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2000/09/25
森首相の所信表明演説に対する代表質問(岡田議員)
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民主党政策調査会長  岡田 克也

 民主党の岡田克也です。質問に先立ち、森総理に一言、率直に申し上げたいことがあります。それは第二次森内閣の組閣についてです。来年1月からの省庁再編を控え、年内にも新たな組閣が行われると言われていますが、なぜ半年間の任期しかない内閣をつくったのでしょうか。半年間しか任期のないことがあらかじめ分かっている大臣に、官僚に対してリ−ダ−シップを発揮しろと言うほうが無理ではないでしょうか。

 例えば省庁再編は霞が関の大改革です。しかし、この改革に魂を入れるためには政治家がしっかりリ−ダ−シップを取らなければなりません。数カ月後に交代することが分かっている大臣にそれを求めることは困難です。結局は官僚ペ−スで実質的に重要なことがいま、決まりつつあるのです。社会保障や教育などの大改革も任期の短い大臣のもとでは足踏みするしかありません。

 森総理にいま極めて重要な時期にある日本国のトップリ−ダ−としての責任と自覚はあるのでしょうか。能力本位ではなく、当選回数主義により任期6カ月の大臣を大量生産する森総理からは、時代に対する危機感を感じることはできません。21日の所信表明演説においても総理が自らの意志と責任で難局に立ち向かって行こうという気迫を感じさせるものはありませんでした。 

 以下、鳩山代表との重複を避けながら森総理の所信表明演説に対して質問します。

 まず、外交・安全保障に関して質問します。森総理は所信表明演説の中で「先見性と戦略性を持って、積極的かつ創造的に外交を展開する」と述べられました。私の目には森外交には先見性も戦略性もなく、目の前にある大きなチャンスをみすみす逃し、失点を重ねているとしか見えません。流れに身をまかせるままの主体性なき森外交により、いかに国益が損なわれたか以下具体的に指摘し、森総理の答弁を求めます。   

 第一に私が指摘したいのは日露平和条約交渉です。三年前に、当時の橋本総理とエリツィン大統領の間で「2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」との合意がなされました。このクラスノヤルスクの合意は当時「日露関係に大きな突破口を開くもの」であり「日ソ共同宣言以来の大きな前進」であると高く評価されました。その締結期限である2000年も残すところ4ヵ月となったところで開催された9月の日露首脳会談が平和条約締結、即ち領土問題解決に向けた極めて重要な意義を持つものであったことは言うまでもありません。しかし、首脳会談はクラスノヤルスク合意実現のための努力を継続することを共同声明で確認するだけで、新たな合意はありませんでした。私は今回の森・プ−チン会談は、大国間の外交交渉にはめずらしい一方的なもので日本の完敗だったと思います。

 そこで森総理に四点お伺いします。一つ、今回の共同声明は実質的にはクラスノヤルスク合意を事実上白紙に戻すことであり2000年末までに平和条約を締結することを事実上断念したものであると私は判断しますが総理はどう考えますか。二つ、プ−チン大統領の厳しい対応は事前に十分予想されたことです。少なくとも2000年にかわる新たな期限の設定をするなどの妥協はできなかったのでしょうか。あまりにも戦略に欠けていたと言われても仕方ないのではないですか。三つ、森総理はこのような一方的な結果を招いたこと即ち日本の国益を大きく損なったことに対して、どのような責任を感じているのでしょうか。四つ、近い将来の平和条約締結のために今どのような先見性と戦略を持って挑まれるのか以上四点について明快な答弁を求めます。

 第二に森総理のインド・パキスタン訪問について質問します。この訪問に関し、森総理は「多くの成果を得ました」と述べられていますが、私にはそもそも何のためにこの時期、インド・パキスタンを訪問したのか、その意図すら理解できません。インド・パキスタンは、いうまでもなく無謀な核実験を行い、世界中から強い批判を受けました。我が国も経済制裁を続行中です。このような状況の下で訪問された森総理の最大のなすべきことは核の問題であったことは自明のことと私は考えます。核問題に関して森総理はどのような成果を挙げたのでしょうか。私はインド・パキスタンが核保有国となったことに対する森総理の危機感があまりにも欠如しているのではないかと感じています。

