農林水産
米、麦、大豆等販売価格が生産費を下回る農産物を対象に農業者戸別所得補償制度を導入します。この制度は、食料自給率目標を前提に策定された「生産数量目標」に即した生産を行った販売農業者(集落営農を含む)に対して、生産に要する費用(全国平均)と販売価格(全国平均)との差額を基本とする交付金を交付するものです。交付金の交付に当たっては、品質、流通(直売所等での販売)・加工(米粉等の形態での販売)への取り組み、経営規模の拡大、生物多様性など環境保全に資する度合い、主食用の米に代わる農産物(米粉用、飼料用等の米を含む)の生産の要素を加味して算定します。これにより、食料の国内生産の確保および農業者の経営安定を図り、食料自給率を向上させ、農業の多面的機能を確保します。
畜産・酪農については、輸入飼料に依存し、規模拡大、効率性を優先させた現行の対策を抜本的に見直し、国産飼料を有効活用し、食料自給率の向上と環境負荷低減を図るため、農業者戸別所得補償制度の仕組みを基本にした「畜産・酪農所得補償制度」を創設します。これにより、生産コストの上昇や畜産物価格の下落等の事態に機動的な対応が可能となり、所得の確保が図られるとともに、畜産物の計画的な生産により食料自給率の向上を図ります。併せて、適地適作を基本とする自給飼料生産や飼料用米の利用、食品残さの飼料化等を促進するとともに、国産チーズ等の高付加価値化など流通・加工分野の取組を推進して所得の向上を図り、多様な畜産・酪農経営の実現を目指します。
野菜・果樹等については、消費者ニーズに即した商品の安定的な供給や経営安定の確保等を図る観点から、新たな支援策を講じます。
日本の漁業は、水産資源の状況に比べ、漁獲量が過剰の状態にあります。両者のバランスを確保するため、「個別漁業者ごとの漁獲可能量の割り当て(個別TAC)」と「資源管理計画」の制度を導入し、「漁業所得補償制度」を創設します。
すなわち、個別TACの対象となる漁業者又は資源管理計画に即した生産を行う漁業者に対しては、国民への食料安定供給の責務を担っていることを勘案し、生産に要する費用と漁業収入との差額を基本とする交付金を交付することとします。
また、適正な資源管理を行う上で必要となる休漁、減船については、漁業所得補償の水準をベースに補償を実施します。
国土の保全・水源のかん養等、森林の有する公益的機能を十全に発揮させ、京都議定書の削減目標達成に必要な森林吸収量を確保するためには、適正な森林管理が必要です。そのため、森林所有者に対して森林の適切な経営を義務付け、間伐等の森林整備を実施する上で森林所有者が負担する費用相当額を交付する「森林管理・環境保全直接支払制度(仮称)」を導入します。
また、公共事業のうち治山治水事業の内容を抜本的に見直し、環境・緑を守る持続可能な事業(みどりのダム構想)に転換して、積極的に推進します。
日本の農村は、多様な農業の担い手が重層的に営農にいそしむことで、伝統文化や環境を守り、良好なコミュニティを維持するなど、多面的機能を備えています。こうした多面的機能は農業の担い手以外の国民全体が享受するものですから、多面的機能が維持・発揮されるよう農村振興策を講じます。
具体的には、現行の「農地・水・環境保全向上対策」を抜本的に見直した(1)農村集落に対する「資源保全管理支払」(2)環境保全型農業の取組に対する「環境直接支払」(3)条件不利地域に対する「中山間地域等直接支払」――の三つの直接支払を、法律に基づく措置として実施します。
なお、有機農業については「有機農業の推進に関する法律」に基づき、積極的な推進を図ります。
漁村集落が行う海の清掃、稚魚の放流等の取り組みに対して、「漁村集落直接支払(仮称)」を実施します。
また、水産資源の回復と多面的機能の発揮のため、森林の保全・整備のほか、「海の森構想」等の積極的な推進により、藻場、干潟を造成します。
食料安全保障の観点から、国家の戦略目標として「食料自給率目標」を設定します。
