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2001/02/05
首相施政方針演説に対する代表質問(鳩山代表)
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第151回通常国会
首相施政方針演説に対する代表質問
民主党代表  鳩山 由紀夫

(はじめに)


 私は、民主党・無所属クラブを代表して、私の所信の表明と森総理に対する質問をいたします。
 質問に先立ちまして、インド大地震で被災された方々に心からお見舞いを申し上げますとともに、先月二十六日夜、JR新大久保駅でホームに転落した男性を救助しようとして亡くなられた、韓国のイ・スヒョンさんと日本の関根史郎さんに対し、心より哀悼の意を表します。

 自らの危険を顧みずに人命救助にあたったお二人の行為は、決して代償を求めることのない、人間愛に基づいた崇高な行為でありました。とりわけ、日本留学中に事故に遭われたイ・スヒョンさんの悲劇は、韓国国民の皆さんにも涙をもって伝わったことと思います。お二人は、私たちに改めて「人間の尊厳」の大切さを教えてくれました。私は、政府並びJRに対して防護柵の整備などを強く求めると同時に、彼らの命をかけた善意が悲劇に変わることのない社会をつくることをお誓いいたします。



(国民の不安、政治の怠慢)


 国民を震撼させる猟奇的事件が、至る所で発生しています。特に、平穏に暮らしていた四人の家族が一夜のうちに惨殺された世田谷の一家殺人事件、姫路の中学生監禁事件、また連日のように報道されている少年犯罪。これらの事件は、テレビの向こうの遠い所で起きたものではなく、そのほとんどが私たちの身近な所で、同じ町内で、起こっているのです。

 これまでのわが国の社会秩序からは想像もつかなかったような事件が続発していることは、まさに日本の安全神話そのものが、完全に崩壊してしまったという事実に他なりません。国民生活の底流で劇的な変化が起きている、まさにその兆候なのだということを、私は、政治に携わる者として、重く受け止めています。

 その一方で、この十年間、多くの会社が倒産し、働き盛りの人がリストラされ、多数の中高年の方々が自殺に追い込まれました。自殺者の数は、交通事故で亡くなった方の三倍にも及んでいます。全国で三百二十万人の方が職を得られず、完全失業率は過去最悪を記録、サラリーマン世帯の消費は落ち込む一方です。一体、政府は、誰のために政治の舵取りをやっているのか。いまや、国民の不安感は絶望感へと変わりつつあります。いまこそこの現状を変え、日本の再生に取り組まなければなりません。

 この間、自民党政治は何をしてきたというのでしょうか。
 今から十二年前、バブル経済の絶頂期にあったわが国の土地の資産は約二千四百兆円、東京都内の土地を全て売却すればアメリカ全土が買えると言われたものでした。国民各界各層、すべての日本人が見せかけの豊かさを享受した反面、カネに歌い踊ったその夢は、まさに泡と消えたのであります。

 政治も霞ヶ関も、硬直しきった発想から抜け出すことなく、公共事業を頼りにした景気対策という名のバラマキ政策を繰り返し、結果的には、国と地方合わせて六百六十六兆円にも及ぶ巨額の借金を残して、日本を危機的状況に追い込んでしまいました。これは政治の失敗ということでは済みません。敢えて言うならば、将来世代に対する犯罪にも等しい行為です。

 バブルを生みバブルを煽った金融業界に代表される経営者らは、自らの非を認めることなく、その失敗のツケを国民に背負わせています。責任をとる勇気すら持たないこうした政財界のリーダーたちが、今日の国家的危機を生み出した大きな原因であると私は断じます。森総理は、こうした事態をもたらした要因をどのように判断しているのか、お尋ねいたします。

 私の左右の閣僚席をご覧下さい。この中に、バブルの発生とその処理に大きな責任を負っている二人の元総理がおいでになります。二十一世紀日本のスタートを切るべきこの国会で、この方々が森総理とともに、このひな壇に座り、日本再生を訴える姿に、強い違和感を覚えるのは果たして私だけでしょうか。本来、変えることのできる立場にいるにもかかわらず、何も変えようとしなかった自民党政治の、その象徴的な光景が、このひな壇に見られるのです。「悲劇」を通り越して「喜劇」とさえ私には思えますが、いかがでありましょうか。



(KSD事件は自民党政治の縮図である)