 以下三点質問します。一つ、インド・パキスタンの核保有を放置することは、核保有国は米露英仏中の五ヵ国以上に増やさないという戦後長く続いた核不拡散体制の重大な逸脱であり、今後更なる核保有国を生む引き金になり得るとの認識はお持ちでしょうか。二つ、カシミ−ル問題を持つ両国が核を持つことは、現実に核が使用される可能性すら否定できないと考えますが、そのような危機感はお持ちでしょうか。三つ、だからこそ両国の核保有について早期にこれを断念するよう説得することこそが世界が日本に期待していた役割であったと考えますが森総理はこの点に関しどのような役割、責任を果たしたのでしょうか。明快な答弁を求めます。

 第三に日米関係について質問します。森総理は日米関係は我が国外交の基軸であるとのべられました。私も同感です。しかし、日米両国が真のパ−トナ−シップで結ばれるためには日本が米国に一方的に依存、従属するのでなく、自らの主体性を持って主張すべきことは主張し、同時に果すべき責任を全うしていくとの関係を構築することが必要です。この視点から普天間飛行場の移設問題について森総理にお聞きしたい。総理は沖縄県が15年の使用期限を設けるよう求めていることをどう考えているのですか。沖縄サミット時の日米首脳会談の際、クリントン大統領との間でこの問題を真剣に話し合った形跡はありません。沖縄県の要望を米国政府に単に伝えるだけの日本政府、森総理の姿勢は沖縄県に対して不誠実であるだけでなく、米国政府に対しても果すべき責任を逃げていると受け取られているのではないでしょうか。森総理の責任ある答弁を求めます。

 第四にいわゆる有事法制について質問します。この点について森総理は所信表明演説の中で「法制化の検討を開始するよう要請するとの与党の考え方を十分受けとめながら政府の対応を考える」と述べるにとどまっています。これでは日本国総理大臣としての意思を何も感じることができません。

 私は日本が侵略されるなどの緊急事態が発生したきに自衛隊がシビリアンコントロ−ルの下で適切に活動するためのル−ルをあらかじめ法律として決めておくことは政治の当然の責任であると考えています。「与党に言われたから」とか「政府の対応をこれから考える」との第三者的な演説は日本国総理大臣として無責任です。総理のこの問題についてのより明快な答弁を求めます。また、いうまでもなく自衛隊の出動などにより平常時とは異なる権利義務関係が生じ国民の権利が制限される場合が想定されます。緊急事態や有事の名の下に基本的人権を不当に制約しないとの基本原則をまず法制化にあたって確認することが極めて重要と考えますが総理のお考えを伺います。

 次に経済・財政問題について質問します。 第一に補正予算の必要性について伺います。私は景気の現状を楽観視している訳ではありません。不良債権の処理、不透明な消費の先行き、原油高の影響など不安定要因はたくさんあります。しかし、一年前と比べ明らかに異なる点があります。それは企業収益が改善し、大企業を中心に設備投資が持ち直しつつあることです。このような民間の資金需要が活発化しつつある中で公共事業を中心とした景気対策を実行することは、必要でないのみならず金利上昇を招き民間の自律的回復に水をさす可能性が高いと私は考えます。補正予算は経済構造を改革し、民間主導の経済成長を促進するものに限るべきで、伝えられる政府の従来型の公共事業を中心とした補正予算案は不要であるばかりか有害であると考えます。森総理の見解をお伺いします。 

 第二に景気対策と財政構造改革の関係です。森総理は就任時には景気回復を最優先する小渕前総理の路線を踏襲すると言明されました。ところが今回の所信表明演説においては、財政の効率化と質的改善を進めることや持続可能な財政の仕組み作りのための準備を強調されています。いままでになかったことです。森総理は路線転換したのでしょうか。

 小渕前総理は景気回復を優先すると明言されました。私の結論は小渕前総理とは違いましたが、日本国総理大臣として、自らの考え方を明確に述べられたことは立派だったと思います。森総理は景気回復と財政構造改革について基本的にどのように考えておられるのか、国民に対し明確な表現で答弁することを求めます。 

 第三に財政構造改革の重要な柱である社会保障制度改革について質問します。まず、今国会に健康保険法と医療法の一部改正案が提出されます。いずれも2000年までに医療制度の抜本改革を行うとの約束を踏みにじった末、提出された部分的な改革案で極めて問題があると言わざるを得ません。平成九年の健保法改正以来の政府の改革の約束とその後の後退の繰り返しをみるとき、日本医師会等の医療提供者にあまりにも片寄った自民党の姿勢に強い懸念を持たざるを得ません。森総理には患者や健康保険料を負担している生活者の立場に立って医療制度改革を断行する決意はおありでしょうか。答弁を求めます。