食料自給率は、米、麦、大豆等の農産物に加え、牛肉、乳製品等の主要農畜産物の生産数量目標を設定し、10年後に50%、20年後に60%を達成することを目標とします。
最終的には「国民が健康に生活していくのに必要な最低限のカロリーは、国内で全て生産する」ことが可能となる食料自給体制を確立します。
水田直播をはじめとする生産技術やニーズに応じた多様な品種の開発と普及を図るとともに、必要な地域における水田の汎用化を推進し、水田農業の再生を図ります。
米を作らせない形での現行の生産調整を廃止し、主食用のほか米粉用、飼料用等多用途の米の計画的な生産・流通を推進します。
なお、食料安全保障の観点から、米の備蓄方式を「棚上方式(*)」に転換し、300万トン(国内産以外を含む)備蓄体制を確立します。
*棚上方式:不作等により備蓄米を放出する機会がない場合、一定期間経過後に主食用以外の飼料用等として販売する方式。牛海綿状脳症(BSE)の発生を契機にリスク分析システムが導入されましたが、リスク評価機関(食品安全委員会)もリスク管理機関(農林水産省、厚生労働省)も食品をめぐる数々の問題・事故に適切な対応ができていません。食品安全委員会は、米国産牛肉の輸入再開に際し、リスク評価を事実上放棄するに等しい結論を出すなど、その在り方について様々な問題が指摘されてきました。また、リスク管理機関は、農林水産省と厚生労働省に分かれ、責任の所在が不明確なため、中国産餃子中毒問題、食品表示偽装問題、事故米穀不正規流通問題等の事件への機動的な対応ができませんでした。
こうした現状を踏まえ、わが国の食品安全行政の在り方を抜本的に改革するため、まず、食品安全委員会については、リスク管理機関からの独立性を担保し、リスク評価機能が十全に果たせるよう組織体制を強化します。また、農場から食卓までのリスク管理の一貫性を確保するために、農林水産省消費安全局と厚生労働省食品安全部とを統合し、リスク管理機能を一元化した「食品安全庁」を創設します。
トレーサビリティは、生産者と消費者との距離が拡大する経済社会の下では、食品事故発生時の原因究明や製品回収に、また、表示などの情報の正しさの検証に有効な仕組みです。
すべての食品にベーシックなトレーサビリティを義務付けているEUの例を参考に、わが国においても、一定期間経過後にすべての食品について、仕入先、仕入日、販売先、販売日を記録・保管するトレーサビリティを義務付けます。
事故米穀不正規流通問題を受け国会に提出された「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」は、米および米加工品にのみトレーサビリティを義務付ける内容でしたが、民主党の主張により「政府は全食品のトレーサビリティ導入等を検討する」旨の条文を追加する修正が行われました。
なお、トレーサビリティの義務化の時期を踏まえ、食品の製造工程での安全管理や品質管理を図るための措置として、農業生産工程管理工程(GAP)や危害分析重要管理点(HACCP)への対応も義務化します。
食品に関する消費者の合理的な選択に資するため、加工食品や外食における原料原産地表示の義務付けを拡大します。ただし、一定規模に満たない中食・外食業者に対しては現実的対応を行います。
また、遺伝子組換え食品及びクローン動物由来食品については、その旨の表示等を義務付けます。
日本は、食料の6割を輸入に依存しており、食品及び動植物の検疫体制の強化・拡充が必要です。輸入食品について国産の食品と同等の安全性を確保するためにわが国への主要な輸出国に「国際食品調査官(仮称)」を配置できるように検討を行うほか、トレーサビリティや危害分析重要管理点(HACCP)等を義務化して、事前に「国際食品調査官」が生産地における施設の検査を行えるようにします。原則として、「国際食品調査官」の検査を受けた施設以外の食品の輸入は認めないこととします。
