あるべき社会保障像についての提案

党社会保障と税の抜本改革調査会 会長 仙谷由人(寄稿)

民主党が5月末にまとめた報告「『あるべき社会保障』の実現に向けて」の提出を受け、政府・与党社会保障改革検討本部では社会保障と税の一体改革案の取りまとめ作業が進む。党調査会の考えを聞いた。

社会・経済の変化と社会保障制度の持続可能性への不安

仙谷由人

 現在、わが国の社会保障は年金・医療を中心に年々増大し、「給付費」が既に100兆円を超えるなど巨額なものとなっており、その分、国民が受ける受益も増大しています。
 しかし現実には多くの国民が社会保障制度に対して不満・不信・不安を抱いています。
 その理由はいろいろあるかもしれませんが、大きな理由としては、現在の社会保障制度が近年の社会や経済、産業、就労構造の転換・変動や、国民の価値観、ライフスタイルの変化などに十分に対応できていないことがあると考えられます。
 わが国の社会保障制度は、終戦直後は生活困窮者や援護が必要な人々に対する救民救済対策が中心でしたが、高度経済成長期以降、国民の生活水準が向上するに伴い、疾病や老後の所得喪失のリスクへの対応が重要になり、医療や年金を中心に給付を充実させてきました。
 一方、この時期は企業が従業員の安定雇用や福利厚生で重要な役割を果たし、また家庭や地域も支え合いの機能を発揮していました。
 その後、社会・経済情勢が次のように大きく変化しました。

  • (1)経済のグローバル化と知識経済化の進行により、企業の国際競争が激化、雇用や仕事のあり方が流動化、不安定化し、企業のセーフティネットとしての機能が弱くなりました。
  • (2)都市化、核家族化、晩婚化、未婚化、単身化が進み、家族や地域のセーフティネット機能が衰えています。この結果、現役世代にとって失業、不安定就業、さらには貧困・格差などが切実な問題となり、また、子どもを産み育てる余裕や家族を形成する基盤が失われる層が増えています。
  • (3)少子高齢化の進展により、社会保障の費用が急激に増大する一方、支え手が減少し、社会保障の財政基盤がもろくなりました。


 こうした状況は、わが国の社会保障の対応力を劣化させ、また、現行制度すら持続可能であるか否かの不安を増大させることになりました。
 このような現状認識を踏まえ、わが国が目指すべき社会像について議論を行い、その社会を実現するために必要となる社会保障の改革方策を「あるべき社会保障」の姿として提示しました。

子ども・若者を含む全世代的社会保障への転換が必要に

 その中で特に、改革の理念として「全世代を包括する社会保障」という考え方を強く打ち出しました。
 すなわち、いま述べたように、現行の社会保障制度で十分に対応できていない人、言い換えると、現在セーフティネットから抜け落ちている人に対して、所得再分配の強化や政府の家族関係社会支出の拡大を通じて、しっかりと対応することが重要であると考えたからです。
 このため、「あるべき社会保障」の全体像の中でも、「子育て支援」や「就労促進」「貧困格差」対策をまず最初に取り上げることとしました。
 若者や女性、高齢者、障がい者、非正規労働者を念頭に、全世代対応の社会保障を実現しなければならないのです。
 他方、社会保障の大きなウェイトを占める年金・医療・介護についても、その重要性は、これまで同様、何ら変わるものではありません。
 「医療崩壊」とも言われる医療の現場の問題状況を直視し、制度のほころびを改善し、安心かつ先進国国民として享受しうるべき医療・介護の提供体制の構築、地域に必要な医療・介護従事者の確保などに取り組む必要があります。
 年金についても今後抜本改革を行い、公平で信頼できる新制度を構築しなくてはなりません。
 さらに新年金制度を実現するまでの間も、無年金者問題、低年金問題などの課題に対応するため、現行制度の改善に取り組むのは当然のことです。

良質な社会保障を支える持続可能な財源を

 今回まとめた「あるべき社会保障」では、今後の社会保障の方向性について、従来からの役割はもとより、新しい役割もしっかりと担うことにより、良質で効果的な社会保障給付へと豊富化し、国民の多様化するニーズに応えるものに変えてくことを提言しました。
 今後、それを支える財源についても、税収を公債金収入が上回る財政の現状はとうてい持続可能な状態ではないことを共通認識とした上で、社会保障改革と同時に一体的に改革を進めていく必要があります。

◇党社会保障と税の抜本改革調査会報告の構成

  • ・すべての子どもの育ちを社会全体で支える・希望するすべての人が働いて能力を発揮できる社会を・安心できる医療・介護の実現・抜本改革で、公平で信頼できる年金へ・障がい者が当たり前に地域で暮らせる社会へ

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