改正を誘導する発言がなされておりました。これでは、国民会議の名をかりて教育基本法の改正を打ち出すために利用したのではないかと疑われても仕方がないと言えます。私的諮問機関が国会審議の迂回バイパスの役割を果たしているのではないか。
総理は、教育基本法改正の理由を五十年たったからと発言しておられるようですが、法律は時間がたてば自動的に改正しなければならないものでしょうか。
教育改革国民会議の委員の一人は、初めて基本法を読んですばらしいと思った、なぜ変える必要があるのだ、むしろ基本法の目的が実現していないことを問題とすべきだと言われていますが、このように感じる方は多いと思います。
問われるべきは、これほどすぐれた内容の教育基本法を持ちながら、なぜその理念が生かされず、今のような教育の荒廃を招いたのか、その理由です。政府の努力が足りなかったからなのか、財政的な問題なのか、総理の御見解をお聞かせください。
臨教審の提案者であった総理として、臨教審による改革が成果を上げなかった理由についてどう考えておられますか。
また、国民会議は、教育基本法について新しい時代にふさわしい基本法の制定を答申していますが、その場合、国家至上主義や全体主義的なものとならないよう特につけ加えています。
そこでお尋ねしたいのは、首相の発言で問題になった天皇を中心とする神の国は、憲法の定める国民主権の民主主義の国が日本の国家像であることに照らして、発言は撤回されているのですか、明確にしていただきたいと思います。
また、十七年前、中曽根首相の意を受けて臨教審による教育改革を文部大臣としてリードされた森さんにぜひ伺っておきたいことがあります。
中曽根元首相は、ことしの初めに行われたテレビの報道番組に出演し、政治家は純粋性と愛国心を持つ必要がある、理想とかロマンとか純粋性を持たなくちゃいかぬ、浅沼稲次郎とかあるいは徳田球一とか、あるいは日本の右翼連中でも山口二矢とか、ああいう人たちはそういう純粋性を持っていたでしょう、今の政治家に足りないものは愛国的純粋性ですよ、これを我々が若い人にも教え、我々も実践しなくてはいかぬという重大な段階に来たと思いますよと主張されていました。
中曽根さんが政治家としてどのような信念を持たれようと構いませんが、昭和三十五年十月十二日、日比谷公会堂での党首立会演説会で演説中の浅沼さんを池田自民党総裁の目前で刺殺した山口二矢を愛国的純粋性の持ち主として若い人に教え、みずからも実践しなくてはならないときが来たと言われていることは日本国憲法の理念と精神に全く反するものであって、このような考えを教育改革の目標に置くとすれば重大であります。
池田首相はみずから浅沼委員長の追悼演説に立ち、浅沼さんは暴漢の凶刃に倒れた、浅沼さんのあいた席から、暴力は民主政治家にとって共通の敵という声が聞こえるようだと述べて、哀悼の言葉を贈られたことはきのうのことのようであります。
森さん、あなたは臨教審のコンビであった中曽根さんのこのような考えを支持されますか。憲法、教育基本法の根本に触れることでありますから、はっきりと答えてください。
民主党は、子ども一人一人を大切にします。子供たちの多様なニーズに対応できる柔軟な教育システムを目指しています。
そのためには、まず教育の徹底的な地方分権が不可欠だと考えております。地域、学校、保護者が自立と責任を持って教育に主体的にかかわる環境をつくり、教育はお上が与えるものではなく、地域と学校と家庭が連携してつくり上げていくものだという積極的な意識がはぐくまれるよう、制度とともに改革していきます。
地域の特色を生かし、学校や保護者のやる気を形にする草の根の教育改革を民主党は推進したいと思います。したがって、教科書採択制度についても、学校単位の採択の実現に向けて検討していくため、当面の措置として、教科書採択の調査研究により多くの教員の意向が反映されるよう採択地区の小規模化、採択方法の工夫を促している九七年の閣議決定及び行政改革委員会の最終意見は尊重されていると考えてもよいでしょうか、お伺いいたします。
第十六期中教審は、「新しい時代を拓く心を育てるために」と題する答申を行っています。その副題は「次世代を育てる心を失う危機」とされています。教育改革は大人社会のモラル低下を問うことから始めねばならぬと提言しているのです。
また、学校を強制と競争の場から、ともに生きる共生と共同によって生涯の友を得る場と考えるところから出発し、奉仕活動の義務化より農業の体験、自然との親しみを重視すべきであります。特に、文部科学大臣の発言として伝えられる、奉仕活動を昔の軍隊や自衛隊体験入隊に結びつけて青少年を鍛える場として発想し、奉仕活動を終えた者に十八歳選挙権を与えるという発言は、憲法四十四条に反する民主主義を理解しない教育の冒涜であって、奉仕の衣の下に改憲徴兵のよろいを見るのであります。総理も同じ認識をお持ちなのでしょうか。総理、このようなものを奉仕活動と言えるのでしょうか。
第十八期中教審鳥居会長の就任あいさつの中で、基本法の改正は憲法問題でもあるとの認識を示し、慎重に取り扱う、基本法改正先にありきという発想はとらないと述べられていることは重要であります。総理の見解を求めます。
政府は新しい基本法をいつ中教審に諮問されるおつもりですか。中教審の答申を経た後、国会に提出されるのでしょうか。
最後の質問は、財政の危機についてであります。