 日本経済の屋台骨を担い続けてきたのは、言うまでもなく、中小企業に働く経営者やその従業員の皆さんであり、まさに自らの額に汗して日本経済を力強く背負い続けてきた方々です。その中小企業経営者約百万人の方々から巨額のカネをかすめ取っていたのが、KSDの正体です。このKSDを舞台にした今回の事件は、自民党の政治家と旧労働省の官僚たちが、中小企業の経営者から預かったお金に群がり、政官業癒着のパイプを使って巨額の利益を得たという、極めて悪質な詐欺的行為以外の何ものでもありません。森総理は、クリプトクラシーという言葉をご存知ですか。

 小山孝雄前参議院議員、国会質問をカネで売り、受託収賄容疑で逮捕、議員辞職。村上正邦参議院議員、KSDのカネで参議院の議席を買ったと言われている疑惑の中心人物、自民党参議院議員会長を辞任。そして、額賀福志郎衆議院議員、千五百万円もの資金を受け取りながら後で返却したと弁明し、経済財政政策担当大臣を辞任。この他にも、多くの自民党議員、さらには霞ヶ関の官僚たちが、KSDマネーに群がりました。国民の怒りは、私にも届けられています。

 森総理、あなたは、先の施政方針演説で、KSD問題について、政治家一人ひとりの身を律していくことが重要だと言われました。何と無責任で他人事のような話でしょうか。このKSD問題は、一人ひとりの政治家の倫理の問題にとどまるものではなく、まさに自民党政治の腐敗構造そのものであり、問われるべきは利権と汚職にまみれたあなたの自民党そのものであります。わが党は、国会においてこのKSD問題について全容解明を行うため、徹底的に審議を行う方針でありますが、自民党総裁として、先に挙げた小山・村上・そして額賀三氏らの証人喚問要求にどのように応えるつもりなのか、明確にお答え願います。

 KSD事件は、氷山の一角に過ぎません。許認可権を利用し、補助金をばらまくことで、同じような仕掛けをつくり、自ら関連団体に天下りをする高級官僚、またこの仕組みを選挙に利用し、票とカネを集めようとする自民党型政治、この政官業のもたれあい体質そのものが、「ザ・自民党」なのです。

 自民党は性懲りもなく、この夏の参議院選挙でも、農林水産省・国土交通省・厚生労働省といった高級官僚OBを、もっぱら政官業のトライアングルを守るため、いわば業界の用心棒として擁立しています。これはまさに、公正な社会をつくろうとする良識的な国民に対する、挑戦的行為に他なりません。民主党は他の野党と共に、この「ザ・自民党」と徹底的に闘っていくことを、ここに改めて強く誓います。



(外交機密費横領事件)


アケミボタン、アケミダリア、アケミタンポポ。何の名前かご存知ですか。外務省の松尾克彦元室長が所有していた競走馬の名前です。松尾氏は現在、外務省で確認しただけでも五千万円余りの公金を流用し、競争馬の他にも、ゴルフ会員権やマンションを購入していました。松尾氏が流用した税金は、いわゆる機密費であります。

 総理、あなたには、機密費のあり方と使い途について、国民に説明をする義務があります。領収書もいらないカネを、毎年六十億円近く一体何に使っているのか、果たしてこれらのカネは今後も必要なのかどうか。この国会で徹底的に審議しようではないですか。私は、日本の外交のために海外で苦労をしている真面目な外交官を知っています。外交上必要な予算を、決して否定するものではありません。しかし、今回の事件は、そうした真面目な外交官の積み上げてきた信頼を決定的に損ねるものであり、外務省ひいては日本に対する不信感の増幅は計り知れないものがあります。

 国民が官房機密費や外交機密費に対し大きな疑念を抱いているいま、最も必要なことは、政府が責任をもって、国民が納得する形で調査し、全容を明らかにすることです。そもそも、外交機密費とは別に毎年計上される総理大臣官房報償費は、五十五年体制のいわば政治的遺物であり、官邸が機密費として持つ必要性はなくなったのではありませんか。総理の返答を期待いたします。

 河野外務大臣、あなたは先に、外務省としての調査報告を発表されました。しかしその内容は到底真相の解明には至っておらず、与党内からも疑問が出ています。もし、報告が出された以外に新たな事実が出てきたら、自ら職を辞し責任をとるべきだと考えますが、いかがですか。明快な答弁を期待します。

 森総理、私が何でここまで申し上げるのかおわかりですか。それは、単なる党利党略のスキャンダル追及で言っているのではないのです。一連の事件について国民に真実が知らされなければ、あなた方は生き延びても、民主主義は死ぬことになるからです。「信なくば立たず」と言われた三木武夫元総理にならって、政治の信頼回復のために事実を隠蔽することなく、自ら過ちを正し、民主主義の危機を救済することを期待せんがためであります。総理の、毅然たる姿勢をお示し願います。



(何のための行革か?)


