厚生
自公政権が「骨太の方針2006」で打ち出した社会保障費削減方針(年2200億円、5年間で1兆1000億円)は撤廃します。国民皆年金、国民皆保険を守り、求職者に対する新たなセーフティネットを構築します。
医療は提供する側と受ける側の協働作業です。各界・各層の代表の意見を幅広く聴取し、医療の抜本改革に関する目標と工程を定めた基本方針を策定、建議する会議体の枠組みと、政府が責任を持ってその実現を図る体制を確立します。
患者・家族の立場に立って、医師・医療機関との意思疎通を円滑化する「医療対話仲介者(メディエーター)」を一定規模以上の医療機関に配置します。
医療機関には、患者・家族への診療経過の説明、死因究明の努力、医療事故発生時の調査委員会の設置を義務付けます。各都道府県に設置される医療安全支援センターが、院外調査チームによる調査や裁判外紛争処理事業者(第三者ADR)の紹介を行います。事故情報については、指定分析機関への届出義務をすべての医療機関に拡大し、分析や再発防止策の提言体制を強化します。以上を柱とした「医療における患者の尊厳を保障し、安全・納得を得られるための法律」を成立させます。
医事紛争の早期解決を図るため、すべての公的保険医療機関、薬局、介護施設で発生した医療等事故事例全般を対象に、公的な無過失補償制度を創設します。補償原資は保険料、健康保険料、公的支出とし、制度運営のための基金を創設します。
後期高齢者医療制度は廃止し、廃止に伴う国民健康保険の財政負担増は国が支援します。国民健康保険の地域間の格差を是正します。国民健康保険、被用者保険などの負担の不公平を是正します。
被用者保険と国民健康保険を段階的に統合し、将来、地域医療保険として、医療保険制度の一元的運用を図り、国民皆保険制度を守ります。
医薬品等の製造・輸入の承認や保険適用の判断基準を明確にして、審議や結果をオープンにし、その効果や安全性が確立されたものについて、速やかに保険適用します。
医師養成の質と数を拡充します。当面、経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の平均的な人口当たりの医師数(人口1000人当たり医師3人)を目指します。
大学医学部定員を1.5倍にします。既存医学部の増員、看護学科等を持ち、かつ、病院を有する大学の医学部設置等を行います。医師養成・協力機関等に十分な財政的支援を行うとともに、奨学金を充実させます。
救急、産科、小児、外科、へき地、災害等の医療提供体制を再建するため、地域医療計画を抜本的に見直し、支援を行います。医療機関の連携、短時間正規勤務制の導入、国公立病院などの定数増、公的兼業を解禁することなどにより、現役医師の活用を進めます。「医療従事者等確保支援センター(仮称)」を設置し、医療従事者の確保・あっせん、休職者の復職支援等を行います。
なお、厚生年金病院及び社会保険病院は公的に存続させることを原則に、新たに「地域医療推進機構(仮称)」を設置して両病院の管理、運営にあたらせます。
一貫性のある学部教育、前期・後期臨床研修を通じて質の高い専門医を養成するシステムを構築し、後期卒後臨床研修については、総合臨床医研修、へき地医療研修、産科・救急・小児・外科医療研修などの分野を中心にインセンティブを付与することによって、偏在を解消します。
医師養成、活用策により実働医師数を増加させるとともに、勤務医の不払い残業を是正し、当直を夜間勤務に改める等、医療現場の労働環境を改善します。子育てや介護をしながら勤務する医療従事者が働き続けられる、また復職しやすいよう、院内保育所の整備やオープン化、保育所への優先入所、病児保育の充実、育児支援などを拡充します。
薬剤師、理学療法士、臨床検査技師などコメディカルスタッフの職能拡大と増員を図り、医療提供体制を充実させ、医療事故防止、患者とのコミュニケーション向上を図ります。専門的な臨床教育等を受けた看護師等の業務範囲を拡大し、医療行為の一部を分担します。病院勤務医が診療のみならず診断書や意見書、紹介状の作成など事務手続きをしなければならないことにより医師不足に拍車がかかっていることから、医師の事務を分担する医療事務員(医療クラーク)の導入を支援します。
