名古屋刑務所事件 155回臨時国会中に、名古屋刑務所内における刑務官による受刑者への暴行による死亡事件が発覚した。 156回通常国会においても、同刑務所における新たな事案が浮上した。法務省は、矯正局長が本事案を把握していながら法務大臣に報告をしていない等の事実が判明した。これは、法務省内部の隠蔽体質、森山法務大臣のリーダーシップの欠如を露呈するものであった。 まさに矯正行政の根本を揺るがす深刻な事態の下、民主党は国会審議や矯正施設の視察を通じ独自に調査、検討を行うとともに、政府に対し徹底的な真相究明、責任の明確化を厳しく求めていった。 同事件では情願制度の存在を大臣が認知しておらず、機能していなかった。民主党は受刑者の人権救済を図る第一歩として「監獄法の一部を改正する法律案」を提出した。同法案は、情願制度の実効性を確保するため、法務大臣は副大臣、大臣政務官の意見を聞き、情願を誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知する内容である。 さらに、民主党は同国会において、取り調べにおける弁護人の立会権を保障する「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」を提出した。 司法制度改革関連法案 155回臨時国会、156回通常国会を通じて司法 制度改革関連法案が政府より提出された。 民主党は「国民に身近な司法」の実現を目指し、政府案に対し必要な修正を求め、そのいくつかを実現させた。 「裁判の迅速化に関する法律案」については、裁判の迅速化に関し、「適正で充実した」手続きを確保すること、当事者等の正当な権利の行使を妨げないこと、最高裁判所による検証が総合的かつ客観的であることなどの修正を民主党が提案し、与党などの賛同を得て可決された。 「司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律案」については、5年以上その職にあった者に弁護士資格を付与する対象から、特任検事、国会議員を除く等の修正案を社民党と共同で提出した。 難民認定委員会の創設・難民の生活支援 国際的に批判の強い日本の難民制度について、156回通常国会において、政府は「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」を提出した。これ対し、民主党は難民認定委員会を内閣府の外局に設置する等抜本的な制度改革を内容とする「難民等の保護に関する法律案」を提出した。(詳細p.36) 重無期刑の創設、死刑制度調査会の設置 死刑制度について、民主党は2002年5月より勉強会を開催してきた。 156回通常国会において、超党派の議員立法「重無期刑の創設及び死刑制度調査会の設置等に関する法律案」の準備がされた。 この法案の内容は、(1)仮出獄を認めない重無期刑(終身刑)の創設、(2)死刑制度調査会の設置、(3)死刑制度調査会の結論がでるまで、死刑の執行の停止、等である。 民主党としては、当法案は死刑廃止そのものを目的とするのではなく、国会に調査会を設置し、死刑の是非も含め、幅広く議論することは有意義であるなどの理由により賛成の態度を決めた。 性同一性障害者の人権確保に向けて 156回通常国会において「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律案」が民主党も賛成して委員長提案で可決した。これは、民主党も検討を進めていた課題であった。同法案の内容は、専門的な知識がある2人以上の医師が、性同一性障害と診断した場合、家裁の審判で戸籍上の性別変更を認めるものであり、その要件は、(1)20歳以上、(2)結婚していない、(3)子どもがいない、(4)性別適合手術で生殖能力がない、等である。 法務省から独立した人権擁護機関の設置 政府の「人権擁護法案」は、継続審議となっていた。上記の名古屋刑務所事件において、人権擁護機関を、刑務所や入管施設を管理する法務省に設置する政府案では、刑務官らによる虐待・人権侵害を握りつぶすおそれが現実のものとなった。 民主党、自由党、社民党の3党は、次の6点について合意し、根本的矛盾を抱える政府案の抜本修正を求めていくこととした。(1)人権委員会は、内閣府の外局とする、(2)都道府県ごとに「地方人権委員会」を設置する、(3)人権委員会は、ジェンダーバランスに配慮し、NGO関係者、人権問題・差別問題に精通した人材を充てる、(4)救済手続きは、「一般救済」と「特別救済」とする、(5)「特別救済」は、報道の自由その他の憲法上の要請と抵触しないものとする、(6)人権擁護委員制度は、抜本的な制度改革を行い、人権委員会と連携を取りながら、地域での効果的な活動ができるようにする。