 本年一月、省庁再編が実現し、新しい霞ヶ関の体制がスタートしました。しかし、残念ながら、今回の再編は一言で言えば「官僚の、官僚による、官僚のための」改革でしかありません。霞ヶ関の権限を大幅に削減し、公益法人などを全廃してこそ、はじめて真の改革です。にもかかわらず、政府は、省庁の数は減らしたものの、思い切った許認可権の廃止や天下りの禁止など、公務員制度改革には一切手をつけていません。一体、何故ですか。

 日本の国は、北海道から沖縄まで全国津々浦々、バラエティーに富んだ地域性をもった個性あふれる社会です。地方はいま、中央省庁の理不尽な行政介入に辟易とし、大胆な権限と財源の移譲を強く求めています。巨大官庁の出現は、そうした地方の声を抹殺し、さらに中央集権の体制を強めるものです。構造改革を実現するためにも、分権改革の断行が総理に求められていると思うのですが、いかがですか。



(大本営発表では乗り切れない)


 太平洋戦争のさなか、軍部は、戦局が極めて不利な状況にあるにもかかわらず、その現実を国民に一切知らせることなく、「勝った、勝った」と宣伝し続けました。今日、政府が相変わらず「景気は緩やかな回復軌道にある」という大本営発表を続けているさなかにも、月例経済報告では景気判断の下方修正を迫られているではありませんか。国民は厳しい現実に立ち向かう気概を持っています。現実を直視し、国民に真実を伝えるべきです。

 森総理、あなたは先のダボス会議において、「日本はバブルの負の遺産を解消し、完全に復活する体制を整えつつある」と大見得を切りました。しかし、あなたは一体何を根拠に、このような発言をされたのでしょうか。私は、日本の金融システムが不良債権を完全に処理する体制を整えているとはまったく思っておりません。それどころか、金融機関がいまだに巨額の不良債権を抱えており、その重みが貸し渋りなど金融仲介機能の機能不全を起し、年間一万九千の企業を倒産させ、日本経済の足を引っ張っていると考えています。株価低迷の本質的な原因もまさにここにあります。

 民主党が主張してきたように、経営責任を明確にした上で厳格な資産査定と引当てを課し、不良債権の抜本的な処理を断行していれば、金融システムはいまごろ健全化され、ペイオフ延期などという世界から失笑を買う問題先送りも必要なかったはずです。

 呆れたことに、与党内からは、ペイオフを再び延期すべきだという声すら出てきました。まったくもって言語道断です。金融システムの現状をどう考え、どう健全化していくのか、総理としてのお考えをお聞かせ下さい。

昨年の失業率が過去最悪を記録したことに触れ、総理は、あたかも「構造改革が進んだから当然だ」と言わんばかりの発言をしています。こうした最悪の状態が二年間も続いていることは、不良債権処理を適切に行うことなく、困難な問題の解決をすべて先送りしてきた政府の経済失政の結果に他なりません。雇用の回復なくして、本当の景気回復はあり得ません。いまや、雇用問題こそが最大の政策課題であります。低迷する経済と雇用の実相について、大本営発表を繰り返してきた政府としての責任をどう感じておられるのでしょうか。



(いまこそ、財政構造改革を)


 財政構造改革に必要なものはただ一つ、政治の覚悟です。民主党は、五年間でプライマリー・バランスを回復し、財政健全化の一歩にすると提言しています。既得権を打ち破り、公共事業などの歳出を徹底的に削減するしかないのです。森総理は、二○○一年度予算案において公共事業の抜本的見直しを行ったことを誇らしげに語っていますが、中止した予算額は百五十億円に過ぎず、公共事業全体の予算はまったく減ってはいません。

 私は、国の資源配分を、ハコモノなどへの投資から人に対する投資へと、抜本的に見直すべきだと考えます。例えば、農業においても、農業土木ではなく、担い手育成などへの投資を重視すべきです。また、コンクリートのダムを「みどりのダム」へと転換するなど、資源配分の見直しと規制改革こそが、民間部門の経済を活性化して新たな産業や雇用を生み出し、二十一世紀の日本の経済構造を大きく変えることができるのです。総理の、財政構造改革及び財政健全化への具体的な構想をお尋ねします。

 また、われわれ野党四党は、近く機密費の見直しを含む予算組替要求案を提出し、その中で三千億円の公共事業等予備費の削除も盛り込む方針です。総理、組み替えに応ずる用意はおありですか。