財務省の資料によれば、二〇〇一年度末の国債残高は三百八十九兆円に達し、利払い費は一日当たり二百八十五億円、一時間当たり十二億円にもなり、利払いのために十兆円を超す国債を発行しなければなりません。地方の債務を含めて長期債務残高は六百六十六兆円に及び、我が国の財政は借金王として歴史に残るなどと自虐的なことを言っている場合ではないのではありませんか。
財政構造改革推進法を凍結していることによって、小渕内閣以来今日まで景気対策が優先し、九八年度末から二〇〇一年度末までの三年間で債務残高は五百五十三兆円から六百六十六兆円まで百兆円以上増加することになります。我が国の財政赤字や債務残高の対GDP比はいずれも先進国中最悪の水準に達していますが、他の先進諸国が財政の健全化を着実に進める中で日本の財政悪化が急速に進行したのはなぜか、総理、財務大臣、お答えいただきたい。
先日報道された財務省の我が国の財政中期展望は、二〇〇四年度末の国債残高を四百八十三兆円としているが、財務大臣、この数字を下方修正もしくは二〇〇一年度末より残高減少できると考えているのですか。お答えをいただきたい。
政府は、来年度予算案において公債発行額を今年度よりも約四・三兆円縮減したと宣伝しておりますが、これは今年度予算で四・五兆円計上されていた金融安定化のための交付国債の償還分がなくなったことによるものにすぎず、何ら政府の自助努力によるものではないと考えますが、いかがでしょうか。
さて、政府・与党は、景気対策優先の財政運営と称して、これだけの財政赤字を垂れ流しておきながら、その結果はどうだったのでありましょうか。例えば、平均株価は今から三年前あるいはバブル前の一九八六年ごろと同じ一万三千円台を低迷しております。株価対策をどう考えていますか。一体何のための景気対策、何のための百兆円だったのでしょうか。
自民党を中心とする連立与党、そして政府がとってきた景気対策は効果を期待できたのでしょうか。景気対策とは名ばかりの選挙対策あるいは連立与党対策などでつかみ金をばらまいてきたに等しいのではありませんか。結果的にゼネコンなどの業界の救済に回っているだけで、経済対策としての効果は何ら発揮していないのではありませんか。地方団体の単独事業も二年続きで大幅に減少しており、むしろ公共事業が景気の足を引っ張っていると言わざるを得ません。
効果のない経済対策であるにもかかわらず、これを政策転換できず、景気低迷と財政赤字累増の中で全く身動きがとれなくなっている財政の現状について、総理はどのように受けとめておられるのでしょうか。
財政制度審議会は、昨年末の建議の中で、「将来にわたり持続可能な財政の仕組みを作り上げるための議論をこれ以上先送りするわけにはいかない。」と警告しております。政府の審議会でさえこのように警告せざるを得ない事態であることを、総理並びに財務大臣は一体どのような重みを持ってとらえておられるのでしょうか。また、この建議の趣旨を一体来年度予算編成に当たってどのように生かされたのでしょうか。施政方針に、先送りは許されないと述べられている総理の言葉はむなしい言葉ではありませんか。
言うまでもなく、財政構造改革は、その取り組みがおくれればおくれるほど実行可能性が希薄になってまいります。私たちは、あなた方にかわって政権を担当することになると確信しており、次の政権の第一の仕事は、経済状況に留意することはもちろんですが、取り組み開始から五年後には、基礎的収支、プライマリーバランスの均衡を達成することを目標にすべきだと考えております。このためには、まず徹底した歳出の見直しが必要であります。橋本内閣時代の財政構造改革における一律カット方式の失敗を教訓としながら、公共事業の大幅な削減、ODAや防衛力整備、エネルギー政策等の抜本的見直しなど、あらゆる分野にわたりめり張りのある歳出削減策を検討、断行しなければなりません。
財政破綻を放置すれば、一層大きな痛みが国民全体、特に社会的弱者に襲いかかることは明らかであります。
安心の社会、そして活力ある経済の実現のためにも、財政構造改革に早急に着手すべきであるし、それを先送りして今日の財政危機を招いた政府の責任は重いと考えますが、総理、いかがですか。
この際、財政再建に関連して、公共事業並びに社会保障の将来像についてお伺いをするつもりでありましたが、時間の関係で省略いたします。
日本は今、私が述べてまいりましたように危機の真っただ中にあります。国の基本法である憲法も、憲法の理念に向けて現実を変える改革ではなく、憲法の理念から遠ざかっている現実に合わせて憲法を変えようとする動きが強まっています。新しい時代にふさわしい教育基本法をという教育改革の論議も、結局憲法改正の道に通ずるのではないかという懸念が大きくなっています。
危機の解消は国民の信頼と協力を得て初めて可能となります。支持率一〇%台、不支持率七〇%を超える内閣によって我が国の危機を解消することはもはや不可能と言わなければなりません。
石原東京都知事はダボスで、私が今、森さんなら首相を辞任すると言ったそうですが、森内閣が国民に政治への信頼を回復する道はただ一つ、野に下って政権交代のある議会制民主主義が我が国にも息づいていることを示すことのみであります。
総理の決断を促して、私の質問を終わります。
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