救急業務を市町村から原則的に都道府県に移管し、救急本部に救急医療の専門的知識・経験がある医師を24時間体制で配置します。救急本部は、通報内容から患者の緊急度・重症度を判断し、軽症の場合は医療機関の紹介等を行い、重症の場合は救急車や消防防災ヘリ、ドクターカー・ドクターヘリ等、最適な搬送手段により医療機関に搬送します。ドクターカーをすべての救命救急センターに配置し、消防防災ヘリをドクターヘリとしても活用できるよう高規格化し、救急本部ごとのドクターヘリ配備を目指します。
救急救命士の職能拡大を着実に図ります。例えば、救急搬送時、意識障害の鑑別には血糖値の測定が必要であり、救急救命士も簡易な血糖値の測定ができるよう体制の整備に着手します。
累次の診療報酬マイナス改定が地域医療の崩壊に拍車をかけました。総医療費対GDP(国内総生産)比を経済協力開発機構(OECD)加盟国平均まで今後引き上げていきます。まず、医師確保などを進め、看護師、医療クラーク、医療ソーシャルワーカー、医療メディエーター、補助者などの増員に努め、地域医療を守る医療機関の入院については、その診療報酬を増額します。その際、患者の自己負担が増えないようにします。4疾病5事業を中核的に扱う公的な病院(国立・公立病院、日赤病院、厚生年金病院、社会保険病院等)は政策的に削減しません。中医協(中央社会保険医療協議会)の構成・運営等の改革を行います。
レセプトのオンライン請求を「完全義務化」から「原則化」に改め、小規模医療機関の撤退や地域医療の崩壊が起こらないようにします。オンライン請求の導入にあたって診療報酬上のインセンティブなどを設けます。また、外来管理加算の5分要件を撤廃します。医療費の内容と単価がわかる領収書が発行されるようにします。
乳がんや子宮頸がん、大腸がん、肺がん、胃がんなど有効性が高いがん検診の受診率を大幅に向上させるよう、受診しやすい体制を整備します。また、がん予防に有効なワクチンの開発・接種の推進、禁煙対策の徹底化等、最新のがん関連情報の提供や相談支援体制などを充実させます。がん患者や家族も加わった「がん対策推進協議会」の運営で「がん対策推進基本計画」が着実に推進されるよう取り組みます。がん登録の法制化を検討します。
地域がん診療拠点病院では国立がんセンターと協力し、化学療法専門医・放射線治療専門医を養成します。
周産期母子医療センターのもつ機能を明確化・再分類・整備拡充し、産科病院のネットワーク化を推進します。都道府県の責任で周産期情報システムおよび搬送先照会システムを改善します。
医師・助産師・看護師の業務範囲の見直し、共同体制を促進します。
医療保険から給付される現在の出産一時金(2009年10月から42万円)を見直し、国からの助成を加え、出産時に55万円を支給します。地域小児科センターにおける時間外外来担当の開業医との共同化、小児救急医療のシステム化、小児医療診療報酬引き上げ、小児医療の自己負担軽減を行います。新生児特定集中治療室(NICU)を現行2000床から当面2500床へと増床し、後方支援病床を拡充します。
「歯の健康の保持の推進に関する法律」を成立させます。身体障害者手帳の交付申請の添付書類として、そしゃく機能の障害については申請手続に歯科医師の診断書を認めるよう、身体障害者福祉法を改正します。現在、歯科検診は、年代や所属ごとに異なる法律のもとで実施されていますが、寝たきりの高齢者や障がい者も含め、すべての国民が歯科検診を受けられるようにし、歯科疾患の予防法や治療についても調査研究を推進します。
日中韓を中心に、東アジア全体で新型インフルエンザに対応できる体制をつくります。