 次に総理は所信表明演説の中で社会保障の基本は自己責任の原則に立つ社会保険方式に基づくべきと述べられました。しかし、自己責任だから社会保険方式がよいとの議論は納得いきません。今後更に増大する社会保障の財源を税と社会保険のいずれでまかなうのかという議論は世代間の公平の確保、システムの効率性や安定性などの視点を踏まえた議論がなされるべきで自己責任原則をキ−ワ−ドにすることは不適当だと考えますが総理の見解を求めます。

 次に今国会での焦点と考えられるいくつかの点について質問します。 第一に永住外国人の地方参政権の問題です。総理はこの問題について「国会において御議論を進めていただきたいと考えております。」と述べるだけで、自らの意思を感じさせるものは全くありません。森総理御自身は、永住外国人に地方参政権を認めることに賛成ですか、それとも反対なのでしょうか。答弁を求めます。また総理は「国会において議論を進めていただきたい」と言われましたが各党の賛否は既に決まっているのです。決まってないのは自由民主党の対応であり、自民党総裁として森総理がより強いリ−ダ−シップを発揮すべきと考えますがその意思はあるのでしょうか。答弁を求めます。

 次にこの問題は自公両党の連立にあたっての重要合意事項であったはずです。続総務庁長官に対して法案成立に向けて公明党はいかなる決意で、のぞまれるのか答弁を求めます。

 第二に少年法について質問します。総理は少年法改正について「政府としては与党の議論の結論を受けて適切に対応する」と述べられました。まるで与党に丸投げしているかのようで総理としての考えは全く示されていません。多くの国民が関心を持つこの問題に総理の考えが示されないことは極めて残念です。私は犯罪に対して、き然とした姿勢を示し自らの行いに対し責任をとるとの規範を徹底することは大変重要なことと考えています。

 しかし、今問題になっているのは、人格の形成過程にある未成年者に対する刑事処分の問題です。総理に二点答弁を求めます。一つ、今回の与党の改正案による副作用はないのでしょうか。凶悪事件に目を奪われるあまり、更生の可能性ある少年の未来を奪うことにならないのでしょうか。二つ、最近の少年による想像を越える犯罪は、少年法の改正だけではとうてい解決できるものではありません。専門家の意見を十分に踏まえ、また当事者である少年達の育った環境などに対する徹底的な分析などを踏まえた総合的な対策が必要ではないでしょうか。いつまでにこのような総合対策を準備されるのでしょうか。

 この問題は総理が自らの言葉で国民に語るべき重大な問題だと考え、納得のいく答弁を求めます。

 第三に政治資金の問題について質問します。久世金融再生委員長は特定の企業から利益提供を受けていたことを理由に辞任しました。とくに特定企業から1億円の資金提供を受けていた問題は見逃せません。企業側の説明によると自民党本部の建物を管理する財団法人自由民主会館に対し寄付したことになっており、他方久世議員側は党費の肩代わりを自民党に振り込んでもらったとしています。どちらの言い分が真実なのでしょうか。またいずれが真実であろうとも、事実上自民党と一体化した財団か架空の党員を使った裏献金である疑いは濃厚であります。自民党総裁としての森さんにお聞きします。このような手法は違法な行為であるとの認識はありますか、また自民党においてどの程度行われまた、現在もおこなわれているのでしょうか。答弁を求めます。

 私は政治資金の流れをより透明にするため、今すぐ実行できることとして、収支報告書の保存期間の延長とコピ−の解禁を提案します。総理の賛同を得たいと思いますが如何でしょうか。答弁を求めます。 

 以上、総理の所信表明演説に関し、私の考えを述べてきました。私が森総理の演説を聞いていて、最も残念なことは日本国総理大臣として、自らの責任を果していこうという強い意思が感じられないことです。流れに任せるままの主体性なき森外交により日本国の国益が大きく失われています。経済政策の分野では経済企画庁長官や亀井政調会長にまかせ切りで総理の存在感は希薄です。今国会の重要案件である少年法改正や参議院選挙制度、永住外国人に対する地方選挙権の付与などの問題に対しても所信表明演説の中で総理としての明確な方向性は示されませんでした。

 私はいままで質問するに際し、私自身の考えを明確に示したうえで森総理のお考えを質問してきました。せめて、私の質問に対しては、官僚の作成した答弁を棒読みするのではなく総理自身の考えを総理自身の言葉で語っていただきたいと思います。総理の答弁が納得のいかないものであった場合には二度、三度と引き続き再質問を行うことを念のため申し添えて、私の代表質問とします。

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