また、国内の牛海綿状脳症(BSE)対策として、2008年に打ち切られた全頭検査に対する国庫補助金を復活します。
農地は、現在および将来の国民のための貴重な資源として不可欠なものです。食料自給率目標を達成するとともに、有事においても必要最低限の食料を国民に供給し得る食料自給力の指標として、確保すべき農地面積の目標となる農地総量を設定します。
国民が幅広く農業に参入できるようにし、農業の一層の活性化を図るため、農地の所有者等に対して耕作等を行う義務を賦課し、農地以外の用途に転用することを厳格に規制すること(出口規制)を前提に、農地制度については、できる限り参入規制(入り口規制)を緩和します。
また、農地を耕作する者に対して農地の権利を取得させるという現在の「耕作者主義」の考え方を、農地所有者等は、耕作等農地の有効利用を行う義務を有するという「新たな耕作者主義」に改めます。
また農地について、一筆毎に規制する方式からゾーニング規制(地域別規制)の方式を基本とする制度に転換します。さらに、地域住民参加型による農業的土地利用(農業振興地域整備法)と非農業的土地利用(都市計画法)とを一体化した総合的な「都市・農村地域土地利用計画制度(仮称)」を創設します。
農地制度の抜本改革が可能となるまでの間は、現行農地制度の基本的構造を維持し、農地政策の基本として、農地を耕作する者に対して農地の権利を取得させるという「耕作者主義」を堅持します。また、耕作放棄地の解消・防止のため、農地の権利を有する者は、自ら耕作するか又は耕作目的での利用権を設定することによって、「農地の農業上の利用を確保する責務」を有することを明確化します。
自然人、法人を問わず、意欲と能力のある者が農業へ新規に参入することを促進します。この場合、「認定農業者制度」や「品目横断的経営安定対策(水田・畑作経営所得安定対策)」の対象農家のように、「所得目標」や「経営規模」を設定することや就業時の年齢制限等を条件とする「入り口規制」は行いません。
施業意欲の低下した森林所有者に代わり、森林組合や素材生産者等の民間事業者を林業経営の中心的担い手として位置付け、その育成を図ります。民間事業者による対応が困難な場合には、国が森林整備等を行うセーフティネット機能を確保します。
また、林業の生産性向上を図るため、高規格でコストがかさむ林道整備に代え、路網の計画的な整備を促進し、高性能林業機械を積極的に導入します。
木材自給率50%を目標として設定し、零細で多段階の木材流通体制を大胆に見直し、効率化を図ります。それにより、木材関連産業を活性化し、中山間地域を中心に100万人の雇用拡大を実現します。
また、木の地産地消、顔の見える木材による家づくりを促進するとともに、公共的建築物における地域材の優先使用・利用拡大を推進し、木の文化の再生と持続可能な循環型社会を構築します。
さらに、エネルギー自給率の向上と地球温暖化防止に大きく貢献する観点から、太陽光(熱)、風力、地熱、小水力、木質バイオマス等を持続可能な自然エネルギーとして利活用することとし、エネルギー素材の供給という役割により山村の活性化を推進します。
なお、違法伐採による外材の輸入を規制するため、「森林の適切な経営」に基づく木材であることを証明する「トレーサビリティ(追跡可能性)システム」を導入します。
国有林野事業について、農林水産行政と環境行政を一体的に推進する観点から、国有林野事業特別会計を廃止し、その組織・事業の全てを一般会計で取り扱う等、その在り方を抜本的に見直します。
適正な資源管理の実施、安全・安心を担保するために、水産物にトレーサビリティ・システムを導入します。
輸入水産物については、国産と同程度の資源管理を行っているもののみを輸入することにより、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の根絶を図ります。
養殖業・内水面漁業について、国民への食料安定供給等に資する観点から、長期的に安定した養殖生産の維持・増大や、水産資源の維持・増殖を可能とするための支援を行います。