発熱相談センターを強化し、感染症対応の隔離個室確保・整備を進めます。新型インフルエンザ行動計画ガイドラインを全面的に見直し、検疫法のあり方を検討します。抗ウイルス薬の十分な備蓄、ワクチン開発製造・備蓄・流通体制の拡充及び海外との連携を図り、強毒性新型インフルエンザのプレパンデミックワクチンを受けられる体制を整備するとともに、輸血を介した感染防止のための新技術を導入します。従来の病院機能が低下しないよう、病院や医療従事者に対する支援等を充実させるとともに、高病原性鳥インフルエンザが発生した養鶏場に対する経営支援策も強化します。
肝炎医療費助成法を制定し、B型・C型肝炎患者が受けるインターフェロンその他の抗ウイルス薬治療の自己負担額の上限を月額1万円にします。治療のために休業・休職する患者の生活の安定や、インターフェロン以外の治療に対する支援にも取り組みます。感染症に関する正しい知識の教育、広報を拡充し、感染症患者に対する差別や偏見をなくします。
難病患者・家族の切実な声が施策に反映されるよう、難病対策委員会の定例開催等といった環境整備を着実に進めます。新規指定や対象年齢拡大を望む様々な疾患の患者が必要な医療が受けられるよう、現行の難病対策及び希少疾病の新薬開発や保険適用の仕組みを抜本的に改革し、難病に関する調査研究及び医療費の自己負担の軽減を柱とする新たな法制度を整備します。
高額療養費制度に関し、白血病等、長期継続治療を要する患者の自己負担軽減を含め、検討を進めます。
※以上の医療政策の詳細版、および「予防医療の推進」「医療事故究明等」「包括払い制度」「後発医薬品」「国立高度医療センター、国立病院等」「アスベスト健康対策」「カネミ油症被害者対策」「心身医学」「統合医療」等の政策については、民主党ホームページに掲載しています。
高齢化している被爆者を迅速に救済するため、新しい原爆症の認定制度を創設します。「被爆者はどこにいても被爆者である」との認識のもと、今後も在外被爆者への健康管理の支援等を拡充します。また、被爆者2世が高齢化するにつれて、被爆による健康への影響が懸念されており、その実態把握に努めるとともに、実態に応じた対策を検討します。被爆者に対する、保健、医療および福祉にわたる総合的な施策を実施します。
良質な介護サービスの確保のため、事業者に対する介護報酬を7%加算し、介護労働者の賃金を月4万円程度引き上げます。これは自己負担や保険料アップにつながらない方法で行います。介護の現場では、2009年4月より介護報酬が3%引き上げられましたが、介護労働者の賃金引き上げには至らず、労働者の賃金が低く抑えられたままとなっており、労働条件の悪化と深刻な人手不足が常態化しています。
ホームヘルパー・介護福祉士など介護スタッフの増員、専門性を高める施策を講じ、介護支援専門員(ケアマネジャー)の介護報酬を引上げるとともに、権限と裁量を増やし独立性を高めつつ、最低限の事務量となるようデスクワークの軽減策を講じます。
また、要介護認定が軽く出るのではないかという不安が高まっている新たな要介護認定基準についても、介護サービスの削減につながらないように高齢者の生活実態、要介護者のニーズがより適切に反映されるよう認定の見直しを行い、介護が必要な人が安心して必要なサービスを受けられるようにします。
療養病床を削減する介護療養病床再編計画を中止し、介護の場から追い出されたり、長い間入所待ちを余議なくされたりしないよう、将来にわたって必要な病床数を確保します。地域における各種病床間・施設間の連携を促進し、適切な医療・介護提供体制を再構築します。また、約40万人の施設入所の待機者を解消するため、現行の施設整備計画の約3倍のスピードで、質の高いグループホームをはじめ、特別養護老人ホームや老人保健施設、地域の実情に応じた小規模多機能施設を増設します。介護保険制度は国民の共同連帯の理念によって成り立つものであり、家族介護だけに負担を強いるのではなく、介護を必要とする人に良質なサービスを提供できるよう介護基盤整備を拡充します。
