『次の内閣』ネクスト厚生労働大臣
三井 辨雄
介護問題御用聞きチーム主査
山井 和則
介護問題御用聞きチーム副主査
下田 敦子
介護保険は、いま危機的な状況にある。介護予防の導入によるサービス切り下げ、介護ベッドや電動車椅子などの福祉用具の貸しはがし。そして、受け皿がないのに、療養病床から退院を迫られる要介護者も増えている。一方、介護現場では、介護職員の人手不足はますます深刻化し、その背景には、低い賃金や労働条件がある。また、ケアマネジャーも必要書類の増加に伴う、デスクワークに忙殺され、収入も減り、苦しんでいる。
今回の介護保険改正により、「介護の社会化」という当初の理念は変質した。家族が同居していることを理由に家事援助を断られるなど、特に介護予防では、「自己決定」「サービスの自己選択」は困難な状況である。また、介護施設やグループホームでは、自己負担の増加に伴い、低所得者は入居困難になり、福祉の理念に反していると言わざるを得ない。
一方で、希望者が少なく、閑古鳥が鳴く介護予防の筋力トレーニングを自治体は推奨している。
介護保険改正の法案審議の中での「介護予防により要介護度は軽くなる」などという答弁にも明らかに反する実態になりつつある。このような危機的な状況に対して緊急提言を行う。
1.「介護予防」という名のサービス削減を防ぐ―早急に実態調査を!
2.介護ベッド・車いすの「貸しはがし」をストップ
3.介護の場を追われる高齢者を出さない〜療養病床再編に対して激変緩和措置を
4.要介護認定のバラツキをなくす
5.魅力ある労働環境の整備を!
6.良質なケアが実現可能な人員配置基準に
7.ケアマネジャーが利用者本位のマネジメントができるように
8.良質なグループホームを増やす
民主党 介護保険への緊急提言
1.「介護予防」という名のサービス削減を防ぐ―早急に実態調査を!
介護保険改正により、介護予防に見直し認定を受けた高齢者では、ホームヘルプやデイサービスなどのサービス削減が増え、閉じこもりや自殺を招く深刻な事態となっている。また、同居者がいることを理由に一律に家事援助が打ち切られ、介護者の疲労やストレスが虐待につながりかねない事態にもなっている。
これらは、「介護予防」の名を借りた利用制限であって、本来の趣旨の介護予防になるように適切なサービスが提供されるべきである。間違ってもサービス削減で要介護度が悪化することや家庭崩壊を招くことがあってはならない。介護予防への転換による個々のサービス利用の増減や要介護度の変化について早急な実態調査をすべきである。
また、介護予防ケアプランの介護報酬が安価なため、特に軽度の高齢者のケアプラン作成の引き受け手が無くなりつつある。ケアプランを利用者などが自ら作成することの普及啓発や予防プラン作成報酬の再検討を行い、必要に応じて報酬や基準の見直しをすべきである。
2.介護ベッド・車いすの「貸しはがし」をストップ
介護保険改正により、これまで福祉用具レンタルにより何とか生活を維持してきた人や専門家が必要と判断した人までもが介護ベッドや車いす等の福祉用具の引き揚げという「貸しはがし」にさらされ、生活を維持できなくなっている。
改正介護保険法の基準を参考にしつつも、現場で利用者の実態を把握しているケアマネジャーなどの裁量により、必要な人には提供できるようにすべきである。
3.介護の場を追われる高齢者を出さない〜療養病床再編に対して激変緩和措置を
療養病床の再編により、医療区分1に位置づけられた胃ろうや吸痰行為など医療ニーズの高い患者の早期退院は困難である。療養病床から無理やり受け皿もなく退院を迫られることがないよう、適切な介護報酬並びに診療報酬に見直すとともに、退院の受け皿となる介護施設の整備を早急に行うべきである。
また、介護保険改正により食費・居住費が自己負担化されたが、介護保険施設やグループホーム等からの自己負担増による退所者調査を十分行い、支払能力に応じた利用者負担のあり方を再検討し、低所得者でも介護施設やグループホーム、高齢者住宅等に入居できるようにすべきである。
4.要介護認定のバラツキをなくす
国が作った要介護認定ソフトは認定基準が曖昧であり、改正介護保険法により介護予防を導入したが、認定結果のバラツキや実態より軽い認定が出るなど、現場の混乱に拍車をかけている。認定ソフトの内容の改善を早急に行い、認定結果のバラツキをなくすべきである。
5.魅力ある労働環境の整備を!
いま、介護施設や訪問介護の現場は深刻な人手不足に悩んでいる。また、離職率は一般の職種に比べて高い。この最大の理由は全産業の中で最も安い賃金と不十分な待遇であり、働き続けても賃金がほとんど上がらない状況である。
人材不足を解決し、魅力ある労働環境でプロとして働き続けてもらうためには介護労働者の賃金や労働条件を改善することが最重要であり、そういった事業運営が可能な介護報酬の設定が必要である。また介護労働者が無理なくスキルアップできるよう、国が義務化した介護職員基礎研修などへ費用補助等の支援をすべきである。
さらに、訪問介護の質を向上させるためには直行直帰の登録型ヘルパーが、会議や引継ぎ等への参加が可能となるような支援をすべての事業所にすべきである。移動時間等の法定労働条件の遵守を事業者へ周知徹底させるとともに、介護報酬上の算定根拠を明確化すべきである。
6.良質なケアが実現可能な人員配置基準に
近年の介護施設入所者の重度化、高齢化、認知症高齢者やターミナルケアを必要とする高齢者の増加やユニット化に伴い、介護施設スタッフの仕事量はますます増えている。国は介護保険施設における重度化や認知症など利用者の状態と必要とされるマンパワーや介護量を早急に調査し、現場実態に応じた人員配置基準の見直しを行うべきである。また、良質なケアを実現するために専門職を厚く配置する事業者などを支援すべきである。
7.ケアマネジャーが利用者本位のマネジメントができるように
今年4月の介護報酬改定によりケアマネジメントについて様々な改定がなされた。しかし、結果的には制約条件の増加にともない、書類や事務量も更に増え、ケアマネジャーの収入と共に、やりがいも低下している。
高齢者の生活を支えるケアマネジャーが民間企業並みの報酬を得て、独立的な運営ができるよう介護報酬を設定すべきである。また、介護予防等の提出書類の簡素化など、事務量を削減すべきである。
8.良質なグループホームを増やす
小規模で理想的な認知症ケアを行う施設として国はグループホームを推進している。しかし、低額な介護報酬や不十分な医療支援体制のもとで、利用者の重度化、医療ニーズは増加しており、運営はますます難しくなっている。
制度改正では事業者に対し、夜勤体制の義務化、研修や運営推進会議の義務付けなど、運営面での人的負担を増加させたが、介護報酬上適正に評価されているとは言えない。
また、サービスの利用を市区町村ごとに制限したことで、市区町村境界に住む方や転居希望を持つ方のサービス利用を不利にしている。一律に市区町村ごとに利用を制限するのではなく、日常生活圏を勘案してサービスを利用しやすくすべきである。
一方、市区町村によっては新たなグループホーム整備を制限しているが、質のチェックを強化するとともに、制限緩和して良質なグループホームを増やすべきである。
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