十分な資源量が確認された種の鯨類については、適切な管理を行うことを条件に、商業捕鯨の再開を図ります。
なお、調査捕鯨は国際捕鯨委員会(IWC)条約第8条に基づく正当な権利です。
農山漁村では、農林漁業を中核として、加工・製造業、卸・小売業、飲食業、情報サービス業、観光・宿泊業など、さまざまな産業が営まれています。
こうした農山漁村において、(1)農林漁業サイドが加工(2次産業)や販売(3次産業)を主体的に取り込むことや加工・販売部門の事業者等が農林漁業に参入する(2)農山漁村という地域の広がりの中で集落等による1次・2次・3次産業の融合に新たに取り組む――ことによる「農山漁村の6次産業化」(*)を実現し、地域における雇用と所得を確保します。そのため、財源と権限の地方への移譲、金融・税制・補助金・規制の見直し等を総合的かつ一体的に実施します。
これにより、地域の自立した経済圏を確立し、付加価値の多くの部分を地域に帰属させます。
なお、農林水産物の国内生産の維持・拡大及び農山漁村の再生と、世界貿易機関(WTO)における貿易自由化協議や各国との自由貿易協定(FTA)締結の促進とを両立させます。
*6次産業化:農林漁業者・農山漁村と2産業者・3次産業者との融合・連携による新たな業態の創出など農山漁村地域に豊富に存在する木質バイオマス(*)稲わら等の未利用資源や食品残さ等の廃棄物等のバイオマスを活用して、エネルギー、プラスチック等を生産する新たな産業を振興し、分散型高効率小規模プラントを中心とするバイオマスコンビナートを全国的に整備します。
生産されたバイオマス製品を石油代替資源として積極的に地域で利活用し、ゴミゼロ社会を目指します。また、バイオマス利活用の先進地域として、新たな価値を農山漁村に付加することにより活性化を図ります。
*バイオマス:生物資源(bio)の量(mass)を表す概念であり、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの。農山漁村における安らぎ、癒しの機能や、農作業等の体験を通じた教育的効果、心身障がいの回復・機能向上や健康の維持・増進、食育など、農林漁業・農山漁村が有する教育、保健・休養等の多面的機能に着目し、農山漁村を教育、医療・介護の場として活用します。
農村女性は農業就業人口299万人の5割以上を占め、農業や地域の活性化に重要な役割を果たしています。こうしたことから、女性が農地を取得したり、その他のビジネスを起業したりすることを積極的に支援するとともに、農山漁村子育て支援ヘルパー制度の創設を行います。
また、農山漁村において女性の声をより反映させるため、農協・森林組合・漁協等の理事、農業委員、土地改良区理事について地域の実態に合わせて女性登用の数値目標を設定し、その実現に努めます。
消費地である都市近郊の農地で生産された農産物を都市に供給することは、食卓と農地の距離の短縮、鮮度の維持、輸送にかかるコストの軽減といったメリットがあります。また、都市の農地は緑地帯としての役割という生活環境に関する効用や、食品廃棄物の飼・肥料化によるリサイクルに取り組みやすいという利点があります。こうした都市型農業のさまざまな役割に着目し、その振興を進めます。
諫早湾干拓事業については、干拓事業と有明海の環境変化との因果関係について科学的知見を得た上で、地域の意見によって有明海の再生に向けた取り組みを推進します。潮受堤防開門によって入植農業者の営農に塩害等の影響が生じないよう万全の対策を講じ、入植農業者の理解を得ます。
農協、漁協、土地改良区、森林組合等の活動に関しては、組合員の利便性等の観点から、事業の総合的・一体的運営を確保するとともに、経営の健全性・透明性を確保します。
また、協同組合原則に則り、農協等の政治的中立を確保するほか、新たな農協組織等が活発に設立されるよう、条件整備を図ります。