(有明海の汚染は自民党政治の失政である)


 私たちは、いまから四年前、諫早湾の干拓は国民の血税を無駄に使う公共事業であるばかりか、水質汚濁・環境汚染をつくり出し、地域住民はもとより、有明海を愛する多くの人たちにとって無意味なものだと主張しました。しかし、自民党と農林水産省は、私たちの声を無視して、農業振興、さらには防災対策という美名の下に、干拓事業を強行したのであります。

 いま、その有明海では、黒い海苔が黄色く変色するなど、様々な異変が起きています。強引に諫早湾の干拓を進めて、有明海を魚介類の住めない死の海にし、漁民の生活を破壊しようとしている、その罪の重さを心に銘記すべきであります。

 森総理は、自ら調査をすると発言されたようですが、それは如何なる調査をいつまでに求めたものか、明確にして頂きたい。

 総理、いまからでも遅くはありません。我々民主党が主張したように、干拓事業の失敗を認め、直ちに水門を開けるべきです。



(国民に安心をもたらす社会保障の確立)


 「老いて益々盛ん」になるべき老後が「老いて益々不安」になる、これがわが国の皮肉な現実です。この間、政府は、介護保険制度を歪め、国民と約束したはずの医療制度の抜本改革を、医師会の圧力に屈して先送りにし、さらに昨年の年金制度改正では年金額をまたもや切り下げ、国民の不安に拍車をかけました。

 総受給額が一千万円も減らされた若い世代の間には、急速に年金制度に対する不信感が拡がり、年金に加入しない方が増え続けるなど、制度の根幹が揺らいでいます。民主党は、国民の将来不安を解消することが、政治の急務であり責任だと言い続けてきました。基礎年金を全額税で賄い、誰もが不安なく老後を迎えられる制度とすべきです。総理のお考えを伺います。



(選挙制度は民主主義の根幹である)


 昨年の秋以降、与党の中で、衆議院の選挙制度を中選挙区制に戻そうとする議論が盛んに行われています。この選挙制度の話は、相撲に例えれば、丸い土俵を四角に変えようとするものであり、世間では、「ご都合主義」と呼んでいるものです。自分たちに有利になるように変えようとする心根の卑しさに、私は民主主義の危機を感じるのです。

 イギリスでは、あの腐敗防止法ができたとき、「腐った玉子で、美味しいオムレツは作れない」という諺が生まれました。「腐った政治では暮らしは良くならない」ということです。日本の与党は、いわゆる斡旋利得禁止法を腐らせ、今度は選挙制度を腐らせようとしています。何をかいわんやであります。

 選挙制度改革については、何よりもまず一票の格差を是正することが重要です。有権者一人ひとりの持つ国政に対する発言権の公正さを確保するよう、強く望みます。このことについては、連立を組んでいる公明党の考えも質さなければなりません。総理および坂口厚生労働大臣は、ご都合主義的選挙制度改悪を、またもや与野党の合意なくしてやるつもりなのか、お尋ねします。

 一九六四年、腐敗の根絶と福祉の充実、人権の擁護、そして何よりも平和を大切にする庶民の政党として結党されたのが公明党です。こともあろうに、その公明党が、利権と汚職にまみれた自民党と手を組み、その延命に手を貸し、今度のKSD事件も外務省の機密費流用問題も、国会の審議にすら出てこなかったのですから驚きです。

 「弱きを助け強きをくじく」はずの政党が、なぜ、「強きを助け弱きをくじく」自民党政治を支えるのですか。私は、敢えてここに「公明党よ、結党の精神を思い起こせ」と改めて呼びかけたい気持ちです。坂口厚生労働大臣の、この問いに対する率直なお答えをお聞かせ下さい。



(二十一世紀のスタートに立って)


 新しい世紀のスタート地点に立ち、私は、いかなる歴史の課題に対しても積極的にチャレンジし、未来に向けて能動的に思考する精神の構えが、最も求められていると思います。省みれば、二十世紀は戦争と経済成長万能の時代でした。中央集権体制のもとで、結局それがもたらしたものは、物質的な豊かさの陰の、精神の荒廃と環境破壊ではなかったでしょうか。

