社会保障・税制一体改革の取りまとめに向かって

藤井裕久首相補佐官に聞く

民主党が5月末にまとめた報告「『あるべき社会保障』の実現に向けて」の提出を受け、政府・与党社会保障改革検討本部では社会保障と税の一体改革案の取りまとめ作業が進む。検討本部の議論のポイントを聞いた。

――社会保障と税の一体改革について政府案が示されました。これまでの議論の経緯から。
藤井裕久

藤井
 2010年に民主党に「社会保障と税の抜本改革調査会」を作り、私が会長になってまず中間整理を出し、政府・与党の基本方針としました(12月14日閣議決定「社会保障改革の推進について」)。今年の1月からは仙谷さんが調査会長を引き継いでくれています。
 政府の集中検討会議は今年2月にできましたが、担当の与謝野大臣は民主党と同じ方向でやってくれています。

――民主党がマニフェストで約束した方向とずれはないのですか。

藤井
 調査会や会議はマニフェストに忠実にやってきました。参院選で状況が変わったのは事実です。野党との話し合いによる修正が必要になりました。
 しかし、その際、まず民主党の原点は何かを明確にしたうえで修正しなくてはいけません。「民主党の原点はこれだ。しかし今の政治情勢でここは妥協するしかないのだ」と。こういうことを明確にしたいと思っています。


消費税の明確な目的税化が必要

――財源の一つに考えられている消費税は、いまは一般財源に使われているのですか。

藤井
 予算総則で、消費税は基礎年金、高齢者医療、介護の高齢者3経費に使うということに形のうえではなっています。ところが世の中の人は誰も信用していません。なぜなら、予算総則に書いても何の保証もないわけです。
 改革案では、消費税を目的税にすると言っています。いただいたら必ず別会計に入れ、それを高齢者3経費、それに子ども対策を加えた4経費だけにしか使わない。こういう仕組みを提言しています。

――いま5%の消費税だけで高齢者3経費は賄えていますか。

藤井
 まったく賄えていません。予算総則には「使う」と書いてありますが今でも3経費に約10兆円足りないんです。高齢者3経費でさえ借金でやっているわけで、こんなことは長続きするはずがない。いま日本の国債金利は1%とちょっとですが、万一国債が暴落したら日本経済は非常な危機に瀕すると思います。

社会保障の維持・充実と消費税率

――社会保障を充実させていくのにどれくらいの経費が必要ですか。

藤井
 これは厚生労働省の試算で消費税5%アップと出ています。今の制度を維持・強化するという面と制度改革で充実する面と二つあるわけですね。充実の面で2兆7千億円。維持・強化するためにプラスアルファ分(従来歳出カットを余儀なくされたり赤字国債で賄っていた分)があって、そのほかに国自体が払う消費税の増加分もある。それらを足して5%という数字になっています。

――2015年までに消費税率10%に段階的に引き上げるということですが、実際いつ、どうするのでしょうか。

藤井
 自公政権の時代に作られた所得税法附則104条という法律があって、今年度中にこの消費税率を明確にしろと書いてあります。法律ですからわれわれももちろん尊重しなければならないので、来年3月までに法律は作ります。しかし、実行するには選挙を経なければいけないというのがわれわれの公約です。

社会保障目的税は逆進性対策になる

――消費税というと低所得者の負担が大きいという批判があります。

藤井
 まず2点申し上げたいと思います。一つは逆進性対策は必要だと民主党案にももちろん書いてあります。
 ただし特定品目を減免税することには私たちは絶対に反対です。例えば食料品にはホテルのステーキも入る。じゃあ外食はやめようというと、吉野屋の牛丼はどうなんだということになるわけです。これは非常に公平性を欠くし、お金持ちが優遇される。品目でやると逆進性は直りません。
 その代わりにわれわれは、ある所得水準までの方々に現金でお返ししようと提言しています。そうすれば逆進性は完全に止まります。
 それから使途を高齢者と子どもの社会保障4経費に限定すると、その恩恵は主に所得の低い方に行くので、それも非常に逆進性対策になると考えます。

「控除から手当へ」は世界の主流派

――民主党は「控除から手当へ」と言いますが、何がいいのですか。

藤井
 控除というのは税金を払う方だけの話です。これに対して手当というのは税金を払っていない方にもお渡しするということです。私は、その方がより公平であると考えます。
 まず諸外国はだいたいそうしています。レーガン、サッチャー時代の新自由主義政策で格差社会ができた。それを直そうとしてやっているのがこの政策です。「給付付き税額控除」もあります。例えば子ども1人につき税金を5万円ずつ返すという場合、税金を2万円しか払っていない方には3万円を現金で渡す。民主党もそういう案を出しています。

社会保障と税の共通番号制度

――給付の際にどうやって所得や所得税額を把握するのですか。

藤井
 それを可能にするのが番号制度です。番号制度は所得税や消費税の公平性を守るときに非常に大事です。従来は「納税者番号」という名前で議論されていましたが、実は社会保障にものすごく役立ちます。公平な給付には番号が必要です。だから私たちは納税者番号とは呼ばず「社会保障と税の共通番号」と呼んでいます。

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