介護労働者の処遇改善、社会的地位の向上、家族介護者の負担を軽減するための社会的支援のあり方等を改善するため、早急に実態調査を実施します。小泉政権の下で、社会保障費の削減を意図して介護報酬が切り下げられたため、介護労働者の賃金が抑制され、離職者が増加、老老介護、家族介護の増大など、看過できない深刻な事態が生じています。介護保険法が施行され10年以上経過した今、このような危機的な状況を打開し、将来において持続可能で安定した制度となるよう真の介護の社会化を目指した介護保険制度の抜本改革に取り組みます。
わが国の障がい者施策を総合的かつ集中的に改革し、国連障害者権利条約の批准に必要な国内法の整備を行うために、内閣に「障がい者制度改革推進本部」を設置します。推進本部には、障がい当事者、有識者を含む委員会を設け、政策立案段階から障がい当事者が参画するようにします。そして、障がい者施策に関するモニタリング機関の設置、障がい者差別を禁止する法制度の構築、障がい者虐待を防止する法制度の確立、政治・選挙への参加の一層の確保、司法に係る手続における支援の拡充、インクルーシブ(共に生き共に学ぶ)教育への転換、所得の保障、移動の自由の権利保障、障がい者への医療支援の見直し、難病対策の法制化など障がい者が権利主体であることを明確にして、自己決定・自己選択の原則が保障されるよう制度改革を立案します。
障がい者等が当たり前に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる社会を目指します。障害者自立支援法により、利用料の負担増で障がい者の自立した生活が妨げられてしまったことから、福祉施策については、発達障害、高次脳機能障害、難病、内部障害なども対象として制度の谷間をなくすこと、障がい福祉サービスの利用者負担を応能負担とすること、サービス支給決定制度の見直しなどを行い、障害者自立支援法に代わる「障がい者総合福祉法(仮称)」を制定します。
また、障がい者福祉予算を拡充し、中小企業を含め障がい者雇用を促進します。精神障害者を中心とした社会的入院患者の社会復帰と地域生活の実現に向けて関連法制度の整備等を進めます。
生活保護制度は、わが国のすべての社会保障制度における最後のセーフティネットであり、国は憲法で保障されている「健康で文化的な最低限の生活」の水準を確保する責任があります。生活保護給付の生活扶助については、健康で文化的な生活を維持するため、安易な引き下げは行いません。
また、生活保護を受けているひとり親世帯に対して給付されていた母子加算が2009年4月に廃止されましたが、ひとり親家庭の子どもが安心して暮らせるよう、母子加算を復活させます。生活保護制度の見直しにあたっては、自立支援や就労支援の拡充、無年金者の発生を防止するための公的年金制度改革などと合わせ、セーフティネットとしての機能を確保します。
老齢年金の満額支給や生活支援給付の実施を定める改正中国残留邦人等自立支援法が、民主党も含めた超党派の働きかけにより2007年成立しました。旧満州(現中国東北部)で終戦を迎え、親と死別・離別した日本人孤児など中国残留邦人に対する支援策を盛り込んでいます。民主党は改正法の実施にあたって、生活支援の収入認定について2世・3世と同居する者が不利にならないこと、残留邦人等が死亡した場合は配偶者も生活支援の対象にすること、医療支援については医療機関の選択を認めること等、きめ細かい運用を図ります。
民主党の法案提出が契機となり成立したホームレスの自立支援特措法に基づく施策を着実に実行するとともに、引き続きホームレスの自立支援に関する施策を充実させます。生活保護制度に依存することなく、公営住宅等の活用による住居の確保、NPO等による就労機会の提供拡大、健康の保持等によって、ホームレスが自立できる環境を整備します。
薬物依存・中毒者への治療と自立支援、家族への相談支援を整備します。省庁横断的な薬物取締体制を強化し、薬物の供給源の根絶に取り組みます。
また、覚せい剤、大麻のみならず、「MDMA」など錠剤型合成麻薬や、いわゆる脱法ドラッグの乱用が青少年を中心に広がっていることを受け、薬物乱用の低年齢化を防ぐため、薬物依存からの回復者の体験談等を通じて、薬物依存のおそろしさが実感できる中高生への教育・啓発活動を実施します。