 私は、この東アジア地域が平和を愛し、様々な国の経済と文化が「共生する地域」となることを望んでいます。二十世紀最後の月、中国の江沢民主席にお会いしたとき、私が東アジアに「不戦共同体」をつくるべきだと提案してきたのもこのためでした。アメリカがブッシュ政権へと変わり、日本重視を強めれば、それだけまた日本は中国との信頼の絆を大切にすべきですし、アメリカの信頼に応える努力もしなければなりません。それぞれの国家の自立性と共生とのバランスが二十一世紀の課題であり、私は、日本がその大事業に積極的な役割を果たしていくべきだと考えています。

 ITの活用は、国籍や言語、人種や宗教などの違いによって分断されてきた時代に決別し、あらゆる境遇と地位にある人たちが、地球市民として「共生」する新しい時代を築く可能性をもっています。その新しい技術と人権保障が結びつくなら、二十一世紀は「共生の世紀」「人権の世紀」となることでしょう。その新しい流れを現実のものとする力の現れが、環境NGOなど開かれた公益を実現する様々なNPOの誕生と、その国境を越えた活動です。この地球上に「共生の文化」を育むためにも、NPO法人の多くが自由に活動できるための税の支援策を早急に実現したいと考えます。政府の考えるNPO税制は、羊頭狗肉にすぎません。また、私たちが、夫婦別姓を選択できる民法の改正に積極的に挑み、男女共同参画の社会を率先して切り拓き、永住外国人に地方参政権を与えることに意欲的であるのも、こうした考えに基づいています。

 新しい世紀では、人間と自然、環境と経済を「共生」する社会を創り出さなければなりません。昨年十一月に開かれたCOP6は、各国の利害が錯綜し、地球温暖化防止のための国際的な合意を達成できませんでした。とりわけ、日本政府は、根拠に乏しい森林吸収源の主張を繰り返し、会議決裂の張本人になりました。この責任は重大です。日本こそ、地球温暖化の問題に先頭に立って責任を負うべきと考えます。

 経済においても、規制改革を断行して市場原理に基づく公正な競争を促進するとともに、やり直しのきく仕組みを十分に確立し、安心のためのセイフティネットの徹底を図っていくことです。「強い経済には、強い福祉を」ということが、新しい世紀においてめざすべき姿です。

 経済と雇用と社会正義の三つを同時に満たすことが出来るのは、人間の能力を高める教育です。ところが、不登校十三万人、高校中退十一万人、これが日本の教育の現状です。その上、高校で七割、中学校で五割、小学校で三割が「授業が理解できない」子どもたちです。これが、現代の「七・五・三」と言われる深刻な現実なのです。

 この国の子どもたちは悩んでいます。受験戦争や社会のシステムが、「他人は敵」と見る競争原理を教え、「他人は味方」と見る協力原理は忘れ去られています。「自立と共生」の教育を放棄して、子どもたちに知識や道徳を押しつけても、問題の解決にはなりません。まして、森総理のように教育基本法の中に道徳観の復興を唱えれば良いというほど、単純なものではありません。

 政府がなすべきことは、まず、国の画一的な指導による現在の教育制度を変え、国は最低限度の基準を示すにとどめ、地域の人々が参画しながら責任を持って学校を運営する仕組みに転換することです。民主党は、その一つとして、「コミュニティースクール」の設置支援を挙げています。そして、子どもたちや親たちの選択の幅を広げて、自由な学校教育を実現することです。

 私は、人材育成のための投資が真の公共投資だと考えます。職業能力開発や生涯学習のチャンスを飛躍的に拡大し、人生のあらゆるステージで、希望する教育を受けられる社会をつくることが重要です。民主党政権では、何よりもこうした「人」に対する投資を最優先します。私は、二十一世紀を「人間復興の世紀」としたいのです。



(むすびに)


 いまから百年前、ロンドンにいた夏目漱石は、ヴィクトリア女王の逝去という歴史的事件に遭遇し、えも言われぬ世紀末的不安を抱きました。漱石は、近代日本の軽薄を予測して、祖国の行方に強い懸念を表明していました。自己本位、すなわち独立自尊の精神を失い、拝金主義に流れる近代日本の姿を想像しては、精神の荒廃を予測し嘆いていたのであります。新世紀を迎えた今日の日本の姿は、漱石の危惧そのままではないかと私は思っています。

 この国の流れを変えなくてはなりません。いまこそ、歴史の峠を越え、二十一世紀にふさわしい「新しい政府」を実現し、構造改革という困難な道を、英断をもって突き進む勇気ある行動にチャレンジしようではありませんか。その最初の仕事が、「ザ・自民党」政治を終焉させることです。私は、忘れかけている日本人の誇りと崇高な志を取り戻す闘いを、今日ただいまから開始することを宣言し、所信の表明と質問を終わります。

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