参議院本会議で23日、11月1日に期限切れとなるテロ対策特別措置法を1年間延長する同法改正案の質疑が行われ、民主党・新緑風会の犬塚直史議員がテロ特措法の延長に反対の立場から質問に立った。
本題の前に犬塚議員は、首相の憲法改正に対する考え方に言及。憲法の制定過程において日本が占領下にあったことを憲法改正の理由として挙げている首相に、制定国会において日本国憲法を審議した衆議院憲法改正特別委員会の芦田委員長の報告演説を示し、「たとえ敗戦してもわが国会は他国に強制されて憲法を制定したわけではない」と指摘した。
続いて、テロ特措法の事前承認の必要性について取り上げ、停戦合意が前提のPKOや、我国の安全保障に直結する周辺事態法でさえ国会の事前承認が原則であることを明らかにしたうえで、地域要件がなく、支援対象も米軍だけにとどまらないテロ特措法が事前承認なしとなっている点について、「(本来、テロ特措法こそ)最も慎重なシビリアンコントロールを確保しなければならない」と指摘。時間的余裕のあるテロ特措法が事後承認でよしとするのは国会軽視といわざるを得ないとの見方も示し、首相の認識を質した。首相は、「国会で十分にご審議をいただいた上で、この法律が成立の運びとなれば、自衛隊派遣について基本的に国会の同意が見られたとみなしうると考えたことから、事後承認とした」などと答弁するに留まった。
犬塚議員はまた、原油価格高騰か続くなかでの海上自衛隊による無償の補給活動が防衛予算を圧迫している実態を指摘。同時に、日本周辺で北朝鮮の脅威が高まる中、装備に余裕があるわけではない自衛隊がテロ特措法による活動を行うのは、最も重要な任務であるはずの国防に支障をきたすことになるのではないかと問題提起した。さらに、アフガニスタンのテロ対策は現地の人達を主役とした国づくりに尽きるのではないかとの考えを示し、「延長の必要性を国会で事前に検証できないようでは結局現地のニーズに答えることもできず、また日本の専守防衛能力にも不安を与えかねない」と重ねて指摘した。それに対して首相は、「国会で十分にご審議をいただいた上で、この法律が成立の運びとなれば、自衛隊派遣について基本的に国会の同意が見られたとみなしうると考えたことから、事後承認とした」などと答弁。同時に「国際社会におけるテロとの戦いは依然続いており、わが国は国際協調のもと、引き続き、重要な役割を果たさなければならないと考えており、テロ特措法の延長が必要と考えている。なお、わが国の防衛には万全を期する」と答えた。
さらに、自衛隊が支援を行って5年が経過したが、アフガニスタンの治安は悪化の一途をたどっている実態にも言及。本来、日本に求められる支援はテロの原因となる貧困や雇用の改善、DDR、地雷対策、警察支援、復興支援などであるはずだとしたうえで、テロ特措法のなし崩し的延長は、つまるところ我国のテロ対策の戦略欠如によると指摘した。
自衛隊の撤収時期を決める明確な条件を示していない政府の姿勢についても、犬塚議員は問題視し、出口戦略をもたずに半年・一年の延長を繰り返すのではなく撤収時期についての明確な方向性を示すべきだとして首相に答弁を求めた。首相は、終了条件を一概に示すのは困難だとしたうえで、「テロとの闘いへの国際社会の取り組みの推移やわが国にふさわしい役割を果たして行くうえで自衛隊の活動を継続する必要性等を勘案して、適切に判断していく」などと述べ、明確な条件は示さなかった。
最後に犬塚議員は、法の支配とICC国際刑事裁判所に関して言及。「我国が国連安保理においてダルフールの大量虐殺をICC国際刑事裁判所に付託することに賛成票を投じ、また米国はその際拒否権を行使しなかった」と述べたうえで、NGOの一員として訪れた180万人の難民が法の支配とは程遠いところで暮らすダルフールの難民キャンプでの印象を踏まえ、ICCがこの地域に管轄権をもつことの重要性を指摘。「紛争地域での被害者救済は医師や看護士の崇高な仕事だが、そうした活動に協力して紛争の原因を取り除くのはまさに政治の仕事」だとして、首相に対して来年の通常国会での審議が予定されている、我国のICC国際刑事裁判所条約締結へ前向きに取り組むよう注文をつけた。
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